7月16日より、『アサシンクリード オデッセイ(以下オデッセイ)』ダウンロードコンテンツ第2弾の最終エピソード「アトランティスの裁き」が配信されました。大型DLCである「アトランティスの運命」における最後のエピソードとなっており、タイトル通り伝説の都市・アトランティスが舞台です。
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これまで通り、ギリシャ神話に関連する人物や怪物が多数登場。前々回、前回に引き続き、登場人物について『オデッセイ』と神話の双方から解説していきたいと思います。
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本記事にはネタバレに繋がる記述が含まれています。
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アトランティスの主、海神ポセイドン登場! ハデスと比べると好意的
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プレイヤーであるアレクシオス、あるいはカッサンドラをアトランティスに迎え入れてくれるのは、都市の支配者でもあるポセイドン。脇役程度ではありますが、EP2でも登場していた人物です。アトランティスにやってきたばかりの主人公へ役職を与えてくれたりと、かなり好意的に接してくれます。神話のポセイドンにはギリシャの神らしく傲慢な部分がありますが、『オデッセイ』の方ではそれほど高圧的ではないキャラとして描かれています。
といっても『オデッセイ』の中でその傲慢さをまったく感じないわけではなく、弟であるゼウスにまつわる記述からも、その性格が読み取れます。ゼウス自身がゲーム中に登場するわけではなく、あくまでも読み物として書かれているだけですが、ポセイドンはゼウスがいた空気すら嫌って、アトランティスの「周期」を一度終わらせた、というものです。
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実際に神話の方でも、ポセイドンとゼウスは対立したことがあります。以前の記事でも書きましたが、ホメロス作の叙事詩「イリアス」でポセイドンはゼウスに対して反乱を企てたことがありました。この反乱自体は最終的に失敗で終わりましたが、アテナやヘラなど有力な神々が参加した反乱でもあり、ゼウスの治世で身内からの大規模な反乱が起こったのはこの一件ぐらいです。
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同じく「イリアス」の中では、ポセイドンがゼウスの身勝手さに腹を立て、言い争うシーンも出てきます。ゼウス政権、オリュンポスの神々のナンバー2でもあるポセイドンはゼウスに激しい怒りを示しますが、最終的にはゼウスの主張を受け入れる形で和解。
こういった経緯を考えると、『オデッセイ』内のポセイドンとゼウスの不和については原典からの影響を受けている可能性が高そうです。
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ポセイドンは神話だと三叉の槍を持っていることでお馴染みで、基本的には『オデッセイ』でもずっと手にしています。
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槍はポセイドンの象徴のような役割を持っており、海と大地を操る力があるとされています。槍の活躍はギリシャ神話でも初期のエピソードに当たる「ティタノマキアー」から始まっており、「キュクロプス」という巨人族からこの武器を受け取っています。このキュクロープスは『オデッセイ』でも登場しており、「アトランティスの運命」を開始するために必要なクエスト、「アトランティスの門」で登場する一つ目の巨人です。間違ってもストーリーの冒頭で出てくる暴漢ではありません。
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キュクロープスは『オデッセイ』の中でも名前が度々でる鍛冶の神「ヘパイストス」の下で働いている、武器作りの達人とも言える巨人。『オデッセイ』ではいくつかの武器を背負っての登場。このデザインについては、神話の影響を感じられます。
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ちなみにこの戦争「ティタノマキアー」で、ポセイドンはゼウスに借りがあったりします。彼の父、ティタン神族の王である「クロノス」は、息子たちによって王位を奪われる、という予言を受けていました。クロノスは王位を守るため、生まれた子供たちを一飲みにしてしまいます。これを唯一逃れたのがゼウスで、成長した彼はクロノスから兄弟たちを救出。共にクロノスへ立ち向かいます。
その中で、ゼウスやポセイドンはクロノスから虐げられていたティタン神族から助力も受けました。そのうちの一柱がキュクロープスで、彼らはポセイドンたちの勝利に貢献しました。このほかにも強力なティタン神族を味方につけており、その神はEP3でも登場します。
醜い怪力の巨人・ヘカトンケイル
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ティタン神族を裏切ってゼウスをリーダーとする「オリュンポスの神々」に組した神には、怪力で知られるヘカトンケイルもいます。複数の手と顔を持っている怪物のような容貌の神で、彼は醜い外見から親たちに冥界の奥底、タルタロスへと投げ込まれてしまいます。
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これを救出したのが「オリュンポスの神々」で、ヘカトンケイルはティタン神族との戦いに参加。その怪力でポセイドンたちの勝利に大きく貢献しています。戦後はタルタロスに放り込まれたティタン神族や重罪人を監視する仕事につき、「イリアス」に記されているポセイドンの反乱があった時は、ゼウスを守ることもありました。意外と情には厚い神なのかもしれません。彼にとってゼウスは兄弟の息子、つまり甥でもあるので、そこも関係していそうですね。
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『オデッセイ』の物語では、EP3のラストに登場。原典通りの巨体と怪力、多数の腕でプレイヤーの前に立ちはだかる存在です。外見の方も決して美しいとは言えず、出生にもいろいろと黒い部分があります。
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純粋に敵として対立するのでゼウスに見せたような忠誠心は出てきませんが、なかなか迫力のあるボスに仕上がっています。
長男のアトラスはアトランティスの語源にも?
