発売日まであと10日まで迫った11月23日、メディア向けに『イモータルズ フィニクス ライジング』オンラインパネルディスカッションが開催されました。前回の『アサシン クリード ヴァルハラ』と同様に事前収録した映像のストリーミング配信でしたが、ユービーアイソフトにとって新しい挑戦である本作が、制作者にとっても大きな冒険であったと語られました。
第1部:新たなIP、ヒーローを作り上げる(CREATING AN ICONIC IP / HERO)
新規IPという冒険
司会:Julia Hardy
Scott Phillips:ディレクター<br>Julien Galloudec:アソシエイトディレクター
Thierry Dansereau:アートディレクター
Scott Phillips『イモータルズ フィニクス ライジング』の制作に取りかかったのは2年前、前作『アサシン クリード オデッセイ』の終わり頃でした。ファンタジーに満ちた古代ギリシャを舞台に、壮大で自由な冒険を作ることにしたのです。3年間『オデッセイ』を制作する中で、ギリシャの歴史についてはやり尽くしたので、今度はもう一方の素晴らしい面、ギリシャ神話を題材にする機会を得られたのです。
Julia Hardy新規IPを立ち上げると決めて、それからどうしましたか?
Scott Phillips完全に白紙の状態からのスタートでした。本作が何を目標にするか、ファンタジーやゲームメカニクスをどう伝えるかなどを何度も話し合いました。幅広い層に受け入れられるビジュアル、ゲームシステム、語り口など、私の子供たちやその同年代でも楽しめるような、より多くの人々に届くものにしたかったのです。
Julien Galloudec困難な旅路の後には必ず得るものがあり、成功しても失敗しても、自分に課した試練によって以前より成長した自分を発見するんです。『オデッセイ』で船員にサイクロプスを乗せられますが、これを見て次はギリシャ神話をやろうと決めました。
Thierry Dansereau開発チームは『オデッセイ』とは全く異なる新しい方向性を採ることにしました。これまでのパターン化されたゲーム開発、安全地帯から飛び出そうと決めたのです。
Julia Hardy当初の構想と最終形では大きく変更がありましたね。
Thierry Dansereau最初はもっと違う様式や色彩を採りたかったんです。最初に参考にしていたのは宮崎駿氏のジブリ映画、特に『ハウルの動く城』ですね。多くの着想をいただきましたが、この新しいスタイルをゲームエンジンに落とし込むのは困難でした。物理ベースのフォトリアルに特化していたので、『オデッセイ』と同じエンジンで新しいスタイルを作るのは面白いチャレンジでした。アーティストとしてこのプロセスから学ぶことは多かったです。
Julien Galloudecゲームプレイは『ジャック×ダクスター』『バンジョーとカズーイの大冒険』など、2000年代初頭の懐かしい感覚があります。小さなオープンワールドの中にプラットフォーマー、戦闘など様々な要素が詰め込まれていて、そういったゲームプレイのミックスというところに立ち返りたかったのです。今のオープンワールドでこの手法は見られなくなっています。戦闘やプラットフォーマー、パズル、探索を続ける中で最後までベストなバランスを保てるよう検討を重ねました。
Scott Phillips『アサシン クリード』を4年間制作して思ったのは、ナビゲーションのオンオフのようなものを取っ払って、追跡するクエスト、しないクエストの垣根をなくすことです。どこに行きたいか、試練に挑むか挑まないか、探索のあり方をもっと自由な形にしたかったのです。
これまでは、せっかく高い崖を登っても結局すぐにファストトラベルしてしまいました。そうではなくて、目的地にたどり着けるか、スタミナは足りるだろうか、強さは足りているだろうか、海に出られるか、抜ける道はあるか、そんな風に世界を見る目ががらりと変わります。探索そのものに多くの要素が加わるんです。移動にも、もっとリスク、やスピードや、勢いが欲しかったんですね。
その点グライドはうまくいきました。高い崖を登る理由ができましたから。頂上に立ったら飛び出したくなりますよね? グライドで空を飛ぶのは気持ちいいものですし、より神話らしさが出ます。ダイナミックな横移動の形になり、本作でも特にフォーカスした部分です。
Julia Hardyパズルについて上層部は消極的だったそうですね。
Scott Phillips『イモータルズ フィニクス ライジング』の最初期、本社の判断を仰ぐときに、「パズルを作りたいんです」と伝えると、彼らはあまり乗り気ではなく、たくさんのプロトタイプを作ることになりました。ゲームでできることががどう繋がっていくのか、タルタロスの迷宮をどう組み上げるか、ワールドをパズルでどう埋めていくかなど、豊富な選択肢、突発的な遭遇に満ちている世界にしたかったんです。
メインをこなしたら周辺を巡り、休憩を挟みつつ、5分ほどの短いものから長時間かかる大きなものまで、探索ペースに緩急がつくようにしています。
Julia Hardyタルタロスの迷宮についてもお聞かせください。
Julien Galloudec小規模開発の段階では、記憶力、ロジック、環境の変化、物理法則、プラットフォーマー、様々な分野に特化したチャレンジを作っていました。タルタロスをゲームの舞台として出したかったので、よりレベルデザイン的なチャレンジを組みました。レベルデザイナーがツールを使いこなし、新しい組み合わせや驚かせ方、パズルをどう解かせたいか、プレイヤーによりよい体験を提供するための研究にたくさん時間をかけました。
ゲーム中の仕掛けの中でも特別なものが「Myth Challange(神話の試練)」で、音楽ゲームのようにライアーを弾いたり、射た矢を輪の中に通したり、それまでに経験したことを総動員するパズルになっています。
Julia Hardyアート面でのアプローチはどのようなものでしたか?
