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『ゴリラが背中に湿布を貼ってくれる』(iOS/Android)は非常にシンプルなスマートフォンアプリのビデオゲームです。タイミングに合わせてボタンを押すだけという簡単なルールながら、ゴリラが湿布を貼るという絵面のインパクトの大きさからSNSやYouTuberの間で話題になりました。
今回の特集ではゴリラと湿布のなにが現代人の心を打ち、そして本作を制作したHaruma Toshiyuki氏がその他に作り続けるアプリゲームから推察できるある問題についてを紹介します。
湿布を貼ってもらい、孤独を癒せ!
……という前置きを書くのにも苦心しつつ、【特集】と付く記事を長時間イスに座って執筆しているとだんだんと腰を痛めていきます。筆者の知人のライターたちも何人も腰を犠牲にしながらビデオゲームの記事を書いていました。
しかし身体を壊しては元も子もないでしょう。腰を守るために、たとえば湿布を使ったりします。しかし、ひとりで背中に湿布を貼るとまず、しわになったりヨレヨレになります。まともに湿布を貼る難しさを考えると、やはり誰かに手伝ってほしくなります。
ですが多くのゲームライターが湿布を貼ってくれる仲間や家族がすぐそばにいることはまれで、大体はチャットアプリなどを使い、遠隔でコミュニケーションをとっているから一人でいることも多いんですね。
そんな時、手伝う仲間がいる優しさを感じたいときにおすすめのビデオゲームこそ『ゴリラが背中に湿布を貼ってくれる』です。スマートフォンアプリで無料でリリースされており、誰でも優しさに触れることが出来ます。
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ゴリラとはいえ、湿布を綺麗に張ってもらうのは嬉しいものですよね。早速張ってもらいましょう。
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……えっ?ぶっ飛ばされました。どういうことでしょうか?それもそのはず、ゴリラの力はおおよそ人間の12倍もあると言われています。つまりゴリラからの弱った部位への湿布貼り=人間の全力の正拳突きを弱った部位に打つようなもの=腰の死を意味しています。
「地獄への道は善意で舗装されている」という格言がありますが、あれは被災地に千羽鶴を送るような迷惑な善意というものも意味に含まれているのでしょう。ゴリラが善意で湿布を貼ってくれたとしても、その力は有り余り、ただ腰を破壊していきます。やはり人はみな孤独の中にあり、あの腰を守るのはあなたしかいないのです。
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ゴリラが湿布を貼るタイミングに合わせて、『バーチャファイター』のアキラの技として有名な、八極拳の鉄山靠の要領でゴリラからの湿布の圧を相殺していきます。自分を守ることが出来るのは結局自分しかいません。
そもそもなぜゴリラから離れないのでしょうか?それはゴリラの善意を無視することができないからでしょう。相手の善意を尊重しながら自身の身体を守る。日本社会ならば誰でも身に染みている現実を理解できるビデオゲームです。
人は皆ひとりです。孤独の深淵を覗けば、深淵からゴリラが見つめ返していくビデオゲームを制作するHaruma Toshiyuki氏は何者なのでしょうか。スマートフォンアプリにて、執拗にゴリラと戯れる、孤独な中年男性をはじめとした作品をUnityの無料版であるパーソナルエディションにて制作し、リリースし続けています。
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そんなHaruma氏の作品は当初からゴリラと中年男性の孤独を慰めるものではありませんでした。初期には簡単なゲームデザインのビデオゲームを制作しており、中には『クロッシーロード』みたいなクォータービューの作品もあります。この時点ではまっとうなアプリ制作の意思が見えます。しかしある時、天啓を得たのでしょう。
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天啓はおそらくUnityアセットストアにて得たと思われます。UnityではキャラクターのCGモデルなどを販売するアセットストアがあるのですが、いくつかのアセットは無料で販売されています。その中でも独特の存在感を放つのがゴリラです。おそらくここで、ゴリラに謎の行動を取らせる作品を閃いたのでしょう。
しかし、Haruma氏の作品をひと通り遊んでみますと、本当に重視されているのは湿布を握りしめるゴリラではありませんでした。……湿布を貼られる中年男性です。
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