『あつまれ どうぶつの森(※以下、あつ森)』には多数の虫が登場します。その中でも特にプレイヤーの印象に残るのはやはり接し方次第でこちらがなんらかのダメージを受けるものでしょう。
攻撃されると気絶してしまうタランチュラにサソリ、そして今回着目する「ハチ」がそれに該当します。
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『あつ森』におけるハチ(※作中で独立した種として扱われているミツバチを除く)は出現時期こそ周年ですが、遭遇するための条件がやや特殊です。
木を揺すり、ハチの巣を落下させることで怒ったハチたちが出現。それと同時に追い回される羽目になります……。
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……ところで、この木を揺らしたらハチの巣が落ちてきてという場面は本作に限らず、各種の創作でよく見られるシチュエーションです。しかし、そもそも現実にあんな悲劇的なことが起こるものでしょうか?
『あつ森』のケースをよく観察、検証してみましょう。
『あつ森』のハチは「アシナガバチ」!
まず、ハチと一口に言っても膨大な種数が存在します。はじめに『あつ森』に登場するあのハチの正体を探ってみましょう。
落下した巣の形状はハスの花托のようなシンプルなものです。同じく集団生活を行うハチであってもスズメバチ類であれば独特の模様をまとった丸い土器のような巣ですし、ミツバチやクマバチなら樹洞や洞窟に営巣するのでこれには該当しません。
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さらに捕獲したハチの姿はいかにも有毒のハチらしい黄色と黒の警戒色。
シルエットはスマートで、ミツバチやスズメバチに比べてスラリと長い脚が印象的です。
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こうした特徴を満たすハチといえば「アシナガバチ」の仲間でしょう。アシナガバチの仲間は分類上はスズメバチに近縁で、日本からは10種以上が知られています。
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スズメバチ同様、女王を中心とした集団生活を行い、雑食性で他の昆虫を狩るほか屍肉や熟れた果物に集まったり、飲み残しの清涼飲料水を舐めたりもします。
動物質の餌にありつくと巣で待つ幼虫たちのためにその場で餌をミンチにして丸め、即席の肉団子に加工して巣に持ち帰るという妙に細やかな配慮を感じる行動をとることも知られています。
なお見た目に反して性質はわりと穏和で、よほどのことがない限りわざわざ人間を攻撃することはありません。
しかし、たとえば直に触られたり、巣にいたずらをされたりという「のっぴきならない事態」になれば話は別です。いざとなれば勇猛果敢に刺してきますので注意が必要です。かな~り痛いです……。
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『あつ森』でも巣を振り落とされるまでは姿すら見せていないので、その辺りは事実に忠実なのかもしれません。
現実のアシナガバチの巣はなかなか落ちてこない!
ところで「ハチの巣って木を揺すったくらいで落ちるモンなのかよ問題」についてですが、基本的にそのような事態が現実に起こることはほとんどありません。
事実、アシナガバチの巣は樹上の枝に造られることも多く、巣との接合部は実に頼りなくか細い支柱状になっています。
しかし、これが見た目に反してかなり頑丈で、よほどの衝撃が加わらない限り落ちることはありません。不意の突風や嵐にさえ耐える構造なわけですから、人間が木を揺すった際に生じる振動などなんてことないのでしょう。
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……とはいえ『あつ森』の住人は木を揺するだけでヤシの実や葉っぱがついている(つまり生木)木の枝を自在にバサバサ落とす力持ち。ゆえにそういう常識は通じないのかもしれませんが……。
さらに物理的な強度に加えて、造巣する場所の選定だっていい加減なものではありません。
巣を造る場所を決めるのは、一人立ちしたばかりの女王ですが、ちゃんと「外敵(スズメバチなど)の目につきにくい」「雨風をしのぎやすい」「足場がしっかりしている」といった点に気を配った厳選が行われています。
社会性を持ち、集団生活を行うアシナガバチにとっては巣を守り抜くことこそがもっとも肝心なことなのです。巣が一部でも壊れれば大事件であり、まさか落下なんてしようものならすべてが台無し。マイホームの建築に関しては人間以上のこだわりがあるに違いありません。
ただし、何にだって例外は存在するもの。
アシナガバチが巣をこしらえた後でその枝が病気で枯死した場合などはちょっとした刺激で枝ごと巣が落下してくる可能性もゼロではありません。あるいはアシナガバチでなく樹上性のスズメバチ類が造巣していた場合は、落下しないまでも振動に反応して攻撃を加えてくることもあります。
というわけで、なんにせよ木を揺する際には最低限の注意が必要でしょう。『あつ森』世界でもリアルでも…。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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