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吉祥寺の大規模インディーイベント『TOKYO INDIE GAMES SUMMIT 2024』では、過去の傑作のジャンルを踏襲したタイトルがいくつか観られました。
たとえばバーテンダーによるカクテル制作ADVの『VA-11 HALL-A』に、メイド喫茶ADV『電気街の喫茶店』やシーシャ屋ADV『Hookah Haze』が影響を受けているのは明らかでしょう。
しかし筆者がここでポイントにしたいのは「二番煎じかどうか」ということではありません。元のジャンルのゲームデザインを踏襲するなかで、なにかクリエイターが住む、現実の社会を描くことまで踏襲しているのではないか、ということです。
『VA-11 HALL-A』とは単なるカクテル作りだけではなく、開発したSukeban Gamesが暮らすベネズエラの混乱した社会情勢もうかがい知れるものでした。筆者は本作のバーで会話を楽しんでいた時、外から発砲する音が聞こえ、一瞬みんなが沈黙するシーンを鮮烈に覚えています。作中の随所に、政情が不安定な現実社会の影響を感じさせる描写が含まれていたのです。
そんなタイトルのゲームデザインを引き継ぐとどうなるのか。たとえば『電気街の喫茶店』ではお店の外である日本橋の文化を念入りに描いていましたし、『Hookah Haze』は近年の秋葉原コンカフェに他の歓楽街のような空気が介入した、退廃的な空気が描かれています。
そうした構図が他の作品にもあるように思えます。筆者が『コメンテーター』に触れた時、強くそう思いました。本作でプレイヤーはテレビのニュースコメンテーターとなり、様々なニュースを判定するというのが主なゲームプレイなのですが、その内容は軽くはありません。
本作は、ある名作タイトルを生み出したクリエイターが過去に作った、メディアを扱ったタイトルをリファレンスしたことで、ゲームデザインのみならず日本の嫌な現実まで体験させるものになっています。
どこかで見たことがあるニュースを支持するか? それとも……
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主人公のニュース・コメンテーターの一日は、テレビ局プロデューサーのメールを確認することから始まります。窓のそばには自分の家族と思われる写真が飾られていることから、この主人公がそれなりの地位で、それなりの立場も持つ人間だということが見えてきます。
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“それなりの立場の人間”は概ね、ある種の自由を縛られている人間でもあるでしょう。主人公がテレビ局に向かうと、笑顔でプロデューサーが出迎えてくれます。しかしその笑顔はじっとりとした圧力があり、こちらに「スポンサーの機嫌を損ねない仕事をしろ」と示唆してくるのです。
プレイヤーは局から上がってくる各ニュースに対し、支持するコメントを言うか、不支持のコメントで切り捨てるかを選択。「強く支持」「支持」から「不支持」「強く不支持」の4段階があり、本放送の前にニュースをそれぞれどこに振り分けるかを決めていくわけです。
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しかし、そのニュースは我々が近年どこかで見てきたようなものばかり。芸能人の結婚みたいな一見めでたいものから、一転して薬物に溺れた報道のほか、スポーツで功績をあげた選手のこと、はたまた新種の虫を見つけた中学生というおとなしいニュースもあります。
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このあたりは気楽に支持したり不支持にしたりできるんですが、だんだんきな臭くなってくるのはオリンピックの問題や、首相の外交、カジノ建設といったニュースが浮上してきたあたりから。これらの対応次第で間違いなくスポンサーに影響が出るし、自分の進退に関わってきます。ですが、ここで自分の信念を通せるかを問われる瞬間でもあるのです。
事前にニュースの支持・不支持を割り振った後、本放送にて主人公が各ニュースへのコメントを出していきます。ここでのコメントは、支持か不支持かによって大きく内容が変わります。
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このコメントの結果によって「番組の話題性」と「スポンサーの満足度」が変動。特定の期間内にそれぞれを満足させる数字を出せない場合、降板が待っています。一日一日をコメンテーターとして活動していく、その先にあるものとは……。
ニュースそれぞれを支持するかどうか。まずプレイヤー自身の価値観が問われる
