――主人公の、白い少女リリィは当初は違うキャラだったということですか?
岡部氏 最初は違ったのですが、企画をダークファンタジーにまとめていく中で変わっていきました。ただ、元々の少女と騎士らしいビジュアルの主人公というのは変えていなくて、デザインラインが今のものとは異なっていました。
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――リリィはすごくかわいらしいというか、少女らしさを感じますね。例えば、セーブポイントで座る時の仕草や、上キーを押したときの見上げる姿など細かなところまですごく可愛らしくできていますね。
岡部氏 担当したアニメーターがリリィに付きっ切りでいろいろなモーションを作ってくれました。リリィと黒衣の騎士のペアを魅力的にしたいと真摯に思ってくれて、作り込みをしてくれたので、少女らしさやかわいらしさを表現できたと思います。指示した内容だけではなくこういうのがあったら面白いと考えて、リリィを可愛く見せるようなモーションを追加してくれたので、アニメーターの想いが自分以上に込められていると思います。
――リリィには開発スタッフの思い入れがあるのですね。指示以外から生まれたモーションについても教えていただけますか。
岡部氏 例えば、リリィの特徴的なモーションとして転がるアニメーションがありますが、そういったモーションにすることは仕様で決まっているんですけど、動きの細かなところを可愛く見せるとかセーブポイントで休んで横を見るしぐさとか、たくさんモーションがついたので作り込みの部分をこだわってくれました。
横山氏 最初、リリィの回避モーションは、「カタコンベ」をクリアした後に解放される、スライドするタイプだったのですが、女の子らしさや非力なところを表現できていないと思って急遽、飛び込みの回避をするようにしました。そこからリリィが成長してモーションが変わっていく流れにしています。結構気を使っているところはありまして、特に非力な女の子のイメージを大切にしてアクションも作りました。
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――回避モーションの説明に書いてあるように「懸命な飛び込み」というのがすごく伝わってきますね。すごく懸命さを感じるようにできていいなと思いました。メンバー全体が愛着持って作り込んでいったのですね。
岡部氏 そうですね。全員が担当している箇所に責任をもって当たってくれたので良かったと思います。
――お二人が気に入っているスキルや箇所も教えていただけますか?
岡部氏 僕はシナリオやイベントシーンを担当したんですが、メトロイドヴァニアとしてゲームを進めて敵を倒していく点だけでなく、BGMと合わせた情緒の部分、ボス戦でBGMが変わることもそうなんですが、ボスを倒す時に敵を倒す爽快感とボスを倒してしまった事の辛さや切なさはプレイヤーにとって複雑な体験になるんじゃないかと思い、こだわりを持って作りました。
横山氏 『ENDER LILIES』はメトロイドヴァニアのアクションとして見るとあまり意外性はないと思っていて、それこそ壁つかまりやフックはメトロイドヴァニアだとお馴染みと思うのですが、そこをリリィが壁を捕まるのではなく、相対したキャラクターが壁を爪で引っ掛けてリリィを抱えているようにしたり、ダッシュにしても、騎士が突進しているところにリリィがつかまっているような表現にしました。リリィというキャラクターを壊さないように表現する点がかなり気を使いましたし、とても気に入っています。
「雨が降りやまない世界」や「果ての国」を基に描かれた『ENDER LILIES』の世界ーBGMや難易度と世界観をマッチさせて作った結果、反省点もみえてきた
――ボス戦の話も出たのですが、後半になると世界の真相を突き止めていく流れに変わっていき、チャプター8以降になると緊迫感のあるBGMになりますが、この変化は意識して作られたのでしょうか?
岡部氏 そうですね。後半になると難しくなっていく半面、プレイヤーは軽快なアクションができるようになるので、バランスを実現するゲームデザインは難しかったかなと思っています。ゲームとしてはマップの上と下で分かりやすくしていて、雨が溜まったところはより恐ろしいマップになっていたり、城のてっぺんには恐ろしい敵がいたりとプレイヤーが進むべき方向がわかりやすくなるように構築しました。そのため、後半にさしかかって雰囲気が変わる点は直感で感じられるのではないかと思っています。
BGMについては、序盤はリリィに寄り添っているBGMが後半になると穢れのイメージを象徴するような曲が多くなっていって、緊迫感もあるけどより悲しみを感じさせるような曲に変わっています。
横山氏 物語が進むにつれて、難易度が高まっていく流れを考えていて、景観とプレイ体験を合わせたギミックを増やした方がおぞましさが出るだろうと意識して作りました。その一方で、レベルデザインがうまくできていないなという部分もありまして…...。特に、終盤は、瘴気などダメージを受けるエリアがモリモリと増えていくように、景観やストーリーの進行に沿っておぞましいステージとしてデザインをしたのですが、調整不足になってしまった悔しい部分です。
――序盤がそこまで難しくなかったので、後半ステージとの差もあり、そういう意見もあるのかもしれません。
横山氏 難易度調整は今でもこれでいいのかなと感じていて、本当に難しいところだなと痛感しています。
――自分たちの目指していることと、ユーザーの声は必ずしも一致しないという話ですね。ユーザーからは「高難易度だ」との声がありますが、当初目指していたのはどういう難易度だったのでしょう?
