2002年10月27日に北米でリリースされたRockstar Gamesのオープンワールドゲーム『Grand Theft Auto: Vice City(グランド・セフト・オート:バイスシティ)』(以下、GTA: VC)が、発売20周年を迎えました。前作『Grand Theft Auto III』(以下、GTA3)よりゲームの雰囲気だけでなく、ストーリーやキャラクター造型、そして音楽に至るまで体験するものが大幅に変化した本作を振り返ります。
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前作からわずか1年後に発売された『GTA: VC』
『GTA: VC』が発表されたのはE3 2002のこと。この発表と時を同じくして、『GTA3』を開発したデベロッパーのDMA Designという名前もRockstar Northとして改名され、新たなるスタートを切っていました。2012年に実施されたプロデューサーのLeslie Benzies氏へのインタビュー(degitaltrends誌)によれば、PC版『GTA3』開発時に実装出来なかった新たな武器や乗り物をミッションパックとして取り込めないかと考えたところ、ミッションパックと言える規模を超えていたために単独のゲームとして開発することが発端だったと言います。
また、マイアミ風の都市景観を持つ「バイスシティ」が舞台となったのは、ニューヨーク的な「リバティーシティ」との類似点と相違点の両方を備えていたことも理由の一つでした。加えて、Rockstar GamesのCEOであったサム・ハウザー氏が84年放送の米TVドラマ「特捜刑事マイアミ・バイス(原題: Miami Vice)」へ愛着があることも関係していたそうです。
GameSpot誌のインタビューによれば、マイアミ風のバイスシティを表現するため、そして死にかけるようなペースだった『GTA3』開発時の疲れを取るために、開発チーム全員はマイアミへと旅行したそうです。多くのメンバーが休息をとる一方で、アートチームはビデオカメラやデジタルカメラを用いてマイアミ各地の明部と暗部、危険な場所を含めて多くを撮影。写真の撮影枚数も1万枚近いほど溜まったそうです(他にも、現地で見た様々な出来事がゲーム内に盛り込まれている)。またニューヨークオフィスのスタッフは、映画業界からプロのロケハンを実施し、足りない部分を補完しています。
本作のゲームエンジンは、Criterion SoftwareのRenderWareを引き続き採用(『バーンアウト』シリーズで知られるCriterion Gamesは同社の1部門)。レンダリングエンジンとモデルのカリング、ストリーミング技術などを改善し、前作より2倍のポリゴンとテクスチャを表示出来るようになったことでマップサイズも2倍に拡大しています(GameSport誌)。
かつてEDGE online誌に掲載されていたインタビューによれば、本作開発は2002年初頭からスタートしており、本作の完成発表が2002年10月15日であることを含めると約9ヶ月で完成。当初10月22日に発売を想定していましたが、一週間延期のために北米では10月29日に『GTA: VC』がリリースされました(一方でRockstarの公式サイトでは2002年10月27日と記載されている)。
本作の売り上げは『GTA3』の1450万本を超え、1750万本を最終的に達成しています。また、本作はPS2版だけでなくPC/Xbox版も発売。PS2版から約半年後にPC版が2003年5月14日に北米で、2003年5月16日にヨーロッパでリリースされ、Xbox版も同年11月に北米でリリースされています。
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華々しいセールス記録の一方で、『GTA: VC』はリリース後に“ハイチ系ギャングを殺害するミッション”の存在がハイチ系アメリカ人から問題視され、起訴(Wired誌)に発展していました。この裁判の結果によって、日本語版を含む後のバージョンでは、それらを想起させる文言が削除/変更されています。
PS2/PC版の日本向け発売は北米より2年後、2004年5月20日のこと(電撃オンライン誌)。また、ローカライズと販売を担当したカプコンの2005年3月期の決算短信によれば、日本国内での販売本数は約39万本を記録しています。
誰が黒幕なのか?主人公が積極的に物語を動かす『GTA: VC』のストーリー
『GTA: VC』は前作『GTA3』からストーリーテリングが大幅に変化しました。その一つが主人公のトミー・ベルセッティが喋るようになったことで、明確な意思をもって進行する物語となったことでしょう。
今まで無口だった『GTA』シリーズの主人公が『GTA: VC』で喋るようになったのは、作品にとって大きな変化です。米IGN誌が実施したDan Houser氏へのインタビューによると、この変更により「深みのある映画的なカットシーンの会話になった」とのこと。会話によって世間や街の人々に触れていき、『GTA3』において実現できていなかった「プレイヤーがその世界の一部であること」を感じさせられるようになったということです。
『GTA: VC』のストーリーの幕開けは、主人公の“トミー・ベルセッティ”がボスである“ソニー・フォレッリ”の指示でバイスシティにて麻薬取引を行う……というもの。しかし謎の襲撃者によって麻薬も金も奪われてしまい、気弱な弁護士の“ケン・ローゼンバーグ”と共に事件の真相を追究していきます。
トミーは、バイスシティの麻薬王ディアスだけでなく奇人変人も出席するパーティーへ出席し、様々なコネクションを築きます。そこで知り合ったコルテス大佐なる人物から、ディアスが犯人らしいという情報を入手。調査の度に現れる神出鬼没なランス・ヴァンスと共にディアス討伐を果たします。討伐を果たしたものの、奪われた麻薬と資金を催促し直接バイスシティにやってくるボスや、ランスとの関係のもつれなども含め物語はクライマックスへ――というのが、大まかな流れです。
