ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第20回は『The Outer Worlds』を取り上げます。
※『The Outer Worlds』のネタバレを含みます。
閲覧時はご留意ください。

『The Outer Worlds』は、宇宙開拓時代のディストピアを描いたSF RPGです。人類はハルシオンという銀河系に進出し、巨大企業が惑星を植民地化して支配する時代……人々は企業のために働き、企業のルールに従い、企業の利益のために生きています。
この管理社会の中で、プレイヤーは「ホープ」という植民船の乗客のひとりとして目覚めます。しかし、目覚めさせたのはコロニー政府ではなく、指名手配中の天才科学者フィニアス・ウェルズでした……。

本作を開発したのは、『Fallout:New Vegas』や『Pillars of Eternity』シリーズで有名なObsidian Entertainment。初代『Fallout』を開発したInterplay傘下のBlack Isle Studiosの中心メンバーが立ち上げたデベロッパーです。ゆえに、シニカルなジョークがてんこ盛りです。
夢に満ちたハルシオン・コロニーは、繫栄しているように見えますが、実際のところはブラック企業が支配する腐った都市ばかりです。ロアや人々の会話を聞いていると、長時間労働は当たり前で、病人はほったらかし……貧乏人は原生生物の餌になる一方で、金持ちは眉毛にすら保険をかけています。
そんなどうやって毎日が回っているのかもわからないようなめちゃくちゃな環境の都市を周りながら、主人公は自らの未来を選び取っていきます。

この手の洋RPGを彩るのは、やはり仲間キャラクターの存在ですよね。本作の白眉といってもよいくらい、仲間キャラクターのシナリオは抜群に素晴らしいものでした。
まともなお父さんに育てられ、やがて恋の素晴らしさを知ることになる女性……ハルシオン唯一の良心・パールヴァティー(特に声優が素晴らしいです)。

異端の書を探している牧師・マックス。アウトローから足を洗いきれずにいる少年・フェリックス。お掃除(殺人)ロボットのサムに、酔っ払いの女傭兵・ニョカまでいます。
筆者が特に好きだった仲間キャラクターのクエストは、女医のエリーです。ビザンチウムの高級住宅街で生まれた彼女は、いつまでもつまらない生活を送り続ける両親に一泡吹かせてやるために、主人公とともに帰郷します。
いかに自分がアウトローとして育ってしまったかをやつらに教えてやる~と、なかなか反抗期が終わらないタイプのイタさを見せつけてくるエリー。やれやれと思って玄関を開けると、両親の反応は意外なものでした……。

度が過ぎたブラックジョークで笑わせに来るプロットが多い本作のなかでは、屈指の苦さを誇るクエストです。スルーしている方はぜひ読んでみてください。

といった具合で、基本的に本作は、選択進行型RPGの王道を行く作品です。逆に言えば際立って珍しい要素もないので、正直ほかに言うこともない感じもあります。
しかし! そんな筆者が二周目を遊ぼうと思ったきっかけがひとつあります。そう、それはオトボケ!
知能を最低にしてキャラクターを作ると、クリティカルヒットダメージが大幅に減る代わりに、会話中に独自の選択肢「オトボケ」が選べるようになります。

あなたは“愛すべきバカ”として生まれ、他人のジョークや、あてつけ、皮肉、ダブルミーニング、ほのめかし、意味ありげなウィンク、そのすべてをスルーし、ひたすらにボケ倒します。5歳児だってもうちょっと顔色から察するだろ? というような場面でも、まるで一昔前の機械翻訳のごときマジレスを返します。
このオトボケですが、ただのデバフにあらず。ほとんどの場合は相手が良いように取ってくれるか、ドン引きされて自動的に話が進むのですが、ごくまれにとんでもない反応が返ってきます。
特に終盤、フィニアスがとある複雑な問題にぶつかっているところに、まったく話を理解していない主人公の妄言によって解決に至る流れは、80年代のハリウッド映画を思い起こさせるお約束の美しさがありました。

しかも、本作はオトボケ状態でなければ辿り着けないエンディングも用意されています。これぞブラックジョーク。「誰がこいつに任せたんだ!?」と叫び出したくなるような酷すぎる結末をぜひ味わってください。
次作『The Outer Worlds 2』でも、これらをさらに超える笑えないギャグが用意されていることに期待します!
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