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2021年11月15日に北米での発売から20周年を迎えたBungie開発のSFアクションシューティング『Halo(ヘイロー)』は、コントローラーを用いたコンソールでのFPSというスタイルを確立させただけでなく、左右のスティックを用いる操作体系や、2人Co-op可能なキャンペーン、16人対戦のマルチプレイなどを作り上げました。
周年タイミングからは少し遅れてしまいましたが、シリーズ最新作の『Halo Infinite』もリリースされて間もないということで、ゲームの1ジャンルとしてのFPSが大きく洗練された瞬間である初代『Halo』を振り返ります。
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当初Mac向けだった『Halo』―マイクロソフトへ買収されたBungie
『Marathon 2: Durandal』と『ミス 闇の破壊神(Myth: The Fallen Lords)』発売後にBungieが開発したのが『Halo: Combat Evolved』でした。『Halo』が正式発表されたのは、1999年7月21日開催のアップル新製品発表会である「Macworld Expo New York '99」です。
このイベントにおいて製品版と若干デザインが異なるものの、アーマーを装備した兵士や3人載りのワートホグなど『Halo』を構成するアイコン的なビジュアルは完成しており、狭い屋内から広大な屋外へシームレスに繋がることが当時の衝撃であったと伝えられています(他にも、当時の発売時期は2000年Q2からホリデーシーズンまでだった)。
また『Halo』の発表から数週間後の1999年8月にTake-Two InteractiveはBungie の株式19.9%を取得し、『Halo』や『Oni』などの北米市場において独占販売権を取得(同時にコンソール版の権利も取得している)。この時点で『Halo』の開発チームはPS2/ドリームキャストへのコンソール移植に関心があったと伝えられており、加えて同年11月には、PS2版『Halo』の噂が浮上していました。
マイクロソフトが新型コンソールとしてXboxを発表したのは2000年3月に開催されたGDC(同タイミングで日本国内向けにも発表)。5月開催のE3 2000では、エリートなどの姿が見られる新たなトレイラーが公開されていましたが、マイクロソフトによるBungieの買収が起きたのはE3開催後の同年6月です。この時にTake-Twoは、『Myth』シリーズと開発中だった『Oni』の権利を取得し、19.9%の社株をマイクロソフトへ売却しています。
この買収劇は波乱を呼び、マイクロソフトに対してアップルのCEOスティーブ・ジョブズ氏が電話で直接抗議した話はよく知られています(他にも、注目していたユーザーからは買収によってXbox専用タイトルとなってしまうのでは?という危機感や失望感もあったという)。この抗議の結果からか、Mac版『Halo』の開発が続ける事がbungie買収から約一ヶ月後の「MACWORLD Expo/NY2000」にて発表されていました。
マイクロソフトに買収されたBungieは拠点をシカゴからレドモンドに移すと共に『Halo』の内容も変わります。かつてBungie公式サイトに掲載されていたJason Jones氏のインタビューによると、当初はシームレスで広大な世界の探索するRPG要素を備えたゲームであると考えられていましたが(Xboxドキュメンタリー本「マイクロソフトの蹉跌」によれば数千人が参加するMMORPG的な要素もあったとのこと)、ゲームの内容をより具体化するに従いシングルプレイFPSとして大幅に内容を変更するに至っています。
『Halo』のゲームプレイが初めて公開されたのはマイクロソフトが主催する2001年3月のゲーム発表会「Gamestock 2001」でした。日本でもTGS2001春にてビル・ゲイツ氏のXboxに関する講演と共に紹介されるほどの気合いの入れようです。
一方で、2001年5月にはBungieのフォーラムにて『Halo』におけるオンラインのマルチプレイ導入が難しくなったことも報告されています。なお同E3 2001にてXboxの発売日が11月8日として発表され、ローンチタイトルに『Halo』も加えられていました。