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アトランティスはポセイドンが支配している都市で、その体制を維持するために彼の息子たちも協力しています。中心的な役割を果たしているのは長男の「アトラス」で、アトランティスの語源にもなった人物です。
ギリシャ神話においては記述が実質的に無く、古代ギリシャの哲学者「プラトン」の著作、「クリティアス」で記述が見られます。彼はアトランティスの現地人である女性とポセイドンの間に生まれ、アトランティスの支配者として君臨していました。この辺りは『オデッセイ』の設定とあまり変わりませんね。
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EP3の中で、アトラスは傲慢かつ支配欲が強い人物であるとたびたび指摘されます。それが理由で時にはトラブルを起こし、ほかの兄弟たちにも大きな影響を与えることに。人間との共存を願っている節があるポセイドンとも異なっており、人間をあくまでも支配対象として認識している風があります。
仮にポセイドンを正当な神の在り方とするのなら、息子であるアトラスは堕落した人物として見ることも出来ます。EP3ではそういった人間と神々の対立が何度か描写されており、哲学者プラトンが著作に残したアトランティスの滅亡を連想させる設定でもあります。
アトランティスは神話が元ではない?
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アトランティスとは何なのか……元ネタの方を少し掘り下げますと、それはプラトンの著作である「クリティアス」などに登場する伝説の都市の名称です。『オデッセイ』での設定とほぼ同様、ポセイドンの支配する土地で、彼の子孫や現地人が暮らしていたとされています。
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アトランティスは資源が豊富で強大な軍事力も保有しており、巨大な領土も所有していました。しかしアトランティスの人々と現地人の血が交わっていく中で、彼らは本来持っていた神性を失ってしまいます。神々への祈りや感謝もしなくなるほど傲慢になってしまい、オリュンポスの神々はアトランティスへ罰を下すべきだと考え始めるように。その結果、ゼウスはアトランティスに嵐を起こし、海底へと沈めたわけです。
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『オデッセイ』の方でも、アトランティスの終わり方は同じ。アトラスを始めとした人物たちの傲慢が引き金になって、海底に沈みます。
過去作に登場した「彼女」も登場! 名前はローマ神話に由来
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『オデッセイ』においてアトランティスが滅びる原因のひとつとして、もう一人、神話でもお馴染みの人物が登場します。その名はジュノー。『アサシン クリード』のシリーズファンにとってはお馴染みの登場人物でもあります。
彼女も一応ギリシャ神話と関係がありますが、ジュノーという名前の神、人はギリシャ神話に登場しません。
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ジュノーはローマ神話に登場する神で、ギリシャ神話ではヘラに該当します。ヘラは神々の王であるゼウスの妻、女王とも呼べるような存在です。
ローマ神話とギリシャ神話はほぼイコールの存在で、ローマは発展していく中でギリシャからの強い影響を受けながら育ちました。神話の方もその例のひとつで、例えばゼウスはローマならジュピター、ポセイドンはネプチューン、ハデスはプルートン、といった風に名前を変えて存在しています。
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神話でのヘラ、もといジュノーは非常に嫉妬深い性格で、夫ゼウスの浮気に対して厳しい罰を与えていることで有名です。罰を受けるのは主に人間たちで、もちろんロクなことにはなりません。和解する例もほとんどなく、唯一といっていいような例外は、ゼウスと人間の間に生まれたヘラクレスぐらいでしょう。彼は神々の世界に招かれた後、ヘラと和解。彼女の娘、つまり腹違いの姉をヘラの勧めで妻に迎えています。
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『オデッセイ』のジュノーは、一人の科学者として登場します。夫は神話とは別の人物ですが、そのトラブルメイカーっぷりは健在。アトラスたちよりも、より直接的な理由でアトランティス崩壊の決定をポセイドンに行わせます。
アトランティスにある伝説の金属、アダマントとオリハルコン
