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海中を探索していると、時々氷の下で奇妙な現象を見つけることがあります。氷柱にも似ていますが、突然氷から生えてきて、しばらくすると砕けて崩落する謎の物体です。近づいてみるとプレイヤーの身体が凍り付き、僅かではあるもののダメージを受けてしまいます。
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よく観察してみると、中には魚がくっついて氷付けにされているものも。プレイヤーが手で触れようものなら、これと同じように剥がれなくなってしまうかもしれません。スキャンの対象になっていないので、ゲーム中ではこれがなんなのか説明はなく、気になっているプレイヤーも少なくないでしょう。
これは「ブライニクル(Brunicle)」と呼ばれ、海が凍る極地だけで見られる珍しい現象です。飛び込めば一瞬で死ぬような冷たい海のため、写真の撮影をするだけでも困難を極め、一般に画像が見られるようになったのも近年になってからです。 その成長する過程の映像に至っては、10年前に初めて撮影されたばかり。極地探検に挑む命がけの冒険者がいるからこそ、こういった誰も見たことのない映像を持ち帰れるのですね。
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海水が凍ると氷からは不純物が分離され、溶けていた塩分が濃縮されて染み出します。塩分が濃くなると融点、液体が凍る温度も低くなるため、氷から流れ出す液体の温度は0度よりも大きく下がったままです。塩分の飽和状態になるとマイナス21.3度まで融点が下がり、濃い塩水「ブライン」が氷から海中へ流れていくのです。
こちらは世界初のタイムラプスを撮影したBBCによる解説映像です。ブライニクルの先端にもやがかかっているように見えますね。これは濃度の違いによる蜃気楼のような物で、それだけ塩分が濃縮されていることを示しています。この流れを包むようにして海水が凍っていき、パイプのようなつららを下に向かって形成します。
もしもこの流れに触れてしまうと一瞬で凍り付き、小魚くらいであればそのまま死を待つしかありません。ブラインの流れが海底に届くと川のように周囲を凍らせ、映像ではたくさんのヒトデやウニが巻き込まれてしまいました。次々に生物を巻き込みながら成長することから「死のつららとも呼ばれています。
このブライニクルによる瞬間的な凍結は、ご自宅の環境で簡単に再現が可能です。やり方はとてもシンプルで、氷水に塩を飽和状態になるまで加え、それを使って普通の水を冷却させます。
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用意するのは大小の調理用金属バットと、氷、塩。そして、浄水器を通すなどした不純物の少ない水です。
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大きい方のバットに水と氷を入れ、しっかり塩を溶かしながら温度を下げていきます。保冷剤を併用しても大丈夫です。
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保冷剤の表面に新しく氷ができるほど温度が下がりました。そこに水を薄く張った小さい方のバットを入れ、十分冷えたところで軽く衝撃を与えると、みるみるうちに凍っていき……といきたいところですが、申し訳ありません、何の成果も!得られませんでした!
というのも、塩を飽和状態にするには100ccの水でも約30グラムとかなり大量に使用するので、十分冷却するのに必要な1リットルの塩水を作るには画像の量だけでは全く足りません。1回につき300グラムの塩はもったいないので、今回はでんじろう先生のチャンネルから実験映像をお借りします。
「クジャクの羽」と表現できるような、美しい模様を描きながら凍結が広がっていきますね。不純物が少ない水は、落ち着いた状態だと融点を下回った状態で液体を維持する「過冷却」になります。そこに衝撃が加わると不安定な状態になり、そこから一気に氷へ変化するのです。ブライニクルの中には尖った氷の結晶が現れ、ただの氷柱ではない神秘的な造形を創り出します。
過冷却の実験を行うには外気が冷え込む今の季節がうってつけです。凍傷の危険があるため、冷やした水へ直接触れるのは避けていただきたいですが、クーラーボックスにたっぷりの塩氷水を用意して、屋外で冷却実験をしてみるのも一興ですね。
異星でなくても地球の極地における海中はまだまだ未踏の地。他では見られないような不思議な形をした生き物や光景がたくさん隠されています。本格的な探査が始まったのは装備が整ったごく最近で、宇宙よりも謎の多い場所とも言われています。氷に閉ざされていた水中には、原始の生命体シアノバクテリアが繁殖する場所もあり、その光景はさながら異星にいるかのようです。約30億年前の状態が丸々保存され、生命の起源を探る上で重要な場所になると目されています。『Subnautica』シリーズのような奇妙な生き物も、案外地球で見つかってしまうかもしれませんね。