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チェコのBohemia Interactive(以下、BI)が開発し、Codemastersが2001年6月22日に海外で発売したコンバットミリタリーシム『Arma: Cold War Assault』(旧名『Operation Flashpoint: Cold War Crisis(オペレーションフラッシュポイント コールドウォークライシス)』)は、2021年6月22日に発売20周年を迎えました。
本作はジープだけでなく戦車や攻撃機など多彩な兵器に搭乗できることに加え、シビアなリアリティと共にドラマチックなストーリーを展開したことでコアな人気を獲得。シリーズは2013年発売の『Arma 3』にまで続いただけでなく、『DAYZ』『PUBG』などを通じ、ここ10年近くのゲームシーンの歴史的な礎の一端を築きました。そこで本記事では、発売から20周年を経過した初代『Arma』こと『Arma: Cold War Assault』を振り返ります。
なお本作は2011年に『Arma: Cold War Assault』と改名していますが、文中で『OFP2』に言及することもあるため旧名の『Operation Flashpoint』(以下、『OFP』)表記をしています。
長い開発期間を経て完成した初代『OFP』
『Operation Flashpoint』は、1997年ごろに開発された「Poseidon」と呼ばれるエンジンデモが開発の発端でした。RPSのインタビューによると、当初はSFまたは核戦争後のポストアポカリプスもので、100人の米兵とソ連兵がそれぞれ生き残りをかけて戦うものでしたが、後に変更されSFでなく現実をテーマとしたものへと変化。
ほかにも完全なるダイナミックキャンペーンも計画されたものの、ゲームロジックやメカニクスが十分に機能しないためテストすることもできなかったそう。最終的にダイナミックでないトレーニングモードから開発を始め、ゲーム全体へと波及していったようです。
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開発において様々な困難がありながらも、リリース約三ヶ月前にはミッション「Ambush」を収録したデモ版が公開。ヨーロッパで6月22日に本作が発売されてから約一ヶ月後の7月27日に、日本国内向けにもイマジニアより日本語マニュアル付英語版が発売されています。なお、このデモ版、この時点で汎用的なミッションシステムやAIが内部的に組み込まれていることもあり、ユーザーメイドの各種のエディタやユーザーミッションが「ゲーム発売前から」存在し、楽しまれていたのも衝撃的でしょう。
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なお、かつてイマジニアより完全日本語版も計画されていましたが、ゲーム本編に日本語を完全な形で実装出来ないという報告から、あらゆる手立てを講じたものの残念ながら実りませんでした。最終的に、100ページ以上におよぶ「シナリオ翻訳ガイド」を公開する形で決着を付けています。
リリース後は新ユニットやミッション、新機能追加も含めたパッチを継続的に配信するとともに拡張版もCodemasters開発の『Red Hammer』と、本編より3年前のNogova島を舞台にした『Resistance』の2つが発売されています。なお本作の正確な販売数は発表されていませんが、GoTY版パッケージ裏の説明によれば『OFP』本体は100万本以上の売り上げを達成しているようです。
広大な島によって陸戦のリアリティを獲得した初代『OFP』
初代『Operation Flashpoint』は前述の通りコンバットミリタリーシムです。シミュレーターとして表現されているために銃弾1発が敵味方そしてプレイヤー共に致命傷となるほかにも、銃弾が重力の影響を受けることが本作の持つシム要素の一部として挙げられます。
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銃や兵器の実性能がほぼ再現されているうえに野外戦が主である本作では交戦距離は一般的なFPSに比べ格段に遠く、草木生い茂る起状に富んだ地形もあいまって、敵まで200mから300m以上、標的が豆粒に見えるのが当たり前の戦闘が多いのが特徴です。また部位ダメージも人間と兵器にそれぞれに存在し、人間なら手足が、車輌なら動きや精度に被弾の影響があるという影響もリアリティを高めています。
加えて、敵味方のAIの挙動も2001年当時としては比較的賢く、かつ状況に応じて独自に行動する汎用性も持ち合わせているため、同じミッションでもリプレイ性が高く、状況を説明する無線セリフも、敵位置やミッションの展開を伝えるだけでなく、臨場感を生み出す装置として機能してることが魅力です。
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戦場となる島々も広大で、最大で62km2の面積を持つMalden島と51km2の Everon島、そして35km2のKolgujev島の3種類が舞台。この広さを活かし、安全な後方から作戦地点までの移動というミッション構成を作れることから、戦いばかりでない行軍のリアリティを生みだしていました。思い返してみると本作の面白さは、難しさへの挑戦やリアリティによる没入感を感じるだけでなく、AIの行動によって毎回展開が異なるリプレイ性の高さにもあったように思えます。
また、シミュレーター的な要素が強い一方で、どんな怪我でも治す衛生兵の存在や三人称視点、時間の加減速、などゲーム的な要素も存在し、これらは現在の『Arma 3』まで継承されています。特に時間の加減速は、前述の行軍においてプレイ時間の節約や凡長さを縮小させる重要な要素です。一方で、人間や銃の動作など再現性は完璧ではなく、兵器も同様で解決に次回作以降を待つ必要がありました。
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リアリティを保ちながらドラマチックな物語を描くキャンペーン「Cold War Crisis」
