クロスメディア展開をどう見るか?

真ゲマ:
映画化やアニメなどのクロスメディア展開についても伺いたいですね。クロスメディア展開で成功したゲームといえば『.hack』シリーズを想起しますが、『FF15』のクロスメディア展開はどのように見ていますか?
Daisuke Sato:
他作品と違って、『FF15』の映画展開はクロスメディアというよりは本編のPRビデオ的な役割だったのかなと思っていました。あとはスクエニのムービースタジオ「ヴィジュアルワークス部」のベンチマーク的な役割も。
葛西祝:
クロスメディア展開の魅力って、さまざまな方向からキャラクターを掘り下げる面があることじゃないですか。アニメで4人のメインキャラクターを掘り下げるほか、初期の体験版である『PLATINUM DEMO』(※現在は公開終了)ではノクトが子供のころのオリジナルストーリーが展開されるなど、かなりのバリエーションがありました。

その中でも、セブンイレブンで『FF15』の予約特典として付属したスピンオフ『A KING'S TALE』が地味ながらすごい。ノクトの父親であるレギスが、若い時に冒険していたエピソードをピクセルアートのアクションゲームとして描いているんです。細かいところまで掘り下げを行っていたのは面白いなと感じましたよ。
真ゲマ:
個人的にアニメ『BROTHERHOOD FINALFANTASY XV(以下、ブラザーフッド)』のプロンプトの回は面白いと思いました。うわっ、こいつの家、すげぇ日本だ!って(爆笑)
葛西祝:
プロンプト、高校デビューだったのかよ!ってわかる面白さはありましたね。観る前と観た後でかなり好感度が変わってくるキャラでした。日本の住宅街っていうのも別のショックがありましたね(笑)

