これまでのゲーム史には存在しなかったほど、徹底した稲作描写で大きな話題を生んだPS4/ニンテンドースイッチ/PC『天穂のサクナヒメ』。多くのプレイヤーが米づくりの大変さと、それを乗り越えたときの感動を味わったかと思います。
少し話は逸れますが、筆者は稲作が盛んな秋田県の出身です。幼少期から通学で通った道の横には必ず田んぼがあり、10年以上毎年欠かさず、田植えから収穫まで見てきました。それなのに、稲作については知らないことだらけ。『天穂のサクナヒメ』で稲作会議を開くたびに、「なるほど、そんな工夫が…」と感嘆するばかりでした。
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…これはもう少し、稲作について知るべきではなかろうか。
謎の使命感に駆られた筆者は、フラリと地元の図書館へ。そこで稲作関連の書籍を探してみると、思ってた以上に資料が充実していたのです。しかも、意外と面白いぞこれ…!そこで今回は「ゲーミング読書」と題し、いくつかご紹介したいと思います。
最初の1歩として最適!「ゼロから理解するコメの基本」(誠文堂新光社)
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そもそも「コメとはなにか」というルーツから、食生活から見つめるコメ、田んぼが自然に与える影響など、様々な分野について幅広く書いてある本書。まさに“ゼロから理解”するための、入り口としてちょうど良い感じかなと思います。
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『天穂のサクナヒメ』では米の出来を、「量・味・硬・粘・美・香」という6つの数値で表していました。
一方、現実世界の米は「食味値」で表されており、そのパラメーターは主に「アミロース(硬さの成分。これが低いほど粘り気があって美味しいとされる)」、「タンパク質(多すぎると水分の吸水が阻害されるため炊き上がりがふっくらしない)」、「水分(長期間保存するなど、乾燥しすぎると味が落ちる)」、「脂肪酸度(コメに含まれている脂肪がどれだけ酸化したか。低いほど新鮮)」で表現されるとのこと。60~65点が標準で、100点満点に近いほど美味しいようです。満点のお米、一度は食べてみたい…!
またユニークな項目として、バケツやペットボトルを使って稲作を体験する方法も紹介されていました。2Lのペットボトル3個で、お茶碗1杯分のお米が収穫できるそうな。
【参考リンク】
「Hello! インディー」 第37回 ゲームづくりはまず米づくりから!? 『天穂のサクナヒメ』開発者インタビュー。
https://topics.nintendo.co.jp/article/0b75c956-cb87-4703-832a-4efb9cac711e
そういえば任天堂に掲載された 『天穂のサクナヒメ』インタビューでも、開発者の方が「バケツ稲づくりセット」で稲作を体験したと述べられていました。田んぼで稲作はなかなかハードルが高そうですが、このくらいのサイズ感であれば自宅でも不可能ではなさそうです。毎日観察していると、思わず「かわいいのう、かわいいのう」なんて声をかけちゃったりして。
ハードモード?な“自然農”に挑戦した「ラブコメ」(角川書店)
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まったくの未経験から米作りに挑むことになった著者の奮闘を描く「ラブコメ」。前半はエッセイ、後半は漫画形式になっていて、今回紹介する3冊の中で最も読みやすかったです。
著者が挑んだのは、自然界の営みに全てを任せる“自然農”。これには「耕さない」「肥料を施さない」「農薬を使わない」という3つの鉄則があります。
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『天穂のサクナヒメ』では農薬こそなかったものの、土を耕して柔らかくしたり、肥料を撒いたりするのは稲作に重要な要素として描かれていました。それすら行わず、本当に美味しいお米が作れるのか。まさに“ハードモード”な稲作の詳細が手に取るように分かる一冊です。
水の張ったボウルに種籾を入れて中身の詰まったものだけを選り分ける「種籾選別」の描写が出た時は、「あ、ゲームでもやったわ!」と思わずニンマリ。オーダーメイドのクワが7,500円前後で買えることや、ゲーム内でもお世話になった「足踏み脱穀機」が国内では大正~昭和期にかけて広まっていたことなど、ゲームと現実の隙間を埋めてくれるようなプチ情報も詰まっています。