ストーリーの細かな部分に注目すると、ディアス討伐を先走って捕まったランスを救出するミッションや、ランスとの関係がこじれる不安感と裏切り……そして最後に明かされるボスにとってのトミーの存在意義など、ドラマティックな展開が見どころです。
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自由なオープンワールドゲームでありながらも、主人公が積極的に物語に絡むドラマチックな展開を繰り広げるストーリーも前作からの大きな変化であり、新たな面白さも生み出していました。一方でサブミッションや物件ミッションの登場人物はエキセントリックな言動や行動が多く、コメディ寄りの印象を受けるようなテイストです。特にタクシー会社のKaufman Cabsとフィルムスタジオのエピソードはギャグ要素が強く出ているものもあり、シニカルさやシリアス要素に偏り過ぎていない『GTA: VC』らしさを表現しています。
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筆者は本稿執筆のためにPS2版『GTA: VC』をプレイし直しましたが、「奪われた麻薬と資金の行方」がストーリー上で追求されなくなってしまったことに違和感を覚えました。ディアス邸を乗っ取ったあとのトミーの行動は物件ミッションが優先になり、物語導入の目的が有耶無耶になってしまいます。メインやサブミッションも含め詳細は描かれず、本編でトミーが真実に辿り着いていないことに物足りなさを感じました。
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ゲームにおける80年代リバイバルの先駆けを作った『GTA: VC』
『GTA: VC』は短い期間で完成された作品とはいえ、前作『GTA3』よりゲームシステムだけでなく、世界観も含めて成熟度が高まりました。マイアミ風の街並みや道行くスポーツカー、ファッションなど80年代的なものを数多く表現していますが、それらの大部分を占めるのはラジオ曲でしょう。合計で約9時間もの楽曲を収録し、ひとつのラジオ局の再生時間も約1時間近くになったことで、膨大な本編のプレイ時間に噛み合うようになりました。
マイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」やバグルスの「ラジオスターの悲劇」など誰もが知っていそうなヒット曲を中心にポップスやロック、メタル、ラテン、ヒップホップなどありとあらゆるジャンルを入れた事で、80年代特有の世界観を現しています。その中でも、Iron Maidenの「2 Minutes to Midnight」や、Frankie Goes To Hollywoodの「Two Tribes」など東西冷戦に絡んだ楽曲が収録されていることも、その時代の情勢を暗に説明しているようです。
『GTA: VC』のゲーム起動時に映されるRockstar Northロゴ映像では、カセットテープを使ったCommodore 64風のデータ読み込みシーンを表現。80年代当時のテクノロジーがどのようなものであったかを説明した後に、その時代が舞台となる『GTA: VC』へと繋がります。
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また、本作の再訪でもうひとつ気付いたことがあります。『GTA: VC』で新たに追加されたバイクやヘリコプターはバイスシティの景観・音楽との相性が素晴らしく、お気に入りのラジオ曲を聴きつつバイスシティの夕焼けや朝焼けを受けながら疾走する様が、心地良く印象に残ります。それは本作が持つバイオレンス性を薄め、オープンワールドゲーム黎明期に新たな価値「世界観(時代)に浸る魅力」を作り出したようにも思えるのです。
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また前作でも存在した映画「スカーフェイス」へのオマージュや引用は、更に直接的な形となって表れました。それらは、劇中に出てくるナイトクラブやトニー・モンタナ大豪邸の一部内装も近い形で登場し本編と深く絡んでいます。
またラストミッション「Keep Your Friends Close...」は、映画のラストシーンにおける死闘をRockstar Games独自の解釈として、別の結末を描いているようにも思えました。徹底したオマージュを成し遂げたことでリスペクトを昇華し尽くしたのか……後のシリーズでは引用がほぼ無くなっていることが、かえって本作に込められた熱量を感じさせます。
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失われる20世紀と80年代を改めて見つめ直す機会をくれる『GTA: VC』
『GTA: VC』は、結果的に80年代リバイバルを早期に取り上げた作品となり、前作の『GTA3』からストーリーの語り方や街の雰囲気も変化し、まるでこれまでのシリーズ作を一新したような変化が目立つタイトルです。
街はアメリカのマイアミ風の建物やビーチで構成され、80年代を代表するポップソングや街のネオンなどを含め、40年も前の時代を伝えるタイムカプセルのような存在感を放っています。全てが終わり、生き残ったトミーとケンが並ぶラストシーンとエンディング曲は、80年代というギラギラとした時代が終わり始めてしまうような物悲しさを持っています。
2022年10月末現在、本作はオリジナルに近いスマホ版と、現行機向けにグラフィックなどが刷新された『グランド・セフト・オート:トリロジー:決定版』でプレイ可能です。特に2021年11月に発売された『グランド・セフト・オート:トリロジー:決定版』では、一部楽曲がライセンスの関係からか削除されているものの、グラフィックが美麗となり、ミッションにおけるリトライ機能や、過去作からの表現規制緩和など遊びやすくなる調整が多々ほどこされています。今からプレイするならこちらが良いでしょう。