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『大乱闘スマッシュブラザーズX』や『新・光神話 パルテナの鏡』などの開発に携わる受託業務を行う一方で、『Happy Wars』や『ハッピーダンジョン』といった自社オリジナルタイトルのパブリッシングも展開しているトイロジック。
最近では、スクウェア・エニックスから発売されたニンテンドー3DS版『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』(以下 DQXI)の開発を担当。国内屈指のビッグタイトルに関わり続ける躍進ぶりは、多くのゲームファンから注目を集めています。また、オンラインアクションゲームの開発を得意とする手腕にも定評があり、国内外のファンが厚い支持を寄せていることでも知られています。
受託と自社パブリッシングの両面で好評を博しているトイロジックですが、その開発スタイルや特色、そしてゲーム作りに対するこだわりなどを、同社の代表取締役社長・岳 洋一氏に直接伺いました。『DQXI』開発終了後の率直な感想や、“トイロジックのこれから”についても触れているので、どうぞお見逃しなく。[取材・構成:森元行]
◆ナムコとキャビアを経て、トイロジックを立ち上げ─岳洋一氏の歩みが生んだ「理想の会社像」
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──まず最初に、岳さんの経歴と貴社についてお聞かせください。
岳氏:まず経歴についてですが……バンダイとナムコが合併する前のナムコ時代に、10年間ほどプログラマーとして在籍していました。当時は、キャラのAIやアクションゲーム向けのライブラリ開発に携わっていました。描画システム周りやモーションの圧縮システムなど様々です。
──その後は、ナムコを辞められたんですよね。
岳氏:はい。当時、まだ立ち上がって間もないキャビアで開発チームを作るという話を聞きまして、「新たなゲームの立ち上げが出来るんじゃないか」と期待し転職しました。そこでは、ゲームのプログラマーという立場も継続しつつ、同時にゲームの企画やディレクター業などもやっていました。
──キャビアでは、どのようなタイトルを手がけたのですか?
岳氏:『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』や『バレットウィッチ』などで、ゲームデザインディレクターを経験しました。企画をやりつつ、コリジョンのシステムやAIのプログラマーも兼任したり、シナリオまで書いていた時期もあり、いろいろ体験できて楽しかったです。楽しかったんですが、今も同じ働き方をしたら1年で廃人になれると思います(笑)。
──トイロジックを設立される時、「こういう会社にしよう」といった指針はありましたか?
岳氏:これは企業理念に結びつく部分で、新しいコンテンツ、新しいゲームを自分たちで立ち上げていくこと。人が安心して働けて、しっかりとした人生設計ができる会社にしたい。この2つの想いで、トイロジックを立ち上げました。
──そのような想いで、2006年の12月にトイロジックを設立されたんですね。ちなみに、設立される前に組織作りの経験などはあったのでしょうか?
岳氏:本当にゲーム作りしかしらない世間知らずだったので、経営の経験も知識もまったくありませんでした。自分が上に立ちたいとは思っていなかったんです。ただ、もし自分が社員だった時に「こういう会社だったら良いモノ作りができる」といった“理想の会社像”のイメージはあったんです。それを自分で実現してみたいと思い、勢いで会社を立ち上げてしまいました(笑)。
──自分が働きたい会社、という視点から作り上げたのがトイロジックなんですね。
◆トイロジックが目指す形─「新しい遊びを技術から生み出す。自社エンジンも開発中」
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──トイロジックの開発体制について教えてください。
岳氏:うちは、とにかく開発技術力こそが会社の成長と存続のための生命線だという危機感をもっています。UnityとかUnreal Engine 4とか優れたエンジンは使うときは積極的に活用しますが、そういったエンジンすら自社でつくっていく姿勢が、広く深く様々な開発技術力を育てる土壌になると考えています。マルチプラットフォームに対応したゲーム開発ライブラリー、ネットワーク通信システムなど、ほぼすべての技術パートを、ミドルウェアや他社の力を借りずに開発できてしまう開発体制はうちの強みだと思います。
──続いては、自社タイトルの現状について教えてください。
岳氏:自社タイトル第1弾だった『Happy Wars』もリリースから5年目に突入して、さすがに収益はかなり下がりました。ところが未だユーザーはなかなか多くて、いまでも毎月20万ユーザーが遊び続けてくれています。特に北米、南米で人気がつづいていてうれしい限りです。
またPS4で9月にリリースした『ハッピーダンジョン』の方は、日本でかなりのユーザーさんにダウンロードしていただけました。見た目はカジュアルな層をだけを狙ったタイトルにみえますが、みる目が厳しいコア層のファンも多くて、もっと楽しんでもらえるように気合をいれてアップデートを続けているところです。年末を楽しみにしていてください。
──『ハッピー』シリーズの新しい構想などは、すでに考えていますか?
岳氏:社内では、みんな『Happy Wars』について「もっとああすればよかった!」「こんなネタを追加したい!」と、やりたい事や反省点を語り合っていて、これを踏まえた「新しいハッピーウォーズを出したい」という声が上がっています。その声に応えようかどうしようか悩んでいるところです(笑)。
──絵柄も可愛いので、スマホとの相性もよさそうな印象を持っています。
岳氏:日本のゲーム業界は、どうしてもスマホに向かっているじゃないですか。収益率の高さなどの理由で。でも、ゲームらしいゲームをスマホでやろうとすると、デバイスの特性上なかなか難しいわけで。
そこでウチとしては、据え置き機とスマートフォンの連動で遊べるタイトルを育てていきたいと考えています。ハードのクロスプレイでマルチで遊ぶのもいいですが、お手軽なモードはスマホで外出中にプレイし、がっつり遊ぶところはコンソールで楽しむ、といったスタイルもやっていきたいです。これは技術面だけでなく、各プラットフォームの規約の壁など課題も多いですが実現したいと思っています。
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──出先ではスマホで遊んで、帰宅してからは大画面と向き合って腰を据えて楽しむ。そんなコンテンツに挑戦しているんですね。
岳氏:とはいえ、今はPlayStation 4とPCに力を入れていますが、PS4やXbox Oneの後を継ぐ次世代コンソールが出た際には、まっさきに開発をスタートしたいと思っています。あとスタッフは、ニンテンドースイッチをやりたがっています(笑)。うちって規模のわりに節操がないですね(笑)。
──PS4とPCとスマホ対応の、オンラインマルチプラットフォームのアクションゲームですね。
岳氏:そのプレイスタイルのゲームをぜひ実現させたいですね。
──オンラインアクションにこだわっている理由というのは、なぜでしょうか?
岳氏:人と人が遊ぶのが一番面白いから、そしてで色々なコミュニケーションを楽しめる関係を提供したいからという二つの理由です。「オンライン」で色んな人同士が同時に遊べるところにより強くこだわっています。
日本って、コンソールからどんどん撤退しているじゃないですか。特に、オンラインアクションに強い会社というのは限られているので、目指すべきはワールドワイドでトップレベルのオンラインアクションを開発できるスタジオです。世界中のユーザーに認知してもらえるようなブランドに育てていきたいと思っています。
──世界を視野に据えているとのことですが、社内のスタッフも英語が喋れないとダメだったりしますか?
岳氏:いえ、そんなことはありません。日本語が出来れば大丈夫です(笑)。
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