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突然ですが、皆さんの夢は何でしょうか。1849年、西部開拓の只中にあったアメリカ合衆国では、より良い土地を求めて西を目指すことが国民の夢でした。山を越え谷を越え、砂漠をも越えた先にある約束の地。それがオレゴンです。
1869年に鉄道が開通したことで交通利便性は劇的に改善されましたが、それまでは半年以上かけて、人々は“オレゴン・トレイル”に挑みました。さらに容易に大量に、東海岸から西海岸へと船で移動できるようになるのは、1914年にパナマ運河が開通した後のこと。大西洋から太平洋まで統一するというアメリカの夢を叶えるため、その過酷な旅に従事した人々の歴史を題材にしたゲームで、彼らの記憶を追体験してみましょう。
今回は、Gameloftが開発し、2022年11月14日に配信された『The Oregon Trail』の気になる内容を紹介していきます。
『The Oregon Trail』とは
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本作は、西部開拓時代のアメリカを舞台に、大陸横断というアメリカ開拓民が成し遂げた軌跡を描く同名のシミュレーション作品群の最新作。プレイヤーは荷馬車と荷物、そして共に旅をする4人1組のチームを結成し、中西部ミズーリから西海岸オレゴンを目指します。
まだ道路や鉄道といったインフラが未発達であり、先住民との微妙な関係など、危険な道のりとなった旅路をゲームとして忠実に再現。病気やケガ、大自然の脅威をはじめとしたイベントに対処し、仲間や馬車を守りながら適切なリソース管理を行う必要があります。
1971年に開発された教育用プログラムに端を発する『The Oregon Trail』シリーズは、瞬く間に人気となって、様々なバージョンが公開されてきました。アメリカの子供たちに歴史を伝えるために制作されたシリーズの名を受け継ぎ、本作はまさに“歴史的”傑作を現代風の親しみやすいデザインで整えた作品です。
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また、本作は日本語を含めた複数言語に対応し、ボタン表記などフルコントローラーサポートを完備しています。
はじめての旅
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チュートリアルとなる序章をスキップすることも可能ですが、この手のジャンルの類に漏れず情報量が多いので、初プレイの方はきちんと目を通しておきましょう。プロローグでは新天地オレゴンを夢見る3人組を操作し、本作の基本的なシステムを学びます。
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ベテランのモージズ・ハリスの助言に従い、生命の次に大事な荷馬車を修理した後、オレゴン・トレイルの出発点であるミズーリ州インディペンデンスを目指すことに。古き良きバンド演奏のBGMに乗せて馬車は勝手に進んでいき、あらかじめ設定された数値に基づき、1日ごとの計算が行われます。
馬車の速さや食料消費量はプレイヤーが任意に変更できますが、今回はチュートリアルなので特に意識する必要もなく、イベントや話の展開も用意されたものなので難しいことはありません。ひとつひとつ自分のペースで確認しながら、本作の雰囲気やシステムに慣れていきましょう。途中、案内役のハリスがコレラ感染するというアクシデントはありましたが、一行は無事に町へ到着。ここから本編が始まります。
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ちなみに、チュートリアルで操作した3人組はシナリオ固定の構成らしく、ジュリアの特性である大工はアンロック要素です。これについては後述しますが、プレイヤーが最初に選べるのは平凡な人員ばかりなので、しばらくは低調な立ち上がりになるかもしれません。アンロックはストーリーや短編シナリオの進行で解除できるほか、メンバーは旅を通して成長するので、育てるプレイも可能となっています。
さっそく本編を開始するにあたり、筆者は通常難易度を選択。ゴールとなるオレゴンシティまでは4つの砦を通ることになりますが、一度でも到達した砦はスキップが可能という親切機能も実装されています。第1行程は5月ということで比較的平坦で温暖な環境ですが、現実のオレゴン・トレイルにはロッキー山脈や大砂漠などが存在し、そこに冬が訪れるゲーム後半の苦難は想像に難くありません。
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冒険とはスリルであり……すなわち死であった
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どんなに困難であっても、そこに夢と希望と興奮を見出すのがアメリカ人というものです。オレゴン・トレイルへ挑戦する前に、運命を共にする4人のメンバーを選びましょう。おそらくはランダム生成されているキャラクターには、それぞれ異なる特性が設定されており、ここでの選択が旅の結末を左右するのは言うまでもありません。
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筆者が選んだのは銀行家のエマ、冒険家のレイチェル、農民のパティ、伝道者のノア。女子3人に男1人という既視感のあるハーレム構成ですが、唯一の男性枠であるノアは自己中心的という癪に障る人物なので、何かしら危ないイベントがあったときの毒味役です。ビジュアル的にも強気で交渉が得意そうなエマが隊長、残りの2人はお嬢様の付き人といったところでしょうか。
そんなわけで始まる今回の旅。これはゲームの仕様か構成したチームの無能か、あるいは単純に筆者の不運によるものなのかは不明ですが、本作の特徴が遺憾なく発揮された厳しいものとなってしまいました。
