「4人一組で窮地からの脱出を目指す」という、これまでのFPSになかったルールを生み出した傑作FPS『Left 4 Dead』。そして続編であり、決定版といっていい『Left 4 Dead 2』が2009年に誕生して、かれこれ10年以上が経ちました。
そんな中、元号も変わった2021年に『L4D』開発のTurtle Rock Studiosの新作として発売した新たなる4人一組窮地脱出ホラーCo-opFPSが『Back 4 Blood』です。開発が全く一緒の場合は精神的続編という言葉を使っていいのかどうか、なんとも難しいところですが、今回は様々な類似点により『L4D2』の精神的続編とゲーマーたちに目されていた本作をレビューしていきたいと思います。また、本文、スクリーンショットに終盤の展開などのネタバレが含まれているため、閲覧の際はご注意ください。
2021年に出たL4Dフォロワー
本作を「精神的続編」という視点で見た際、一番大きく変わっているのはゲーム全体を包む雰囲気ではないでしょうか。もちろん、どちらも生き残るため、という根っこの部分は同様ですが、『L4D』シリーズは「安全な地を求め、様々な土地を逃げ回る」といった刹那的ともいえるような、そしてゾンビ映画としてはある意味正しい正統派な展開が繰り広げられます。
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一方、『B4B』では拠点を作り上げた生存者の集団が、今回のリドゥン騒ぎを解決するため、トラブルを解消して回るといった話の流れとなっています。『L4D2』で顕著だった、逃げる途中に遊園地の中に入り込んでライブを催してみたり、「ちょっとコーラ取ってきてくれ」と言われてしぶしぶ取りに行くというような、コミカルな部分は鳴りを潜めているため、一見シリアス感は強めです。が、一方で「絶対にリドゥンは許さん&この地を取り戻す」という力強さ、テンションの高さがストーリー全体を覆っています。
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テンションの高さは終盤の展開のインフレ具合にも繋がっているでしょう。巨大なリドゥンの親玉との戦闘はもはや笑ってしまいます、もちろん良い意味で。
急にゲームのジャンルが変わってしまったような戦闘が始まることに違和感を覚える人がいるというのもわかります。しかし、今回の騒動の原因を撃破し、(今後DLCで再び戦いが始まるとしても一旦は)事態を収束させ、明るいエンディングを迎えるためには重要な要素です。Co-opを考えても、気が滅入る結末のためにみんなで努力するより、ハイテンションのままゲームを終えられるほうが印象が良いでしょう。
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ところで、『B4B』に出てくる登場人物ってどれもメチャメチャ力強く生きてますよね。各クリーナーはもちろんのこと、フォートホープを先導するフィリップスや、リドゥン殲滅ガスをしっかり完成させている博士、さらには名前も紹介されない一個人にいたるまで、ちゃんと自分の役割、仕事を全うしています。生存者がしっかり協力体制をとっているという部分も、今作の雰囲気が暗くなりすぎてしまわない理由の一つだと言えるでしょう。
ゲームシステム的な面としては、『L4D』以上に様々な要素において「共闘」を意識させた作りになっています。
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特殊リドゥンひとつとっても、共闘への意識は強く向けられています。『L4D』の特殊感染者たちは生存者がプレイに慣れてくると生存者の視界に捉えられた瞬間に撃ち殺される、儚くか弱き存在に成り下がってしまいます。うってかわって、『B4B』では特殊リドゥンたちは全体的に体力が高めに設定されています。そのため、よほど状況が整わない限りは全員で集中攻撃するべき対象といえるでしょう。例えば、右腕が肥大化した「トールボーイ」と呼ばれる特殊リドゥンは弱点の右肩を隠しながら迫ってくるため、素早く倒すには狙われた一人は囮に、他のプレイヤーは角度をつけて構え、弱点を集中攻撃するといった協力体制を取ったほうが安全です。
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また、小柄な体格で跳躍しながら近づいてくる「ホッカー」の粘液によって拘束されてしまった際、拘束解除のアビリティかスタンガンを所持していない限り、味方に「近寄ってもらって」「殴ってもらう」ことではじめて自由になれます。単独行動はかなりのハイリスクとなるわけです。共闘できないものは死んでもらうという開発からの強めのメッセージなのでしょうか、2021年のゲームではあまりないシビアさかもしれませんが、ゲーム性としては合っていると思います。
カードシステムが与えたゲームプレイへの影響
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本作には、各クリーナーに能力を付与するカードを組み合わせ、デッキを作るといったシステムが用意されています。カードの組み合わせ次第でリドゥンを殴れば殴るだけスタミナが回復し、前線で暴れるバーサーカービルド・特殊リドゥンが出現した先から仕留めるスナイパービルド・回復アイテムを大量に持ち歩き、傷ついた者を癒して回るメディックビルドなど、プレイの幅を大きく広げてくれます。加えて武器種・武器にセットするスコープなどのアタッチメント・そして両者に設定されたレアリティによって全く違う戦い方が可能になるのは、10年分の進化を感じられます。
