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20世紀最後の年となった西暦2000年は、ゲーム業界にとっても忘れられない1年となりしました。特に印象深いのが、3月4日に発売された「プレイステーション2」。コンシューマゲームがこぞって3D表現を求めた初代PSからバトンを受け、新ハードの時代が幕を開けました。
ですが、PS2の登場と同時に、初代PSが終わりを告げたわけではありません。2000年だけでも、『サモンナイト』『ベイグラントストーリー』『ペルソナ2 罰』『ファイナルファンタジーIX』『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』など、PSを代表する名作から人気シリーズのナンバリングタイトルまで、多数の注目作がリリースされています。
そして、2000年発売のPSソフトとして個人的に外せないのが、9月28日に発売された『高機動幻想ガンパレード・マーチ』です。本作のジャンルは「アドベンチャー」(ゲームアーカイブス版の紹介ページより)ですが、シミュレーション的な要素も濃厚で、しかもそれは戦闘や部隊の運営に限らず、人間関係にすら及んでおり、とても一言で言い表せる作品ではありません。
初代PSの熟成期に登場し、濃密な魅力で多くのゲームファンを虜とした『ガンパレード・マーチ』が、このたび20周年を迎えました。この記念すべき日を祝い、2000年を駆け抜けた個性作を振り返ってみたいと思います──とは言え、ゲーム面の要素だけでもかなり多岐に渡る作品なので、筆者の体験などを交えつつ、特に印象深い点に絞ってお届けします。
口コミで広まった『ガンパレード・マーチ』
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コアなゲームファンを中心に、熱狂的な支持を集めた『ガンパレード・マーチ』ですが、発売当初はそれほど大きな話題にはなっていません。というのも、発売前の告知が十分ではなかったため、あまり知られていない作品でした。
筆者が『ガンパレード・マーチ』を知ったきっかけは、インターネット上での口コミ。今では、ネットの世界は情報源の主流と言えますが、当時はスマートフォンなどなく、ネットを活用するにはパソコンがほぼ必須でした。
しかも、Twitterのような不特定多数に向けて気軽に発信できるツールにも乏しく、当時のネットにおける情報のやりとりと言えば、掲示板形式の書き込みか、個人運営のサイトからの発信などが主体。今と比べるとかなり不便な時代なので、よほど強力なものでない限り、口コミでの拡散には限界があります。
ですが『ガンパレード・マーチ』は、不自由な時代においても、その名を広めるに足る個性を持った存在でした。パワフルなプレイレポや鋭い考察などが個人サイトから発信され、それを見たゲームファンが『ガンパレード・マーチ』を知り、興味が湧くものの(供給量が少ないため)購入することができず、その飢餓状態も含めて一部のゲームファンたちを熱狂へと誘います。
また、『ガンパレード・マーチ』人気の立役者として、「電撃プレイステーション」の活躍も外せません。他の雑誌の紙面ではほとんど見かけない『ガンパレード・マーチ』を大きく取り上げ、熱のこもった記事を展開。発売後も本作を根強く取り上げたため、この「電プレ」で『ガンパレード・マーチ』を知った方も多いことでしょう。
プレイした人間を動かし、その影響で知名度が徐々に広がった『ガンパレード・マーチ』は、後にプレミア価格がつくほどの人気作品となりました。希少な作品がプレミア化することも多々ありますが、本作の場合は流通量の問題だけでなく、「このゲームを遊びたい!」と求める人が多かったのも、プレミア化の要因でしょう。
人類を守る舳先に立つシチュエーションに痺れる! SF要素満載なIF戦記モノ
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本作の舞台は1999年の日本ですが、歩んだ歴史は現実と大きく異なります。第二次世界大戦の最中に、地球から24万kmの距離に「黒い月」が出現。そこから「幻獣」と名付けられた怪獣が地球に侵攻し、国同士の戦争が“人類vs幻獣”の戦いへと変化。以来、1999年時点でも、幻獣との戦いは続いています。
厳しい戦いが長期間に渡って続いており、しかも人類側は劣勢のため、学生も戦闘要員として動員。こうして戦車学校に集った生徒たちが、本作の主要人物とります。もちろん、主人公の速水厚志も学生のひとり。本州防衛の要となる熊本で、日々勉学と訓練を繰り返しながら、幻獣との戦いに身を投じます。
学徒動員として熊本に集められた学生たちは総じて過酷な状況に置かれており、時間を稼ぐ捨て駒同然の立場です。そんな絶望的な戦況に対して、プレイヤーの判断と行動で立ち向かい、世界に新たな選択をもたらす──このシチュエーションにグッと来る方も少なくないでしょう。
現代日本に近い設定のIF戦記モノは、コンシューマゲームでは意外と珍しく、その点でも貴重な作品です。しかも、蓋を開けてみるとSF要素も満載ですし、ネタバレに直結するので詳しくは言えませんが、世界設定も盛り沢山なので、考察好きにとってもたまりません。
クラスメイトや先生など、26人のキャラクターたちが愛おしい
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本作の主要人物は、主人公の速水を含めて26人。この中には猫も混じっていますが、ただのマスコットではありません。この猫のみならず、登場人物のほとんどがが秘密や重要な設定を背負っているため、内面を知るたびにキャラクターとしての魅力が増していきます。
ですが、本作におけるキャラクターの濃密さは個人の範囲に留まらず、他のキャラクターとの繋がりから生まれる人間関係からも、味わい深い魅力が醸し出されています。
ここで言う「人間関係」には2種類あり、ひとつは設定面の人間関係。一見するだけでは分かりませんが、背負っている設定により、特定の人物に対しての繋がりや関係を持っています。こちらは、前述の考察にも関わる部分で、掘り甲斐のある情報とも言えるでしょう。
