MINTROCKETは、海中探索&経営アドベンチャー『デイヴ・ザ・ダイバー』について、2023年6月28日にSteam早期アクセス版から正式版へと移行することを発表しました。
本作は、主人公のおじさん・デイヴが昼は海中に潜って魚を集め、夜に寿司屋で働いていくハイブリッドなゲームが楽しめる作品。お金を稼いでお店やダイビング装備をアップグレードしながら、やがて海の歴史に関わる大きなトラブルや物語に巻き込まれていくのも特徴です。
Game*Sparkでは、本作の開発ディレクターであるMINTROCKETのファン・ジェホ氏へのインタビューを実施。早期アクセス時点で非常に高い評価を得ている『デイヴ・ザ・ダイバー』への、こだわりや開発経緯などをお聞きしました!
開発スタジオ・MINTROCKETについて
開発のMINTROCKETはネクソンのサブブランド。「MINT(斬新/新しさ) + ROCKET(新たな挑戦)」というサブブランド名は、過去の成功の方程式に囚われずに「面白さ」を追求した、新しい道を切り開くというビジョンを表現しています。
グループの位置付けとしては「ビッグアンドリトル」というコンセプトで、ネクソン本体がビッグタイトルを作る一方で、MINTROCKETは大型ではないけどチャレンジングな、いわゆる“リトル”なタイトルの開発や提供を目的としています。
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『デイヴ・ザ・ダイバー』は、そうした開発経緯で生まれたMINTROCKETのゲーム第1弾。2022年にSteamで体験版をリリースし大きな反響を得て、2022年10月27日にはSteam早期アクセスをリリース、その後いくつかのアップデートを経て、いよいよ2023年6月28日に正式版をリリースします。
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『デイヴ・ザ・ダイバー』オンラインインタビュー
ーー最初にファンさんの自己紹介についての紹介をお願いします。
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ファン・ジェホ氏(以下ファン氏):『デイヴ・ザ・ダイバー』のディレクターを務める、ファン・ジェホです。よろしくお願いします!
僕はずっとネクソンに在籍していて、途中でネクソンアメリカなどでも仕事をしています。ゲームの開発にはプロジェクトマネージャーとして入り、最初に携わったのが『エビルファクトリー(Evil Factory)』というモバイル向けのIPで、開発規模5人という小規模開発ながら200万ダウンロードを達成するなど、いい結果を残せました。
それをきっかけにして、既存のIPタイトルにも関わっています。「ゴジラ」の65周年を記念したモバイル向けの都市防衛ゲーム『ゴジラ ディフェンスフォース』では、300万ダウンロードを達成しています。『ゴジラ ディフェンスフォース』と『デイヴ・ザ・ダイバー』は、ほぼ同時期に開発を始めたタイトルですね。
『デイヴ・ザ・ダイバー』は元々モバイル向けに開発していました。でも、ネクソンの副社長が「PC(Steam)で作ってみたらどうか」とアドバイスしてくれて、現在ではPCとコンソール向けに2年から3年ほど開発を続けています。
ーー『デイヴ・ザ・ダイバー』は、MINTROCKETの初プロジェクトということですが、早期アクセス時点でも完成度が非常に高いと感じました。本作はどのような経緯で開発が始まったのでしょうか?
ファン氏:ネクソンは、韓国の済州島にNEOPLEという子会社を持っています。その島にある居酒屋は、マスターが朝に釣りをして、夕方になったらお店で食べさせるという形態なんです。それが面白いなと思い「ゲームで活かせないかな」と思っていたんです。
そんな時期に、ネクソンで海をテーマにした作品を作ろうという話があったんです。その関連で、最初は別の路線のゲームを作っていたんですが事情で中止になり、そこから昼に魚を取って夜に料理で稼ぐという『デイヴ・ザ・ダイバー』のゲームを作ることになりました。
ちなみに、その居酒屋は今すごい人気店になっているみたいです。「このお店がきっかけでゲームが完成したよ」という挨拶にも行きたいのですが、いつも混んでいてなかなか行けないんです(笑)。
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ーーゲームを開発する際に影響されたゲームや映画などのコンテンツはありますか?
