◆岩手県の県鳥・キジと「キチキギス」
「キチキギス」は、キジをモチーフにしていると思われるポケモン。キジの文語表現である“キギス”と、多くの地域で吉兆を呼び込むとされる伝承があることから“吉”を組み合わせた名称ではないかと発表から多くのファンに言われています。公式サイトでは「エアスラッシュ」を使用していることも確認できます。
日本の国鳥としても有名なキジですが、岡山県と岩手県でも県鳥として指定されています。また、岩手県はキジの生息数が日本一多いことでも知られているようです。


岩手県の民話では、上述の【桃太郎】やそのバリエーション、【雉っ子太郎】など多くの物語に登場。キジが地震を告げる(予知する)といった伝説もあり、先ほどの物語などでも語られています。また、柳田國男「遠野物語」にも、雉撃ちをする猟師の遭遇した出来事に関する話を見ることができます。
◆狼信仰の残る地と「イイネイヌ」
「イイネイヌ」はその名の通り犬がモチーフと思われるポケモンで、ティザーアートで親指を立てて“いいね!”のポーズをしていることが特徴的。公式サイトの紹介ページでは「ぶんまわす」を使っていて、非常にパワフルなことがうかがえます。
犬は人間のパートナーとしての歴史が古く、文献だけでも驚くほどの量があります。岩手県では珍しい犬種として「岩手犬(南部犬)」がいて、かつてはマタギのお供として活躍していたと言います。しかし、現在はマタギの減少などでとても希少な犬種となっていることが伝えられています。


また、岩手県は狼に関する信仰などが根強かった地域でもあります。狼に関する民話や伝承は江差・遠野・胆沢・沿岸地域と広く伝わっており、「遠野物語」では三六から四二まで狼(御犬とも)の話が載っています。また、狼を祀る三峯神社が数多く岩手県に存在しています。
◆魔として畏れられる猿と「マシマシラ」
「マシマシラ」は猿のような見た目をしているポケモン。名前は“マシラ(猿)”と“増し”から由来しているのではないかと言われています。なお、南部弁では「マシ」そのものが“猿”を意味する方言でもあります。公式の紹介では「シャドーボール」を使用しているようです。
青森や岩手などでは、猿などの動物が魔になる「経立」が存在します。この「経立」は人里の女性をさらうなどの恐ろしい話が「遠野物語」にも書かれています。同地域では子供を叱る際に「猿の経立が来るぞ」と脅すこともあったようです。また、遠野ではこの「経立」が水に関連することで河童になるという言い伝えも残されています。


一方で北上市では「子を背負った猿のような姿の石を粗末に扱った結果バチが当たった」という話があったり、第1回でも紹介した夏油高原の温泉は「怪我を負わせた白猿が体を癒やしてるところから発見した」とされる説などもあり、畏れるものや人に富をもたらすものとして扱われる一面があったようです。

◆鬼の手形の残る地で見つけた、たくさんの発見と喜び
キジ・犬・猿と人間の関係は歴史が深く、伝えられる物語も非常に多めです。今回『ポケモン』での新たな舞台のモチーフと思われる岩手県で、伝承などを調べるだけでも膨大な量が見つかりました。【桃太郎】に関しても全国に広がっているのですが、割と珍しいパターンの物語があったのは収穫だと思います。
もちろん岩手県ではシンプルに「オーガポン」の“鬼”に関する物語もたくさんあります。そもそも岩手は、その名の成り立ちに鬼の手形の伝説がある土地です。おそらく北上だけでなく、岩手県全体が「ゼロの秘宝」のモチーフになっているのだと思います。
興味を持って調べることは、人間にとって「知る・学ぶ」という大きな力になります。今回『ポケモン』に関連して、岩手県の民話や説話、伝承、伝統文化などをあらためて調べましたが、まだまだ知らないことばかりでした。多少強引なこじつけはありますが、調べることで「それっぽい」ことはたくさん出てくるものですね。

皆さんも興味があれば、これまでの『ポケモン』シリーズや好きなゲームの舞台について、調べてみるのはいかがでしょうか?それが地元だったら、思わぬ嬉しい発見があるかもしれませんよ。
『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』のダウンロードコンテンツ「ゼロの秘宝」は現在発売中。「オーガポン」が登場する前編・碧の仮面は2023年9月13日に配信予定です。
参考文献:「岩手の伝説」昭和51年 著者/平野直 印刷/熊谷印刷
「柳田國男の本棚 23 紫波郡昔話集」平成10年 発行者/愛川仁童 発行所/大空社
「紫波周辺の伝説 昔話」令和3年 編著者/岩動昭 印刷/有限会社ツーワンライフ
「紫波郡昔話」大正15年 著社/佐々木喜善 印刷/郷土研究社
「岩手民話伝説事典」昭和63年 著者/佐藤秀昭 印刷/岩手出版
「南部のことば」昭和57年 編者/佐藤政五郎 印刷/杜陵印刷
※各欄は書籍ごとの記載に準ずる。