注意!記事の内容にはシロアリの映像、画像が含まれます。苦手な方はご注意ください。
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前回は溶岩が創り出した柱状節理をご紹介しましたが、今度は逆に生き物が創り出すもの、「大蟻塚」を取り上げます。小さなシロアリが力を結集して組み上げた、人類の建築にも劣らない機能的な高層建築、その凄さを繙きましょう。
蟻塚のある地帯は「大蟻塚の荒地」の北東エリア。砂原の中にハンターの背丈を優に超える大きさのものがいくつも並んでいます。そしてその奥にそびえ立つのが「大蟻塚」です。一体どれほどの年月と労力をかければここまで成長するのか、なかなか想像が及びません。
蟻塚の構造は堅い外壁と内側の居住区に分かれており、土や泥とシロアリの排泄物を混ぜたものを積み重ねることで建造します。外壁の堅さはコンクリート並みと言われ、それを突き崩せるのはアリクイの鋭い爪くらいです。ハンターが殴った程度でははじき返されて当然ですね。外壁の中にはいくつも上に伸びる通気口があり、内部の空気を一定に保ちます。
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居住区画は仕切られたいくつものブロックに分かれていて、食料や養育などの役割分担があります。外の暑さに比べて中は比較的涼しく、約30度で安定しています。これを利用して、巣の中ではキノコの養殖が行われていて、養分を与えて食料を生産します。人間以外が行う唯一の農耕とも言われています。
蟻塚の構造にはなんとエアコン機能が存在し、キノコの養殖に適した温度を自動的に調節してくれるのです。もちろん電化製品ではなく、縦に長い蟻塚の構造、そして外壁に組み込まれた通気口によって生み出される仕組みです。
外壁にある通気口の中の空気は、熱によって暖められると膨張して上昇、すると巣全体に上に向かう空気の流れが生まれ、地面側の冷たい空気が巣の中へ取り入れられます。空気と熱という簡単な原理で、立派な自然のエアコンができるなんて不思議ですね。大蟻塚の内部にはキャンプとテトルーの住処がありますが、熱波がうなる外と比べたらひんやりと心地よい空間であるに違いありません。
(一瞬リアルシロアリの映像が出ます。苦手は方はご注意ください)
この天然空調の仕組みを人工建築でも取り入れる試みがありました。ジンバブエにあるイーストゲートセンターでは、建物表面で太陽の熱を吸収し、蟻塚と同じ上昇の流れを起こしています。「バイオミミクリー」という生物が作る、または身体に持っている構造を人工物に応用する研究で、省エネルギー化に寄与することが期待されます。
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大蟻塚は夜になると、光蟲の光を纏ってほのかに輝きます。タイミングが合えばビューモードでいい写真が撮れそうですね。この光り輝く蟻塚も、現実でも実際にある風景です。ブラジルのセラード保護地域にある蟻塚には発光するコメツキムシが共生し、ある短い時期にだけ、真夜中に蛍光色で一斉に光り輝きます。この光で羽を持って飛んでいるシロアリを引き寄せ、それをコメツキムシが餌にするのです。幻想的できれいな光であっても、それは肉食の虫が仕掛けた罠というわけです。『ワールド』の大蟻塚ではブナハブラでも引き寄せているのでしょうか?
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シロアリというと、日本においては木造家屋を食い荒らす厄介な害虫ですが、野生においては朽ちた樹木や草木を分解して、土壌を作る役割を負っています。栄養の循環を担う『ゆうなま』のコケやガジガジのような存在ですね。蟻塚がある場所は栄養が豊富である証とも言われ、シロアリ自身も貴重なタンパク源として他の動物の栄養となります。
「モンスターハンター 超解釈生物論II」にあるボルボロスの項目(監修:小林快次)によると、ボルボロスは蟻塚を外殻ごとかじって食べ、シロアリ自身のタンパク質と、巣に含まれる植物性の栄養を一度に摂取している可能性があるとのこと。蟻塚があるからこそ、ボルボロスのあの巨体が維持されているのですね。食物連鎖の植物と動物の間をつなぐ大きなレイヤー、それが大規模な栄養循環の鍵となる蟻塚なのです。
私が『モンスターハンター』シリーズを好きな理由の一つが、大自然のダイナミズムが常に主役であることです。モンスターの捕食シーンは必ず描かれ、ハンターたちもそれと同じようにモンスターを狩り、おいしそうに料理を平らげる。人間が街を作り上げれば、それを一瞬で灰燼に帰すような大災害が降りかかる。据え置き機とPCの表現力によって、『ワールド』ではそれが鮮やかに立ち上がりました。
「足掻くぞ。生態系の一部となる」
この一言に、『モンスターハンター』シリーズの全てが凝縮されています。新大陸と同じような、また別の新たな地へ足を踏み入れたときに(できれば近いうちに)、どんな生命の輝きと大地の躍動を目にすることができるのか、今も楽しみでなりません。
参照:
【シロアリの基礎知識】シロアリの生態と自然界での役割 -みんなのシロアリ駆除屋さん
セラード保護地域 ~ 大草原に2500万本!闇に輝く塔 -TBS「世界遺産」