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「スマホゲーム」は多くの作品がユーザーをゲームプレイに日々繋ぎ止め、ディープになればなるほど他者との繋がりを重要としていくジャンルです。そのレッドオーシャンの中に現れたスマホ向けタワーディフェンス『アークナイツ』は、他プレイヤーとの関係性に強く依存しないほぼシングルプレイのゲームとして、2019年に中国でリリースされました。2020年にはグローバル向けに配信され、2022年にはアニメ化、そしてこの2023年1月初週には東京ビッグサイトで単独のリアルイベントを行うまでに飛躍しました。
ソーシャルゲームでは競合の多い「タワーディフェンス」というジャンル。生まれては消え、消えては生まれる本ジャンルで、シングルプレイゲームとして“サービス開始から4年”を越えるのは偉業といっていいでしょう。
このレッドオーシャンで4年も生き残った『アークナイツ』とはどのようなゲームなのか……?これまで「ソシャゲ」「スマホゲー」の隆盛とはちょっとした線を引いていたGame*Sparkですが、ここで『アークナイツ』で展開する厳しい“テラ”の世界について、読者の皆さまにも知っていただきましょう。
不治の病が蔓延する不平等な世界
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動物をモチーフにした様々な種族が混在し、現代の地球と似た文明を持つ惑星「テラ」が本作の舞台。天災と呼ばれる嵐に近い災害から逃れるため、都市を移動可能な巨大な艦に変え、さまざまな国家が活動しています。そんな天災の跡から、都市の動力、生活燃料、「アーツ」と呼ばれる特殊能力の源となる工業資材「源石(オリジニウム)」が見出されました。
「源石」は無くてはならないエネルギー源ではありますが、これは体から鉱石が生えるという不治の病である「鉱石病(オリパシー)」の原因ともなっています。一度感染すると最終的には体が源石となって爆発し二次災害も巻き起こすため、治療方法もない感染者は世界中で忌み嫌われています。
「鉱石病」の治療に大きな進歩をもたらし、感染者の保護や医療活動も行う「ロドス・アイランド製薬」が本作のストーリーの要です。プレイヤーの分身となるのは、その製薬企業の「ドクター」。どこの国家にも属さない存在ですが、長いコールドスリープの果てに記憶を失っており、性別や経歴、人種も不明。そして、高い戦闘指揮能力を要しています。
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感染者は各地で迫害されており、感染者たちが軸になって蜂起した「レユニオン・ムーブメント」と呼ばれる軍事的な反乱も各地で起きています。ドクターはコールドスリープの目覚めと共に彼らとの戦いに巻き込まれ、ロドスに所属するオペレーターに指揮を出し各地での争いや窮地を脱していくことになります。
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本作品のもう一人の主人公でもありヒロインである「アーミヤ」は、若干14歳でロドスのCEOを務めることになります。シナリオの根幹にも大きく関わる彼女は、ドクターの目覚めや記憶にも大きく影響しています。
ここまで説明してきたように、本作のストーリーはかなり重厚です。自ら意志を持って感染者になった者たちの哀歌、ロドスと掲げる目標は同じながら相容れない陣営との衝突、国同士の諍いなど、非常に暗くてシリアスな展開が続きます。キャッチーなキャラクターに彩られつつも、過酷な世界が険しそうに動く様は、ぜひゲーム中で確かめてみていただきたいです。
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本作の主なゲームプレイは、さまざまなプラットフォームでおなじみとなった「タワーディフェンス」です。最終防衛ラインを守り、敵を規定数通さないよう耐え続ければステージクリア。ユニットであるオペレーターは最大12人まで編成でき、作戦毎に編成を変えシナリオを進めていきます。
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本記事執筆時点(2023年1月)で、編成可能なオペレーターは総勢200人以上。オペレーターを入手する手段はガチャの他、ステージ報酬など多種多様な手段で入手可能です。しかし、本作品の特筆すべき点はオペレーターのパワーバランスにあります。
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本作品のオペレーターのレアリティは「★1」から「★6」まで設定されています。ソーシャルゲームはインフレが必至と言えますが、後からリリースされた高レアリティなオペレータが抜群に優れているわけでもなく、とりあえず「★6があればクリアが容易になる」というほど頼れる存在でもないのが、『アークナイツ』の優れた点です。画像のシルバーアッシュは★6に当たるオペレーターではあるものの、サービス開始初期から現時点まで大勢のドクターに使い倒されています。
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ステージの難易度は後半に進むに連れて上がっていきますが、戦略と知恵を絞れば低レアリティでもほぼ全てクリアでき得るのが本作の妙です。その上、特殊な縛りプレイも広く行われているくらいにはプレイスタイルに幅があります。
シングルプレイがゆえの楽しみ方
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ガチャを引いても即座に戦力になるわけではない点も、本作の特徴のひとつ。オペレーターにはそれぞれ「レベル」と「昇進」という概念があり、育成が必要となります。オペレーターを育てるためには沢山の素材や龍門幣(ゲーム内マネー)が必要になるのですが、『アークナイツ』には「素材をリアルマネーで買う」という手段はありません。課金したところで一足飛びに強力になる、というわけではないのです。