Thierry Dansereau視覚的にパズルを解くヒントを設ける必要がありました。ギリシャ神話に基づいて、モンスターがどこにいるか、周囲の装置をどう動かせばいいか、ビジュアルの面からできる限りプレイヤーが理解できるようにしました。
無名の英雄―全ての心のヒーローによせて:メインキャラクターと物語
Scott Phillips:ディレクター
Jeffrey Yohalem:リードナラティブディレクター
Michelle Plourde:リードシネマティックディレクター
Julia Hardyまず本作のストーリーラインについてお願いします。
Jeffrey Yohalem囚われていたテュポンが解き放たれ、ゼウスが支配するオリュンポスの乗っ取りを企みます。ゼウスは従兄弟であるプロメテウスに助けを求めました。プロメテウスは絶壁に縛られていて、乗り気ではなかったものの、1つの賭けを提案します。彼は人間ならばテュポンを倒せると考え、間違っていたならゼウスに手を貸そうと言いました。そして、フィニクスの物語を語り始めるのです。
フィニクスは前線に出たことがない盾持ち(戦士よりも身分が低い)で、船の難破で不思議な浜辺にたどり着きました。島を探るうちに石になった兄を見つけ、彼を元に戻すことを誓います。そこに予言者が現れて、テュポンに支配されたオリュンポスを救えと託宣し、フィニクスこそ英雄に違いないというのです。
しかし人々は石に変えられ、神々は島からいなくなっています。フィニクスは親しんできた神話の世界を目の前にして舞い上がりますが、島が姿を変えてしまったことに気づきます。テュポンを倒すには、先に神々を蘇らせなければならないのです。
Julia Hardy物語とキャラクター、どちらが先に固まりましたか?
Jeffrey Yohalem実のところほぼ同時ですね。この物語はフィニクスのために作ったものですし、フィニクスなくしては成立しません。いわゆる「卵と鶏」のようなものです。「フィニクス」という名前のカスタマイズできるキャラクターで、ホメロスによって物語が脚色されると早いうちから決めていました。
フィニクスがタルタロスの迷宮に顔から落っこちると、立ち上がってカメラに投げキッスをしたんです。これがとても面白くて、ゲーム全体をこの調子にできないかと思いました。
Scott Phillips多くのゲームはヒーローが悪役をやっつけるもので、本作もそれに倣ってはいますが、そこにインタラクティブなナレーションというアイデアを加えました。決められたナレーション通りに進むのではなく、二人のキャラクターが物語を良い悪い方向にも良い方向にも変えて、フィニクスも世界が動的に変化していることに気づきます。この構造が『イモータル フィニクス ライジング』のユニークな点になりました。
Julia Hardyフィニクスのイメージの基になったものはありますか?
Jeffrey Yohalem私の妹が今年起こった試練に立ち向かう姿を見たのもありますが、「オズの魔法使い」のドロシーもそうですね。幼い頃に読んだ本の中で、女の子が支配者に立ち向かう姿はとてもわくわくしました。「オズの魔法使い」でも「ナルニア国物語」でも、彼らはいつも大いなる冒険者なのです。今回の脚本でもその流れを汲みました。
Julia HardyMichelleはプレイヤーが共感できるキャラクターを作るのにどのような工夫をしましたか?
