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あれだけ暑かった夏も、一時期ほどの熱気はやや陰りを見せ始めました。まだ厳しい日は続くでしょうが、この季節も終わりが近づいてきたのかもしれません。
そして、夏の終わりよりも一足先に去ってしまうのが、ゲームブランドの「ILLUSION」です。90年代前半から今日まで活動を続け、特に3D表現へのこだわりは目を見張るほど。セクシーな3D描写をいち早く確立し、その業界でも指折りの実力と信頼を勝ち取りました。
多くのユーザーに新たな刺激と夢を与えてくれた「ILLUSION」。ですが先日、同ブランドの開発および販売終了が明らかとなり、ファンを中心に驚く声が広がりました。何があったのかと様々な意見や憶測が飛び交いましたが、仮に何があったとしても、「ILLUSION」が幕を閉じることに変わりはなく、いちユーザーに出来ることは非常に限られています。
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そこで筆者は、「ILLUSION」が手がけたVRゲーム『VRカノジョ』を購入し、そのプレイを通して想いを馳せる道を選びました。もちろん、『コイカツ!』シリーズや『ハニーセレクト』シリーズ、『AI*少女』に『ROOMガール』など、近年だけでも数々の作品をリリースしており、いずれも魅力的なゲームばかり。
しかし、自分にとって『VRカノジョ』は、ちょっと特別なソフト。そんな個人的事情もあり、本作を「ILLUSION」最後の購入ソフトとして選びました。
■VR美少女の“新たな幕開け”を感じた『VRカノジョ』
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皆さんは「とっておきのゲーム」がありますか? 買ったけど遊ぶ余裕がなくて放置している「積みゲー」ではなく“いつか特別な日に遊ぼう”と決め、大事にとってあるゲームのことです。
例えば、ものすごく嬉しい出来事があり、その喜びを増幅させるために。頑張った自分を褒めて、そのご褒美として。壁にぶつかり、その苦しみを一時的にでも忘れるため。“特別な日”と一口に言っても様々ですが、そんな日のためにとっておきたいゲーム。そのひとつとして、筆者は『VRカノジョ』を心の引き出しにしまっていました。
とっておきのゲームに選んだ理由は、無論「カノジョ」の魅力も大きく影響しています。『VRカノジョ』のヒロイン「夕陽 さくら(ゆうひ さくら)」は、明るくて自由奔放。そして「ILLUSION」の手腕が存分に発揮され、3Dモデルも秀逸でした。整った容姿だけでなく愛らしさも備わっており、“綺麗”と“可愛い”を両立する絶妙な3Dモデルは見事の一言。多くのプレイヤーが「カノジョ」に惹かれたのも納得です。
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そして、これがVRゲームだったことが、筆者にとって最大の衝撃でした。『VRカノジョ』が発売されたのは、2017年2月(Steam版は2018年4月)。時代的には、「PlayStation VR(以下、PS VR)」が発売されて4ヶ月ほど経った頃でした。
当時は「VR元年」と呼ばれるほどVRに注目が集まっていましたが、「PS VR」の品薄による普及の遅さもあり、ユーザーレベルでの盛り上がりは控えめな傾向に。そのため、市場も今一つ活気がなく、衝撃的な作品との出会いはかなり少なかったことを覚えています。
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そんな時代に出会った『VRカノジョ』は、自分の中では停滞気味だったVR市場……特に「可愛い女の子と出会うVR体験」において、新たな未来を感じさせるほどのビジュアルでした。
当時のVR美少女といえば『サマーレッスン』の「宮本ひかり」を連想する人も多いでしょうが、技術的な面はともかくプレイヤー視点で見た時の“可愛さ”は、決して「ひかり」に劣っていないと感じたほどです。
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『サマーレッスン』の開発・販売は、ゲーム業界大手のバンダイナムコエンターテインメント。対する『VRカノジョ』の「ILLUSION」は、もちろん立派なブランドですが、その規模は全く違います。しかし、その差を埋めたと言っても過言ではない「さくら」の魅力を他の当たりにし、このジャンルは希望があると実感したのです。
そんな希望の象徴となった「さくら」と『VRカノジョ』は、自分の中で特別な位置づけとなり、「いつの日か遊ぼう」と心の棚に置くゲームとなりました。
……しかし、まさか「ILLUSION」の閉幕がプレイの機会になるとは、全くの想像外です。完全に自業自得ですが、「ILLUSION」を偲びながら、Steam版『VRカノジョ』の初プレイへと臨みます。
■時を超え、期待を超え、今も魅力的だった『VRカノジョ』
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『VRカノジョ』をプレイせずに置いていたのは、前述お伝えした通り“とっておき”だったのが大きな理由です。しかし、敢えて別の理由も探すのであれば「期待を下回る怖さ」があったのかもしれません。
PVなどで「さくら」は可愛く描かれていましたが、VRの中で直面すると「あれ、想像とちょっと違ったな……?」と感じる可能性もあります。期待が大きい分、落差があったらショックも大きいので、夢は夢のままにしておきたかった一面もあるのでしょう。