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実際、グレートプレーンズは“大アメリカ砂漠”とも呼ばれ、居住には適していないとされていました。それを象徴するように河川が馬車の行く手を阻み、荒れ地に食料はなく、馬車も少しずつ壊れていきます。さらには、チームの能力が極端に低いことが発覚し、せっかくのイベントチャンスもことごとく失敗。動物が現れても仕留めることができず、値下げ交渉も上手くいかず、信じる心を知らない農民パティの存在もあって雰囲気も最悪です。
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最初のステージで早くも状況が絶望に向かう中、食料を扱う商人に巡り合えなかったことが致命傷となり、ついには1日の食事にも事欠く有様に。ワラをもつかむ思いで怪しいキノコに手を伸ばしますが、万能が取り柄でありながら能力値が最低の冒険者レイチェルが採取に失敗し、それでも数日分の食料を確保します。餓死の予感が現実のものとなり、腹持ち以外の全てを犠牲にして先を急ぎました。
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しかし、砦まで52マイルのところで飢餓に突入し、一行だけでなく馬車を引いている牛まで疲れ果ててしまいます。もはやリセットやむなしと思われた矢先、パティが狩りの機会を得て、農民の英知を活かして牛も治療。砦が目前に迫るころには、同じように飢えていた夫婦に食料を分け与えるほど見事なV字回復を果たしていました。
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いったい、何が彼女を突き動かしたのでしょうか。パティはチームの期待に応え、これまでの失態を挽回してくれました。
ただ、チームのことは筆者が神の視点からマメにケアしていたので、たとえパティが最後までヘソを曲げていたとしても数日の余裕はありました。プレイを重ねて慣れていけば、出発前から備えることもできますし、簡単な難易度もあるのでシミュレーションが苦手な方でも安心して楽しめます。
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適材適所の意味を知る
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本作にはメインストーリー以外に、固有の設定で特定のクリア条件を目指す短編シナリオも用意されており、その報酬として新クラスや新アイテムが解放されます。チュートリアルに登場した大工は馬車の修理を得意とし、医者はケガの治療、罠猟師は動物相手の事柄に長けているといった具合です。
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シナリオ自体は短いものですが、それだけクセのある展開になっていることもあり、ゆっくり進んでいく本編とは違った楽しみ方があります。報酬はシナリオの内容と関係しているものが多いので、その練習も兼ねて遊びながら理解を深める感覚です。
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試しにいくつかシナリオをクリアし、拙い展開が続いた初プレイの汚名を挽回すべく、めぼしい要素をアンロックした状態で新しいチームを作りました。顔ぶれは完全に一新されたものの、やはり隊長は銀行家のハッティーが安定。アンロックされた罠猟師のロイ、前回に続き農民のガス、そして第二の新クラスである医者のチャールズの4人です。
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結論としては、前回のプレイなど存在しなかったかのように、高い能力値に裏付けられた活躍を見せてくれました。これぞ本物の銀行家とばかりに、圧巻の能力値5でコーヒー豆を安く買い上げた隊長ハッティーをはじめ、彼女たちならオレゴン到達は時間の問題でしょう。チームをリセットするとストーリーもやり直しになりますが、1つ目の砦まではスキップできたので今回は純粋に続きからです。
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すると、砦を出発して間もなく、農民ガスが食料を乾パンにしようと提案します。ガスに個人的な恨みはありませんが、言われるがまま従うのも癪なので、妥協案として半分だけということに。この曖昧な判断が後に一生の亀裂になるとは、まだ知る由もありません。
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この第2行程にはバッファローなどの動物が多数生息し、行く先々で狩りの機会があります。猟師ロイの能力値が最低だったことはさておき、いきなり大量の肉を入手し、アンロック要素の罠ボーナスによって過剰なほど肉が手に入りました。あんなにもひもじい思いをした前回のプレイがウソのようです。
肉長者としてオレゴンを目指す一行に敵なしと思われたのもつかの間、小麦粉に執着するガスが確認したところ、なんと食料に虫が発生します。あのとき、ガスの言うとおりに全て乾パンにしておけば……というのは“たられば論”。その道の専門家をチームに招聘し、システムに対する理解も深まってプレイ自体は極めて順調でしたが、ガスが恨めしそうな目でハッティーの背中を刺し続けるのが辛くてたまりません。
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本作には、制限された状況下で物資をやりくりして生き延びるという現代にも通ずるシミュレーションの醍醐味が存分に含まれています。まだ序盤ということもあって困難の程度も想定内のものでしたが、初プレイ時の筆者のように適切な対処を怠れば、容赦なく死の危険が迫ってくるので油断はできません。
全くの無から何かを作り上げる種類の作品ではありませんが、用意された舞台の中で様々なシチュエーションを創意工夫で乗り越えるプレイが楽しめるので、より厳格なジャンルに挑む前の小手調べとして最適です。もともと、学校の授業教材として開発されたシリーズでもあり、難易度も選べるのでゲームに不慣れな方にもオススメできます。個人の方もファミリーの方も、偉大にして親愛なるアメリカの歴史を本作で楽しく学びましょう。
『The Oregon Trail』は、PC(Steam/Microsoftストア)およびニンテンドースイッチ向けに配信中です。