横山氏 もちろん、高難易度ではあるのですが、あまりアクションゲームを遊ばない人や得意じゃない人も楽しめる難易度を目指していました。開発メンバーにもあまりアクションゲームをやらない人や例えば『ダークソウル』シリーズをやったことがない人もいて、彼らからの声も聴きながらこの難易度に落ち着きました。
――これぐらい大丈夫だろうと思ったけど、難しいといわれることもありますよね
横山氏 開発チーム内でテストプレイをすると、「難しい」「こんなの無理」って言われたので、難易度を下げてみたら、テストプレイをしているうちに慣れてきてしまうので、同じ人が「これは簡単じゃん」と言うこともありましたね。開発チームだけでテストプレイをやり続けるとだんだん基準が分からなくなってくるので、早期アクセスで外部の声を聞けてよかったと思いました。
――『ENDER LILIES』は遊びやすさもポイントかなと思っています。ボス戦前のいいところにセーブポイントがあるなど工夫された印象もありました。
横山氏 難しさや手ごたえは感じて欲しいんですが、理不尽や面倒くささなどシステムとしてストレスに感じる要因は極力排除しようとメインプログラマーと二人で話していました。ロスト要素がないのですが、これは死んだ時に時間が無駄になるというだけで十分ロスト要素だろうと思ってそうしています。
敵の行動パターンやモーションもわかりやすくなっているのではないでしょうか。初見殺しのような形で最初はやられてしまうかもしれませんが、再チャレンジを重ねれば見切れるようになってくると思います。セーブポイントも必ずボス前に置くようにしています。特別気を遣った設計をしたつもりはなくて、どれも月次なことだと思っています。
――最後までクリアして欲しいという意図の設計なのですね。
横山氏 難易度はあげつつもプレイヤーの心が折れずに最後まで遊んでもらうというバランスを考えて、何度やってもパターンが覚えられずに辞めてしまうようなことが無いような設計を心がけました。
――最後まで遊んでほしいという意味だと、マップのシステムもこのステージは全部やりきっているとか、ここは未開放のエリアがあるとかが、ユーザーを導けているのかなと思いました。
横山氏 細かい地形を表示せずにエリアごとの四角を線で繋ぐのみ、という簡素な形になったので、いっそのこと各エリアでアイテムを取ったかどうかを色でわかるようにしつつ、細かい地形はわからないので肝心のアイテムはエリア内で手探りしないといけない、というバランスでマップの便利さと、探索の歯ごたえを少ない機能で両立させました。
まだ開放していないルートは赤色の丸で認識できるようにしていて、詰まったらステージを全部を回って探索する必要が出てきますが、手応えを残したいという思いから今の形にしました。マップにはストーリーに関わるガイドが入れられなかったので昔ながらのスタイルになりました。
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――早期アクセスでは、海外、国内ともに多くの意見があったと思いますが、国内と海外での意見の違いはありましたか?
