00年代からゲーム原作映画に変化が…?
葛西祝:
さてG.Suzukiさんは「トゥームレイダー」を挙げられていますね。90年代の地獄を経て、2000年代からは原作に理解のある作品が増えてきた印象はあります。
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G.Suzuki:
そうですね。ある一定の理解を得つつ制作されたけれど……という作品が多かった印象があります。2006年に公開されたクリストフ・ガンズ監督の「サイレント・ヒル」は良かったのですが、逆に同年のザ・ロック(ドウェイン・ジョンソン)とカール・アーバン主演の映画版「DOOM」は、『DOOM3』の火星で戦うというコンセプトは保ちつつも「地獄からデーモン達が湧き出る」みたいのはないし、銃撃戦やアクションが多くなくて肩透かしでしたね……。
それでも映画単体として見ればはそれなりに纏まっていたし、約5分の主観戦闘シーンは真新しさもあって、映画館の大画面で楽しめたのは良かったです。それに実写でBFG9000が出てくるのも嬉しかったですね。
他にも2009年には映画版「マックス・ペイン」もありました。原作の雰囲気を出しつつ新しい特徴としてショットガンの弾を使うリボルバーのTaurus Judgeも出していましたが、バレットタイムも少ないし映画としては物語が尻切れトンボで終わってしまって残念でしたね……。
Daisuke Sato:
個人的には、2001年公開の「トゥームレイダー」は、ゲーム原作をあまり表に出さずに、というか伏せて公開していた印象を持っています。映画はメガヒットしたけど、自分の周りにはゲームが原作だと知っている人はいませんでした。実際、ポスターにも「あの大人気ゲーム、ついに映画化!」みたいなキャッチコピーはありません。
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葛西祝:
映画「DOOM」はWWEのロック様ことドウェイン・ジョンソンが主演だったり、「トゥームレイダー」に加えて原作ゲームを知らない人でも入りやすい大作映画として公開されることが増えましたね。
Daisuke Sato:
「DOOM」は最初はドウェイン・ジョンソンを主人公にする企画で進んでいたけど、本人が「俺は悪役の方が似合う」と言ってカール・アーバンに主人公を譲ったという面白い逸話もありますね。
TAKAJO:
ドウェイン・ジョンソンは「ハムナプトラ2/黄金のピラミッド」のスコーピオン・キングが本格的な俳優デビューだからか、初期は悪役が多いイメージがありますね。今は完全にヒーローですが。
葛西祝:
「バイオハザード」シリーズなど、原作の理解と俳優の華やかさを共存させるケースがだんだんと多くなっていきませんでしたか? 原作再現とはいかないけれども、映画ビジネスとのバランスを取って、できあがっている感じというか。
Daisuke Sato:
マーケティングとして、ゲームのプレイヤー層と主な映画の観客層が被ってきたことが一因にあると思います。また、アンダーソン監督もそうですが、「シェイプ・オブ・ウォーター」のギレルモ・デル・トロ監督、「キングコング: 髑髏島の巨神」のジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督のように、ゲーム作品をリスペクトするゲーム好きの映画監督が増えたというのもありますね。
ゲームの『バイオハザード4』に実写映画「バイオハザード」に登場したレーザートラップが登場したり、2001年の実写映画「トゥームレイダー」の大ヒットを受けて、後に作られたゲームのララ・クロフトの顔がアンジェリーナ・ジョリーっぽくなるなど、ゲームと映画でキャッチボールが行われていたのも面白い現象でした。
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葛西祝:
なるほど、『バイオハザード4』も映画的なギミックの多かったゲームデザインでしたし、わかる気がします。
TAKAJO:
