『A列車』シリーズの初心者にはかなりハードルが高い列車運行。前回は基本的なダイヤ設定について学びました。今回はその次の段階になる「輸送量」の概念について考えます。列車は客を運んでナンボの商売、線路を引いても乗客を待たせるようでは意味がありません。鉄道は経済の大動脈と例えられるように、列車を走らせる目的である「人を動かす」ことについて、数字の計算に基づいてプランニングできるようになりましょう。
年間、月間、日、時、分、全てを明確にする
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最初のシナリオでは年間の観光客を20万人にするという目標が設定されています。数字が大きくていまいちピンときませんが、これは毎月、毎日、ひいては毎時毎分の積み重ねによって達成されるものです。最初にやるべきは、指標にできるところまで分割することです。電卓を使って明確な数字を出しましょう。
200,000人÷12ヶ月=16666.6人(概算16667人)
200,000人÷365日=547.9人(概算548人)
ここまでで月間と一日の目標数が出せました。1ヶ月166,67人、1日548人。プランニングしやすい数字まで落とせましたね。次は毎時、毎分まで計算してみます。来訪者の計算なので、24時間稼働ではなく、観光客がやってくる時間を想定した午前6時から午後3時の9時間で算出します。
548人÷9時間=60人
60人÷60分=1人
ここまで細かく割る必要があるのか、と思うかもしれませんが、年間20万という数字は列車運行においては序の口もいいところ。分単位から年間まで一貫して考えることが大切なのです。これは、逆算して「1時間あたり何人の乗客者数があれば、年間目標を達成できるのか」というプランニングに欠かせない数字です。
乗客者数とは、駅から発つ列車やバスに乗った人数です。つまり、それだけの人数を乗せられる「輸送量」を確保することが、列車運行における最も重要な課題です。これが足りていなければ、どれだけ満員電車に詰め込もうとも、ホームに溢れた乗客が取り残されてしまいます。観光者数の目標を達成するためには、観光ルート上の全ての路線においてこの数字を達成しなければいけません。
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列車やバスの輸送量は、「列車」「バス」画面の下側に「定員数」「最大乗車率」で表示されています。ここにある「初期型通勤列車」は定員124人、最大乗車率180%とあるので、124×1.80=223.2、最大223人まで乗車可能という計算です。要するに満員まで押し込んだ状態ですね。
この列車がA駅から1時間に1回出発、営業時間を12時間とすると、A駅における1日の輸送キャパは223人×12時間=2,676人となります。通勤客と観光客がどれだけ増えてもこれ以上利用客は伸びません。これを超える需要がある場合は、列車に乗れない待機客が出てしまいます。
1日2,676人ということは、それを年間計算にすると2,676人×365日=976,740人。この駅の年間利用者目標が100万人だと、どれだけ乗客を詰め込んだとしても達成できません。ダイヤを組む最終的な目標は、輸送量キャパシティをどうやって増減させるか、ということに尽きるのです。
チュートリアルを例に輸送量キャパシティを把握しよう
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チュートリアルシナリオの2番目では、バス路線を使った観光ルートを構築しますが、バスの定員数は列車に比べてかなり少なく、適当にやっていてはやみくもに待機客を増やしてしまうだけです。プレイヤーがまずやらなければならないのは、3時間ごとに到着する大間駅の観光客を、次の列車が来るまでに全てイベリアランドに運びきれるように、バスのダイヤを構築することです。
そのためにはまず、路線ごとの輸送量キャパシティの把握が必要です。乗り換え路線で輸送量に大きな差があると、待ち客が溜まって大きな機会損失を生んでしまいます。
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初期状態で1本だけ走っている2両編成の「普及型通勤列車」は、定員数272人、最大乗車率200%なので、最大544人の乗客を大間駅に運んできます。このうちの半分がイベリアランドに向かう観光客だとすると、272人をバス路線で輸送しなければなりません。
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配置されている「リアエンジンバス」は定員40人、最大乗車率180%で最大乗車人数は40×1.8=72人です。初期配置では列車、バス共に3時間に1本のサイクルなので、3時間ごとに272-72=200人の乗客が大間駅に待機する計算です。このままでは営業時間までに目的地へたどり着けませんね。
輸送量を増やすには、主に以下の手段があります。
発着本数を増やす
営業時間を増やす
定員数を増やす
最も効果が大きいのは、路線を増発することです。前回のダイヤ組を例にして、路線内に多くの車両を走らせましょう。乗客が満員に近くなる最適な本数を計算するために、ここで輸送量の計算を行います。先程の例だと、3時間で272人の輸送量、1時間あたり272÷3=90.6人の輸送量が必要です。
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「リアエンジンバス」の最大乗客数は72人ですから、1時間に1本では追いつきません。272÷72=3.7、つまり3時間で大間駅に最低4本の発着が必要です。通勤客も入れると5本や6本はあった方がいいでしょう。
もっと厳密に計算すると、1分あたりの輸送量272÷180=1.51人で定員72を割り、72÷1.5=48分ごとの発着で間に合います。40分間隔の発着ならちょうど良さそうです。
上の計算を基に40分に1本と想定しましょう。大間駅からイベリアランドまでの路線サイクルは3時間=180分、180÷40=4.5で、この路線に最低限必要な車両台数は5台になります。
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また、営業プランから新車両の開発を行うのも有効です。輸送量は多くても遅い、輸送量が少なくても高速で走るなど、様々な特性を持った車両を追加できます。スペックを見極めて、予定の路線に最適なものはどれかを考えましょう。合わないタイプだと乗車率が低くなり、大幅な赤字を出してしまうかもしれません。
このように、観光ルート、路線ごとの輸送量計算から、駅の発着本数、路線に必要な台数まで、ひとまとめでプランニングできれば、『A列車』の複雑な運行管理がクリアに見通せるようになります。イメージが掴めるまでは電卓やメモとにらめっこが続きますが、これは単なるゲームではなく「業務」です。お客様の快適な旅を抵抗するために、根気強く作業を続けましょう。
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練習として、ディズニーリゾートの玄関口である舞浜駅を例に考えてみましょう。2019年度における1日の平均乗客数は78,811人です。先程の「初期型通勤列車」を8両編成にすると223人×8両=1,784人、この編制のみを使って平均乗車数をクリアするには、1日あたり、1時間あたり、それぞれ何回の発着が必要になるでしょうか。営業時間は18時間とします。また、月間、年間の算出もやってみましょう。
もうひとつ特殊な例として、コミックマーケットが開催される4日間には、ゆりかもめの利用者数が1日あたり21万人に膨れ上がります。チュートリアルシナリオの目標数が1日で一気に押し寄せることを想像してください。それだけの量をさばくのにどれだけの列車が必要で、どれだけ詰まったダイヤを組まなければならないのでしょうか。
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ダイヤ設定は緻密なプログラミングと同じ要領が必要で、説明を何度聞いてもやっぱり難しいものは難しいものです。それでも一つ一つ根気よくクリアしていけば、「思った通りに動かせた喜び」、そして「鉄道の裏側を垣間見る楽しみ」を見いだせるでしょう。これこそ『A列車』シリーズにしかない魅力であり、35年を経た今も根強いファンに支えられる秘訣なのです。