ファン氏:ゲームで言うと『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』が子供の頃から好きでした。ダンジョンに潜ってアイテムや素材を集めて、街で売りながら発展させていく感じが楽しかったんです。その雰囲気を海に作ってみようかな、と思ったんです。
先ほど済州島の居酒屋の話もしたのですが、寿司屋のコンセプト的には「深夜食堂」の影響も非常に大きいです。「深夜食堂」の肝でもある“お客さんに合わせた料理を作る”ところや“お客さんの話を聞く”というところが良いんです。
元々『デイヴ・ザ・ダイバー』は昼間も寿司屋が営業できる仕組みだったのですが、夜だけの営業にしたほうが人との繋がりをより描写できるのではないかな、として今のシステムになりました。
あとは漫画の「トリコ」のように化け物級の大きな食材を狩る、というのもやってみたかったのですが、主人公がただのダイバーなので、さすがに世界観に合わないかなと思ってやめましたね(笑)。
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ーー『デイヴ・ザ・ダイバー』でこういう部分を見せたかった!という、特にこだわったポイントについてお聞かせください。
ファン氏:『デイヴ・ザ・ダイバー』のプロトタイプ版でも「海で魚を釣って料理する」という基本的な仕組みはあったんですが、それだけではゲームとして寂しいな、と言う気持ちがあったんです。
例えば『Hades』のような作品は、ゲームの進行が非常に速い印象があるじゃないですか。本作の場合は海というテーマもあってゆったりとしたペースで、ダイナミックさが足りないのでローグライク感を出すのが難しいなと思ったんです。
僕は個人的に『龍が如く』シリーズが好きなんですが、あの作品はメインストーリーがあって、その上でキャバクラとかミニゲームがどんどん広がっていくところが印象的です。その方針を取り入れたのがプロトタイプ第2弾で、多くのミニゲームを取り入れながら、それでいてリズムやテンポ感を損なわないためにはどうするか、その部分にはとてもこだわっています。
『デイヴ・ザ・ダイバー』は、戦闘パートも経営パートも本格的な作品に比べると、少し弱いところがあるかも知れません。でも、そのパートをあまり深く掘りさげるとゲームの難易度自体が上がりすぎてしまうんです。そのバランスを取りながら、いかにして“飽きさせないようなワクワク感”を盛り上げていこうと思いました。
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ーーゲーム内での飽きさせない工夫について、詳しく教えてください。
ファン氏:『デイヴ・ザ・ダイバー』の海は、入るたびに魚や風景の姿が変わるワクワク感を楽しめるようにしています。本作のブルーホールは「ワンピース」のオールブルーみたいに“すべての魚が集まっている場所”というコンセプトなんですよ。
ゲームとしては、海に入るたびに「あの魚はなんだろう?」「次潜る時はあの魚を探そう!」とプレイヤーがなる仕組みを目指したんです。どうしても チームが規模なので魚とマップについては、もっと取り組みたい部分があったのですが、こういったコンセプト部分はかなり実現できていると思います。
あとは、どのタイミングで新しい魚を追加しようかな、というのは強く意識しています。早期アクセス版ではいなかったのですが、正式版ではカジキが登場するんです。このカジキは非常に見た目のインパクトもあるので、どのような場面でプレイヤーの前に姿を表すか、ぜひとも楽しみにしてください!
難しい部分として、魚ってどうしても「突進する」「噛みつく」というアクションパターンしかないんですね。これまで『デイヴ・ザ・ダイバー』では、あまりファンタジー感のあるアクションは少なくしてきたのですが、製品版ではこれまでと違う、思わぬピンチに陥る場面もあると思います。
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ーーデイヴのピンチは続きそうですね(笑)
ファン氏:デイヴも経営を頑張ればどんどん強くなっていきますから(笑)。
製品版では、今の早期アクセス版よりもアップグレードに関する調整を行っています。色々とアップグレードや戦闘も楽しんでもらえればなと思います。
ーー舞台である「ブルーホール」は非常に緻密なドット絵で表現されていて、初見で潜る際には絶対に感動と思います。この美しい海にモデルはあるのでしょうか?
