なんとなく中世ファンタジー設定の定番といえば、勇者と魔王という設定が思い浮かばないでしょうか?
「勇者と魔王」という設定自体は今となっては定番でありふれた物となりましたが、なぜありふれた設定となったのでしょうか。
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本記事では、その設定の源流を探しつつ、魔王側を主軸とした「アンチヒロイック」物語を採用したSouthPAW Games制作のNintendo Switch/PS 4/PC/Linux/Mac OS向けタイトル『Skul: The Hero Slayer』のプレイレポートをお送りしていきましょう。
勇者と魔王の源流は間違いなくあのゲーム
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ゲーム史そのものは古代エジプトまで遡ることになります。ただし、デジタルゲームに絞れば1980年代前後となるでしょう。当時の電子機器のスペックでは壮大なストーリーなどはマニュアルなどでのみ語られる作品が主流でした。
当時のアナログゲームに目を向ければ、ゲームブックと呼ばれる、文章を読みつつ、選択によりめくるページ数で展開が変わる物や、その源流である海外書籍、1974年に初版が発売されたTRPGの始祖でもある『Dungeons & Dragons』などがありますが、これらの中でも悪の主軸は魔術師や魔女であって「魔王」という設定は広く知られるものではなかったようでした。
デジタルゲームでストーリーが主軸となるRPGの原型でもある『Ultima』がApple-IIで発売されたのは1981年。あともうひとつの異なる作品と合わせ、現在のコマンド式RPGの源流といえる2大作品です。その後、83年には国産タイトルでは『ブラックオニキス』『夢幻の心臓』といったタイトルも出てきています。ですが、これらのタイトルの共通項として勇者と魔王という設定は一般的ではありません。当時の勇者像はどちらかといえば、映画の『コナン・ザ・グレート』のような蛮勇を誇る戦士というイメージが根強い時代でした。
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1983年にクリスタルソフトから発売されたテキストアドベンチャー『聖なる剣』では勇者が魔王にさらわれた姫を取り戻しに洞窟に向かうという明確な設定があります。ですが、筆者も知る限りでは勇者と魔王という単語が両立した作品は記憶にある限り本作品以外では出てきませんでした……。
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さて、職業的な「勇者」と明確な敵として描かれる「魔王」という設定が晴れて大きく一般化したファクターはどこにあるのでしょうか?
影響力を与えたのは間違いなく1988年発売の『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』と筆者は考えています。実のことをいえばシリーズでも3以前には勇者という概念はありつつも、魔王という明確な単語はありません。初代は魔界の竜王であり、2は破壊神と、それを呼び出す悪魔神官という構図で、3で初めて勇者が魔王を征伐するという構図になっています。
本作品は社会的なブームになり、その後、少なくとも日本において勇者と魔王という構図の土台は暗に本作品を思い浮かべるほどに一般化することになりました。実際に、それぞれの単語を耳にしたとき、勇者は世界を救い、魔王は世界を滅ぼすというようなロール(役割)を読者の方も思い浮かべるのではないでしょうか。
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勇者と魔王という構図が一般化されたとき、生まれるのが”逆張り”です。ただし、ただ斜に構えたものではなく、逆の構図を昇華した素晴らしい作品は既にこの年代からも登場しています。アンチヒロイックな作品の初期の作品としては、PC-88の『ラストハルマゲドン』やファミコンの『女神転生』などが挙げられますが、いずれも魔王と勇者という構図ではありません。
1994年には日本テレネットから発売された『ダークキングダム』、1996年のスーパーファミコンで奇しくも『ドラクエ』のエニックスから発売された『ダークハーフ』が明確な逆構図をテーマにした作品になっています。
そして現代に近づくにつれ、2003年には日本一ソフトウェアのPS2で発売された『魔界戦記ディスガイア』や2009年代にネットジャンルとして生まれた『まおゆう魔王勇者』など、魔王と勇者の存在、そこに度々生ずる逆転関係は一種のコメディとしても成立します。その後のネット上での展開を主流とした多数の投稿小説などの影響力もあり、今日ではそれらはエンタメ/ゲームとしての一つのジャンルとして、よく知られる類型となったのではないでしょうか。
では、今回紹介する『Skul: The Hero Slayer』はどういう作品になっているのか、実際にプレイしながら追っていきましょう。
国家としての魔王軍
