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ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第18回は『ファイナルファンタジーII』を取り上げます。
1987年。『ドラゴンクエスト』に一年遅れて登場した、国産RPGの巨大シリーズ『ファイナルファンタジー』。『ドラクエ』が一人旅なら『FF』はパーティー制、または『ドラクエ』が魔王を倒す一本道のシナリオを描くというのなら『FF』は時代を跨ぐ複雑なループ構造で……といった具合に、後発としての意気込みを感じられるカウンターのような作品でした。
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そんな『ファイナルファンタジー』の一年後、1988年に登場したのが『ファイナルファンタジーII』です。チョコボ、「スターウォーズ」を意識した帝国との戦いを描くシナリオ、モルボルやボムといったモンスター、究極魔法アルテマなど『FF』の伝統の多くはこの作品から始まります。多くの登場人物が入り乱れ、国産RPGにおいてここまでドラマチックな演出が施されたストーリーが楽しめる作品は、当時ほとんど類を見なかったのではないでしょうか。
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しかしながら、ゲームシステムにおいては初代よりもさらに尖っており、なんなら『FF』の30年以上の歴史においてもオンリーワンと言えるような作りをしています。「レベルの概念がない」「殴られるほどHP最大値が増える」「回避率や魔法干渉という複雑かつ重要なパラメータ」など、ユニークな点を挙げたらきりがないくらいです。わざと味方に攻撃したり、盾ふたつ持ちで何度も素振りしたりするRPGなんて、『ファイナルファンタジーII』くらいじゃないでしょうか?
この背景には、のちに「サガ」シリーズを牽引する名ディレクター・河津秋敏氏の存在があります。例えば『FF』においてレベル制の廃止が行われた作品は本作だけですが、逆にサガにおいては『時空の覇者 Sa・Ga3』以外全作品においてレベル制を廃止しています。
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帝国との戦いをドラマチックに描くという点は、FFの生みの親である坂口博信氏の得意とするところですが、一方でゲームシステムはかなり河津氏の癖が出ています。のちにスクウェア・ソフトを代表する天才たちが若き日に混ざり合った、特異点のような一作なわけです(とはいえ、本作で河津氏はシナリオも担当していますが)。
それでは、要点を絞りつつ、ストーリーを追って見ていきましょう。
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舞台は遥か彼方の世界。地獄の底から魔物の軍勢を呼び出したパラメキア帝国の皇帝は、世界征服を目論み、他国を蹂躙し尽くします。必死の抵抗を続けていたフィン王国に住む若者(フリオニール・マリア・ガイ・レオンハルト)四人は、敗戦し、アルテアで反乱軍のリーダーであるヒルダに拾われました。ここから彼らの復讐劇が始まります。
まずはなんと言っても負けイベントです。恐らくゲーム史においてもトップクラスに早かったのではないでしょうか? くろきしの軍勢に襲われたフリオニールたちは、アルテアで反乱軍と合流し、合言葉を教わります。「スターウォーズ」の影響を色濃く感じるシークエンスですね。
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ここで注目しておきたいのは、反乱軍たちのリアリティです。
光の戦士たちの数奇な運命を巡るお話だった『ファイナルファンタジー』に比べると、本作は国家と国家のぶつかり合いであり、そこに住む人々の物語が強く押し出されています。
病床に臥す国王に代わって反乱軍を指揮する強き女性ヒルダ、そんなヒルダに恋い焦がれているが自分に自信が持てないゴードン、ゴードンの兄であり最期の時まで国を案じてフリオニールたちにリングを託す王子スコット……。
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彼らのセリフから立ち上る人間関係をより濃密に感じさせているのは、なんと言っても「ワードメモリーシステム」でしょう。本作では登場人物たちが発する合言葉やキーワードをリストの中に入れておくことができ、それらを適切なタイミングで使用することでストーリーが進んでいきます。
伝統となった「のばら」を始め「ひりゅう」や「ミスリル」など、まるで謎解きアドベンチャーゲームのように、自分で話す内容を決められるつくりは、現代で遊んでもある程度の没入感を得られます。特に反乱軍だけに通じる秘密の合言葉である「のばら」は、ワクワク感がたまりませんよね……。
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その後も、帝国との一進一退の攻防は続きます。帝国に武力で敵わない理由がミスリルの不足にあるとして、こちらもミスリルを手に入れるために洞窟を彷徨ったり、帝国の大戦艦が完成してしまったら敗戦が決まってしまうので殲滅するための作戦に乗り出したりと、怒涛の展開が続きます。
その道中では、大戦艦による街への攻撃を許してしまったり、頼りになる仲間を死なせてしまったり、一度裏切った仲間と再会を果たしたりと、ドラマチックな演出を差し込む努力も惜しみません。今となってはRPGにその手のシリアスなシーンはつきものですが『FF』が始めた感動的なストーリーの原点をしかと見ることができます。
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最後はパンデモニウムの最奥にて、地獄より蘇った皇帝と一騎打ちに。死力を尽くして(もしくはブラッドソードを16回当てて)皇帝を打倒したフリオニールたちは、フィン王国へと凱旋します。
生き残った仲間たちと感動を分かち合いながら、元の生活へと戻ることを宣言するフリオニールたち。そんな彼らの背後には、戦いのなかで死別した仲間たちの影がありました。前作のループ&メタフィクションなシナリオに比べると、かなりスッキリした大団円と言えるでしょう。
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以降、坂口氏は『FF』をレベル制に戻して、『ドラクエ』との差別化を図りつつも、オーソドックスなスタイルの戦闘とストーリーを持ったゲームであるというブランドイメージを確立させていきます。
その一方で、この一年後に『魔界闘士Sa・Ga』からサガシリーズを出発させた河津氏は、1993年、本作のラスボスと同じ立場である帝国の皇帝を主人公にしたRPG『Romancing Sa・Ga 2』を作ることになります。それぞれのクリエイティビティが放射的に伸びていく過程がまざまざと見られて面白いですね。
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独特なバトルと、王道のシナリオが合わさった『ファイナルファンタジー』の第二の出発点を改めて堪能させていただきました。何はともあれ、やっぱりRPGって良いですね……!