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今からちょうど10年前。2010年11月25日に、PSPソフト『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』が発売されました。
明るくポップなデザインと、「おしおき」と称する残酷な処刑描写。その両端な要素を見事に融合させながら、先の読めない物語や巧みな構成でユーザーを魅力した『ダンガンロンパ』。本作のヒットにより「ダンガンロンパ」はシリーズ化を果たし、ナンバリング展開にスピンオフ、アニメ化・舞台化など多彩な発展を遂げました。
人気シリーズの原点となった1作目『ダンガンロンパ』ですが、成功までの道のりには逆風もあった模様です。そこで今回は10周年を記念し、『ダンガンロンパ』の特徴や当時の経緯などを振り返ってみたいと思います。
信じたい仲間の中に必ず犯人がいる苦しさと、生死を懸けた真実への探求が織りなすADV
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『ダンガンロンパ』の開発・販売を手がけたのは、様々な代表作を持つスパイク(現 スパイク・チュンソフト)。ですが、当時のスパイクは『侍道』シリーズや『喧嘩番長』シリーズなどのイメージが強かったため、ADVとなる『ダンガンロンパ』が発表された時は、その意外性に驚いた方も少なくありませんでした。
しかも本作は、タイトルからも伝わる通り、希望と絶望にまみれた過酷な物語を描く作品。成功が約束されるという「希望ヶ峰学園」に訪れたのは、「超高校級」の実力を持つ優れた生徒ばかり。しかし、学園内に隔離された彼らは、クラスメイト同士による「コロシアイ」と、その犯人を見つけ出す「学級裁判」に彩られた厳しい日々を送ることとなります。
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隔離生活を強いられた生徒たちは、いわば被害者の立場。首謀者である「モノクマ」への敵対心や、脱出したい気持ちは全員等しく、協力関係を結べる仲間とも言えます。ですが、事件が起きると、信頼すべき仲間を疑惑の目で見なければなりません。
「学級裁判」でクロを突き止めないと、クロ以外の全員が「おしおき」されます。これは、事実上の処刑宣告。生き残るためには、事件の真相を暴き、クロを見つけなければなりません。
一方クロは、犯人だと指摘されると処刑。しかし逃げ切れれば、学園から解放されるという立場です。自分が犯人と分からないよう偽装し、嘘をつき、時には別の生徒を陥れることもあります。
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真実に近づくための情報は、主人公だけで全てを手に入れることは不可能。他の生徒の証言や協力も不可欠です。しかし、その中には確実にクロが混ざっているので、真実と嘘が不確かなまま手元に並ぶことに。
この混沌とした状況の中、生と死、真実と嘘が境界線なく入り乱れる「学級裁判」で、誰を信頼し、誰を疑うのか。極限の緊張と謎を解き明かす快感が融合した『ダンガンロンパ』は、刺激に満ちた1作として知られ、高評価を博しました。
もちろん、本作の魅力は「コロシアイ」と「学級裁判」だけではありません。「超高校級」の生徒たちは、その突出した能力も相まって、いずれも個性的な面々ばかり。サイコポップとも表現される本作の世界観に相応しく、ひとくせもふたくせもあります。
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例えば、2m近い身長と、セーラー服では隠しきれない鋼の肉体を持つ女生徒「大神 さくら」は、超高校級の「格闘家」。その肩書きに相応しい体躯は、そこにいるだけで圧倒的な威圧感を放つほどです。一方で、心優しく気配りもでき、その内面はまさに人格者。他の女性陣にも負けない乙女心も持っており、知れば知るほど親しみが湧くキャラクターです。
このさくらのように、全てのキャラクターが丁寧に生み出されており、地に足のついた描写で彼らの内面が豊かに表現されています。だからこそ、死にたくないと足掻く姿も臨場感があり、例えクロでも憎みきれない感情を抱かせてくれることも。
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──それなのに、「学級裁判」で誰かを糾弾しなければ、主人公たちが処刑されてしまいます。この絶望的な状況に、如何なる希望が見いだせるのか。本作はまさに、“希望の学園と絶望の高校生”を突きつけてくる作品でした。
『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』に吹いた逆風とは
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こういった本作の特徴に触れただけでも、俄然興味が湧く方も多いと思います。一方で、その過激な内容に警戒する人がいるのも当然と言えます。良くも悪くも、非常にパンチが効いている作品なのは間違いありません。
その特徴がゆえに、『ダンガンロンパ』の開発は、逆風から始まった模様です。書籍「ダンガンロンパ1・2 Reload 超高校級の公式設定資料集 -再装填-」によれば、社内でプレゼンした際、「こんな残酷なゲームは出しちゃいけない」「あれはダメです。いじめを助長するようなゲームなんて」といった意見があり、営業やマーケティングからは不承認との烙印が。
また、PSPのADVはあまり売れないと当時見られており、その点も『ダンガンロンパ』には逆風でした。ですが、不承認と言われた一方で、「ネタとしては面白い」「チャレンジする価値があるのでは」といった声もあったとのこと。
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そこで開発陣は、承認を得るために「本作はADVではなく、ハイスピート推理アクションです!」と説得。本記事ではADVと紹介してきましたが、公式サイトや商品説明では、確かに「ハイスピード推理アクション」とジャンルに明記されています。
もちろん、「ハイスピード推理アクション」という言葉は、ただ述べているだけはありません。「学級裁判」の最中には、証言の中に紛れ込む嘘をリアルタイムで見抜く「ノンストップ議論」や、手がかりを撃ち落とす「閃きアナグラム」、対立する相手と論議を交わし合う「マシンガントークバトル」などが飛び交います。ハイスピードとアクションが織りなす推理要素も、本作が持つ特徴のひとつです。
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こうしてたゲーム性と説得により承認を得た『ダンガンロンパ』は、そのパワフルな切り口や熱心な広報活動により、5万本を超える受注を達成。これは、PSPのADVとしてはかなり異例の数字です。
法人からの期待も集め、10年前の2010年11月25日に発売された本作は、しかしここでも逆風に遭います。初週の消化率は、約5割となる2万5千本ほどで、決して快調な出足ではなかったのです。
しかし、一度世に出てしまった作品は、手の入れようがありません。では、この状態から、いかにしてシリーズ展開が続くヒット作に至ったのかといえば・・・それは、ユーザーの口コミでした。
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プレイしたユーザーから魅力や特徴が発信されると、その名が徐々に広がっていきます。この影響と共に、じわじわと販売本数が伸びていき、ヒット作としての道を歩み始めました。影響の一端はゲーム市場にも現れており、中古でも高めの価格で推移していたことを覚えています。
そして、約1年後の2011年11月23日には、お手頃価格の『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 PSP the Best』が、満を持して登場。気になっていたユーザーを強く後押しし、販売本数がさらなる伸びを見せました。しかもBest版なのに、様々な特典が付属する「超高校級の限定BOX」も登場するといった異例の展開も。これも、本作の人気ぶりを象徴する出来事と言えるでしょう。
ユーザーの口コミで、最終的に成功を勝ち取った『ダンガンロンパ』。ですが、根本的に面白くなければ、作品について語ろうとは誰も思いません。過激な内容ゆえに逆風から始まった本作は、開発陣による素晴らしいエンターテイメントの積み上げにより、大きな成果を勝ち取った──ひとりのファンとしては、そのように感じています。
本シリーズは、『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』で、ひとつの大きな節目を迎えました。すでに一通り遊んでいる方は、この10年の歩みに想いを馳せ、まだ未体験の方は、この巡り合わせを機に新たな刺激へと踏み込んでみてはいかがでしょうか。希望と絶望が、あなたを待っています。