
ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第24回は『アサシン クリード シャドウズ』を取り上げます。
※以降には『アサシン クリード シャドウズ』のネタバレが一部含まれています。
閲覧の際はご注意ください。
2007年に初登場したシリーズですが、今年で18年目、メインシリーズとしては14作目となります。どう考えてもハイペース過ぎる発売スケジュールであり、金太郎飴みたいなコンテンツだと思って遊んできましたが、今回はストーリーに関してはかなり進化してくれました。

今回のアサクリは日本……戦国時代です。しかも、信長や秀吉が活躍した近畿地方が舞台なので、もうド直球もド直球です。シリーズが今まで選んできたなかでもとりわけファンの多い時代だと言えるでしょう(その割に時代考証は大変脇が甘かったようですが、その件について本コラムでは特に触れません)。
ゲームを始めると、これまたシリーズでも珍しく、いきなり歴史上の偉人がワンサカ登場しまくります。(のちに弥助と名乗る)ディオゴという黒人が、イタリア人宣教師アレッサンドロ・ヴァリニャーノに連れられて、織田信長に謁見します。信長が戯れでヴァリニャーノを脅すと、物々しい雰囲気に気づいた弥助が咄嗟に反応しました。それを見た信長が表情を変え、弥助に武士としての才を見出し、登用します。

一方で、幼い頃から伊賀忍者として育てられた藤林奈緒江は、父の命を受け、とある箱を運ぶように言いつけられます。しかし、その箱は敵の手に落ち、奈緒江の目の前で父は仮面の軍勢に討たれてしまいました。奈緒江は復讐を誓い、彼らの正体を突き止めるため手がかりを追い始めます。
この時点でシリーズでも屈指のオープニングといえるでしょう。掴みはバッチリ、これから弥助や奈緒江がどうなるのか、ちゃんと気になる作りになっています。

このキャッチーさがシリーズによってまちまちであり、現代編が複雑だったこともあって、なかなか人に勧めにくいポイントでした。『アサシン クリード オリジンズ』あたりから主人公がさっぱりした性格になり、勧善懲悪の展開も増えてきてだいぶわかりやすくなってきましたが、歴史上のイベントに立ち会うというミッションがある以上、どうしても断片的かつ説明不足になりがちなのがネックでした。
しかしながら、今回は信長・秀吉・家康という日本でも最も有名な武将をざっくりとブリッジしながらも、『アサシン クリード』がどういうゲームなのか一発でわかるほどシンプルな物語を描けており、誰もが理解できるストーリーに仕上げています。特に、弥助と奈緒江が初めて出会うシーンは、本作の白眉と言ってもいいでしょう。こうして許し合うことができれば、アサシン教団とテンプル騎士団の対立も起きないだろうに……!それにしても、順次郎の使い方が上手い!


織田信長という男の存在があまりに強大すぎるがゆえに、彼の死後もあらゆる人物がその影響を受けていくというプロットは、オープンワールドと相性が良かったように感じられます。とはいえ、話の途中で別のクエストを受けると何をしていたのか思い出すのが難しくなってしまうので、もう少しひとつのクエストの尺を長くしてもよかったのではないかと思ったりもしました。
加えて、ヒドゥンブレードの継承や、“信条”というキーワードの使い方、テンプル騎士団とアサシン教団という概念が介入してくるタイミングなど、シリーズお約束の要素の使い方もかなりスマートだったように感じられます。

また、全体的にサブクエストも良かったように感じられます。
シリーズの過去作である『アサシン クリード オデッセイ』『アサシン クリード ヴァルハラ』のサブクエストは、当時流行っていた『ウィッチャー3 ワイルドハント』や『グランド・セフト・オートV』からの影響を感じました(あくまで邪推ですが)。大体の話に必ずツイストが挟まってくる感じで、変なやつに振り回されたり、意外なオチで終わったりするものが多かったと記憶しています。
一方で、本作は(水増し感の強い暗殺系のクエストをすべて除くと)主人公サイドの掘り下げが目立ちました。裹刀衆の面々と連帯を深めるものや、順次郎がたぬきの親子に別れを告げるものなど、あえてメインクエストよりもスケールを小さくし、人間味を醸すハートフルなものが多かったように感じます。

特に筆者は弥助と奈緒江が川べりに横たわり、青空をあおいで、雲の形を言い当てるクエストがとても好きでした。クエストというほど長くもありませんでしたが、彼女たちに親近感を沸かせるために、最低限の尺で最大限の効力を発揮したことでしょう。

また、相撲や茶道など、クエストの途中でいちいち日本文化を盛り込むあたりも、シリーズの生真面目さを感じて、なかなか嫌いになれません。『アサシン クリード III』で、ボストン茶会事件に乗じてお茶の入った箱をボトボトと海に投げ捨てるクエストを思い出しました。そういや、このシリーズってずっと歴史資料館にあるミニゲームみたいなことさせられてるんだな……。

パリッとした勧善懲悪のストーリーや、キャラの立っている戦国武将の使い方、小さなクエストからシリーズ恒例の文化紹介パートまで、やはり物語面においてはシリーズでも最高の出来栄えだったといってよいでしょう。
本コラムはシナリオ面についての話を掘り下げるものなので、ゲームの出来についてもあまり細かくツッコミませんが、苦痛なほど繰り返しやらされる拠点制圧(城攻め)も、同じくらい進化してくれてもいいのに……!