しかしながら、Xboxは当初日本での発売日は日米同時期を想定していたものの生産の関係か発売日が2002年2月22日へとずれ込みます。加えて、アメリカにおけるXbox発売日も一週間ほど延期してしまいます(2001年11月15日になった)。そんななかTGS2001秋に実施されたマイクロソフトのエド・フリーズ氏のインタビューによれば、アメリカにおいて70%の人がXbox本体と同時に『Halo』を予約したと、その注目度の高さについてコメントしていました。
大小のトラブルがあったもののアメリカでは2001年11月15日に『Halo』がXbox本体と同時に発売。翌年の2002年4月には北米において100万本の売り上げを達成しており、最終的には600万本以上ものセールスに到達するなどFPSとして大きなヒットを記録しました。
『Halo』が切り開いたコンソール/コントローラーでも成り立つFPS
本作が初代Xboxのローンチタイトルとなり600万本以上もの売り上げを達成したことで、コンソールやPCなどプラットフォームに問わずFPSジャンルに与えた影響の大きさは無視出来ないほどです。『Halo』発売以前にもレアの『ゴールデンアイ 007』やDreamWorks Interactiveの『Medal of Honor』などコンソールで展開するFPSはいくつか存在していたものの、FPSというジャンルにおいて、後のデファクトスタンダード(事実上の標準)になったと言えるシステムが初代『Halo』の時点で作り上げられていました。
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初代『Halo』が持っていた独自のシステムとして、シールドの自動回復を筆頭に、照準が敵に重なった時の赤表示、武器二丁制、チェックポイントシステム、1ボタンで発動できる打撃、ダメージを受けたときの方向表示、左スティックで移動/右スティックで照準、クロスヘアの円表示、視点の先に向かうステアリング操作などなど……。射撃の気持ち良さなどは強くアピール仕切れていないものの、システム面だけ見れば現代のFPSとの差異は大きくありません。
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キーマッピングに関しても同様で、XボタンでのリロードやYボタンでの武器切り替え、左スティック押し込みでしゃがみなど、初代XboxコントローラーにLB/RBボタンがないことを除けば、現行のキー配置とほぼ変わらない印象です。他にも、ゲームプレイではプレイヤー1人でなく、場合によっては他の海兵隊員と共にコヴナントとの戦闘に挑めるなど孤立しない仕組みが盛り込まれています。
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FPSの始祖は諸説ありますが、1992年の『Wolfenstein 3D』を本格的な発展の始まりと位置づけるなら約10年の歳月を経て、誰でも楽しめるシステムに洗練されたことに驚きます。
ゲームプレイにおいて初代『Halo』は目的地がはっきりと表示されず、全体マップも無いために広大なマップを探索する要素が強調されていました(マップ内を長時間彷徨っていると目標地点が表示される)。後のシリーズ作品がリニアでドラマチックな表現に帰結していくことを考えると、2001年というタイミングが『Halo』そのものとFPSジャンルにおいて、目指すべき目標がハッキリと見えない瞬間だからこそ成り立ったようにも思えます。
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見え隠れする先進性を内包した『Halo』のシングルキャンペーン
初代『Halo』の世界観は、宇宙に進出した26世紀の人類が地球外生命体の様々な種族で構成された宗教的同盟「コヴナント」との戦争において、プレイヤーが人類側のマスターチーフとなり戦うというものです。
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もう少し本作の内容を少し具体的に説明すると、コヴナントとの戦闘によって深手を負った戦艦オータムからマスターチーフが謎の円形構造物「ヘイロー」へと脱出。辛くも脱出に成功したマスターチーフは、同じく危機を脱した海兵隊員達と合流し、艦長の奪還とコヴナントの真の目的を阻止するために行動します。
初代『Halo』で、主人公のマスターチーフがミッションの進行の途中に挿入されるカットシーンで喋ることや、ミッションにおいて特異なものが無いものの大勢の味方と共にミッションを攻略することについては、当時のFPSジャンルとしては数少ない存在でした。