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舞台となるのは魔族と人間が共存する世界。ある日カレオンという人間の国家は平和条約を破り侵略を行い、魔王城は壊滅します。魔王城の警備隊の一員であったリトルボーンは初めての戦場で、魔王軍の幹部だった魔女の救出に成功します。
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初代勇者の襲撃にあいながらも、なんとか魔王城へと戻ることに成功するふたり。しかし、危機に陥った魔王城を復興するため、リトルボーン(スカル)は捕らわれた魔王を含む幹部の救出を魔女に任され、単身カレオンへと向かうことになるというのが簡単な導入とストーリーとなります。
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カレオンへ向かう道中では、謎の黒い魔石の効果で暴走した魔族も溢れており、温厚なはずのエント族すらもスカルに対して牙をむきます。
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本作品の主人公であるスカルは、頭を他の頭蓋骨に差し替えることで元となる頭蓋骨の力を得ることができ、見た目もスキルも大きく変化します。頭蓋骨は二つまでキープすることができ、戦闘中に頭蓋骨を差し替えることで効果を発揮する頭蓋骨なども存在します。
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本作品はジャンルにもローグライクとあるように、進む道はプレイするたびに変化していきます。進行先は扉で区切られていて、先に進むためには道中の敵はすべて倒す必要があり、敵を全て倒すことで扉が開放され、クリアボーナスが与えられます。
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スカルは頭蓋骨だけでなく、アイテムも9個まで装備でき、このアイテムの組み合わせでも道中の難易度は左右されます。ただ、ゲームを始めたての展開ではスカル自体のステータスは低く、中ボスにたどり着くまでに何度も倒れることになるでしょう。
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敵を撃破することで手に入る魔石を城にいる魔女に渡すことで、スカルの基礎能力を強化することが可能です。最初は本当に弱いスカルですが、強化を重ねることで道中は楽になっていきます。
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ただし強化を重ねても、本作品は被弾した際のダメージは高く、割と難易度は高めになっています。序盤のボスにたどり着くまでにも大分時間がかかり、ローグライクの何度もやり直せるデザイン性にもマッチしているといえるでしょう。
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シリアスと緩急の塩梅の良さ
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本作品は、人間が攻めてきていて魔王城は陥落、幹部も捕らわれの身になっている危機的な状況ではあるのですが、登場するキャラクターは全員がシリアスな状況下にあるわけではありません。
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魔族の先祖が作った異空間にある避難地のキャンプでは買い物などができるのですが、そこにいる住民たちは割と争いごとに対しては他人事だったり、道中に捕らわれている一部の魔族も牢屋の方が快適というセリフがあったりと、緩い雰囲気も本作品には同居しています。
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気になる部分はあれど・・・
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本作品は難易度の高さはあれど、ローグライクの中毒性とアンチヒロイックのストーリー性のマッチングは見事で、ファンタジー感溢れるグラフィックも見事です。進行に応じて入るカットシーンもクオリティが高く没入感を更に高めてくれます。
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そのため、ゲームの本質には関係ないとはいえ、ローカライズはかなり目につく部分で気になるところが多いのが気になりました。ここは本作品で唯一惜しいと言える部分で、折角のクオリティの高さを落としてしまっています。
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とはいえ、ゲームの本質には関係ないという部分は事実で、本記事の執筆に至るまで筆者も相当の時間を注ぎ込むことになりました。既に数百時間プレイしていますが、それでもまだまだコンプリートには遠い状況です。
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魔王と勇者というアンチヒロイックをテーマにしつつも中毒性の高い本作品。一風変わったダークファンタジーを探しているならプレイしてみるのはいかがでしょうか。