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『コメンテーター』の面白いところは、こうしたニュースがあからさまに現実をモデルにしているがために、支持・不支持を選ぶのが完全にプレイヤー自身の価値観に由来してしまうことでしょう。
あなたは日本でカジノを建設する計画に対して賛成でしたか?反対でしたか?こうした施策の数々に対して、まずプレイヤー自身がどう思っていたのかがそのまま問われる。意外にもそこが、他にない体験でした。
マスコミ関係者としてスポンサー周りとの関係を考えながら自分の意見を通そうとする葛藤には、一昨年話題となったドラマ『エルピス ー希望、あるいは災いー』をビデオゲームにすると、こんな感じになるかもしれないというイメージを抱かせます。近年の「マスコミ側が単なるお上の御用聞きをするのではなく、なんとか問題が理解されるように意見を伝えなければいけない」という映画やドラマが頻発している流れにも合致している印象もあります。
ゆえに初見プレイのインパクトは強いのは確か。シンプルなグラフィックながら、現実のニュースと絡んだゲームプレイとなることで、嫌な圧力をプレイヤーに与える一作になっています。
この圧力は何を元にしているのか?開発のテバサキゲームに伺ってみると、新聞メディア運営シム『The Republia Times』の影響を受けていることを明かしてくれました。
それは『Papers, Please』のルーカス・ポープが開発したタイトルであり、ニュースごとに新聞の紙面にどれくらいの大きさで載せるかを選択していくものでした。『The Republia Times』で描かれるニュースは英語圏のものでしたが、テバサキゲームスは「あれが日本だったらどうなるか」を考え、『コメンテーター』の開発に挑んだそうです。
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筆者は気になって、もう少しテバサキゲームスの皆さんに、『コメンテーター』がどうなっていくのかも聞いてみました。
ーー本編ではどうなっていくのでしょうか。
テバサキゲームス こちらは3日目までがチュートリアルなんですよ。その後はこの世の中に「大きな何か」が起きます。つまり未曽有の大事件が起きた時、どう対処するかで国が割れる展開になるんです。
ーー世論が二分されると。
テバサキゲームス 主人公のコメンテーターは、どちらかに付かなくてはいけなくなるんです。でも、どちらかに偏った先には良い世の中はないと私は思っています。
ーー二元論にはならないようなバランスが問われるんですね。
テバサキゲームス そうですね。ただ中間を取るだけじゃなく、いばらの道なんですが、視聴者の注目を抑えつつ、スポンサーとのバランスもとりつつ、どちらにも偏らずニュースのコメントを組み立てることが求められます。
ーー報道関係としても理想でしょうね。
テバサキゲームス 偏ったコメントでいわゆるAルート、Bルートみたいな感じで進むと、どっちもいい目には合わないシナリオになっています。
ーーあらためて、なぜ現実的な題材のゲームを作ろうとしたのでしょうか。
テバサキゲームス 私はなにか大きな事態が起きた時、周囲が支持か不支持かでケンカしているのを見ても、どちらの見方も馴染めなかったんです。「なんでこんな対岸でケンカしてるんだろう」って。
どちらにも「確かにな」と同意できる点があって、「支持・不支持に分かれていても、お互いが本当に叶えたいところだったら手を握れるんじゃないか」と思ったことが、本作を作ろうとしたきっかけです。
『コメンテーター』や『Hookah Haze』をプレイしてみると、現在の日本のインディーゲームの一部は、過去10年に生まれた海外のインディーゲームの影響を受けながらも、影響を受けた作品の現実社会に対するアプローチまで踏襲していく点がなかなか興味深いと思います。日本で文化が退廃してきたり、社会が不安定になったりする世相を、社会的な要素を持つ海外インディーゲームを踏襲することで表現しているようにも見えますね。
さらに本作の体験版はUnityroomにて公開中。PCブラウザでプレイが可能です。 “スポンサーに縛られ、コメントを問われるじっとりとした圧力”を感じてみてください。
そうそう、インタビューで「大きな何かが起こる」とテバサキゲームスさんはおっしゃっていますが、筆者はその “何か”の内容を聞かせてもらいました。ネタバレ防止のために書きませんが、本編ではもっとすさまじい圧力を体感するような展開が待ち受けているみたいですよ。
この展開が起きた後のニュースを支持するかどうかのゲームプレイは、想像するだけでもかなりきついですね。期待していいと思います。
『コメンテーター』は2024年今夏にリリースを考えているとのこと。リリースするプラットフォームについてはまだ発表されていません。今後の情報についてはX公式アカウントのフォローか、開発の進捗がまとまった公式noteを追っていくことで明かされていくでしょう。