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いざプレイを始めると、そんな不安が急に湧き出てきましたが……VR世界で初めて出会う「さくら」を前にしたら、恐れは全くなくなり、第一印象で受けた“驚きの可愛さ”が目の前にありました。
『VRカノジョ』の初出は2017年なので、もう6年も前のゲームになります。3D技術は日進月歩で発展していますが、本作の「さくら」は今見ても十分魅力的で、目が離せない可愛らしさを感じます。時を経てもなお揺るがない「ILLUSION」の3D表現、やはり流石です。
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もちろん細かい点に迫れば、やはり粗はあります。見た目はともかく、動いた時のスカートなどの質感は薄く感じますし、肌や髪の毛なども最近の作品と比べるとやや硬めに見えます。近づきすぎるとモデル内の空洞が見えるのは、3D VRなのでやむを得ないところですが、ちょっと残念という気持ちがあるのも事実です。
しかし、見ている時間の大半を占める顔の出来栄え、身体全体の実在感、制限のない移動と視点の自由度など、“VR美少女と過ごすひととき”に欲しい要素は一通り、そして今も劣らず優れたクオリティで用意されています。なぜ、これだけ魅力的なソフトを生み出せるブランドがなくなってしまうのか。『VRカノジョ』の素晴らしさをひとつ知るたびに、ブランド消滅の重さが心に響きます。
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奔放でマイペースな「さくら」は、こちらがいることも気にせず脚立に登ったり、眠くなったと言っては無防備に寝転がったりと、日常的なのにプレイヤーがドキドキする行為を連発。そのオープンな振る舞いに、むしろこちらが周囲の目を気にして辺りを見回してしまうほど。そんな現実世界のどこかにはある、しかし自分が味わったことはない一幕を『VRカノジョ』が味わわせてくれます。
3Dモデルなので、「さくら」が極端に大きく表情を変えることはありません。しかし、少し眉根を寄せるだけでも、不機嫌や怒りが如実に伝わりますし、「怒ってるけど本気じゃない」といった微妙な違いもしっかりと分かります。
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「ILLUSION」が長年こだわり続けてきた“すぐそばに存在する女の子”の流れは、確実にこの『VRカノジョ』にも継承されており、PCとVRデバイスさえあれば誰でも美少女と会える世界を2017年に実現させました。
その魅力を2023年に味わった筆者ですが、どれほど褒めたたえたくとも「ILLUSION」は8月18日に活動を終えます。それに伴い、『VRカノジョ』などの同ブランドのタイトルは、ダウンロード版を含めて終了します。
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もし、『VRカノジョ』や『コイカツ!』などに興味があり、しかしまだ所持していない方は、この8月17日までに購入しましょう。歩みが途絶えても、作品が持つ魅力に変わりはありません。アクセスする手段を確保し、後悔を少しでも減らしてから「ILLUSION」を見送ってください。筆者は『VRカノジョ』の中で、同ブランドに最敬礼を送らせていただきます。
■「とっておき」はもう止めねば! 「ILLGAMES」に寄せる新たな期待
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「ILLUSION」の活動終了を止める術があったのかどうか、それは関係者にしか分かりません。ですが「とっておき」として触れずにいて、その結果消滅を見送るよりも、まずは購入し、そして遊ぶことが、プレイヤーとして選べる最善の道だったのは間違いないでしょう。
思い込みで「ILLUSIONは大丈夫だろう」と構えていた自分を恥じるばかりですが、何をしたところでもう間に合いません。何もできなかった筆者には、悔やむ資格すらないのでしょう。
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ですが……いえ、だからこそ、同じ間違いを繰り返さぬよう、背筋を正して向き合いたいメーカーがあります。それは、2023年9月1日にデビュー作『ハニカム』を放つ、3D美少女ゲームメーカー「ILLGAMES」。名前がどことなく「ILLUSION」を連想させますが、無縁とは思いにくい関係性が窺えます。
というのも、「ILLUSION」の開発アカウントが名前を変え、「ILLGAMES」の公式X(元Twitter)として活動しているためです。また、発表された『ハニカム』も、これまで磨かれてきた3D美少女の魅力を受け継いでいるようにも見えます。
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公式なコメントや発表はないので、「ILLUSION」と「ILLGAMES」の関係性は不明ですが、技術なりこだわりなりが継承されている可能性もゼロではありません。単にアカウントを受け継いだだけなのか、それとも装いを変えた新生となるのか。実態は分かりませんが、新たな期待を寄せるだけの価値はあるように思います。
かつて、『VRカノジョ』にVR美少女の可能性を感じたように、「ILLGAMES」が新たな希望となるよう、ひとりのユーザーとして願うばかりです。そして、今回は取って置かずに、ちゃんと早く買おう!(自戒)