第19回はいま最も大変な仕事の一つを体験する、緊急通報オペレーターシミュレーション『112 Operator』を取り上げます。コロナに災害、まさに最前線で戦っている人々の苦労を知ることができる本作。対応を誤っても後悔している時間すらないほど、膨大な量の通報をこなしていきます。正解のない不安と常に葛藤しながら、冷静に業務を遂行しましょう。
練習問題の解答
アメリカ:911
イギリス:999、112
オーストラリア:000
緊急通報、いざというときに躊躇せずかける心構えはできていますか? 南北アメリカは911、ヨーロッパ圏では112と999を採用している国が多く、大まかな地域で共通の番号を使えることがあります。とはいえ細かい部分は個々に違うので、旅行時には番号を参照できるものを携帯しましょう。
Let’s play in English:ノンストップスピードリーディング! 超速読で瞬時に判断を下そう
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『112 Operator』でプレイヤーが担当するのは、消防、警察、救急、3タイプの車両をどの現場に派遣するのか、その判断が主となります。一見単純そうですが、案件の性質や関係者数、周囲の配置車両から、瞬間的に情報を処理していきます。時間を止めることもできますが、それでも1サイクルに対応する案件は100件を超え、落ち着いて報告を読むのはほぼ不可能です。一件あたり約10秒で逮捕者、重傷者の数、特殊な状況などについて把握していかないと追いつきません。
そのため、文字を読むスピードを極限まで早める必要に迫られます。読むと言うよりは、画像認識力に近いかもしれません。特に人数の把握は重要で、「One」「Few」「Group」の三段階で搬送に必要な台数を決めます。送り込む数が適切でないと、事態の悪化を招く場合も。
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入電をプレイヤーが受ける場合もあり、このときは応答をリアルタイムとフルボイスで行います。状況が限られているためリスニング難度はやや高めぐらいですが、返答する時間が数秒しかない、他の出動要請が入るという集中を乱す要素が存在します。焦っているときほど理解力が落ちてしまうので、イレギュラーな状況でも冷静に英語読解を続けられる力が重要です。鍵となる「Where」「What」「When」「Who」、通称「4W rule」を確実に押さえましょう。
なお、緊急時には「Why」「How」の優先度は低いので、余裕がある場合のみに訊きます。またコール終了時には自分の文字入力でレポートを作成することができます。慣れてきたら実際に書いてみるのもいいですね。
超速読解になれておけば、検定テストの制限時間ギリギリでも間に合わせられるスピードが身につけられます。土壇場でどこまで耐えられるか、自分の限界に挑戦してみましょう。
BLMはなぜ終わらないのか? 統計から見るPolice Brutality and Racial Profiling
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ゲーム中に発生する事件には、激しい銃撃戦が展開されて増援の警官と救急車を投入した結果多数の負傷者、死者を出すケースがあります。日本では警官が業務執行中に死者を出すと大問題になりますが、今渦中にあるアメリカでは珍しくありません。そんな中で起こった2020年におけるBlack Lives Matterの発端となったジョージ・フロイド氏の事件。過失致死とできないような警察の手法があまりに強権的で差別的ではないかと、これまで指摘されてきた問題が映像と共に世界を駆け巡りました。ここでは純粋に公表されているデータに基づいて傾向を見ていきましょう。
Police Brutality――警察の暴力
まずは人種間の差を抜きにして、警察が行使する武力に正当性があるのか見ていきましょう。ここからのデータはMAPPING POLICE VIOLENCEが集計した2016年度の内容に基づきます。まず年間の殺人被害者数は17,250人、それに加えて警察による法執行中の殺人は1,071人です。つまり年間の殺人被害者のうち約6%は警察によるものという計算になります。警察の殺人のうち非武装者の数は149人で、約14%です。
警察の職務中殺人で過失を問われる割合は1%を切ります。銃武装の危険にさらされる中、無論正当防衛でそうせざるを得ない場合も多く、暴力事件の総数は1,250,162件、同年の警官殉職者数は183人です。しかしそのために毎年150人ほどの非武装者が犠牲になっており、法の適正な過程を逸脱した先制攻撃であるとする批判が高まっています。これが第一の要素、「Police Brutality」です。