岡部氏 国内の方が緩やかというか、優しい意見が多くて、海外ゲーマーの方は結構シビアというか熱心にいろんな意見を出してくれました。
横山氏 海外のユーザーの方は、敵にぶつかってダメージを受ける仕様が理不尽で、リアルじゃないというコメントがあって、ちょっと物議を醸しました…...。国内のユーザーからはこの仕様に対して批判的な意見は少なかったので、その違いが印象的でした。ほかには、足場の範囲が分かりづらい、攻撃の当たり判定のサイズが見た目より飛び出ているなどの意見が多かったですね。
岡部氏 特に回避で言うと、ドッジで転がる回避をするだけじゃなくて、レリックを装備するとパリイができるようにしたのですが、これはユーザーからの意見が多くあって取り入れた点です。具体的には、回避できる方向が左右しかないと、遠距離攻撃を回避したらその先の敵に接触してダメージを受けてしまう、そういった指摘を受けました。そこは自分たちも納得したので、試行錯誤して進めていった結果、現在のパリィを実装する形に落ち着いています。
――確かにホーミング弾が強くほかの敵との連携で手ごわい時がありますね。
横山氏 ホーミング弾が強いという意見は国内、海外共にありました。これには意図がありまして、このゲームは回避がすごく強いんです。スタミナのような回数制限もなく、連続で出せるようになっているんですが、それはストレスがないように設計しているためであり、その上でシビアな難易度にしようと考えました。難易度調整のための接触ダメージだったり、弾のホーミングが強かったりという点ですね。歩きだけでは避けられない攻撃が多いのは、回避をしっかり使ってプレイして欲しいという意図を込めていますが、最初に見るとホーミングが強いという印象を持たれているんだろうなと思います。
――そういう意図なのですね。確かに回避性能が高く連発もできるので、ダッシュより早いかも(笑)と思って使っていました。
横山氏 ちょっと早いと思いますね(笑)。
――早期アクセスで海外の意見を聞きながら調整されていったのですね。国内の多かった意見にはどんなものがあったんですか?
岡部氏 国内のユーザーの方からは、期待しているといった温かいコメントが多かったように思います。アーリーアクセスの時に、国内外から厳しい意見や温かい意見をもらえたのはとてもありがたかったです。
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ユーザーからの声を反映した『ENDER LILIES』アップデートや今後の展開について
――アーリーアクセス期間に、いろいろな意見があったかと思うのですが、お二人の中で、調整や変更したいという点はありますか?
岡部氏 ストーリーやシナリオは充分まとまっていると思っていますが、もう少しリリィと黒衣の騎士やサブキャラクターなどの個性を作り込めたかなと感じていて、納得はしているんですがもっと面白くできたかなと思っています。テキスト量は不安に感じていた部分でしたが、ユーザーの意見を見るとこれくらいで良かったのかなと思い、少し安心しました。
横山氏 後半のステージは少し調整不足感がありまして、難しさよりも理不尽に感じられるところが出てしまっているかもしれません。
――時間のない中での調整は難しいですね。今はコンシューマー版の開発でお忙しいと思うのですが、その後にDLC的やアップデートなどはあるのでしょうか。
岡部氏 ※PS4、PS5のリリースが控えていますが、8月に大きめのアップデートを予定しております。意見の多かった「ムービーを見返すことができる機能」や「ボスと再戦できる機能」、「ニューゲームで引き継ぎが出来る機能」など『ENDER LILIES』をやり込みたいプレーヤー向けの施策やバグフィックスを盛り込んでいく予定です。DLCに関しては現状予定はありません。(※インタビュー実施は7月)
――ありがとうございます。最後になりますが、お二人から国内外の『ENDER LILIES』ファンへ向けてコメントをお願い致します。
岡部氏 まずは、ファンの皆様には、ゲームをプレイをしていただけたこと、応援していただけることに心から感謝したいと思います。ありがとうございます。
『ENDERLILIES』は日本のゲームだと思わなかったという意見をよく見まして、それは一つの要因として、日本発のやや規模の大きい目立ったインディーゲームが海外と比べると少ないからかなと思いました。今回、色々なゲームの良いところと自分たちのアイデアを取り入れて『ENDER LILIES』をリリースすることができ、少し自信がつきました。また、インディーゲーム市場で、尖った日本のゲームがどんどん出て盛り上がってほしいと思っていますし、自分も一プレイヤーとして遊びたいと思っていますので『ENDER LILIES』が1人でも多くの人の心に残り、ゲーム製作者を刺激するようなタイトルの一つになれると嬉しいです。
横山氏 このゲームは高難易度とタグをつけられていますが、アクションゲームがそんなに得意じゃない人も楽しめる、試行錯誤していけばクリアできる調整を心がけましたので、世界観やキャラクターが好きな人や、BGMが好きな人にも是非遊んでいただきたいです。
――ありがとうございました。
コンシューマー移植やアップデートも行われた本作がユーザーの意見を取り入れながらアップデートを行ってきたことをうかがい知れる内容でしたが、多くの人の意見を聞きながらバランス調整を行う難しさを感じる一面もありました。先日行われたパッチ1.1.1アップデートにて、ボスとの再戦や連戦、ムービーの振り返りやデータを引き継いだNew Game+など、多くの機能が追加されました。この機会にぜひ遊んでみてはいかがでしょうか。
『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』はSteam/PS4/Xbox One/ニンテンドースイッチ向けに発売中、価格は2,728円です。