バランスという面で言うと「アサシン クリード」は上手くやった感じがあります。「遺伝子を利用して先祖の記憶を追体験する」という設定を活かし、アルタイルやエツィオなど既存の人気キャラではなく新キャラのアギラールを主人公にしたことで、上手くシリーズの中に映画を溶け込ませたのではないかと。原作を再現しつつ、無理なくオリジナルを展開したと思います。
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G.Suzuki:
ユービーアイソフトは、実写化をとてもうまくやっていると思いますね。2010年の「プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂」や先ほど挙げられた「アサシン・クリード」、短編フィルム「Ghost Recon Alpha」も含めて、ゲーマーの「こういうアクションや物語を見たい!」という願望を具現化していると思います。
葛西祝:
このあたりからゲーム業界側も、PRも兼ねた実写化をやっていますよね。たとえば『アランウェイク』では、クオリティの高い実写ドラマ「アランウェイク ブライトフォールズ」が制作されていますし。他にも『アサシンクリード2』の短編ドラマ「アサシン クリード リネージ」なんていうのもありました。
Daisuke Sato:
『アランウェイク』は数多くの映画・テレビドラマ化しているスティーブン・キングのオマージュ作品というのもあるので、映像化とは親和性は高いですよね。ゲームの中で見ることができる実写テレビドラマは、映像のプロではない人が作ったんだろうなあという出来でしたが、その試みは大好きでした。
G.Suzuki:
ゲームの実写化といえば、実際にちゃんと公開されたものが挙げられますが、どうしても色々な経緯を経てお蔵入りしてしまったものも多いですよね。頓挫してしまった『BioShock』の映画化など、実際に映像化されたらどんな映像や物語が展開されたのだろうと想いは尽きません。
大物ゲームクリエイターが監督するZ級映画…!
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葛西祝:
そういえばゲームのPR映画で思い出しましたが、『デッドライジング2』プロデューサー・稲船敬二氏の初監督作品「屍病汚染 DEAD RISING」を観た人っていますか?
……なぜか日本が舞台(原作ではアメリカ)になっていて、しかも登場人物の全員が素人演技。さらに映画は安いカメラで撮影されているんです。そもそも原作は、3人称視点のアクションゲームなのに「全編FPS視点!」を売りにしているのもおかしくて……何から何まで意味不明な映画なんですよ。
Daisuke Sato:
観ましたが、映画に憧れて作った素人の自主制作映画レベルでしたよね......。実際、その通りなんですが。
2015年にレジェンダリー・ピクチャーズのデジタル部門が制作した「デッドライジング ウォッチタワー」の方が原作のゲームをきちんと再現していて、B級映画としては楽しめました。
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葛西祝:
実写版「ときめきメモリアル」はフジテレビ制作だから原作を破壊してもしょうがなかったですが、こっちは稲船氏みずから監督しているわけですよ。公式の人が作品を破壊しにいくという、世にも珍しい逆PR映画でしたね……。
Daisuke Sato:
カプコン社長の辻本憲三氏がプロデューサーを務めた映画の「ストリートファイター」や映画の「バイオハザード」などにもカプコンは結構な出資をしており、自社ゲーム作品の映画化がしやすい環境があります。それなのに、なぜ稲船氏はあの低予算で自分で映画を作ろうと思ってしまったのか、不思議でなりません。
葛西祝:
やっぱり叫ぶしかありませんでしたよね。「どんな判断や!」と。
伝説のゲーム原作映画監督ボル氏とは!?
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葛西祝:
そしてあの監督にも触れておくべきでしょう。ゲーム実写化で原作への理解も進む中、かたくなにひどいゲーム映画を作り続けた男、ウーヴェ・ボル監督です。Satoさんは以前特集記事を書いていますが、実際に観た感想はいかがでしょうか?
