ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第22回は『都市伝説解体センター』を取り上げます。
※『都市伝説解体センター』のネタバレが含まれています。ご注意ください。
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墓場文庫と集英社ゲームズが送る『都市伝説解体センター』は、怪異や呪物にまつわるウワサが絡んだ事件を解き明かすホラーミステリーADVです。
ごく普通の女子大生・福来あざみは、ひょんなことから都市伝説解体センターを訪れ、センター長の廻屋渉に一杯食わされて調査員の任に就くことになります。彼女は運転手のジャスミンこと止木休美とともに、各地で起きる事件を調査して、都市伝説との関係性や、登場人物たちのあいだに隠された秘密を暴いていきます。
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おっとりした女の子が、浮世離れした安楽椅子探偵に振り回されながら事件を解決する……。なんて心惹かれる設定なんでしょう。一話のボリューム感はちょうどよく、もしや? と思うことが正解だったりして、謎解きミステリーとして良い感じに頭の体操になってくれました。
流石に犯人当てが簡単すぎる事件もありましたが、それらもすべて大オチに至るまでの伏線であり、連作短編ならではの美しい構成が光る作品です。特に終盤の伏線回収劇はかなりの見物です。
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そんなミステリー部分を支えるのが、みんな大好き都市伝説の数々です。一話ごとに何かしらの都市伝説をフィーチャーして、それが事件にどう関わっているかを「特定」し、どこからが人為でどこからが怪異なのかを「解体」していく流れが完璧です。
調査に行くまでに事件の概要を聞いて「今回は何の都市伝説がテーマなんだろう?」とワクワクする時間と、調査しながら「この事件はどう解決するんだろう?」と考えている時間と、一粒で二度美味しい作りになっているミステリーなのです。これは、お得!
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とはいえ、ここまではオカルト×ミステリーとしてはそこそこ王道であり、このジャンルはお客さんもたくさんいますが、成功している先行作品も山ほどある印象です。
実際、本作は講談社ノベルスや、江戸川乱歩や横溝正史といった往年の名作ミステリー、そして『メン・イン・ブラック』や『Xファイル』のような超常現象を扱ったドラマなど、数多くのレファレンスが見受けられます。
しかし、本作が何よりもユニークな点は、この作品が徹底的に現代日本を克明に描いている点にあります。
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本作には「SNS調査」というパートが何度も出てきます。これは現実にあるSNSを模した電子空間で、都市伝説や事件にまつわるウワサを調べるものでして、その再現性は相当なものです。
正直言って、筆者はこのパートに面喰らいました。日常的に見るネット上のしょうもない炎上をゲームでも見させられるなんて、どういう意図があるんだ……と。げんなりしながらも、ただ進めていくしかありません。
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作者の意図が見えてくるのは、本作の大プロットが顔を出し始めてからです。
本作の背景にある大きな事件は、SNS社会と配信文化が引き起こしたものであり、その痛ましさと恐ろしさには(フィクションとわかっていながら)顔をしかめるほどです。
いや、むしろ本作で起きた事件は部分的にはフィクションなどではなく、ネット上の炎上によって心を痛めてしまった人というのは現在進行形で増えていっているわけです。
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すべての人が、何も学ばずとも、そして何も見ようとしなくても、簡単に気持ちを発信することができるようになった時代。スマホひとつあれば、どこからでも、誰かの心臓をほんの一瞬で抉り取ることができる……本作の登場人物は、こんな現象はもはや“怪異”だと断定していました。
SNS調査のパートは本当に辛い気持ちになりましたが、それはそこに強い警句が込められている所以だと考えています。簡単に踊らされず、見えないものを見る力を養い、そして受け止めることが大事なのだと、メディア関係者として襟を正される思いがした一作でした。