注意
本記事にはネタバレが含まれます。閲覧の際にはご注意ください。
今回は、デベロッパーAckk StudiosとパブリッシャーYsbryd Gamesが2024年4月5日にSteamにてPC(Windows/ Mac)向けにリリースした『YIIK Nameless Psychosis』をご紹介します。
『YIIK Nameless Psychosis』とは?
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本作は、現実と精神世界を行ったり来たりしながら自己を問う哲学的RPGです。なんて?
いや、ビシッと一言で説明するのが極めて難しいんですよこのタイトル……! もともとが開発者のアーティスティックな部分を全面に押し出した怪作『YIIK: A Postmodern RPG』でして、本作はそこへさらなるサイケデリックを加速させた演出やカットシーンで肉付けし、全体的に再解釈を試みようとしているタイトルなのです。
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正確には2024年内に、原作の『YIIK: A Postmodern RPG』に対して行われる無料の大型アップデート『YIIK I.V』……の“デモ版”的な立ち位置にあたる本作。諸々手を加えられたあれやそれやの顔見せという意味で、まずは『YIIK Nameless Psychosis』として序盤のプレイ可能な部分(クリアまで1時間半くらい)が配信された……というわけです。
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おそらく原作を知らずにプレイすれば、たちまち複雑怪奇なゲーム世界に飲み込まれ「なんじゃこりゃあ!」とちゃぶ台をひっくり返してしまうことでしょう。
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原作を通してこの気の狂った世界に慣れていた筆者でさえ、本作をプレイ中は眉間にシワを寄せた星一徹みてえな表情になりましたし、本作クリア後も玉の汗をびっしり貼り付けた星一徹みてえな表情になりました(巨人の星)。
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……ああだこうだ言ってますが、誤解のないよう補足しますと、筆者は原作も本作も大好き。原作に至っては、大好きが過ぎて過去にねっとりした紹介記事を執筆したほどです。人を選ぶストーリー展開や結末に対して言いたいことは山ほどあるけど、やっぱり僕は大好きなんですこのゲーム。
ともあれ、ゲームシステムに注目してみると間違いなく進化している本作……そこで本記事では「演出」「戦闘」「ユーザーフレンドリー」といった部分を中心に触れていきたいと思います。早速やってまいりましょう。
操作・設定・言語について
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本作はキーボード(一部マウス)およびコントローラー操作に対応しています。操作自体はどれを選んでも特に支障はない体感ですが……強いてマイナスポイントを挙げるとするなら、入力デバイス毎にキーコンフィグ設定が自動で切り替わらないため、設定画面からどのデバイスを使用するかを都度選択せねばならないところが、やや面倒でした。
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その他の設定については、オーソドックスなものが並びますね。なお言語については、音声は英語なものの表示はバッチリ日本語に対応。翻訳も丁寧でゲーム世界によく馴染んだものだと感じます。
本編開始
■演出
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さて、こちらが冒頭のカットシーンなのですが、のっけからもう「どうなってんのよ!?」のオンパレードです。原作プレイ済みであれば、馴染みのキャラクター達がわたわたしている様子を見て「なるほど……うん、なるほど?」と、なんとなくコトの成り行きが輪郭として見えるのではないでしょうか。
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操作パートが始まると日常(?)を挟みつつも、さらにサイケデリック世界が加速していくので、ここで脱落する人が出ても個人的には無理からぬことだと思います。しかし全体を俯瞰してみると、カットシーンから操作パートに至るまで、「物語の先が気になる」という意味で実によく機能している演出だと感じました。
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主人公のひとりであるアレックスによるモノローグについても、原作ではテキストウィンドウと共に表示された立ち絵で何かを言っているだけでした。しかし本作では、さらに新しくカットを差し込んだことで、より掘り下げた描写で表現されていて、そういった追加演出の数々が「先が気になる」という形で染み渡ってくるのです。
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また原作のように割と短いスパンでキャラクターを次々と投入したり(?)、最後の方で脈絡なく明後日の方向から新キャラが現れたりすることはなく(……いや、おそらく一般的には、けっこー好き放題登退場しているとは思います)、本作ではある程度の規模に絞ってから繰り返し登場させるようになっていることにも注目です。
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こういった演出はプレイヤーに「あれ? この人、冒頭のカットシーンにいたような……?」という気づきを与え、そこから「物語にどう関わってくるのだろう……?」という興味を惹き付ける流れへと乗せてくれます。ただ個人的には、ちょくちょく「お前そんな重要ポジのキャラだったっけ!?」と、原作とはまた異なる演出に驚かされたりしていました。
■戦闘
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さて本作のバトルシステムこそ、原作から大きく変わった部分です。攻撃方法が各キャラで異なるのに、説明もないまま突然始まるリズムゲームに翻弄されて「攻撃失敗!」みてえな感じで終わっていた原作の理不尽ストロングスタイルが、画面両端に敵・味方を並べて素早さで行動順が決まる「ザ・RPGでござい!」という王道になっていました。