本編でもインソムニアに到達したら、そこは新宿だったのも心にきましたよ。王都が都庁だったので、じゃあレギス国王は都知事かよ!みたいな。現実の都知事がよくニュースで揉めてる姿を映してるわけですから、レギス国王を変な風に解釈しかねないじゃないか!と。
Daisuke Sato:
インソムニアはなんで西新宿がモチーフだったんでしょうね。スクエニなんだから東新宿にすればいいのに。あ、移転前が西新宿だからか。
葛西祝:
こういう説も一部にあります。インソムニアって「不眠症」という意味ですよね。それを「眠らない街」という風に解釈し、連想ゲーム的に「じゃあ日本で眠らない街といえば?」、「新宿だろ!」みたいな。
G.Suzuki:
そうなんですかね?ともかく、人気タイトルで起こりうる「アニメ化」と「映画化」を先に作り上げてしまった感じが少しありました。
それでも『キングスグレイブ』は素晴らしい出来でした。映画は、2016年7月9日に公開されましたが、2回ほど映画館の大画面で見たのは正解でした。映像終盤の第一魔法障壁の大激戦だけでなく、主人公ニックスのカッコよさや、ルーナの美しさと裏に持つ強さを遺憾なく表現できていたと思います。2001年の映画「ファイナルファンタジー」の雪辱を大きく晴らしたとも言えますね。
あとタイトーがスクエニ傘下に入っているため、『ダライアス』の筐体やポスターが画面に出てきてくれたのも嬉しかったです。ニックスとルーナの奮闘を思うと、「前日譚のこれでこんな状況になってしまったんだけれど!?本編のノクトめっちゃ頑張れ!」と大きく期待したのもありますね。
『ブラザーフッド』はノクトが旅に出る前の日常がメインでしたが、ノクト達の前日譚としてはなかなか興味深かったですね。皆さんもおっしゃられるようにプロンプトの回は、彼がどのように変化したかがわかり、本編での印象も少し変わりました。
10年以上かかった開発、そして発売という経緯
真ゲマ:
先ほども言及されていましたが、『FF15』は2006年に『FINAL FANTASY Versus XIII』として制作が発表されるも、延期を繰り返し、2016年にようやく発売された経緯がありますよね。10年を超える開発の末に発売された事に関して、皆さんはどう思っていますか?
葛西祝:
……『FF15』は長い開発の歴史も含めて振り返ると、スクウェア・エニックスとFFファンの愛と憎悪という印象ですね。正直いうと「FF13」の一環となるプロジェクトである『ヴェルサス』のころは興味はなかったんです。でも野村哲也氏から田畑氏にディレクターが変更され、「誰もがみんな“FF病”だった」をはじめとする鮮烈なインタビューが次々と出てきたあたりからすごく期待を持ったんですよ。
G.Suzuki:
「時代に翻弄されながらも、なんとか世に出てきてくれた」と思いましたね。どんなタイトルでも「開発中止」の四文字は見たくありません。『FABULA NOVA CRYSTALLIS』のプロジェクトの中で、『FF13』の本編をはじめ、続編を含めた3作品が、『アギト』は『零式』として、そして『ヴェルサス』が『FF15』として出てきてくれました。
Daisuke Sato:
良くも悪くも時間をかけ過ぎてしまったタイトルだなと。これが2000年代に発売されていたら、エポックメイキングなものになっていたかもしれません。ただ、最終的にリリースされたものも多くの人に愛されているのは確かですし、これからも語り継がれていくのではないでしょうか。
葛西祝:
G.SuzukiさんやSatoさんから『Skyrim』などの比較対象が挙がっていますが、やっぱり開発が長引いた理由って欧米のオープンワールドRPGへのコンプレックスも大きかったのもあるんでしょうか?
G.Suzuki:
そもそもの2009年12月に発売された『FF13』本編自体の構成も含め、従来のリニアな作品の良さに、オープンワールドのような新しさを取り入れつつバランスを保つことに、板挟みになったのかなと。
先ほどSatoさんも言及されていた通り、『Skyrim』や『Fallout 3』などベセスダ作品を始めとしたオープンワールドRPGの存在も無視できなかったのだと思います。
『FF13』本編の対となる『ヴェルサス』に、2010年前後の海外AAAタイトルやオープンワールドRPGの新しさや良さを咀嚼し取り入れ続けた結果、目まぐるしく仕様が変化したせいで、延期が重なったのではないか?と予想しています。
発売後のアップデートによる対応はどうだったか?

真ゲマ:
発売後はアップデートによってブラッシュアップをしてきた印象がありますが、ここをどう評価していますか?
Daisuke Sato:
近年のタイトルでは良くあるパターンではありますが、プレイヤーの声を聞いて良くしていく姿勢は好感が持てました。でもやっぱり、リリースする段階でプレイヤーが納得できる出来になっているほうがいいなあ……。
G.Suzuki:
素直に良く続けてくれたと思いますね。第13章のバランス調整(※)も含めてブラッシュアップを続けてくれたのはとても評価できます。
※第13章からこれまでのオープンワールドRPGからサバイバルホラーのようなゲームデザインに一転し、プレイ感覚が大きく変わる。しかし、発売当初のバージョンではゲームバランスが悪かったためにプレイヤーから批判が続出。後のアップデートによって、グラディオラスを操作する簡単な追加ルートが登場し、上述の問題は改善された。
発売日発表イベントを行った後に、延期を告知したという経緯があるため難しいとは思いますが、発売日をもう少し遅らせても良かったんじゃないかなと今でも考えてしまいます。発売直後は「チョコボ立ち乗り」「キャラクターが地面に埋まる」などのバグがTwitterで話題になっていました。だけどファンとしては「そういうところだけじゃなくて、ちゃんと面白いところもあるんだぞ」と思ってて、勿体ないなと。
葛西祝:
PCでダウンロード販売をメインにしているタイトルなら、「アーリーアクセス」というビジネスモデルがありますよね。まだ未完成な作品だけども、制作資金を得るために販売し、プレイヤーからのフィードバックをもらいつつ修正、完成まで仕上げていくという。
制作側にそのアーリーアクセスの意図はないとはいえ、結果的にやってしまった、「発売当日のバージョンが実質的にアーリーアクセス版だった」というショックはありましたね。いろんな意味で『No Man's Sky』と双璧を成すタイトルと思います。
それからリアルタイムで徐々にアップデートしたり、『アサシンクリード』など他のタイトルとコラボイベントを行ったりすることで、プレイヤーからの評価を増やしていくとともに『FF15』の制作側とファンの間である種の信頼関係を作っていく効果もあったんじゃないかな、と感じてます。
真ゲマ:
そうですね。発売後のアップデートの告知を特別番組で行ったり、Twitterなどではトレンドに乗ってファンとの距離を縮めていた印象を受けます。
葛西祝:
『FF15』って、カッコつけてるけどどこかダメなノクティス王子をみんなで支えてるような内容じゃないですか。そこに重なる形で、ツッコミどころだらけのゲームをファンも、スタッフも愛して支えている感じがあるといいますか。
やっぱり出来の悪さに怒るプレイヤーもいて、そこも理解できるんですけど、だからといってすべてダメなわけではなく、凄く愛せる部分があるんですよね。
『FF15』を経た、続編への期待

