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日本最大の自主製作ゲームイベント「デジゲー博2021」(以下、デジゲー博)。昨年は新型コロナウィルスが猛威を振るう時期、数々のゲームイベントが開催を見合わせる中で実地開催され、運営側のお話や対応もうかがう中で若干の悲壮感もかいま見えたものでした。
一転して今年は、感染対策をイベント側も来場者側も周知しており、ワクチンの接種も功を奏したことで、現在のところ新規の感染者数を押さえられているのもあって、例年に近い活況を呈していたと言えるでしょう。
そんなデジゲー博は他のゲームイベントとはちょっと毛並みが違い、謎のゲームが紛れ込む確率も高くなっています。というわけで今回は、久しぶりに活況を呈したデジゲー博で見かけた「一体なんなんだ……このゲームは?」というタイトルを紹介しましょう。
鳥が街を爆破! 中年を飼うアクアリウム! 限りなくコメディに近いディストピア
『Four Legs Chicken』 サークル:げ~みんぐからあげ
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ヤギが街でめちゃくちゃな動きをしたり、鹿が車を破壊しまわったりと動物が大暴れするオープンワールドにニューカマーが入場してきました。ニワトリです。
動物の諸先輩の活躍通り、こちらも小さなニワトリがどこかの町で大暴れするのが主なゲームプレイ。「人間に美味しく食される同胞を目にしたニワトリが……怒りと復讐心のままに人間社会を破壊する!」ストーリーは以上です。
それにしてもタイトルがヒドいですよね。明らかに有名チキンフランチャイズで噂された「4本足のニワトリがフライドチキンに使われてるんだぞ」という都市伝説そのままじゃないですか。
げーみんぐからあげさん(サークル名が既にニワトリを油で揚げていることを暗に示しており、よく考えると復讐される側だ)に詳細を聞いてみると「これはですねぇ~ニワトリが街を破壊していると巨大化していくんですよ~。そうすると4本足になってタイトルを回収するんですよね~」とほがらかに説明してくれました。ヤギも鹿も “シミュレーター ”とたおやかなタイトルにしていたのにブラックジョークが過ぎるって!
『オヤジリウム3』 サークル:ヒトリクソン
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アクアリウム……それは室内空間で飼育する自然とも言われる趣味だと言われます。無機質な生活に癒しをくれるものと言われますが、実際にはじめるには相当の予算や時間が必要になる趣味なのも確かでしょう。
そんなときにはビデオゲームでシミュレーションするのも良いですよね。だけど、水槽の中に飼えるのは、美しい熱帯魚たちではなくちいさな中年たちの場合、私たちはどうしたらいいのでしょうか。そんな困惑をもたらすのが、モバイルゲーム『オヤジリウム3』なのです。
基本的には放置していると「オヤジ」が繁殖(繁殖……?)し、様々な種類のオヤジが登場するゲームとのことです。しかし本作を試遊していて気になったのは、水槽が置かれている場所でした。
タッチ操作で水槽の様子を見て回れるのですが、カメラの倍率を縮小していくとだんだん水槽の場所が見えてくるんです。そこはなんと、おそらく表参道あたりのおしゃれなカフェレストランみたいな場所。どうも店長あたりがオヤジたちを面白おかしく飼って客に見世物にしている構図が暗にわかってしまいました。
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一等地のおしゃれなお店(想像)がお客にさわやかな空間を提供しながら、中年男性を見世物にする……映画「パラサイト 地下室の家族」並みの残酷な世界がそこにありました。こんなことがあっていいのか? これでは限りなくコメディに近いディストピアじゃないか! 筆者はいま見出しタイトルを回収しました。
そんな『オヤジリウム3』は現在iOSで無料配信中です。という感じでよくあるゲーム紹介の終わり方らしくまとめ、読者にダウンロードをうながす書き方をしたので今回のようなめちゃめちゃな説明も許してください。
スポーツの青春をゲームに閉じ込めて
『君とかける夏』 サークル:Kinoene