Michelle Plourdeどんな作品においても、キャラクターに共感を持ってもらうための手法は共通していると思います。まず、台詞に強力な個性を持たせて、生活感や行動原理をはっきりさせ、それらが信じられるものにします。これに関してはJeffreyが語り口調を明確にして素晴らしい仕事をしてくれました。
その次に演技の力ですね。役者によってそのキャラクターの役割が固まりますし、ある台詞で何を伝えたいかを話し合って、それを実現してくれるのです。
カットシーンで大事なのは、観客に特定のものを見せるということです。苦労したり、喜んだり、悲しんだり、フィニクスが感じたことをプレイヤーも明確に感じて欲しいのです。それだけでなく、皆さんには笑って頂きたいので、コメディの部分はゼウスとプロメテウスのナレーションで実現できたと思います。
これはこのゲームにおける大きな要素で、辛いときにも絶妙なタイミングで茶化してくれるので、誰でも最後まで楽しめると思います。全てを笑いで包み込むことで、物語をどんどん進められるでしょう。また、キャラクターも好きになってもらえるはずです。
Julia Hardyプレイヤーは自分だけのフィニクスを作ることができます。『オデッセイ』のような男女二択にしなかったのはなぜですか?
Scott Phillipsこれまでのゲームでは、私たちの決めた主人公がいて、彼らがどういう人物であるかを語ってきました。今作では体型や声、肌の色、目の色まで自在にカスタマイズして、プレイヤー自身を投影できるようにしたかったのです。
ゲームの優れているところは自分の意思で動けるというところで、これは映画やTV番組、本などでは絶対できません。ですからゲームの最大の特長を生かす必要があります。
Julia Hardyフィニクスは友達のようでありながら、勇敢でもあり、底抜けに明るいキャラクターです。ヒーローとはどうあるべきだと思いますか?
Jeffrey Yohalemフィニクスはあえて不完全な人物として描いています。これはとても重要で、私は最近SNSやカメラにいつも見られているような気がするんです。人々はヒーローが不完全な人間であるようにしたがり、終いにはストレス発散として臆病者だ、自己中だ、オワコンだなどとこき下ろします。
その一方で、インスタグラムなどでは、いかに人々が完璧であるかを品定めしています。人間関係から食べ物に至るまで、お互いが完璧であるようにプレッシャーをかけているんです。実際にはあり得ないのに、いつも誰かの目を意識しなければなりませんから。
ですから、私たちは人間らしい不完全なヒーローを登場させました。その不完全性を生かすことこそ、実は英雄らしさに繋がります。フィニクスは不器用で嫉妬深く、未熟な私たちと変わらない人間です。そんな平凡さこそが、彼女を英雄にさせるのです。
『イモータル フィニクス ライジング』の音楽と音響
Gareth Coker:作曲家
Lydia Andrew:サウンドデザイナー
Julia Hardyゲームのサウンドを制作する上でインスピレーションを得たものは何ですか?
Lydia Andrew本作のヴィジュアルと物語です。『イモータルズ フィニクス ライジング』を見ると、美しい世界に鮮やかな自然の色彩、神々と出会う壮大な冒険が待っています。音楽や音響で原色溢れる神話世界の冒険をしたかったんです。ゲームの中では世界を自由に行き来して、自分のリズムやテンポを持つことができます。戦闘でも、神に会いに行くのも、パズルを解くのも自由です。
ディズニーのようなアニメーションで描かれる個性的なキャラクターもいて、それらが私にとって大きな飛躍のきっかけになりました。
Gareth CokerLydiaと重なるのですが、最初に概要を読んだときにはいつものギリシャ神話だろうと思っていたところ、鮮やかな色使いを目にして、これはもっと盛り上がるファンタジー的な音楽を作れると思いました。よくあるアニメなどで超常の世界というと、そういったことはできませんでしたから。
『イモータルズ フィニクス ライジング』はディズニー・ピクサーの作品と共通するシーンがあり、独自のヴィジュアルを持っていると分かって、世に出ているサウンドトラックを参考にしないようにしました。ヴィジュアルと物語を見ながら、自分の中から出てくるものを書き留めていきました。
Julia Hardy聴いていて不思議だったのが、陽気さと壮大さが同時に存在できることです。普通は両立できそうにないと思いますが。
Gareth Coker最初に脚本を見て驚いたのは、神々と言葉を交わすシーンでした。これがおそらくゲームの基調になるだろうと考えました。音楽にこれを反映するとなるとシリアス一辺倒になってしまうんです。それではうまくいかないだろうと思いました。先ほど言及したディズニー・ピクサーはシリアスなテーマを扱いながらも、それを陽気な中で表現できています。このゲームにもそれに通じるものあると思うんです。
Julia Hardyサイクロプスやハーピーなど、実在しない生き物の音はどのように制作しましたか?