Daisuke Sato:
言ってしまえば「クソ映画」です。しかし、それは「愛すべきクソ映画」という褒め言葉として受け取って欲しいです。
ボル監督の作品を見ればわかるのですが、決して撮影技術や編集のレベルが低いわけではありません。単純に予算とそれに付随する時間がないだけなので、映画としては確かにクソなのですが、きちんとゲーム原作の「映画」にはなっているんですよ。また、「ハウス・オブ・ザ・デッド」で味をしめた数々のゲームの実写化作品ですが、ハリウッド大手なら企画が通らなさそうなマニアックなタイトルも多く、実写映画として完成させ、世界中で公開したということは功績として認めるべきかと。やはり映画化によって一般への認知度は上がりますしね。
葛西祝:
なるほどゲームファンではない一般層への認知度を高めた、という再評価は可能だと。
Daisuke Sato:
それと同時に、「ゲームの映画化=クソ映画」というイメージも作っちゃったので、なんとも言えないところではあります......。
しかし、ボル作品の「FarCry(日本でのビデオリリース時は「G.I.フォース」)」はしっかりと原作ゲームの意思を汲み取った内容になっていますし、映画にかける情熱だけでなく、ゲームへのリスペクトもちゃんとあります。2009年に公開されたオリジナル作品の「ザ・テロリスト」を観る限りでは演出家としての才能も確かにありました。単に、予算と時間に恵まれなかった不遇の監督だったのだと思います。とはいえ、それなりに予算があった『ダンジョン・シージ』の映画化「デス・リベンジ」はアレでしたが......。
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葛西祝:
どうあれゲーム映画で大きな賞をとった監督ってボル監督ぐらいですよね。 ゴールデン・ラズベリー賞(※)ですけども。
(※最低映画に与えられる賞。2008年にボル監督は受賞。そこまでに3度もノミネートされている常連。)
Daisuke Sato:
ゲーム原作の映画の歴史に、いい意味でも悪い意味でも大きな爪痕を残した監督だと思います。
今後のゲーム原作映画に期待するものとは…
葛西祝:
そろそろ時間ですので、最後の話題に、皆さんが“これからのゲームの実写化に期待するもの”をお聞きしてもよろしいでしょうか。
G.Suzuki:
これは、原作ありの映画全般が対象になってしまうのですが、原作が持つ特徴や面白さを実写化映画として再構成してくれることに期待したいですね。
一番最初に話題として出たポール・W・S・アンダーソン監督の「モンスターハンター」もそうですが、映画を観るだけなら心理的ハードルも低いので、映像から「モンハン」というユニバースを体験したいのです。
TAKAJO:
僕は、ゲームという原作にとらわれず好き勝手にやってほしいです。元がゲームだとあまり知られていない良作もありますし、映画として面白ければ、乱暴な言い方ですが「原作破壊」でもいいのではないかと。あと個人的には、ゲームの市場規模もどんどん大きくなって「映画的なゲーム」もたくさん出てきてますし、将来的にゲームと映画の境界が曖昧になっていったら面白いなと思います。
Daisuke Sato:
今の30代から50代のハリウッドの監督の多くがビデオゲームをプレイして育った世代になっていて、原作ゲームの魂をきちんと汲み取った映画が数多く作られるようになってきています。逆に、ゲーム作品にも、『コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア3』の脚本にアカデミー賞脚本家のポール・ハギスを起用するなど、映画とゲームがお互いに作品性を高め合う状況が生まれており、見ていてワクワクさせられます。
私は、アンダーソン監督の「バイオハザード」やクリフトフ・ガンズ監督の「サイレントヒル」といった、原作のビジュアルを完全再現した映画を今後も期待していますが、「ポータル」の物語の構造をそのまま映画に落とし込んだダン・トラクテンバーグ監督の「10クローバーフィールド・レーン」や、『メタルギア』のオマージュがある「キングコング髑髏島の巨神」のように、ゲームに強い影響を受けた映画もどんどん増えて欲しいと思っています。
葛西祝:
確かに、映画とゲームの関係性は深くなっていますね!未来の子供たちは、僕たちのように「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」や映画「ときめきメモリアル」でトラウマを受ける可能性は少なくなりそうです。本日はありがとうございました!