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また相手の攻撃から身を守るシールド的な役割も果たす「カルタ」、敵味方の行動ごとにダメージを受ける「流血」といったシステムが、戦闘に駆け引きを生み出す良い味付けになっていることにも王道を感じたり。
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ただしシステムは王道でも、ビジュアルはもうサイケデリックばりばり。よく動くわ色が明滅するわエフェクトばっしばしだわで、本作の世界を貫いているのは流石の一言でありましょう。
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とはいえ個人的には、例えテンポがガタガタであっても、原作のいちいちボタンを押して攻撃や回避や逃走をリズムゲームするほうが結構好きだったりします。おそらくBGMのテンションとリズムが僕のツボにズキュンバキュンしていたのかなと。何の話だ。
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イベントなどを除き、敵とは基本的にシンボルエンカウントの本作。驚くべきはロードの速さで、原作だと場合によっては「ちょっとお花摘んで戻ってきますわ(おトイレの暗喩)」的な余裕もあった長さが、エンカウントから即バトル画面へ切り替わるという爆速ぶりになっていました。これはこのあと触れる「ユーザーフレンドリー」にも通じるのですが、本作のこういった改良を重ねていく姿勢には非常に好感が持てます。
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そして少し話題がズレますが、今回も戦闘BGMが良いんですよね……。原作のテーマをなぞりつつ新しい楽曲が流れた時はテンションが一気に高まりました。もともと原作でも粒ぞろいの名曲ばかりで、本作の現時点においてはまだ限定された数のBGMですが、ストア曰くアップデートの暁には、「YIIK I.Vのためだけに書き下ろされた、100曲以上のキマった楽曲を収録」とのことなので期待値は更に高まり続けます。
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個人的に、「Pushing Through (Michael Kelly/Allanson)」と「Battle, This Time With Rhythm」が大好き過ぎて早く聞きたくて気が狂いそう。ちなみにこれらを手掛けたAndrew Allanson氏は、本作のエンディング画面でも「I Don't Know (Turtle Encounter Side Quest)」という楽曲を提供しています。同氏のテイストが流れる映像と合わさると個人的に刺さり過ぎてもうだめ。狂う。
■ユーザーフレンドリー
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……正気に戻りまして、本作は細かいところで「親切」な設計が施されています。例えば移動速度。原作だとダッシュしてもそこそこなスピードだったのが、本作では「スケートボード」使用時並の速さで走り回るので、気の狂ったマップを探索するにあたってストレスフリーな移動を確立していました。
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またこれも細かい部分なのですが、アイテムの回収も行程をひとつ減らすことでより手早くなっていました。例えば原作だと、「ゴミ箱の前でアクションボタンを押して」「テキストウィンドウが表示されて」「ボタン操作でウィンドウを閉じて」「アイテムを入手」というステップを踏んでいたのが、本作ではボタン操作1回でアイテム取得と同時に画面隅にぴょいっと表示される形にまとめられていました。おかげで探索時のテンポがよりスムーズになりました。
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そしてこれが一番大きな部分ですが、戦闘でチュートリアルが表示されるようになったのです。いやほんと……これがほんっとありがたい……!前述の「戦闘」項目でも触れましたが、QTEが説明もなしに鬼みたいなタイミングで始まって線香花火みたいにシュン……と終わっていた原作と比べて(個人的な好みは脇に置きつつ)、本作は「プレイヤーに戦闘システムを理解してもらうこと」を丁寧に行っているのが大きくグッドポイントです。
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筆者さんよぉ、なんだかごねごね言っているが結局おすすめなのかい?と問われたら、「…………。」と返したくなり、じゃあこれは面白くないのかい?と言われれば「違う!!!!!!」と全力で否定したくなる本作。どっちなんだい!?ヤー!!!!!(錯乱)
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正気に戻りまして、本作はそのサイケデリックなビジュアルと、独創的すぎる演出、そしてストーリーのおかげで激しく人を選ぶタイトルであることは間違いありませんが、また同時に刺さる人にはどこまでも深く刺さって抜けなくなるトゲでもあると思います。
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本記事で少しでも興味を持たれた読者の皆様におかれましては、無料配信されていることですし、ぜひこの世界に触れてみてもらえたら幸いであります。そしてすでに引き返せないところまで進んでしまった読者の皆様に置かれましては、年内のアップデートを筆者と一緒に首を長くして待ちわびてまいりましょう。
タイトル:『YIIK Nameless Psychosis』
対応機種:PC(Windows/ Mac)
記事におけるプレイ機種:PC (Windows)
発売日:2024年4月5日
著者プレイ時間:2時間(1周およそ1.5時間でクリア可能)
サブスク配信有無:記事執筆時点においては、なし
価格:無料
※製品情報は記事執筆時点のもの
スパくんのひとこと
相変わらずプレイヤー置いてきぼりのぶっ飛んだ世界スパよ!なんだこれ!なんだこれ!って言いながらやっぱり大好きこのゲーム……ってなってるスパ!