発売まであと1週間に迫った11月3日、オンラインにて『アサシン クリード ヴァルハラ』のメディア向けパネルディスカッションが開催されました。リモート通話を事前収録したものでしたが、ノルウェーとイギリスへの撮影旅行や収録の裏話などが2時間にわたって披露されました。モーションキャプチャーの撮影風景や、未公開のアートワークのお披露目などもされた、本イベントの視聴レポートをたっぷりとお届けします。
オープニングは「ワールドプレミアトレイラー」の女性エイヴォル版。世界初公開となる映像からイベントは幕を開けました。
第1部:アサシン クリードにおけるヴァイキングファンタジーについて
司会:Juria Hardy
登壇者
Darby McDevitt:ナラティブディレクター
Julien Laferriere:プロデューサー
Magnus Bruun:エイヴォル(男)役 Netflix「ラスト・キングダム」にてクヌートも演じる
Cecilie Stenspil:エイヴォル(女)役
ヴァイキングを題材に選んだ理由
Julien Laferriereヴァイキングは最高だからね!(笑) 以前からヴァイキングで何かやりたいと思っていました。ヴァイキングはファンからのリクエストが多かったですし、『オリジンズ』で巨大なエジプトの世界を作ってみて、ヴァイキングファンタジーを実現させる材料が揃ったと思ったんです。ヴァイキングのゲームを作る絶好の機会だと思うとわくわくしました。
会社の上層部がそれを望むか分からなかったので、ヴァイキングを次にやると決めたら、かなり早い段階から準備をしなければいけませんでした。リサーチを進めていく上で、ヴァイキング史の鍵になる4つの場面を見つけました。それを巨大なポスターにしてパリにすぐさま送り、それを囲みながら一日かけてプレゼンをしました。それが終わって一時間後くらいに、「イングランド侵攻がベストだ」と彼らは告げたんです。それで「あなたたちが最初にそれを選ぶなら、私たちはそれを支持しましょう」という具合でした。気がつけばもう11時で、テラスはまだ開いてる? どこか行けるところある? って。
Juria Hardy午後のパリはお楽しみですからね(笑)
Julien Laferriereそれが『ヴァルハラ』の始まりでした。
ちょうどいいプレイボリュームについて
『オリジンズ』『オデッセイ』で主人公は困っている人々を助ける立場でした。しかし『ヴァルハラ』では他人を助けるクエストは大幅に減らし、「プレイヤーがどう行動したいか」が最優先されています。
Darby McDevittメジャイや傭兵とは違い、ヴァイキングは侵略者です。アングロ・サクソン人が周りにいようとも、彼が助けるのはヴァイキングだけです。人助けの物語とは違う、「アイスランド人のサガ」などヴァイキングのサガをモデルにしたかったのです。西洋文学の「ドン・キホーテ」や「ハックルベリー・フィン」のような挿話的なもので、その2つの要素を取り入れつつ、皆さんが降り立つ場所にはエピソディックなコンテンツをたくさん含む物語を用意しました。3時間にも及ぶストーリーも体験でき、居住地に帰ったときの素晴らしいムービーを観れば、そこに暮らしている気分になれます。
それらを繰り返しているうちに、「ワールドイベント」と呼んでいるきっかけが起こります。雰囲気をガラッと変えるような強烈なキャラクターが現れて、物語を違う方向へ導いてくれるのです。
Juria Hardyリストを開いてサイドクエストをチェックして、というのは現実にはないですから、より自然な流れで、もっと楽しいものになりそうですね。
Darby McDevittヴァイキングには自分たちの居住地と仲間、どこと手を結ぶかが全てです。それより他は探求をしてもらいたいですね。街角を曲がると何があるのか、ローマの遺跡や木々の中に何が埋もれているのか、そんなサプライズが探求の源です。
オーディションについて
Magnus Bruunテープを送って2週間ぐらいした頃、エージェントから「ロンドンでユービーアイソフトのオーディションをやるから来れないか?」と電話があって、「これは絶対『アサシン クリード』だ!」と思いました。会場に着いたら4人のゲームディレクターがいて、その中にDarbyもいました。これは『ヴァルハラ』の主役のオーディションかも?と。名前は覚えていませんでしたが、ヴァイキング時代をやるというのは分かっていたので。
Cecilie Stenspilその頃はデンマークの2つの番組出演で忙しい時期だったけれど、「サガ」を題材にしたゲームに出られると聞いたらいてもたってもいられなくて、バルコニーに出て思いっきり叫んだら、周りから心配の目を向けられてしまいました。そのときは『アサシン クリード』とは知らなかったのですが、とてつもなく大きな仕事を引き受けると分かって怖じ気づいていたかもしれません。
ゲームで演技をすることについて