Racial Profiling――人種による先入観
BLMで最も問題視されるのが、第2の要素である人種による不当な先入観「Racial Profiling」です。差別を助長するとして公には禁止されている行為ですが、その実態は遵守されているとは言い難いのがアメリカの現状です。
NY市警の公表データに基づいたD4DR.incの分析によると、職務質問には明らかに人種による偏りが見受けられます。
全米での比率が白人77%、黒人13%であるのに対し、ニューヨーク市では白人が45%、黒人が25%となっており、白人以外の人種が全米と比べて多いことが分かります。(中略)…Stop数においても黒人が白人よりも多い傾向にあります。白人のStop数は約2,500件、対して黒人のStop数は約1.2万件あります。
割合は2:8となり、人口比率から大きく離れた数字です。目についた黒人を誰彼構わず職質している、そうとられても仕方のない状況ではないでしょうか。この行為は2013年時点で連邦地裁により違憲であると判断されています。
また、Natureの記事によると、白人警官の銃使用率は、黒人の居住割合と相関関係にあるという結果です。特に100%に近い黒人コミュニティーに出動した際、白人警官は黒人警官と比較して銃使用率が5倍となります。こちらの記事では、黒人が警官に殺害されるリスクは白人男性の2倍以上という結果が出ています。
これらのデータから、黒人は警察による偏見にさらされていると結論づけられます。そして、これは黒人だけの問題ではなく、9.11後のイスラム系、第二次世界大戦時中の日系人、コロナ禍中のアジア系、あらゆる有色人種に降りかかることなのです。Police BrutalityとRacial Profiling、幸い『112 Operator』ではこの要素は除外されていますが、以上の事実を踏まえて、ゲームをプレイしながら想像してみてください。「黒人に命を脅かされている」という通報を受けてもRacial Profilingに惑わされないかを。もしも自分が発した出動指令で、丸腰の人間が死んでしまったら、それは仕方がないで済む話だったのかと。
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最後に、以下に挙げるアメリカの基本的人権「権利章典」と照らし合わせて考えてみてください。合憲か、違憲か、あなたはどう思いますか。
修正第4条(抜粋):国民が、不合理な捜索および押収または抑留から身体、家屋、書類および所持品の安全を保障される権利は、これを侵してはならない。
修正第5条(抜粋):何人も、法の適正な過程によらずに、生命、自由または財産を奪われることはない。
修正第6条(抜粋):被告人は、犯罪が行われた州の陪審であって、あらかじめ法律で定めた地区の公平な陪審による迅速かつ公開の裁判を受ける権利を有する。
覚えておきたい英単語集:I Can’t Blockade RAINBOW BRIDGE!
- CPR(Cardio Pulmonary Resuscitation):心肺蘇生法
- Dispatch:出動させる
- Injure:負傷する
- Ambulance:救急車
- Riot:暴動
- Theft:盗難
- Intervention:介入
- Unconscious:意識不明
- Blockade:封鎖
- Abuse:虐待
今週のキーフレーズ:DRS ABCD ACTION PLAN
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こちらは国際的に標準化された応急処置の手順を示した言葉です。日本の救急インストラクションでも使われることがあります。緊急通報の際にオペレーターからの指示があるかもしれないので、予備知識として覚えておきたいですね。
DRS ABCDとは、実行するべき7つの手順それぞれの頭文字をとった物です。すなわち、DANGER(安全の確保)、RESPONSE(意識を確かめる)、SEND(通報し、助けを呼ぶ)、AIRWAY(気道の確保)、BREATHING(呼吸の確認)、CPR(心肺蘇生の開始)、DEFIBRILLATION(除細動、AEDの使用)。この順番を守って実行すれば救命率は格段に上がります。
練習問題:次に挙げる銃はどの国の警察が使用しているものか答えなさい。
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1,Smith & Wesson SAKURA M360J
2,Glock 22
3,SIG SAUER SP2022
警察の採用する銃は各国の犯罪状況をダイレクトに反映し、対応の姿勢を示すものでもあります。ゲームにも多数の銃器が登場しますが、なぜその装備を使うのか、その事情を銃から推察するプロファイリングも面白いので、是非チャレンジしてください。