本記事は気分を害する恐れのある表現や事例、
パズルの解に言及しています。
必ず『SILENT HILL 2』本編をクリアした上でご覧下さい。
心を抉る切ない物語で、リメイクが長らく待ち望まれていた『SILENT HILL 2』。時を経て進化した映像表現と共に、立体音響や質感を伝える振動機能によって「The Master of Horror Adventure」の再臨を見事に果たしてみせました。リメイクの見所は、やはり隅々まで行き届いたディテールです。これまでのシリーズからの補完や、より深い闇を想起させる小道具を見て回るのも一興。今回はその中から、日本語化されていないものを中心にご紹介します。
Reading/Brookhaven Hospital
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TOLUCA TIMES
WOODSIDE APARTMENTS SEVERELY FLOODED
Buildings administration refuses to the responlibility
ウッドサイドアパートメント 重大な浸水
建物の管理者は責任を認めず
最初の市街地で見つかる新聞の自動販売機から。次のステージの前フリとして置いてあるのですが、残念ながらインタラクトが付かず。
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DEED DONE
ホテルのパズルの解。慣用句として“The deed is(was)done”という使い方をし、この場合の「Deed」とは何か重大な行為、偉業の達成や何かしらの過ちを表します。ジェイムスが「何をしてしまっか」はその後のシーンで明かされます。
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ロベルト・シューマン「寂しい花」(組曲「森の情景」より)
スクリャービン「焔に向かって」
クラシックでシューマンというと、ロベルト、クララ夫婦の2人が挙がります。こちらは夫ロベルトの方の曲で、組曲「森の情景」の第4曲に当たります。この曲が作曲された当時、ロベルトはピアニストとしても名声を高めるクララと比べ「じゃない方」扱されることが多く、そのプレッシャーで精神疾患を発症していました。後に精神病院に入るほど重篤化し、その壮絶な生涯は本作を読み解く上でも重要な示唆のように思います。
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SKULL TRAUMA FROM CHILDHOOD
OLD FRACTURE
幼少時の頭部外傷
古い骨折
レントゲンパズルに小さく書かれているメモ。親から暴力を振るわれた痕跡が見つかります。
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THE OATH OF HIPPOCRATES
ヒポクラテスの誓い
病院ステージでやたらと目に付くこれは、医師の倫理を宣誓する「ヒポクラテスの誓い」です。古代ギリシャ由来で、自分はいかなるときも医術を乱用せず適切に使うとギリシャの神々に宣言します。
Into whatsoever houses I enter, I will enter to help the sick, and I will abstain from all intentional wrong-doing and harm, especially from abusing the bodies of man or woman, bond or free.
どの家に入ろうとも、私は病気を治すために入るのであり、あらゆる悪行や加害、特に男女、奴隷、自由人を問わず虐待することを慎みます。
(バリエーションが多数存在。今回はWikipediaより引用しています)
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Patient broke a whole cart of dinner plates
We will name the price
All will be served what they deserve
患者が食事プレートをカートごと壊しやがった
このツケは高くつくぞ
やつらに相応のものしか出してやらん
“Name the price”は最近だと投げ銭形式の販売に使われる表現で、買う側が自由に価格を設定して支払います。裏世界そのものも嫌ですが、その根源となったのはこうした壮絶な虐待の数々でしょう。病院としては患者の尊厳など守らなければならない立場なのですが、現実でも類似するニュースを耳にするだけに、なんともやりきれない気持ちになります。
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特に説明が無かったのですが、裏世界のギミックで車椅子のマネキンに行う行為は、禁忌の手術とされる「経眼窩ロボトミー」を模しています。眼窩から長い針を差し込み、木槌で押し込んでから前頭葉を切ることで、精神疾患を改善すると謳われていました。
しかし実際は重篤な脳機能の損傷を起こしたに過ぎず、非人道的であるとして1970年代にはほぼ実施されなくなっています。ブルックヘイブン病院でいつの時代に行われていたかは定かではありませんが、批判が出た後にも継続していたとしたら、あれほどの裏世界が生じるのも無理はありません。ヒポクラテスの誓いの最後にはこう書かれています。
Now if I carry out this oath, and break it not, may I gain for ever reputation among all men for my life and for my art; but if I break it and forswear myself, may the opposite befall me.
この誓いを守る限り、私は人生と技術においてあらゆる人々の尊敬を得るだろう。しかしもしも誓いを破り、自ら背いたならば、その反対が降りかかるであろう。
果たして、サイレントヒルの異変は誓いに背いた罰なのか?その答えは神のみぞ知る。