【注意】本稿にはストーリーのネタバレはありませんが、パズルのネタバレが一つだけ含まれます。
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- 『OneShot』基本情報
Steamストアページ
リリース日:2016年12月9日 価格:¥980
開発元:Little Cat Feet パブリッシャー:Degica
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◆『OneShot』の導入
少年とおぼしき一人の人物が暗い部屋で目を覚まします。横にはパソコンがあり、そのパスワードを探り当ててアクセスすると、正体不明の人物からパソコン越しにこう告げられます。
- 「世界の殆どが崩壊した。この場所に救う価値はない。それでもやってみるか?なら、このことを忘れるな。君の行動はニコに影響する。君の「使命」はニコが帰れるように手助けすることだ。そして最も重要なことは…」
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パソコン画面に書かれていたこともニコ君は知っている
外へ出ると、あたりは荒廃しており、世界が薄暗いということが分かります。近辺に居る“予言者ロボ”と名乗るロボットと会話ができ、その会話によって“太陽が失われ土地は荒廃し、世界一高い塔のてっぺんまでニコ君の持っている太陽代わりの電球を置きに行く、という使命があると報され、ニコ君は救世主であると告げられます。次いで予言者ロボは神様の存在を指摘します。そう、私達プレイヤーです。そして予言者ロボに促されニコ君がプレイヤーに話しかけてくるのです。この場面以降、度々ニコ君はプレイヤーに話しかけたり相談を持ちかけたりといったやり取りを行ってきます。場合によってはプレイヤーが選択肢に応える場面もあります。
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◆巧妙かつ大胆な第四の壁の使い道、付随するパズル、プレイヤーとニコ君の友情
『Undertale』との比較が散見される本作ですが、実際の所は全く異なった作品です。何故ならば前者はプレイヤーによる介入が演出に終始していましたが、本作におけるプレイヤーは、主人公ニコ君と共に呼応しあい、一緒に旅をする存在だからです。ここにも第四の壁を超越する行為があります。
また、第四の壁といえば更にこういった仕掛けがあります。それはパソコンのマイドキュメントにゲーム進行に関わるパスワードが出力される、といったものをはじめ「ゲームが動作しているパソコンそのものを操ってゲームを進める」という超越行為が存在しているのです。そしてこの超越行為により、プレイヤーとゲーム内世界を隔てるものは限りなく曖昧になり、主人公ニコ君との距離感も極めて近しいものとなるのです。それゆえ、フレンドリーで物怖じせず、イノセントな発言をするニコ君に対する印象は親しみを持ってプレイヤーに刻まれるのです。その感情はある種の愛情とすらいっていいでしょう。
読みづらい場合はYoutubeに飛んで閲覧してみて下さい
いかがでしょう?本作のプレイはゲーム画面の枠を飛び越え、私達のパソコン内部にまで至るのです。ちなみにこのパスワードの数字自体は乱数生成でありランダムです。よって攻略のための数値は自分の目で確かめるしかないのです。しかしこんなのはまだまだ序の口、あらゆる方法で第四の壁を越え、本作はあなたによる発見と関与を求めます。
◆キーワードはメタと一回性(二度と起こらないこと)
前述したとおり、徹底的にニコ君のことを嫌いになれないようデザインされており、それゆえ彼の身に関するイベントの重みが増し、とあるシーケンスでは選ぶことの重要性が投げかけられます。何故ならばそれは“ワンショット”で一度きりなのです。本作は体験の一回性を非常に重んじている作品です。
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そして、リプレイ性を捨てたその一回性によって、本作の魅力が最大化されているのです。通常、プレイヤーは観客、あるいは指揮者といった立場ですが、本作においてはゲームの登場人物であり参加者です。
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ゲームとは基本的にインタラクティブな、相互作用的なものでしょう。そしてそのインタラクティブさは概ね“プレイヤーがゲームに働きかけることで返ってくるリアクション”を指しています。しかし本作は違います。“ゲームがプレイヤーに働きかけてくる”のです。そう、第四の壁を越えて。
“ゲームの枠組みを超える”という言葉を使う作品は数あれど、ここまで逸脱し、ある種プレイヤーへの挑戦として機能するほどの威力を持った飛躍は類を見ません。登場キャラクター達が第四の壁を打ち破っていることに半ば自覚的な点がねじれを生じさせ、多層的な構造を成立させています。これは目眩を起こすほどの表現として評価できるでしょう。
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本作はパソコンでゲームを、PCゲームをやる事の意味を最大化しています。未プレイの方は本作のプレイにあたり、フルスクリーンではなくウィンドウモードでプレイしてみてください。そうでなければ、本作が持つ、重要であまりに衝撃的な演出を見逃す恐れがあるからです。その衝撃は感動も伴い、私にとっては永遠に忘れられないものになりました。
また、本作をプレイしておらず、本稿を読んでいるあなたが少し羨ましいですね。何故なら、この体験は一度きり、二度と出来ないのですから。