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シナリオライターが遊ぶ『Wanderstop』一癖あるクリエイターが開発したティーハウス運営シム。真の強さとは何なのか?一杯のお茶が教えてくれる心のあり方

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シナリオライターが遊ぶ『Wanderstop』一癖あるクリエイターが開発したティーハウス運営シム。真の強さとは何なのか?一杯のお茶が教えてくれる心のあり方
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ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第23回は『Wanderstop』を取り上げます。

※『Wanderstop』のネタバレが含まれています。ご注意ください。

まずはじめに、Davey Wredenというゲームクリエイターについて語らせてください。

2011年に『Half-Life 2』のMODとして『The Stanley Parable』を公開したことで、彼のキャリアは始まります。のちにスタンドアローンのゲームとして販売された本作は、非常にシニカルなメタフィクションとして、今なお多くのゲーマーのあいだで語られている作品です。「左のドアを選びました」というゲーム内のナレーションを無視して、右のドアを選ぶことができるシーンはなかなかに有名ですね。

その後、彼は『The Beginner’s Guide』を発表。Davey Wreden本人が、ゲームジャムで出会ったCodaという人物の作った異常な短編ゲームを紹介しまくるというコンセプトの作品で、ゲーム全体に仕掛けられた大きなギミックに驚き、そのギミックを理解すると今度は「なんでこんなゲームをわざわざ作ったのか?」と頭を悩ませることになるという、あまりに尖ったADVでした。

他にもジョークゲームやコミックなどを作ってきた彼ですが、この度Ivy Roadというスタジオを立ち上げ、Annapurna Interactiveの出資により『Wanderstop』というゲームを発売しました。戦いに疲れてしまった女戦士アルタが、ひょんなことからティーハウスの経営をすることになるというスローライフゲームです。

さて、どうしてわざわざ発売の経緯から語ったかというと、それはまずDavey Wredenというクリエイターがどういう人物だったかをなんとなく知ってほしかったからです。

人を食ったようなブラックジョークと、世界をひっくり返すメタフィクションが大好きな彼が、大量に類似作品が存在するゲームジャンルに後から入って、表面だけ真似て満足するはずがありません! 絶対に、絶対にどこかで裏切ってくれるはず……! 何かやってるはず……! と食い入るようにしてスローライフゲームを遊んだのはこれが初めてでした。

さて、前置きはこの辺にして、実際のところはどんな内容だったかという点に入っていきましょう。

前述したとおり、本作の主人公は女戦士のアルタ。3年半ものあいだ無敗を誇っていましたが、敗北をきっかけに、立ち直れないほどの挫折を経験します。

このままではマズいと思った彼女は、森の奥深くに住む師匠マスター・ウィンターズの下に向かい、鍛え直してもらおうとします。しかし、彼女は途中で力尽き、森の中にあるティーハウス「ワンダーストップ」を経営する太っちょの男「ボロ」に助けられました。

師匠の下に急ぎたいアルタですが、体が言うことを聞かず、自前の剣も握れなくなってしまったアルタ。結局ボロの下でティーハウス経営の手伝いをすることになりました。心ここにあらずの彼女は、果たしてまともに接客ができるのでしょうか……。

ゲーム自体はオーソドックスな作りをしており、お客からの注文を受けて、ガイドに沿ってお茶を作り、それを給仕すればクリアです。時間制限もゲームオーバーもありません。写真を撮ったり、小物を飾ったりといったお決まりの要素を楽しみつつ、気ままに振る舞っていきましょう。

そんなユルい仕様のゲームですが、アルタに降りかかるイベントはちょっとしんどいものが目立ちます。ようやくティーハウスの経営にも少しは張り合いが出てきたところに、彼女の現役時代を知る戦士レンがやってきます。

何故だか剣も握れなくなってしまったんだと弁解する彼女に、あの頃のように頑張るしかない、君は怠けているだけだ、と厳しい口調で迫るレン。ファンの前で恥ずかしい姿を見せてしまったことに、アルタは強い絶望感を覚えます。

己のあるべき姿に囚われていく彼女を救うのは、底抜けに明るいボロです。彼女の思いを否定することはなく、かといって強く賛成して矯正しようともせず、ただ寄り添って助言をしてくれる彼の姿は輝いて見えます(正直、Daveyのことだからコイツと争う展開があってもおかしくないんじゃないかとハラハラしましたが……)。

ボロの手助けもありながら、お客にお茶を振る舞っていくことで、徐々に自らの心の変化に気づいていくアルタ。人物配置やここまでの描写から察するに、本作で描かれているのは心の病でしょう。Davey Wreden自身も『The Beginner’s Guide』の制作前にうつ病を経験しているという事実もあって、本作は自身を受容していくステップが描かれているように感じられました。

特に終盤で現れる「モンスター」という名前のガキンチョとの関係が、本作の白眉です。自らの問題に囚われ、過去の影に操られていたアルタが、初めて本気で他者と向き合う瞬間は感涙ものでした。真の強さとは剣を振り回すことではないんだと、自らの口で語ることができるようになった彼女は、もう何にも敗けないことでしょう。

精神的に追い詰められた人が自らの内面をまざまざと見せつけられるタイプのゲームは(特にホラーにおいて)だいぶ増えてきた印象があります。それらも充分に存在価値のあるものですが、挫折から自己受容までに至った過程を長いスパンで振り返るゲームというのは、なかなか珍しいのではないでしょうか。

まずは自分がどんな状態でいるかを知るために、お茶でも汲んでベンチに腰掛ける……日常生活においても、そんな余裕を常に持っておきたいですね。


ライター:各務都心,編集:H.Laameche

ライター/ 各務都心

マーダーミステリー『探偵シド・アップダイク』シリーズを制作しているシナリオライター。思い出の一本は『風のクロノア door to phantomile』。

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