ファン氏:構造的な話でいうと、 カリブ海の「グレートブルーホール」というのを参考にしてます。この海は深度によって大きく雰囲気が変わっていくんです。ただし「グレートブルーホール」にはサンゴなんかは存在していないんですね。
モバイル版のプロトタイプ版を作っていた時に、東南アジアの「コーラルトライアングル」と言うロケーションを参考にしていたんです。その時代に、2D/3Dゲームでどうやって海を美しく見せようかというのを研究していたので、それが今のゲームにも大きく活かされていると思います。
映像としては色々なドキュメントや映像作品からもインスピレーションを得ています。ダイビングを趣味にしているスタッフもいるので、そういった意見も大きく参考にしていますね。
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ーー2022年10月に早期アクセス版をリリースして、今もユーザーレビューが「圧倒的好評」(好評97%)と素晴らしい評価を受けています。ユーザーから受け取ったフィードバックにはどのようなものがありましたか? 特に印象に残っている声やご感想について、お聞かせください。
ファン氏:ユーザーの皆様からは、思ったより良いフィードバックやご感想をいただいて感謝しています。個人的にここまでの好意的な評価を受けられるとは正直思っていませんでした。
例えばマルチプレイのゲームなんかは顕著ですが、アーリーアクセスのゲームはほとんどの場合、完成したコンテンツのバランス調整を主な目的としています。しかし『デイヴ・ザ・ダイバー』は、ストーリーの途中で「ここまでで終わり」という切り方をしています。
これは、買っていただいたユーザーにはあまりいい経験ではないと思いますし、シングルプレイの作品で「コンテンツがすべて完成していない」という作品はネクソンとして初めてのケースなんです。
当初は最初に高評価を受けるのではなく、買って好きになってくれた皆様のためにもどんどん良いものを提供していこう、というプランでした。早期アクセス段階でこのような評価をもらって、嬉しさと恥ずかしさと、頑張らなきゃなと言う気持ちが同居しています(笑)。
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開発チームの取り組みにも、とても助かっています。一番難しかったのはキーバインド機能で、当初は多くのパートがある『デイヴ・ザ・ダイバー』では、キーマップが混線する可能性もあるのでこの機能を実装するつもりはなかったんです。でも、多くのユーザーからの要望の声があったので、開発内で話し合って最終的に実装しました。
ゲームの開発はもちろん僕たちの仕事なのですが、ゲームをより良いものにするためには、利便性などの面でユーザーの声を聞いて期待に応えるというのはとても大切なことです。この部分に関しては、開発として自慢できる部分だと思っています。
あと、僕と同年代くらいの人から、ゲームに興味を失っていたけど『デイヴ・ザ・ダイバー』をやって再びゲームをやるようになったという意見をもらいました。これにはとても感動しましたね。
ーー『デイヴ・ザ・ダイバー』は正式版になってからもコンテンツの更新を続けていく予定ですか?
ファン氏:正式版になってからも、多くのユーザーからの要望や、思ってもいなかったような利便性についての提案もでてくると思います。本当は次のプロジェクトに進みたいと思うのですが、僕自身もゲーマー視点として「利便性の悪いゲームには乗り切れないよな」と思うので、できるだけ応えていきたいですね。
ーー6月28日に正式版を迎えることで、ゲーム内には多くの要素が追加されます。一番のオススメポイントを教えてください。
ファン氏: 『デイヴ・ザ・ダイバー』で、魚を捕まえるシステムを楽しんでもらえるのはとても嬉しいんですが、正式版の後半では「海の中」でのアドベンチャー部分がこれまで以上に増えていきます。マップの探検や魚人族の歴史の謎解きなど、世界はどんどん広がっていくので楽しんでもらえればと思います。
もちろん魚を取って料理するという、ゲームの基本パートも多くの人々に気に入ってもらえているので、こちらも強化しています。深海魚など魚の種類も追加していますし、寿司屋パートのプレイもワンパターンにならないよう、新たなシステムを取り入れています。
ゲームのコンセプトは「ただの漁師が偶然世界の謎に触れて救っていく」というシンプルなものだったんです。ですが、早期アクセス時点では、壮大な世界の謎といった部分までは触れていません。正式版では、ユーザーの皆様に体験してもらえれば嬉しいです。
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ーー本作にはさまざまなお寿司が登場して、日本のゲーマーとしても面白いと感じています!
ファン氏:プログラムチームーのリーダーなんかは、毎日お寿司を見ていたせいか「もう寿司はいやだ!」ってなってしまったみたいです(笑)。僕はまだお寿司大好きなんですけどね(笑)。
お寿司の表現って難しいもので、魚を切り身にしたらグラフィックの差別化が難しいんです。気をつけないとゲームの“賑やかさ”がなくなってしまうので、チョウチンアンコウの寿司ならチョウチンがついていたり、なるべくゲーム的にわかり易い表現をするよう心がけています。
なるべく美味しそうに表現することにもこだわっています。ゲーム内のクックスタ(SNS)に載せる見た目という点で、料理をピクセルアートで表現するところは苦労しましたし、ハイクオリティな物ができていると思います。
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ーー個人的には、シャリ部分のドットがすごい出来だと感動しました。
ファン氏: 料理に関しては「ツヤがない」みたいなフィードバックもあって驚きました(笑)。
3Dと違って、ピクセルアートで料理を美味しそうに見せるのはなかなか難しいんです。僕はデザイナーではないので細かい話はできないのですが、開発初期と比べて料理のデザインがどんどん「美味しそうな感じ」になっているよね、と言う話はしています。
ーー好きなお寿司のネタを教えてください。
ファン氏:前に京都で食べたサバのお寿司が非常に美味しくて、また食べたいなと思っています!
あと、僕はウナギが大好物なので日本に行くと必ず食べているんです。今はぜひとも日本で最高級のうな重を食べたいな、という目標があるんですが、コロナの影響でなかなか難しくなっていますね。
ーー 『デイヴ・ザ・ダイバー』の開発期間中、新型コロナウイルスの影響はありましたか?