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ここからはアトランティスに登場するアイテムについても解説。アトランティスに到着してからすぐに、強力な武器を入手できるクエストが発生します。この時に必要なアイテムが、アダマント。『オデッセイ』の中では主人公が使う壊れた槍に使われた金属になっており、EP3でも魔法の金属であるように扱われています。アトランティスで採れる金属はオリハルコンだとプラトンの著作では語られていますが、『オデッセイ』の方には登場しません。
ギリシャ神話でもアダマントで作られた武器は特別な役割を持って登場しています。代表的なのはギリシャ神話における最初の反乱。ゼウスの祖父でもあるウラノスへ、その息子であるクロノスが反乱を起こした時のことです。アダマント製の武器によってウラノスは去勢され、クロノスが神々の王として君臨することになりました。
このほかにも、EP2に登場した英雄・ペルセウスがメデューサを討伐する際に同じ武器が使用されています。
神話の世界は終わっていない? 現代まで続く5つの時代
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アトランティスの崩壊により、『オデッセイ』における神々の世界は終焉を迎えます。そこから逃れた人々が後の世を作っていく、というわけですね。
しかしギリシャ神話では、アトランティスと直接的な繋がりがなく、神々の世界が同じような終わりを迎えたわけではありません。そもそも神々の世界が崩壊するような出来事自体が発生しておらず、神が滅び去ったような描写はギリシャ神話で行われていなかったりします。神話の設定から考えれば、今も神々は生きていて、私たちの世界と繋がっている。そんな風に考えることも出来ます。
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では、現代との繋がりはどのようなものなのか? 古代ギリシャの詩人、ヘシオドスが記した「仕事と日々」によると、ギリシャ神話は5つの時代に分けられます。黄金、白銀、青銅、英雄、鉄、この順番の5つです。
それぞれ神話中の出来事とリンクした時代設定になっており、「黄金」の時代はゼウスが統治する前、クロノスによって世界が統治されていた時代を指します。この時代では資源が豊富にあり、幸せに満ちた時代だったとされています。神々は人間と共存し、長寿でもあったそうです。
「白銀」の時代は、ゼウスの反乱によってクロノスが追放された後の時代。ゼウス、ポセイドン、ハデス、ヘラを初めとする神々の集まり、「オリュンポス12神」が世界を統治し始めた頃の時代になります。ただこの時代の人間は傲慢さが見え始めており、神々をあまり敬わなかったので、ゼウスに滅ぼされてしまいます。
3番目の「青銅」の時代でも、人間は過ちを犯す存在となっています。青銅を使って武器を作り、対立が目立つようになってしまったのです。こちらもその様子を見かねたゼウスが大洪水を引き起こし、絶滅という形で幕を下ろします。
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「英雄」の時代は、ギリシャ神話の大部分を占める時代でもあります。EP2で登場したヘラクレスやペルセウス、アキレウスにアガメムノンが活躍したのはこの頃。神と人間の混血である半神が多く生まれたのもこの英雄時代で、人間が一向に改善されない中、神々が出した人間の改善案でもあったようです。
とはいえこれで解決されるわけがなく、「イリアス」に書かれたトロイア戦争を引き起こしたりしています。もっとも、トロイア戦争については神々がちょっかいを出したのも原因だったりするのですが……。
そして最後は「鉄」の時代。これが現在、人間が積み重ねてきた歴史の時代に該当します。この時代は争いが絶えない時代とされており、人間は再び滅びに向かっているとされています。
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紀元前8世紀ごろに活躍したヘシオドスは、鉄の時代から黄金の時代へ戻れるかどうかを危惧していましたが、残念ながら2000年以上経過した今でも、回帰は出来ていないご様子。歴史を学びながら現代を生き抜き、黄金の時代を目指したいですね。
参考文献:「イリアス」(著:ホメロス、訳注:松平千秋、出版:岩波文庫)、「神統記」(著:ヘシオドス、訳注:廣川洋一、出版:岩波文庫)、「ギリシャ神話」(著:アポロドーロス、訳注:高津春繁、出版:岩波文庫)、「仕事と日々」(著:ヘシオドス、訳注:松平千秋、出版・岩波文庫)、「ティマイオス/クリティアス」(著:プラトン、訳注:岸見一郎、出版:白澤社)、「魔導具辞典」(監修:山北篤、出版:新紀元社)、「世界の神々と神話の謎」(編集:歴史雑学研究倶楽部、出版:学習研究社)