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たとえば小説を読むとき、読者は文章からさまざまな状況を想像するでしょう。登場人物の姿や心情、場所の空気や匂いなどなどを頭の中で思い描くはずです。
ビデオゲームでも、小説を読むようにある状況を想像させる体験を、さまざまなノベルゲームのジャンルが実践してきました。チュンソフト(現・スパイク・チュンソフト)が試みた『街』や『かまいたちの夜』といったサウンドノベルや、『Doki Doki Literature Club!』のようなキャラクターの立ち絵とメッセージボックスによるビジュアルノベルなど、形式は違ってもプレイヤーになんらかの想像を促す体験を作ってきました。
そんなノベルゲームがテキストからプレイヤー想像する体験に、新たな試みを行ったタイトルがリリースされました。それが『ネクロバリスタ』です。Game*Sparkでも本作がさまざまなメディアで高評価されていることが報じられており、今回はまだプレイされていない人向けに、なにを持って新しいノベルであるか? を紹介しましょう。
死者が訪れるカフェの物語を、3D演出を生かしたノベルで語る
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さて『ネクロバリスタ』では、プレイヤーにどんな状況を想像させるノベルゲームに仕上がっているのでしょうか?
ゲームの舞台はオーストラリアのビクトリア州にあるカフェ「ターミナル」。シックな雰囲気の内装で、ゆっくりと過ごすにはうってつけの場所に見えるでしょう。どうやらネットのレビューでもそこそこの評価をもらっているみたいですね。
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ところが、ターミナルは普通のカフェではありません。そこは普通のお客さんだけではなく、なんと死者が最後の時間を過ごすために訪れて行く場所でもあるのです。
眼鏡が印象的な店主・マディは、日々訪れて行く死者にコーヒーを提供し、話をしています。そう、このカフェは生きた人間とと死にゆく人間が行き交う中継地点。だから「ターミナル」と名付けられているのでした。
きょうもまたひとり、新しい死者がカフェを訪れます。彼らが最後に残された時間のなかで、マディはコーヒーを注ぎながら、さまざまな話をしていくのです。
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マディがカフェでともに働く仲間たちや、死者たちと語らうシーンには『ネクロバリスタ』ならではのノベル表現が見られます。
アニメーションのような仕上がりのキャラクターデザインに、静謐な雰囲気を持った空間作りのなかで、まるでムービーのようなカメラワークに合わせ、各キャラクターのセリフがテキストとして浮かび上がります。
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マディたちはどこかユニークかつ、シリアスな会話を繰り広げていきます。そこへときどき、色付きの言葉が浮かび上がることがあります。言葉をクリックすると、喋っているキャラクターの心情などが解説されていきます。この言葉も、あとのゲームプレイでとても重要になります。
ここまで紹介してきたように、メインのゲームプレイは、凝った演出によるノベルを読みすすめていく、という表現が一番しっくりくるかもしれません。その演出はまるでムービーとノベルの中間のように感じられますし、一部の演出はアニメ「化物語」を思わせるなど、さまざまな表現から影響を受けていることがうかがえます。
カフェで、かつてそこにあった物語を探す
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ここまでの流れが繰り返されるだけならば『ネクロバリスタ』は、キャラクターもノベル表現も、有り体にいえば凡庸なものに思えるでしょう。ですがここから本格的に、ノベルゲームならではのプレイヤーが物語を想像させるゲームプレイが、メインエピソードとエピソードのあいだに差し挟まれています。
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メインエピソードが終わるたびに、プレイヤーはカフェの中を一人称視点で歩き回ることができます。このとき、カフェには誰もいません。
あたりを歩き回ってみると、看板やお酒、パソコンや食べ物が置かれており、調べてみると、どうやらマディたちや、ここを訪れたお客たちの記憶がそこにあるようです。ですが、最初からどんな記憶がそこにあるかを読み取ることはできません。カフェに置かれた物の記憶は、メインエピソードをプレイすることで手に入る「記憶の断片」を集めることで、ノベルとして読むことができます。
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「記憶の断片」は、メインエピソード中の重要な言葉から生成されます。たとえば「半不死」という言葉からは、「知識」に関わる記憶の断片を生み出せるのです。
記憶の断片に関わる言葉は「知識」だけではなく。マディをはじめとする登場人物に関係したものであったり、「食事」や「メルボルン」のこと、そして「死」といったさまざまなものがあります。プレイヤーはメインエピソードで、特に印象深かった言葉を拾い上げ、記憶の断片を生み出し。あとでさまざまな人々がカフェに訪れた記憶を引き出すのに使うのです。
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いくつかの断片を組み合わせることで、カフェに残された、さまざまな記憶をノベルとして読めるようになります。
記憶はシンプルにテキストだけで物語がつづられており、かつてカフェに訪れた人たちのドラマや、マディの(すこしばかり雑な)カフェの運営の姿などが描かれています。カフェに残された記憶のノベルから、プレイヤーはこの場所でどんな人たちが来て、そして通り過ぎていったのかを想像できるでしょう。
一人称視点でマップを歩き回り、さまざまな場所で物語の断片を探していくゲームプレイは、『Gone Home』や『Everybody's Gone to the Rapture -幸福な消失-』といったウォーキングシミュレーターの名作にも似た印象を受けました。
『ネクロバリスタ』では記憶のノベルひとつひとつが物語として完成されており、いわば短編小説がカフェ中に散らばっているようなものなのです。
新しいノベルゲームがもたらす、新しい想像
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『ネクロバリスタ』は、言うなればビデオゲームで物語を語る強力な表現であるムービーと、新しい物語表現を模索していたウォーキングシミュレーターというふたつの要素を、ノベルとして再解釈したところに新しさがあるといえるでしょう。
このふたつは、ちょうどゲームプレイにおける強いコントラストとなっています。メインエピソードで描かれる、キャラクターが生き生きとした具体的なノベルのあとに、プレイヤー自身が、誰もいないカフェを探索し、残された記憶のノベルを静かに紐解くことで、本作のメインテーマを強く想像させるのです。
そのメインテーマとは、もう二度と戻ることのない死者についてです。マディたちの会話やカフェに残された記憶は、「生から死は一方通行である」と語ります。まさしくメインエピソードの具体的な表現と、カフェに残された記憶を探るゲームプレイは、生と死が行き交う世界観のコントラストも表現しています。
メインエピソードとカフェに残された記憶のすべてを読み終えたとき、もう帰ってくることはない人々について想像するでしょう。筆者はひとおおり読み終えたあと、誰もいないカフェを歩きながら、かつてそこにいた人々について考えていました。もはや同じ時間はやってこない。強い寂寥感がゲームの終わりにやってくるのです。
『ネクロバリスタ』は現在Steam/GOG/Apple Arcadeで配信中。つい先日も、無料DLCでサイドキャラクターに焦点を当てたエピソードが追加されると発表されています。まだカフェには記憶がいくつも残っているようです。