ファン氏:ゲーム開発の経験が豊富なところだったらまた違うと思うのですが、MINTROCKETでは初のゲーム開発でした。それに『デイヴ・ザ・ダイバー』というゲーム自体が既存のプロジェクトとも少し違うので、実際に会ってミーティングできないことで伝えられない、伝えづらい部分は多かったと思います。
1年以上はリモート環境でしかゲーム開発を進められなかったので、コミュニケーション面でもかなり難しかったですね。(リモート開発の)初期段階では、キーボード/マウスだけでしかテストしてなくて、実際にコントローラーで遊んだら感覚が違ってやり直しになった、などのエピソードもあります。
あと、アニメーションの「ここを変えてほしい」などの部分も、リモート環境では伝えづらかった部分でもあります。現在はスタジオ開発に切り替わったことで、一緒に見ながらミーティングできるので楽しく、スピーディーにできるようになっています。
新型コロナウイルスが流行していたタイミングじゃ難しかったですが、スタッフ全員でお寿司を食べに行けたら、もっとグラフィックのクオリティが上がっていたかも知れませんね(笑)。
ーー(笑)。ぜひともスタッフ全員で食べている風景などを見せてもらえれば嬉しいです!
ファン氏:(笑)。
ーー開発チームのみなさんもダイビングを楽しむのでしょうか?
ファン氏:開発スタッフのひとりが去年、海外で数日間ボートで航行してダイビングを楽しむというプログラムに参加して、色々な映像を撮ってきたんです。その中で「マンタ(オニイトマキエイ)」がいて、どうやって呼ぶかなどを体験しているものがあり、これはすぐにゲーム内に取り入れました。
友人にダイビングが趣味の人間がいるのですが、ゲームを実際にプレイしてもらったら「細かい部分まで観察しているね」と褒めてもらったんです。ダイバー視点からそういう言葉をもらったのが嬉しかったですね。
僕も本格的にダイビングをやったことがないんですが、機会があったら本格的に集中してやってみたいなと思っています。
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ーーキャラクターはとてもユニークですよね。癖の強い登場人物たちの中で、特にお気に入りは誰でしょうか?
ファン氏: 僕は個人的にダフが好きです。ダフはオタクで専門家で、それでいてツンデレ感もある、頼れるキャラクターです。彼のカットシーンを作るのがとても面白かったですね。
カットシーン内ではダフの好きなアニメが流れるんですが、それはネクソンで昔配信していた『StraStella(ストラステラ)』というゲームの素材を使っています。そういう細やかな設定や素材を使ったことで、キャラクターの骨格がよりしっかりしたものになったと思います。ダフは僕のベストキャラクターですね。
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ユーザーの投票では、料理人のバンチョがダントツで一番人気でした。彼は映画や音楽の趣味など、色々な部分で意外とかわいいところもあるんです。そういうところも見てほしいと思いますね。
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ーー国や地域ごとに『デイヴ・ザ・ダイバー』の感想が異なったりしていますか?
ファン氏:主人公のデイヴは太った見た目の楽観的なおじさんなんですが、ゲーム内でそれをからかうシーンもあるんです。それがアメリカでは“ファットジョーク”と呼ばれて、チームコミュニティで少し問題になりかけました。
アメリカ人の開発スタッフから「これくらいなら問題ないよ」と言われたんですが、こういう文化の違いもあるんだな、と勉強になりました。早期アクセス版の翻訳部分の問題もあったと思うので、そこは改善していくつもりです。
僕の偏見でもあるのですが、日本で「主人公がこんなおじさんで受け入れてもらえるかな」という気持ちもありました。日本のゲームキャラクターは美形が多いイメージなので少し不安でしたが、かなり好意的に受け入れられてホッとしました。開発としては面白いキャラクターを作ったら、面白いおじさんばかりになった感じですね。
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韓国ではおじさんだらけのゲームに少し意見もありましたね(笑)。
※補足:韓国内でおじさんキャラクター人気が低いわけではなく、ゲーム内に登場する美人アナウンサーの人気が高すぎて、相対的にそういった意見が出たという背景があったようです。
ーー最後に、日本のファンの皆様にメッセージをお願いします。
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ファン氏:『デイヴ・ザ・ダイバー』が日本で受けるゲームかどうかは不安なところもありました。でも、日本のゲーマーの皆様からとても好意的な意見を多く頂いたことをとても嬉しく思っています。
寿司など文化的な部分で日本を参考にしたところも多くて、そういう部分を馴染んで応援してくれたことも、とてもありがたいです。PC版も、今後リリースのニンテンドースイッチ版も完成度を上げていくつもりなので、日本のユーザーの皆さんに楽しんでもらえれば嬉しいです!
『デイヴ・ザ・ダイバー』はPC(Steam)向けに配信中。ニンテンドースイッチ版は2023年中のリリースを予定しています。