真ゲマ:
やはりシリーズファンが気になるところは続編ですよね。今回『FF15』について振り返りましたが、その上で『ファイナルファンタジーXVI(以下、FF16)』に求めるもの、求めないものはありますか?
Daisuke Sato:
求めるのは没入できるストーリーテリングと全く新しいゲームシステムです。海外スタジオのように、シナリオは何人かで作り上げたほうがいいものができる気がします。
求めないのは車とアメリカンな世界観。SF要素があっても欧州の風を感じるほうが『FF』らしいかと。
葛西祝:
自分もファンタジーの世界に戻ったほうがいいのは同意ですね。『FF15』の旅のゲームシステムで、ルミナスエンジンのテスト制作となった「Agni's Philosophy」のような世界観のRPGを作ってくれないかなと考えています。
『FF15』は表向きはツッコミどころだらけのRPG。でもその裏側ではAIによるキャラクター構築だとか、旅の実感のある体験づくりだとか、後世のレガシーとなる部分が数多くあると思うんです。
田畑氏とLuminous Productionsは、『FF15』のすべてを後の制作に繋げる先行投資にしていた面もあったと思います。なので今後『FF16』が制作されるとしたら、この遺産を生かしてほしいですね。本当に海外AAAのオープンワールドにはない、オリジナルの部分がありますし。
G.Suzuki:
『ファイナルファンタジー』は過去のシリーズを通して、機械文明とファンタジー的な要素(魔法/魔物)を並行して表現し続けてきたので、それこそ技術デモの「Agni's Philosophy」のような世界観のゲームをプレイしてみたいですね。
またスクウェア・エニックスには『Deus Ex』シリーズや『Thief』を制作したEidosが傘下にいるのだから、Eidos Montrealのスタッフが開発したナンバリングではない外伝の『FF』もプレイしたいです。
ただ正直、オープンワールドとプレイヤーの体験に比重が置かれていた『FF15』の次回作となる『FF』を想像するのは、一人のプレイヤーとしても「なかなか難しい」としか今は言えないのが正直なところです。
真ゲマ:
ありがとうございます。それでは参加者を代表して葛西さん、今回の座談会の締めの一言をお願いします。
葛西祝:
『FF15』は実験的な要素もあるし、発売後も活動を続けたタイトルです。でも今回のDLCの中止も含めて、永遠に未完成の大作になりました。ある意味『シェンムー』みたいな感じもあるんです。後の『グランド・セフト・オート』シリーズをはじめとするオープンワールドによって『シェンムー』が再評価されたように、もう少し時間が経ち、『FF15』の遺産を生かしたタイトルが登場することで、本当の評価ができるんじゃないでしょうか。