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素材や龍門弊を集めるにはステージを周回する必要がありますが、ミスなくクリアしたステージでは「自動指揮」というオート周回機能が使えるので、面倒な“稼ぎ”はかなり簡略できます。この辺りもユーザーにはかなり優しい仕様といえます。
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そんな数少ないソーシャルゲームとしての要素が「戦友枠」で、フレンドが所有しているオペレーターを戦闘で1体だけ借りることができます。持っていないオペレーターを使ってみたり、手持ちで補強できない部分をカバーできるサポート的なシステムです。ただし「戦友」を借りた場合は、前述の自動指揮が解禁されないので要注意です。
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数少ない課金要素も「ガチャ」と見た目を変える「コーデ」といわれる要素だけであり、後者はゲームバランスには影響はしません。いかにも「モバイルゲームらしい」という点としては、いわゆるスタミナに該当する「理性」要素が挙げられます。「理性」は課金通貨である純正源石の他、ゲーム内アイテムで回復可能ですが、育成を一気に進めるような目的がなければ、大きく消費することはまずありません。
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ゲーム内ゲームの充実、細部まで練られたこだわり
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本作の開発元は中国の「Hypergryph」。一部では“レコード会社がゲームを作ってる”とまで揶揄されるほどに、音楽面のコンテンツが充実しています。イベントや季節の節目にはゲーム内では一切使用していない新曲を公開したり、自社でレコードレーベルを立ち上げるといった展開も見せていました。レーベルサイトのMonster Sirenでは劇中歌の他、イベントごとの楽曲が試聴できます。
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元々は中国産ゲームであるにもかかわらず、全てのオペレーターは日本語吹き替え音声が当てられていたのですが、アップデートによってそのボイス量は増加。多くのオペレーターにマイナーな方言を含む多言語音声まで実装され、ゲーム中で切り替えられるようになりました。解説がなければ伝わらないほどに細かいこだわりが多く、“リィン”というオペレーターには中国の都心部だと通じないマイナーな方言が実装されていたりします。
本作の舞台である“テラ”は現代の各国家をモチーフにしており、中国をベースにしたと思われる炎国に所属し、長命である彼女を表現するため、中国の西部のかなり古い方言を採用しています。アニメでも登場した“チェン”は後々のアップデートで広東語の方言が追加されていたりと、音声だけでも細かいこだわりを感じられます。
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細部における極めつけは、理性を消費せずにプレイできるオマケ的なモード「統合戦略」。簡単に言えば手持ちのオペレーターでプレイするローグライクで、遊べば遊ぶほどに報酬を貰える太っ腹な仕様になっており、本編とはまた違った面白さを体感できます。
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出会いはそれぞれ、いつ始めてもテラの大地は過酷
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ゲームを始めるきっかけは人によって大きく変わり、何があなたの心を掴むかは分かりません。筆者が『アークナイツ』を始めたきっかけは『レインボーシックスシージ』コラボイベントでした。
まだタチャンカがネタとして楽しまれていた頃に「タチャンカが実装されたらプレイするわ」と冗談のつもりで言っていたら本当に実装されてしまったのです。当時提供されたコラボイベントは歴代でも難関と言われており、筆者は「コラボイベントだし簡単でしょ……」と舐めてかかったことで、険しく過酷なテラの大地に倒れました。
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また、本作品はユーザーコミュニティを重要視しています。先行リリースしている中国では周年毎に公式からユーザー制作コンテンツが紹介されていたり、前述のチェンの広東語ボイスはユーザーコンテンツから採用されたという経緯もあります。
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本作はアジアのみでなく、英語圏でもサービスインしています。ちなみに英語版では、他地域版でスラングとして伏字になっている部分も翻訳されていて、その箇所を見るためだけにプレイしているドクターもちらほらいるようです。
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そんな本作品も日本では2023年1月で3周年、中国では4周年を迎えます。周年を迎えるタイミングは毎回スタートダッシュしやすい環境になっているので、本作品に興味を持った読者だけでなく、以前プレイしていたドクターも、再びテラの大地に還ってきてはいかがでしょうか?
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