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そしてもうひとつの人間関係は、ゲームプレイを通じて構築されていく関係のこと。本作のNPCはAIによって管理されており、性格や状況に合わせて行動します。プレイヤーが介在せずとも、勝手にケンカしたり、良い雰囲気になったりと、その人間模様を見るのも醍醐味のひとつです。
また、プレイヤーが各キャラの関係を誘導することもでき、様々な「提案」で人間関係を意図的に構築することも可能。ゲームに慣れれば、NPC同士を恋人にするといった楽しさを味わうこともできます。
世界の真実にも繋がる設定面と、プレイによって千差万別に変わっていく人間模様。2つの人間関係が織りなす『ガンパレード・マーチ』で過ごす日々は、変化に満ちた世界を提供してくれます。
これは余談ですが、大きな戦果を上げたタイミング(ある勲章の授与)で、それまで仲の良かったクラスメイトから「お前が怖い」「あんたは、俺達とは住む世界が違う」といった台詞を言われたことがあり、当時大きな衝撃を覚えました。仲良くなること、強くなることが、意外な側面を見せることもある。個人的には、その深みにもヤラれました。
役職も一日の過ごし方もあなた次第! 介入しない選択すらある、自由度の高さ
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プレイヤーが変化させられるのは、人間関係だけではありません。学生たちは皆、それぞれの役職についており、速水ならば人型戦車「士魂号」のパイロットとしてスタートします。このほかにも、歩兵に当たる「スカウト」や、士魂号などをメンテナンスする「整備士」など、様々な役職があります。
ですが役職は固定ではなく、主人公も含めて変更することができるので、部隊を指揮する司令になったり、整備士としてプレイを終えるといった遊び方も選べます。また、NPCが自ら役職を変えることもあるので、必要な人材を据えるために介入せざるを得ない場合も。
好みのキャラクターで部隊を彩るもよし。影で部隊を操る存在になるもよし。熟練の整備士になって部隊をバックアップするもよし。パイロットに縛られることもありませんし、NPCの役職にすら干渉できる自由度の高さは、繰り返しのプレイにも刺激をもたらしてくれます。
ちなみに自由度の高さといえば、日々の過ごし方もプレイヤー次第です。授業に出席せずに過ごすこともできるため、一日のカリキュラムを自分で好きなように組み立てることも可能です。人間関係が発展しすぎると、「争奪戦」が発生することも多々あるので、敢えて近づかないという判断もアリ。ちなみに筆者の初プレイは、「刺殺」ENDでした。人間関係には注意しよう!
昨日と同じ明日が来るとは限らない
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一緒にご飯を食べたり誰かと仲良くなったりと、楽しい学生生活を謳歌できますが、そんな日々に突然割り込むのが、幻獣との戦いです。前触れもなく襲ってくることが多く、心の準備もままならないうちに戦場へと駆り出されてしまいます。
そして本作の戦いは、学生たちの生死に直結します。そこまでの積み上げ(技能の習得や士魂号の整備状況など)と手持ちの戦力、そしてプレイヤーの判断が、自身も含めた生死を左右。何かが足りなければ、誰かが戦死することも十分あり得るのです。
実際に筆者も、初プレイの際には次々とクラスメイトの死に直面しました。そのたびに強くなろうと決意し、新たな技能を求め、より強力な装備を陳情し、それでも繰り返される悲劇。昨日まで笑っていたクラスメイトの姿は、教室のどこにもありません。
自分と彼らが生き残るか否かは、全てプレイヤーの手腕次第。助けることもできれば、判断の甘さから死に追いやることすらある──これも自由度の高さのひとつ、と言えます。楽しかった日々が、たったひとつのミスで、永遠に失われる。表裏一体の残酷さがあるからこそ、日常の輝きが尊く感じられるのかもしれません。
2周目以降も楽しい『ガンパレード・マーチ』を今遊ぶには?
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速水を主人公と紹介しましたが、これはあくまで1周目の話。本作には、主人公が異なる「2周目」も用意されています。未プレイの方から驚きを奪ってしまうので詳細は伏せますが、1周目はチュートリアルを兼ねた面があり、2周目からはそういった要素が省かれます。
一部の主人公には特別なシナリオも用意されていますし、2周目でしか見られないイベントなども発生。1度では遊び尽くせないボリュームが、プレイヤーを魅了し続ける特徴のひとつです。
そんな『ガンパレード・マーチ』に興味を抱き、遊んでみたいと思った方は、PS3やPSP、PS Vitaで遊べるアーカイブス版がお勧めです。価格も628円(税込)とお手頃なので、対応ハードを持っている方は一考してみてください。
ただし、本作にはいくつかの不具合があり、プレイの進行に影響を及ぼすものも。アーカイブス版の紹介ページに、不具合の詳細や回避方法が記載されているので、そちらもチェックしておきましょう!
■ゲームアーカイブス『ガンパレード・マーチ』
https://www.jp.playstation.com/software/title/jp9000npji00038_000000000000000001.html
PS2時代に登場しながらも、濃密な世界観と魅力的なキャラクター、そして自由度の高さでPSソフトの存在を知らしめた『高機動幻想ガンパレード・マーチ』。そのゲーム性や、プレイ体験を通して味わえる醍醐味は間違いなく一級品なので、核となる部分はそのままで、不具合を修正し、UIなどをブラッシュアップしたリメイク版・・・いや、リマスター版でも構いませんので、是非出して欲しいところ。20年経った今だからこそ、新たな動きを見てみたい!
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