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意外なことですが、インディー・同人などなどひっくるめた自主制作ゲームイベントでは、純粋なスポーツゲームが出展されているのを見かけることって少ないんですよね。自分のなかの『ドラゴンクエスト』や『ダークソウル』みたいなゲームを作るぞ!って人はいっぱいいても、『実況パワフルプロ野球』や『ウイニングイレブン』を作るぞ!って人はそんなにいない。
その意味で『君とかける夏』はまさしくど真ん中ストレートで高校野球を描く自主制作ゲームとして珍しいのです。簡単な3Dグラフィックで野球の試合が表現されていますが、基本はオートで試合が進み、プレイヤーは監督として選手に指示を出していくのが主なゲームプレイとなっています。
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しかし……ブースをよく見ると偏執的なほどの高校野球への思いがパネルとして置いています。開発者にお話を伺ってみると「なにより高校野球が好きなんですよ」とのことで、毎年の甲子園を楽しみにしていると語ってくれました。
実は筆者は野球の強豪校出身で、試しに母校のお話を振ってみるとスラスラと近年の状況も教えてくれたのです。自主制作ゲームはなにより情熱が必要。高校野球に狂わなくてはここまでのものは作れないと確信させられましたね。基本的に試合を眺める、見る専門のゲームデザインであることも、高校野球ウォッチャーならではとも思います。
ただ開発者の方が高校野球のきらめきを愛しているの見ながら、筆者は若干、黄昏れていました。
高校の3年間でリアルタイムで見てきた高校球児の皆さんが、みんな清宮選手とか未来の大谷翔平選手みたいな凄さがあれば面白いんですが、そんなわけはないわけです。現実にはスターになりきれない選手が多数なのであり、自らの能力の限界に苦しむ千鳥の大吾みたいな見た目の同級生がたくさんいたことを思い出しました。途中で辞めていった同級生も多かったですね。
高校野球に青春を見出す人は多いでしょう。しかし筆者は青春の光を見つめる前に、強豪校のなかの影を見過ぎてしまったようです。
新しいゲーム操作を創造してみました
『LEDキューブゲーム』 サークル:神奈川電子技術研究所
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ゲームイベントではないと出会うことがないゲームが存在します。その最たるものが、特殊コントローラーや特殊端末によるゲームでしょう。筆者は昨年、変なコントローラーだけを特集したイベントの取材をやったとき、コンソールやPCゲームのDL販売では決して出会うことのないクリエイティブがあると思ったものでした。
その意味で今回のデジゲー博でもっとも印象深かったのは、開発中の『LEDキューブゲーム』でした。タイトルどおりLED電球を正方形を描くように構成し、コントローラーを操作することでLEDの光の波形を操作するインタラクティブなものでした。
そのほかには簡単なゲームが実装。上からLEDの光が落ちてくるのをキャッチするという内容になっていました。
開発した神奈川電子技術研究所のゲームでは、近年では自然現象を利用した『Agartha』が印象深かったため、こうしたプロダクトの制作を意外に思ったことを伝えたところ、「むしろ、こちらが本業」とのこと。『Line Wobbler』というLEDゲームの話をすると、今回のLEDキューブを作ったのもそのあたりの影響もあるそうです。ゲームイベントで遭遇するような特殊端末のゲームから、特殊端末のゲームを作りだす連鎖を見た思いになりました。
『マッチョラン ~筋肉ですべてを破壊するランゲーム』 サークル:ジェッドム
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「筋肉はすべてを解決する」そうインターネット上でささやかれはじめたのはいつごろでしょうか? 私たちの精神を削りにかかる現代社会への対抗策としての(一部の人の)筋トレ信仰。この流れはとどまるところを知りません。
『マッチョラン』はそんな「筋肉はすべてを解決する」信仰(以下、筋肉全解決信仰)をゲームプレイによって洗脳させるようなゲームデザインを見せています。基本的にはランゲームで、やることはジャンプさせるだけなのですが、ジャンプさせる操作が胸筋を鍛えるエクササイズバーで行われるのです。
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エクササイズバーは最低30キロからスタート。普段自宅でこのテキストみたいなでたらめな文章ばかり書いている身には相当にきつく、1面のクリアすらおぼつかない厳しさを見せます。