Magnus Bruunゲームでの収録はTVシリーズ10シーズン分をやるようなもので、Cecilieと私がやった11,000行の台詞はあまりにも膨大でした。そんなに大きな仕事は今までに経験したことがないものだけど、これはいいチャンスだからやってみようと思ったんです。台本をめくってみると、同じシーンでも歌ったり温かい食事などを求めたり選択肢があって面白いんです。選択ごとに演技を切り替えるのは楽しかったですね。
Cecilie Stenspil大きな人物像を演じられるのはとても楽しかったです。彼女は複雑な一匹狼のキャラクターで、名を上げたい野心もあり、安住の地を作りたいという動機もあります。しかし役作りをする上で大事なのは観客にちゃんと伝わることで、今回の場合はプレイヤーですが、プレイヤーが制作陣の作り上げた人間像についていけることです。11,000行の台詞はプレイヤーに委ねられ、プレイヤーは様々な状況に遭遇します。とても長い旅路の中で、プレイヤーがエイヴォルと一体になってもらえたらいいですね。
性別をいつでも変えられることについて
Darby McDevitt性別の切り替えは最初に『オデッセイ』で入れた機能ですが、今回それを進めて、異なる二つのアイデンティティを物語の途中で入れ替えられたらどうなるだろう、となったのです。このシリーズは歴史物でありSFでもあるから、この手法は面白いと思いました。2週目が同じストーリーであっても、プレイヤーがもう一方を選んで楽しめるという理由もできました。
このことはゲーム全体に隠された謎だとすぐに分かるでしょう。謎を解くには通してプレイしなければなりませんが、ちょっとした刺激を与えてくれます。何度か周回してみて、男女の違いによるニュアンスを感じていただきたいですね。
ここで第1部前半は終了。トレイラーを挟んで休憩に入ります。
リアルな世界を感じさせるための工夫
Darby McDevitt最初はとにかくアングロ・サクソン史や「アイスランド人のサガ」などの素材を集めるところから始めました。全く聞いたことのないような映画も片っ端からです。いいTV番組もたくさんあったので、「兜に角は付いていない」などの事実とフィクションの切り分けから取りかかりました。
ですが本当に役に立ったのは、風景や音がヴァイキングにとってどのような意味を持つか、実際に旅行して確かめたことでした。
イギリスではノースヨークムーアズ国立公園、ハドリアヌスの長城(壁)、リンディスファーン修道院などの名所を巡り、ロングシップで川を遡上する実験も行いました。
Darby McDevitt旅の中で一番気に入ってるのはロングハウスでの体験ですね。私たちは客人役として食事をし、布地も10列ぐらい織らせてもらって、本当に夢中になれる場所でした。最後にはみんな煙くさくなって、3~4時間ほどでしたが、もう二度と体験できないでしょう。本当にその時代にいたような気分でした。
Philippe Bergero私は朝から外洋に船出して魚釣りをしたことです。その日はひどく寒くて、一日の終わりにロングハウスに戻ってくると、何もかもが暖かく感じられました。熱々の食事が用意され、ヴァイキングと同じ服装に着替えられて、とにかく素晴らしかった。とても心地よく一日を終えられて、ノルウェーは現実に存在する魔法のような場所でした。現実にあるとは思えないような光景が広がっていて、プレイヤーも思いもよらない景色を堪能できると思います。
Juria Hardyしかし外の環境はとても厳しいものですから、ロングハウスに戻ってきて蜂蜜酒を飲む、というようなちょっとしたことでも楽しくなりますよね。
Philippe Bergeroスキーに出かけた後ロッジに戻って、ココアでも飲みながら暖炉の火に当たる、それを10倍したような感じです。あらゆる経験から刺激をもらいました。
Raphael Lacoste私は特にフィヨルドですね。実物を見た後でどうやったらこんなものができあがるのかと考えるのは大げさかもしれませんが、実際に目の当たりにしたら自然は想像を遙かに超えていくのだとわかります。それを経験したからこそ、スケールの大きさ、自然の雄大さをゲームに取り入れることができました。
19世紀の絵画のようにどこをとっても美しい風景をうまく表現するため、旅から戻ってきてすぐに、ディテールにはこだわらずインスピレーションに従って描きました。見た目の正確さよりも、ゲームで何を表現したいかが重要なのです。
Thierry Noel夢中になるチャレンジががたくさんありましたが、何も残すなとよく言われました。どんなものにも使い道があるんだと。パンを焼くときにも、縄を作る時にも、拾い集めた木の切れ端が重要になるんです。身の回りで手に入るものが大事な素材になるというアイデアはゲームにも反映されています。
Juria Hardy旅行の後に方向性を大きく変えたものはありましたか?