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「ダウンしたプレイヤーを通常の2倍以上の速度で復帰させ、ダウン中の外傷(最大HP減のマイナス効果)も軽減させる」といったメリットの幅が大きいカードには、手榴弾などのオフェンシブアイテムが持てなくなるといった相応のデメリットも付随します。しかしそこは他プレイヤーが多めに手榴弾を持てるデッキを用意するなど、お互いの弱点をカバーしていくことでやれること・やれないことの役割分担がはっきり生まれるため、『L4D』以上に複数人でプレイする意味が生まれています。
ただ、「おや?」となってしまうのが、クイックプレイを利用したいわゆる「野良」でのプレイ。もちろん事前の相談はほぼできず、また、それぞれがどういったコンセプトのデッキを使用しているかはわかりません。(ただ、カスタムデッキを選択したという表示しかされません。)デッキに名前をつけることは可能なので、それを表示する機能だけでも追加すればどうにかなりそうなものですが。せっかく共闘したくとも「とりあえず適当に選んでおくか…」という心持ちのままデッキを選ぶしかないため、片手落ち感は否めません。『L4D』と比べて弾薬管理がタイトなこともあり、使用弾薬の分散といった観点からも、もう少しこのあたりは気にかけてほしかったものです。
日本版『Back 4 Blood』、規制の影響で失った重要なもの
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現在、日本語版の『B4B』にはいくつかの部分に表現規制がかけられています。具体的には「通常リドゥンの部位欠損なし」「特殊リドゥンの死亡演出カット」などがあげられます。通常、リドゥンの頭部へ射撃を行うと、頭部が弾けるように消滅し、ドバッと血しぶきがあがって動かなくなる。といったような挙動で倒れます。これが日本語版では頭部が消える演出はなく、血しぶきの量も多少控えめに、パタンと動かなくなるわけです。
もちろん、日本版『B4B』がこの表現をオフにしたことで全く遊べなくなっているかと言われたら、それはNOです。むしろ、キルに対する演出は『L4D』シリーズよりも豊富になっており(10年の差があるので当たり前ですが)キルの瞬間クロスヘアが赤く点灯する・ヘッドショット時は普段と違うヒット音が鳴るなど、キルの判断を行うための要素は多いほうです。とはいえ、通常版でプレイしているユーザーと差がついてしまう作りなのはいただけません。
さらに、特殊リドゥンの演出は擁護できないレベルです。
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無規制状態でのプレイでは、リーカー系の特殊リドゥンをキルした場合、爆発と同時に体液があたりに飛び散り、死体は消滅します。
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そしてこちらが日本版をプレイしている時によく見る光景。狭い場所でリーカーの死体が消えず、ドアのあたりに引っかかってしまい、先が見えなくなっています。プレイヤー側は銃で撃って死体の位置をずらすなどの干渉はできません(すり抜けて通ることは可能)。まぁまぁ長い時間死体が残るので、待つのはあまり現実的ではなく、特に高難易度ではリスク承知で前進するしかありません。
表現の是非や、規制機関が云々という話は置いておくとして、これら規制によって日本語版は本来予定されていたゲームプレイ・ゲーム性が損なわれてしまっているという状況です。本作はそれなりに難易度の高いゲームです。そのため言ってしまえば、日本語版をプレイする人のみ、上記の規制によってさらに理不尽に難易度が上がってしまっているのです。規制まわりで反面教師とすべき事例はいくつもあったはずなのですが、令和の2021年にお出しされるゲームとしてこのおざなりな規制の仕方はどうなのでしょうか。せめてリーカーの死体は短い時間で消えるような形にするなどして、プレイに不要な問題を残してほしくありませんでした。
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そして、令和のゲームとしては当たり前のように生じるのは運営サービスとしてのゲームのあり方。その点について考えると、現在『B4B』は武器・カードに対する弱体化を主としたバランス調整や、逆にリドゥンに対する強化など、様々な部分でユーザーに不満が溜まっています。
さらに、現在特殊リドゥンのスポーンシステムに不具合が出ているため、ゲームが本来想定していたような的確なチームワークを取れない・取っても理不尽に押しつぶされる事態が多いことも事実。こういった不具合は長引くほどユーザーに不利益にしかならないため、素早い対処が必要です。11月頭に行われたアップデートにて一旦は修正されたものの、完治はしておらず、今後も継続して修正していくとのこと。
まずはこの抱えてしまった負債をできるだけ早く返済し、本作の世界観や遊びの幅が広がるようなアップデートに集中できるような環境を整えるべきでしょう。そしてその際は開発とユーザーの見据える方向を違えないよう期待したいものです。ゲーム自体は名作の遺伝子をたしかに継いだもなのですから。
総評:★★☆
良い点
・そもそも土台となるルールが確かなもの
・そこに現代的なシューターのノウハウを注ぎ込まれている
・いわゆるゾンビものとしてまさかの勝利する方向のストーリー悪い点
・表現規制によってただでさえ高い難易度が理不尽に上がりうる
・現状のアップデート内容ではユーザーに不満を持たれても仕方がない