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2017年5月14日、東京都内で開催された『ハースストーン(Hearthstone)』のオフライン決勝大会「Hearthstone Championship Tour Japan Major」。白熱する大会会場内で、同作プロダクションディレクターとしてチームを指揮するジェイソン・チェイズ氏(Jason Chayes)を取材。最新カードセット『大魔境ウンゴロ』によって激動する現環境や、ゲームデザイン方針、今後のアップデート要素など気になるトピックについて語ってもらいました。
――まずは、ハースストーンの開発でどんな役割なのか具体的に教えてください。
ジェイソン・チェイズ氏(以下チェイズ): 担当はプロダクションディレクターです。ゲーム開発の管理はもちろん、今後どのようにゲームを展開していくか戦略部分も見ています。拡張パックのコンセプトやアイデアといった部分は主にデザインチームが見ているのですが、そのプロセスには常に関わっています。
――『大魔境ウンゴロ』のリリースから約一ヶ月が経過しましたが、振り返っていかがでしょうか。
チェイズ: 『大魔境ウンゴロ』の登場によるメタの変化はとにかくエキサイティングです。先ほどのクエストだけでなく、プリーストだったり、パラディンだったり、フリーズメイジだったり、クラスごとにも多様性あるデッキが生まれています。
――日本のプレイヤーは増えていますか?
チェイズ: バハマで開催された「ハースストーン冬季選手権」に、アジア太平洋代表として出場したb787選手、日本代表として「アジア太平洋夏季選手権」に出場したGundamFlameなど、日本からトッププレイヤーが次々と登場しているので、とても重要な市場です。これからもしっかりサポートしながら成長していってほしいです。
――『大魔境ウンゴロ』では注目のアビリティとして「クエスト」が追加されました。実装後のプレイヤーの反響は。
チェイズ: とてもポジティブな反応が得られています。クエストごとに全く異なるデッキスタイルになるので、新鮮でバラエティに富んだプレイが味わえます。
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――もうひとつの新アビリティ「適応」についてもお聞きします。どのようなコンセプトで生まれたのか。10種の能力はどう選ばれたのか。
チェイズ: 『大魔境ウンゴロ』に登場する「恐竜」と相性の良いアビリティを考えていました。ただ強くなるのではなく、状況に応じて進化できるのが面白い点です。
――『大魔境ウンゴロ』のメタではクエストローグが猛威を振るっているようです。開発段階から予期していたのでしょうか。
チェイズ: クエストローグは確かに強力になると思っていましたが、データによると現在のTier1に含まるデッキではないということがわかってきて、他にも強いデッキが登場しています。それよりも、1ターンに20ダメージを与えることがあるのは問題で、リスクだと感じています。
――海賊ウォリアーが非常に強く、対抗手段として「ゴラッカ・クローラー」が登場したものの、今度はそれが海賊デッキ自体に組み込まれるようになっています。開発チームはこうしたメタを予期していたのでしょうか。
チェイズ: 去年の『仁義なきガジェッツァン』登場以来、海賊デッキが強くなるのはわかっていましたし、「ゴラッカ・クローラー」が入っていることも問題には感じていません。開発段階で、あるカードを入れてあるデッキを淘汰しようなどとは考えていませんから。
――カードデザインにおいて、「多様性」がキーワードになっていると思いますが、新しいカードを作る際に、「こういうメタになりそう」と予想するものなのでしょうか。
チェイズ: Blizzardの重要な役目は、プレイヤーに「ツール」を与えることです。あるデッキが強くなったり弱くなったりするメタももちろん見ていますが、プレイヤーコミュニティーが、常に変化し続ける健全なメタを生み出せるような「ツール」を提供するのが大切なのです。
――新しいカードのデザインプロセスや既存カードのバランス調整において、開発チームはどのように意思決定しているのでしょうか。デザイナー同士で意見がぶつかりあうことは?
チェイズ: いつもぶつかりあっていますよ(笑)。基本的にカードデザインのプロセスは2パターンに分けられます。ひとつはトップダウンの、1枚のカードにフォーカスしたデザイン。たとえば、「リーグ・オブ・エクスプローラー」の「エリーズ・スターシーカー」を復活させたいという考えがあり、どんな効果や機能を持たせて復活させるかを話し合いました。もうひとつのボトムアップは、あるメカニズムや機能をまず考えて、そのテーマにあわせたカード群をデザインしていきます。
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――今後クエストカードは追加されますか?