初代『OFP』が持つキャンペーンは、デタント以降の新冷戦時代を迎え、ソビエト連邦の書記長にミハエル・ゴルバチョフが就任し、ソ連のペレストロイカが始まる1985年5月が舞台です。ソ連の強硬派Aleksei Vasilii Guba将軍率いる部隊が反乱を起こしEveron共和国を占領したことに端を発し、事態が急展開していることを察知した米軍は、急遽Everon島へ部隊を派遣するという物語となっています。
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この「Cold War Crisis」キャンペーンが特徴とするのは、リアリティが強いミリタリーシムでありながらも、カットシーンと無線、そして登場人物のセリフを用いてドラマチックに物語が展開するところでしょう。
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キャンペーンの中心となる歩兵のDavid Armstrongパートでは、Everon島におけるソ連軍との戦いにおいて、島からの撤退時に使うヘリが破壊され同島に取り残されるはめに……。その後、彼はEveron島で抵抗活動を続けるレジスタンスの接触を経てMalden島へ帰還。多くの情報を持ち帰り分隊長となったArmstrongは、Malden島での防衛戦を経てEveron島の奪還に挑みます。この序盤から中盤にかけてでもプレイヤーの心を様々な形で動かし続ける展開は20年経った今でも色褪せません。
加えて、シナリオの進行に応じて歩兵のDavid Armstrong伍長だけでなく、特殊部隊員のJames Ian Gastovskiや戦車兵のRobert Hammer、戦闘/輸送ヘリかつ攻撃機のパイロットも務めるSam Nicholsの4人に視点が移り変わります。
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これによって歩兵の攻勢/防衛戦だけでなく、潜入破壊工作や戦車戦、攻撃ヘリでの強襲、そして攻撃機による空戦など、多種多様で飽きさせないミッションが次々と展開。これら『OFP』が持つポテンシャルを全て引き出す構成であったことが、ゲームプレイ体験を含めた「Cold War Crisis」の完成度の高さに繋がっています。
ユーザー独自のミッションだけでなくAddon/Mod開発も盛んだった『OFP』
本作は標準でミッションエディターが付属したことから、ユーザー開発の独自ミッションも多くありました。公式代理店を勤めていたイマジニアでは、かつて公式にミッションやフェイス、戦場写真コンテストを開催していました(残念ながら公式サイトは2006年に閉鎖されたので今は確認することができませんが……)。
オリジナルミッションやAddon類は個人サイトなどで配信されていたものもふくめ、長年のうちに電子の彼方に消えてしまったものも少なくありません。しかし、主要なファンサイトであったOFP.infoは一時期の閉鎖を乗り越え今日でも現存しています。
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また国産で開発された『OFP』向けの『バトルオーバー北海道』(以下、『BOH』)Modも巨大な存在です。このModは自衛隊をテーマとし、無線の音声やセリフなど可能な限り日本語化。同梱キャンペーンの1つ「Brothers」では、カットシーンや演出を駆使し、当時として本編に負けず劣らずのクオリティを持っていました。ほかにもフィンランド軍をテーマにした『FDF』modやWW2modの『LIBERATION 41-45』など人気Modは多くありました。これらは、OFP.infoが復活したことから現在でもダウンロード可能です。
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長期間の人気を維持した初代『OFP』―なかなか開発が進まない『OFP2』、『Game2』、そして『Arma』
『OFP: Resistance』発売より少し前の2002年5月にBIはXbox向け移植版『Operation Flashpoint: Elite』を発表。加えて、ベトナム戦争がテーマとされた『OFP2』も2003年4月に発表しています。
しかしながら、Xboxへの移植が難航し、延期が繰り返されると共に『OFP2』の計画はいつの間にか立ち消えに(ほかにも、2002年1月に公開された東ティモールが舞台の「Independence Lost」も消失)。最終的にXbox移植版の『OFP: Elite』はオリジナル版発売から約4年後になる2005年10月にリリースされています。
この開発遅延や消えたプロジェクトがCodemastersとBIの関係に大きな影響を及ぼしたのか、これ以降両者は関係を結ばずに、E3 2005ではBI単独で、『OFP』とほぼ同様のゲームメカニズムを持つ『Arma: Armed Assault』を発表、シリーズIPとしては以降『Arma』へと移行していきます。なお、『Arma』と並行して開発されていた通称『Game 2』はRPG要素などが入った野心的な計画でしたが、こちらも頓挫してしまいました(いくつかは『Arma 2』に引き継がれた)。
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これら初代『OFP』が生んだ熱狂は長期間続き、新作『Arma: Armed Assault』がリリースされても毎日新たなコンテンツが『OFP』関連のニュースサイトで取り上げられるほどでした。さらにはPCゲームかつ海外ゲームが非常にニッチであったゼロ年代の日本国内において、大型国産Modが誕生するほどの魅力を持つタイトルだったことは特筆するに値します。
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その後しばらくは、『OFP』自体の版権はCodemasters側にあった事情でダウンロードを含め再販がしばらくなかった同作ですが、最終的には改名、『Arma』シリーズ初代としての位置づけを再度手に入れたことによりDL版の販売が実現し、今でも遊びやすくなったことは素直に嬉しいです。