しかしそんな操作形態以上に筋肉全解決信仰を感じるのは画面内のギミックでした。ものすごく苦労してエクササイズバーを締め、マッチョなプレイアブルキャラがジャンプした先で、普通のアクションなら即ゲームオーバーになるナイフやらギロチンやらを体当たりで吹き飛ばす。これは「ほら、プレイヤーのあなたが筋肉を頑張って鍛えたから、ギロチンも敵ではないんだよ。すべてを筋肉が解決するんだよ」という洗脳に他ならないでしょう。
ちなみにスマートフォンでも本作は無料で配信中ですが、もちろんタップ操作だけでは筋肉全解決信仰の洗脳力はめちゃくちゃ弱めなので注意してください。注意って何にでしょうか。
自主制作、ゲームの宇宙の果て
『高中女生の三国演義(仮)』 サークル:週末Unityもくもく会
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このタイトルは実は全部中国語とのこと(※正式には簡体中国語で記述されていますが、Game*Sparkでは簡体字を使えないため繁体中国語で表記しています)、「最近の中国では、なぜか日本語の「の」が、通常の「的」ではなく助詞に使われている」そうで、日本語にすれば「女子高生の三国志」だそうです。
こんなタイトル名を聞くと「劉備や曹操が現代中国で高校の女の子に生まれ変わってバンドとかアイドル活動で闘いあうの?」と思うかもしれません。ですが本作で描かれるのは、現代の中国に登場する諸葛孔明。女子高生が彼に変貌した現代中国を紹介していくという、開発者の中国紀行を元にしたノベルゲームなのです。
それにしても、いま漫画「パリピ孔明」など、諸葛孔明が現代に出てくる作品はいくつか見受けられますが、ぜんぜん軍師らしいことをしていないあたりが興味深くはないでしょうか。冒頭で書いたような日本語の「の」の助詞が使われるケースに見られるように、孔明の現代転生も日本の作品の影響があるのでしょうか。この謎を教えてください。諸葛孔明……。
『セミオート・ブラックジャック』 サークル:TXT.TXT
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さて本特集最後は「こんな自主制作ゲームの展示も全然ありなんだな」という極北で締めにしましょうか。会場を歩いていると、上の写真のようにコピー用紙に殴り書きで展示内容を説明している、初期パンク並みの勢いを感じるスペースがありました。
どうやら、半自動でブラックジャックを行うプログラムを組んだものを展示しているとのことです。よくよくお話を伺ってみると「もともとこの展示は来場者にもプログラムをいじってもらって遊んでもらう予定だった」といいます。
ではなぜ実機もなく、上記のTwitter画面のみを表示しているのかと伺うと、「プログラムはWebAssemblyを使っていて、よく考えたら来場者にいじらせたらやばいことがわかっちゃって」とあっさりと説明。それって出展前に気づかなかったのでしょうか……? と返すと、「いやーそれに気づいたの昨日なんですよね」と語ってくれました。
かくして実機自体が存在せず、Twitterの動画だけが半自動のブラックジャックを表示し続けるという異常な展示が出現。デジゲー博が開催しているあいだ、カードはタブレットのなかでだけ高速で動き回っていたのでした……。まるで永遠とはなにかを表現するかのように。
こんな謎のゲームたちを見つつ、筆者自身はというと大変癒されていました。
最近はインディーゲームも大企業が参画にかかわるケースも広まったり、そもそも開発したゲームを知ってもらうためかなり周到なプロモなどが必要になったりするような、単なるクリエイターの自己実現以上のものが、あるレベルからは要求されるようになってきていると思います。
その意味でデジゲー博は、まだ自主制作が持つなんでもありの雰囲気が残っているように感じられてよかったですね。もちろん本イベントも企業の出展は多いのですが、けっこう雑にプロダクトを展示したりする謎のゲーム出現率が高めなのは確かでしょう。
今後もインディーゲームイベントでは完成度が高いタイトルが集まってくるでしょうが、デジゲー博のように自主制作すること自体が尊いイベントは年々重要になっているようにも感じていました。延々とブラックジャック動画だけを流して終わりって展示があるゲームイベント、まず他にないと思いますから。