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ロケーションに眼を向ければ、序盤で地球に似た美しい地形が現れるものの円形構造物が常に見える異世界のような印象与える背景や、綺麗な海岸で戦えるカートグラファーの上陸戦(PC版の体験版がこのミッションだった)、コヴナントの艦艇内部、戦車を乗り回せる雪原、人類vsコヴナントvsフラッドによる三つ巴の戦い、終盤の戦艦オータム内をバギーで疾走する物語の大詰め感……などヘイローという特異な場所で戦う面白さを発揮していました。
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ストーリー後半では、キャンペーンの途中にフォアランナーが生み出した管理AIのギルティスパークことモニターによってマスターチーフが騙され、銀河系内の知的生命体を全滅させるヘイローを起動する直前まで進んでしまうなど、「プレイヤーが疑問を抱かずにミッションを遂行する危うさ」も含め、『BioShock』などゼロ年代で流行ったトレンドを様々な形で内包していることに気付きます。
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特にオリジナル版でも、画面分割を用いて2人Co-opで楽しめるキャンペーンなど、後のゲームにおいて流行にもなった機能を備えるなど先進性もありました。しかしながら、2021年現在に再プレイしてみると遊びやすさは余り変わりませんが、本編の冗長なゲームプレイのために洗練された演出やゲームプレイの施策が埋もれてしまい、魅力が伝わりきらないのが残念です。
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『Halo』が作り上げた誰もが楽しめるFPS
初代『Halo』はコンソールFPSのスタイルを確立しただけでなく、システムとしても標準的な存在へと広めた作品でした。発売当時の海外レビューを複数読んでみると、キャンペーンにおいて同じマップの繰り返しがあることや30fps動作が不満点であるものの、アニメーションを含めた美麗なグラフィックや適切な難易度、優れた武器バランス/車輌操作などが主な評価点されていました。
また初代『Halo』が発売された2001年は、コンソールにおいてFPSというジャンルが花開いた瞬間です。本作と別の流れを汲んでいますが(操作体系やシステムが必ずしも『Halo』スタイルを踏襲していないため)、『メダルオブオナー』シリーズや一部の『007』シリーズなどEAのコンソール向けタイトルを中心に、PCからの移植作やコンソール専用のFPSが出始めるようになったからです。
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一方で、日本における初代『Halo』の展開はアメリカでの発売より少し待つ必要がありました。日本語版『Halo』の発売は、当時ローカライズなどの関係から発売も日本でのXbox本体リリースより約2ヶ月後の2002年4月25日だったのです(日本でのローンチタイトルでは無かった)。それでも発売月には、メディア合同の『Halo』体験会が開催されたり、複数ゲームショップでプレイアブル展示などを展開していました。
また、初代『Halo』日本語版では微妙な調整をしたそうで、ローカライズを担当した田寺詩乃氏のインタビューによればチェックポイント復活時の体力回復がオリジナル版と異なる部分であるようです。
さらに、兼ねてより告知されていたPC/Mac版はGearbox Softwareより開発されると2002年7月にマイクロソフトが発表。2003年8月に公開されたGearboxへのインタビューによれば、PC移植への絶対条件がオンラインのマルチプレイヤーモードの追加であると語られています(しかしながら、PC版ではキャンペーンCo-opは削除)。
マウス+キーボードに対応し、様々な最適化が行われたPC版はアメリカで2003年9月30日に、日本では11月14日に発売しました(米Mac版が2003年12月、日本Mac版は最も後で2004年9月17日発売だった)。
今から初代『Halo』をプレイするには、『Halo: Combat Evolved Anniversary』版から『4』までのシリーズ作をまとめた『Halo: The Master Chief Collection』がXboxプラットフォームだけでなくPCにも対応しているため、再プレイは容易です(Xbox Game Passにも対応)。
20周年を迎え『Halo Infinite』のキャンペーンも配信されたこの機会に、初代『Halo』を初めとした壮大な世界観に触れてみてはいかがでしょうか。