――話は変わりますが、外人部隊で人気だったゲームはありましたか。
野田氏:部隊の中で『Call of Duty』をやっている人がいましたよ。それでシミュレーションをしていたとは思えませんけれど。先程、頭を撃たれた兵士の話をしましたが、その兵士の隣にいたブルガリア人の後輩が「こういうのを経験したら、FPSとかの世界観吹っ飛んでいくよ」と言っていましたね。臭いとか熱とか、気温などがないですから。そういう状況の部屋を作ってプレイすると、なおリアルになるかもしれませんね。
――私の勝手なイメージで、衛生兵は軽機関銃を持っているイメージがあるのですが、実際はどのような火器を使っているのでしょうか。
野田氏:僕の場合は普通にFA-MASのアサルトライフルを使っていました。なるべく軽くしようと思ってバイポッドを外してましたね。光学サイトも支給されたのですけれど、銃につけるためのマウントがなくて「ガムテープで付けようかなあ」って(笑)。ガムテープでつけても一発撃つたびにグラグラするので、結局返納してオリジナルより軽いFA-MASで行きました。
光学サイトが無くても戦えなくはないです。アフガン戦争の頃に、イギリスの特殊部隊SBS(イギリス海兵隊の特殊部隊、Special Boat Service)は、何もついていないアイアンサイトのカナダ版のM4で立派に戦っていましたから。プラス思考で 「僕はSBSなんだ!」って思って、そのFA-MASで満足していました。
結構色を塗ったりする人もいたんですよ、茶色とかに。中隊長が率先してやったから、「俺達もいいだろう」と思ってみんな塗り始めて。ただ、戦争が終わって武器庫に返す時にその色を落とさなきゃいけないんですよね。それは絶対面倒くさいので僕は黒のままでいきました。功を奏しましたね。
苦労していましたよ。簡単には取れないですし。色を落とす薬剤もを使うのですが、細かいところが取れないので、削り取る形で落としていました。
――細かい決まりがたくさんあるのですね。
野田氏:地味。その間自分は寝ていました(笑)。
――正解でしたね!
野田氏:正解でした。「僕たちはいるんだよ!」っていうのを見せつけてテロリストをビビらせることが任務だったので、別に黒でもいいわけですし。多分、色を塗るとやる気が出るんでしょうね。
――ちょっとした「専用感」が出そうですね。それにゴテゴテ付けている人もいますね、フラッシュライトなど。
野田氏: いました。FA-MASってフォアグリップが付いていないんですよ、あれを自分で買ってつけたりとか。
――自分で買うんですか!?
野田氏:そう、買うんです。ピカティニーレール付けて、フラッシュライトやレーザーポインターを載せたり。中には自分でEO Techホロサイトを買って付けている人もいました。意地悪な言い方ですが、デルタフォースやネイビーシールズを気取っているような。
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それで、付けると重いんですよね!借りて持たせてもらったんですけど、「ミニミかっ!」というぐらい重いんですよ。そ僕はバイポットすら外して、一番軽いFA-MASにしてたので、山岳任務の時とかは、他の人よりダメージは少なかったのではないかと思いますね。
あと、普段ライトとかそんな使わないんですよ。正直慣れていないんですよね。夜間の山岳任務でせっかく真っ暗闇なのに、体勢を崩した拍子にスイッチ押しちゃってピカっ!て光ったりとか。敵は目がいいので、「ロケット飛ばされたらどうするんだ!」と。ただ、上官だったから何も言えず…(笑)。もちろん、上手いこと使う人もいますが。
――一般兵の方もファーストエイドポーチをつけていると思いますが、「どこまで治療していい」という決まりはあるんですか?
野田氏:自分の中隊の新兵には、自分が応急処置を教育していたのですが、止血帯とイスラエルバンテージは教えていました。また、胸を打たれた時に行う「三辺テーピング」は一般兵でもできますね。
「三辺テーピング」は少し難しい話なのですが、胸を撃たれると、胸郭に空気が入っちゃって肺がしぼんでしまいます。そうすると呼吸がちゃんとできなくなるので、空気を抜くために、入った穴と出ていった穴のうち片方を塞ぎます。そして、もう片方にもガーゼをあてがい、三辺だけ貼ります。そうすると、貼り付けられていない一辺が弁になって空気が入って行かないんですよね。空気が入ろうとしたらペタって閉じる。ただ、中からの空気はスーッと出ていきます。
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――メディックとしては治療に制限はないのでしょうか。
野田氏:限界はありますけれど、日本だと絶対に医者じゃないとできないような、切開して管を差し込むようなこともできます。あと、赤色骨髄というところで血液が作られるので、その大本に点滴をするということも一応権限を貰っていましたね。スネや胸骨に釘みたいなカテーテルをバチーン!と打ちこんで、そこに点滴をつなげます。
――その後は、後方に搬送してドクターに任せることになるのですか。
野田氏:後方の医療チームまで生き長らえさせるのが最前線の我々の任務ですね。後方で進んだ応急処置を施し、アフガンの場合はヘリが迎えてきて、首都カブールの国際部隊病院で決定的な治療を施しフランスへ帰る、という流れですね。
――実際に最前線で多かったのは銃傷ですか?それとも破片?
野田氏:我々は銃でした。
――個人的には破片による負傷が多いイメージがあるのですけれど、アフガンの最前線では銃弾なのですね。
野田氏:我々の戦場はそうでしたね。アメリカ軍とかいろんな部隊でも違うと思いますが。IED(即席爆弾)には一回しか遭遇しませんでした。
――イメージと全く逆でした。
野田氏:聞くじゃないですか、IED、IEDって。でも僕らは1回しかなくて、それがどうも不発か火薬が足りなかったようで。その時に装甲車のハッチを開けて外を警戒していたポルトガル人の後輩によれば、爆発のときも耳がキーンとなって少し体が浮いただけだったとか。
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あとはなぜか、土がめちゃめちゃに車内に入っていて、運転手が掃除に困ったぐらいですかね。柔らかい部分には穴が空いていたんですですが、誰も怪我はしませんでした。
――車両の下部ですか?
野田氏:車両の右前方ですね。爆発の破片の痕はありました。写真も撮っておきました。
――現地では写真も撮るんですね。
野田氏:銃撃戦が激しいところでも撮っていましたね。記念と言うか、日本に帰ったら自衛隊の仲間に見せようと思って。
――野田さん、貴重なお話ありがとうございました!
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