チェイズ: 新しい効果やアビリティは各拡張パックに紐付いたデザインになっているため、クエストは『大魔境ウンゴロ』のものになります。将来的にクエストが戻ってきたとしても、少し違った形になるかもしれません。クエストがどれくらい人気になるかもにもよりますね。『大魔境ウンゴロ』は冒険や探検がひとつのメインテーマなので、クエストのコンセプトにもマッチしています。
――先日「ヒロイック酒場の喧嘩」がワイルドフォーマットで実施されていましたが、今後もワイルドが採用されるのでしょうか。
チェイズ:これまではスタンダードを中心に展開していましたが、今年からワイルドフォーマットも大会で本格的に採用するなど積極的にサポートしていく考えです。スタンダードとワイルドはそれぞれ別の楽しさがあり、古いコンテンツをもういちど利用できる場でもあります。
――次のエキスパンションやアドベンチャーは既に準備されているのでしょうか。
チェイズ: もちろん次も考えていて、3つのコンテンツを同時に準備しています。今年の夏頃に新しいカードセット、次のカードセットをBlizzConがあるQ4に、次が2018年初頭です。また、これまで単体だったアドベンチャーモードは、今年の夏以降はカードセットと合わさるような形になります。ただし3つの新コンテンツを同時に考えていると、現況のメタの変化に対応できないという問題もあるので、少しでも早く対応できるように努めています。
――「Well Played(お見事)」などのエモートが、嫌味のように感じるというプレイヤーの声もちらほら聞かれます。Blizzardは今後エモートの種類を増やしたり、プレイヤー同士がインタラクションできる何らかの機能を導入する考えはありますか?
チェイズ: 『ハースストーン』がローンチしてから3年が経ちますが、どのエモートがあっても、悪意があるように受け取られることはあります。以前、「Great Job(よくやった!)」というエモートを追加しようとしていましたが、それも嫌味のように利用されてしまう懸念がありました。単にエモートを増やすと、UIが複雑になってしまう問題もあるので、別のアイデアを数ヶ月後には導入する予定です。
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――日本ではPS4やニンテンドースイッチが人気です。今後『ハースストーン』を家庭用機に移植する可能性についてコメントをお願いします。『オーバーウォッチ』はPS4でも発売されていますね。
チェイズ: 現時点で『ハースストーン』を他のプラットフォームに移植する予定はありません。今はPCとiOS/Androidだけですが、十分アクセスしやすい環境だと思っています。ただし、コミュニティーの意見は常に大切にしているので、もしプレイヤーがPlayStationやニンテンドースイッチ版を強く望んでいて、たくさんフィードバックを送ってくれるなら検討するでしょう。
――日本でもデジタルCCG(コレクティブルカードゲーム)ジャンルは大変人気で、各社から新作タイトルがリリースされている状況ですが、Blizzardはそれら競合タイトルが多数ある中で、どのように新規プレイヤーを獲得していく戦略ですか。
チェイズ: 『ハースストーン』の基礎は、「もっとも遊びやすいカードゲーム」だということです。我々自身もこのジャンルが大好きなので、色々な会社でカードゲームが作られるなら、それは喜ばしいことです。重要なのは「どうやってたくさんの人に好きになってもらうか」です。知らない人にはじめてプレイしてもらって、数字が多すぎたり、計算が面倒だったりして、投げ出してしまうかもしれません。『ハースストーン』は、グローバルに誰もが5分ほどで手軽に楽しめるゲームを目指しています。
――最後に日本の『ハースストーン』プレイヤーにメッセージを。
今後、日本の『ハースストーン』シーンがどのように盛り上がっていくかとても楽しみです。日本人プレイヤーの皆さんは情熱的で、プロプレイヤーも次々誕生しています。今後日本のプレイヤーコミュニティーをどう支えていくかいくつかのアイデアがあるので、期待していてください。
――ジェイソンさん本日はありがとうございました。
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※文中の誤字を訂正しました。コメントのご指摘ありがとうございます。