Raphael Lacosteイングランドとノルウェーを旅して学んだのは、いかに従来のイメージから離れるかでした。多くの文献で見られるのは、貧しい土地で威張り散らしているというヴァイキング像ばかりでしたから。
研究のため現地に行ってみると、そこは決して貧しい土地ではなく、実に色鮮やかなものでした。人々は美しい工芸品や船の装飾にこだわっています。それに基づき、ヴィジュアルの方向性を大きく変えることにしました。あらゆる森の木漏れ日がキラキラと輝くようにです。私たちが体験した魔法のような時間は、今までのステレオタイプを吹き飛ばすような素敵なインスピレーションをもたらしてくれました。
ノルウェーとイギリスの違いについて
Philippe Bergeroノルウェーは急峻な岩場が多く、とても厳しい環境です。想像していたよりもずっと巨大な地形で、人々は水辺付近や山の麓ぐらいにしか暮らせません。巨人か神が作ったと思わせる、切り立った巨大な岩壁ばかりです。1週間後、飛行機でイングランドに降り立つと、最初に見えたのが、植物が生い茂るなだらかな丘でした。イギリスは雨続きのイメージがありますが、本当に暖かくて心地よかったんです。ヴァイキングがイングランドに来たくなる気持ちがすぐにわかりましたよ。2つの国は全くの正反対でした。
Juria Hardy今ならインターネットや本であらかじめ調べられますが、当時は何も知らない状態で船に乗り込んだと思います。ノルウェーからイングランドに上陸したヴァイキングは何を考えたと思いますか?
Darby McDevitt「羊だらけ」でしょうね(笑)。ゲームでもそうなっているでしょうけど。実際ボートに乗って川を遡ってみると、見渡す限り森が広がっていて、ここならこっそり近づいて、素早く邪魔者の頭を割り、奪えるものを奪い、船に飛び乗って逃げられると思えてきます。この土地を侵略してやろうとね。
Juria Hardyイングランドを見て回る中で特に面白かった場所はありますか?
Darby McDevittハドリアヌスの長城はローマの遺跡の中でも傑作ですね。ヴァイキング侵略の起点になったリンディスファーン修道院にも行きましたし、そこは本当に参考になりました。
Raphael Lacoste様々な場所を見て回って、特に色彩の豊かさに興味を引かれました。人間の手が全く入っていない手つかずの自然もありましたし、それらの自然の景観をゲームに取り入れたかったんです。
Juria Hardyでは最後に、ヴァイキングの世界観を一言で表すと?
Philippe Bergero「コントラスト」です。ヴァイキングの戦士は、あるときは略奪し、戦い、汚れまみれになって帰ってくる。あるときは思索にふけり、あるときは美を磨き、あるときは家族や友人の温かさに触れる。意外にも彼らが詩を好むというような、それらが調和するコントラストなのです。旅を通してわかった中でもそれが大きな部分ですね。
Julien Laferriere旅の思い出が私には何もないのですが(笑)、私にとってヴァイキングとは「神秘性」です。雄大なノルウェーの景観からストーンヘンジに至るまで、神話と現実の境界が常に曖昧になっています。ロンドンはローマの遺跡の上へ建設されましたが、巨人が建てたともいわれ、神秘的なものが常に存在しているのです。
制作陣は今回の取材旅行でヴァイキングの新たな一面に触れ、従来のイメージである「野蛮な海賊」ではなく、厳しい自然に耐え、仲間のために全力で生き抜く「入り江の住人」の姿を本作で表現しました。
第2部では、歴史的資料の少ないヴァイキング時代において、考証にどのような資料を集めたかについて語られます。
『オリジンズ』や『オデッセイ』と違い、参照できる資料が少なかった―『アサシン クリード ヴァルハラ』オンラインセッションレポート Part2