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特に「足踏み脱穀機」は、もっと早い時代から使われていたのかなと勝手な先入観を持っていました。
日本への伝来
日本では陸稲栽培の可能性を示すものとして岡山の朝寝鼻貝塚から約6000年前のプラント・オパールが見つかっており、また南溝手遺跡からは約3500年前の籾の痕がついた土器が見つかっている。(中略)
水田稲作に関しては約2600年前とされていたが、近年の炭素14年代測定法により約3000年前(前10世紀後半頃)から開始されたと歴博が発表した(菜畑遺跡、雀居遺跡等)。これにより、日本が朝鮮半島に先行し水田稲作が開始されていることが判明した。
※参照 wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A8%B2%E4%BD%9C
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国内に稲作が伝わったのは、約3,000年ほど前のこと。そこから「足踏み脱穀機」が普及するのは、今からちょうど100年ほど前。「千歯扱き」ですら、江戸時代の発明品(※)です。当時の方々って、めちゃくちゃ苦労してたんだなと改めて感じますね。そこまで手間暇かけてるんだもの。米の一粒すら無駄にできませんなあ…。
※参照 株式会社クボタ 田んぼの総合情報サイト
時代とともに変化した「脱穀(だっこく)」するための道具
https://www.kubota.co.jp/kubotatanbo/history/tools/threshing.html
いくつ品種言えますか?「コメの注目ブランドガイドブック」(日本食糧新聞社)
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一口に“米”と言っても、その種類は千差万別。国内だけで見ても数百種類あります。『天穂のサクナヒメ』でも、サクナヒメが自ら作った米に「 天穂 (あまほほ )」と名付けてアピールしていましたね。そんな米のブランドに注目し、味の評価から料理との相性まで細かく解説しているのが本書です。
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数ある米の品種の中でも「コシヒカリ」が群を抜いて栽培されており、その他上位である「ひとめぼれ」「ヒノヒカリ」「あきたこまち」の4品種だけで、全国の栽培面積の60%以上を占めているのだから驚き。とはいえ他の品種も黙ってはおらず、我々がこうしている間にも改良を重ねシェア拡大を狙っているのです。少年漫画的な雰囲気を感じてワクワクするのは、筆者だけでしょうか。
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本書を読んで特に面白いと感じたのが、各ブランド毎に付けたキャッチコピー。お米の味に関する表現って、こんなにバリエーション豊かにできるのだなと思わず感心してしまいました。せっかくなので、いくつか紹介します。
・ゆめぴりか(北海道)
道民の夢を託した北海道米の最高峰
・青天の霹靂(青森県)
晴れ渡った空に突如現れる稲妻のような鮮烈な存在
・天の粒(福島県)
天の恵みで豊かに実り一粒一粒が味わい深い
・とちぎの星(栃木県)
高温・病害問題もクリアした大粒で燦然と輝く期待の新人
・てんたかく(富山県)
気象変動に強くどんなおかずも合う 縁起の良い名で受験生も応援
※同書より引用
実家から絶えず「あきたこまち」が送られてくるため(それはそれでありがたい…!)、なかなか他のお米を食べる機会が少ないのですが、ぜひ食べ比べてみたいものです。
「何かネタになれば…」と軽い気持ちで図書館に足を運んでみたら、予想以上の発見と驚きに出会い、とても有意義な時間を過ごせたように思います。今回は『天穂のサクナヒメ』から「稲作」をテーマにしましたが、『Ghost of Tsushima』から「元寇」、『あつまれ どうぶつの森』から「動物」などなど、ハマったタイトルの関連本を探すのが今後の趣味の一つとなりそう。
そして知識が深まったら、再度ゲームをプレイしてその背景を堪能する。それも我々ゲーマーが理想とする、幸せの一つと言えるでしょう。
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