Lydia Andrewオフィスからタイムマシンに乗って、神話世界の音を録ってきました、とかでしょうか?(笑) このゲームには素敵な生き物がたくさん登場します。どういう生き物なのか、実際に遭遇したらどうだろう、それらをずっと考えました。巨大なモンスターの効果音がどんなものか分かりませんから、モンスターの個性を深掘りしていきました。
例えばハーピーは飛びながら羽を撃ってきますし、サイクロプスは力任せになぎ払ってきます。それらに影響を受けながら、サウンドライブラリから音を探したり、加工したりして、それぞれが独自の特徴を持つようになりました。
特に気を遣ったのが、厳しい戦いであっても終わった後は、勝利の喜びでプレイヤーが笑顔になれることです。陰鬱さや気持ち悪さは避けて、力がみなぎり、心が躍るものです。私は何度も負けてしまいますが(笑)。
Julia Hardyサウンドトラックに使用した楽器で面白いものはありますか?
Gareth Cokerこれは古代からある管楽器で「アウロス」といいます。お世辞にもきれいとはいえない音色で、Youtubeで確認しても心地よい音ではないでしょう。ですがギリシャらしい音を求めたときにはとても役に立ち、うまく聞こえるよう頑張りました。
例えばタルタロスの迷宮で使われていて、地下世界を象徴するような音色にしました。なじみの演奏者とレコーディングに臨みましたが、彼女は1週間でアウロスをマスターしてくれました。エコーやリバーブなどのエフェクトを足しても、不安定な音色は変わらないままですが、おかげで地下世界にぴったりのものになりました。
他にも使用したのは3種類のギリシャ式ライアー(竪琴)です。オーセンティックな音にしたかったので、ゲーム中いつでも鳴っているようにしています。(楽器を取り出して)これは山羊の角と牛の腸の弦でできていて、2000年以上前と同じ製法です。弾くのがとても難しく、チューニングも簡単にずれてしまいます。すぐに狂ってばかりでは悪夢のようですから、デジタルに取り込むレコーディングもしました。ゲームのほとんどで鳴らしていて、他にたくさんデジタルの音を入れていても、ギリシャ音楽らしさを保ってくれました。
Julia Hardyゲームに使用した中でお気に入りの音楽や効果音はありますか?
Lydia Andrew大小様々あるのですが、浜辺にいるカニを見ると和みますね。動きがとても面白くて、いい音を付けてあげたかったんです。カニが逃げていくときのチ、チ、チ、という音など、そういうところを見ていると楽しいですね。
もう一つはシームレスに繋がる音楽と環境音です。フィニクスの物語とどう一体化させるか、戦いの音や神々の個性をどう際立たせるか、それらをどう混ぜ合わせるか、チームは苦労して取り組みました。音付けによって些細な出来事でも、より大きなことに感じられるようになったと思います。
Gareth Cokerネタバレしないように言えば、「鶏」の音楽には自信がありますよ。ストーリー上絶対に通る場面ですから、きっと分かってもらえるはずです。それから探索中の自然な音楽切り替えですね。これは初めての経験だったので。最初に案を聞いたときには、どう音を重ねたらいいか悩みました。最終的に、神々の領域それぞれに紐付いた音色を用意しました。その中で滑空や騎乗で違いを付けています。
Lydia AndrewGarethのサポートをするのは楽しかったです。次世代アクションゲームのスタンダードになると思います。
『アサシン クリード オデッセイ』でやり残したことが本作の出発点となり、オープンワールドの冒険とはどういうものか、制作陣は改めて問い直しました。誰のためでもなく自由に世界を駆け回り、気がつけば思いも寄らぬ場所にたどり着いていた。そんな原点に立ち返りたいという思いが垣間見えます。
Part2では、ギリシャ神話の精神をいかに現代へ甦らせるか、新しいアートスタイルをどのように作り上げたかについて語ります。
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