リメイクでの変更要素はなにをもたらすか
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それでは、リメイク版ではどのような点が変わったのでしょうか?まず大きな点は、主人公・アイザックの顔や性格が大きく変化していることです。リメイク版では顔のモデルが『Dead Space 2』以降で声優を務めたガンナー・ライト氏に変わっており、かなり温和な印象になりました。原作ではセリフを発しませんでしたが、今回は通信で会話するなど状況に合わせて喋るようになっています。
ぱっと見の印象では原作のほうが好きでしたが、やはり一言もしゃべらないのは不自然でした。ある程度言葉を返すようになり、感情もあらわにするようになったアイザックのセリフは、ストーリーへの没入感を高めます。
ストーリーの本筋自体の構成はおおよそ原作と変わりありません。中盤あたりは直接的な事態の進展が乏しく、イシムラ内の過去の出来事を記したテキストログ・オーディオログに頼りがちなストーリーテリングでいまいち頭に入りづらいです。一方で、イシムラに隠された秘密に迫る終盤はストーリー上の盛り上がりもあり惹きつけられます。
新たに追加されたサイドミッションはメインストーリーとは異なる任務をこなすことが目的となりますが、こちらも役割としてはテキストログ・オーディオログと似ています。アイザックが主体で物語を動かすわけではなく、過去起きたことを辿るだけなので、いまいちインパクトに欠ける追加要素でした。
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演出としては一瞬のドッキリを重視した、ジャンルとしては「ジャンプスケア」的な驚かせ方が多いのが気になるものの、狂気に呑まれてしまった生存者がまれに現れることや、敵に追い詰められる感覚は楽しいです。リメイクで追加された、自動で恐怖演出を調整する「インテンシティ・ディレクター」機能もありますが、プレイヤーがその効果を実感することはあまりなく、原作からの進化はわかりづらいです。
ワンカット方式の採用やグラフィック向上で没入感が高まる
原作の評価点として、プレイ中にゲーム的なUIが出ず、体力やインベントリなどすべてのUIがゲームの世界と直結した演出でもある点が挙げられます。リメイク版ではさらに、『ゴッド・オブ・ウォー』(2018)でも使われたワンカット方式を採用することで起動時とリトライ以外のローディングを排し、さらに没入感を高めることに成功しています。起動時のローディングからゲーム開始までも驚くほど素早く、すぐにゲームの世界に引き込まれるような感覚でした。
ロード時間に関するこだわりはそれだけではなく、原作でもチャプターをまたぐ際に必ず移動演出を挟むなど、露骨なローディングを感じさせない工夫があったところ、そもそも該当部分の仕様がまったく変わっていたことに驚かされました。今作では、常に自然な流れで次のチャプターに移行するようになったのです。それに伴いイシムラのマップはひとつなぎになり、新しい部屋や作り込みが変わっている部屋もみられます。
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グラフィックに関しても大幅な強化がなされています。リメイク版はモデルディティールやテクスチャなど全体的に作り込まれ、美しい空間はとても美しく、気持ちの悪い場面は本当に気持ち悪く感じます。2023年の水準として申し分ない完成度といえるでしょう。
特にライティングは原作と比較してもかなり暗い場面が増えており、イシムラ内の雰囲気を高めています。無重力・無酸素の宇宙空間は温度感が伝わってくるような、寒そうな表現になっており、本作の世界の説得力をぐっと高めます。
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同作を原作当時話題とした魅力のひとつであるグロテスク表現については、グラフィックの向上に伴い品質自体は上がったものの、現代においてもはや特別目を見張るほどの特徴ではないと感じました。それでも後述する「皮むき」システムでの敵の損傷表現や、頭を食べられたり全身がバラバラになったりと特殊な死亡モーションなど、十分な新鮮味は確保されています。
ゲームプレイは原作の粗を取り除き、全体的に遊びやすい仕上がり
それでは、リメイクによって変わったゲームプレイ部分にも目を向けましょう。新たなダメージシステムとして、リメイク版では「皮むき」システムが搭載されています。これは、敵を撃つことで肌から肉、肉から骨、という順番で敵の肉体を損傷させるというものです。このシステムについては本作が持つUIへのこだわり同様に、新たなグロテスク表現と敵の損傷具合の視覚的なインジケーターを両立した素晴らしいものだと感じました。
原作は素晴らしいゲームでしたが、決して完璧ではなく、あまり良くなかった部分も存在していました。印象的なシーンとしては、無重力パートが挙げられます。原作では飛びたい場所にエイムしてジャンプするというここでしか使わないような特殊な操作方法が採用されており、あまり操作しやすいとはいえませんでした。リメイクではLB+RBで離着陸を切り替え、左スティックで移動、押し込みで加速(ダッシュ)という通常時と似た操作にかわり操作しやすくなりました。が、リメイク版であってもカメラの操作が安定しづらく、軽い3D酔いを覚えるほどであったので、もう少し改善の余地もあったように思えます。
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ほかには、かなり難易度が高く不評も多く聞かれた、小惑星を撃ち落とすシューティングパートが存在しました。リメイク版ではこちらは純粋に大きな改善を見ています。具体的にはアイザックが無重力の宇宙空間に出て自動照準装置を起動、狙ったところに攻撃要請を出して5つの小惑星を撃ち落とすというものに変わっています。
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これらだけでなく、原作での不評部分の多くにこのリメイク版はしっかり向き合って改善を施した形跡が見られます。中盤で戦う巨大ボス「リヴァイアサン」は原作ではそもそも無重力パートの操作が違ったため常に走ったり飛んだりしながら攻撃しなければなりませんでしたが、操作が改善されたためとても戦いやすくなっています。
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一方で、その親切さが行き届かなかったのか、それともゲームデザイン上の意図として譲れなかったのか、面倒なザコ敵は未だに面倒なままです。巨大で耐久力も高い「ブルート」や、壁に張り付いて厄介なザコ敵を排出する「ガーディアン」、体が小さく大量に湧いてくる「スウォーム」などは対処に手間がかかりイライラしますし、本作が持っているシューター的面白さから逸脱しているように感じます。プレイヤーのリソースを削ぎたいという意図は理解できますが、ブルートを除きほぼ原作そのままなのでもう少し調整が欲しかったです。
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ほかにも細かな不満点を指摘するとすれば、まずムービースキップがないことが挙げられます。筆者の場合はこれによる不満は一箇所でしか感じませんでしたが、リトライ位置がシーンの直前以外の場合、何度も同じカットシーンをみるのは苦痛です。特定のイベントをこなすとフリーズしたり、字幕が表示されなかったりとせっかく高まっている没入感を削いでしまうバグが存在するのも残念でした。しかし、これらの問題点はアップデートで解消可能な範囲ではあります。
リメイク版『Dead Space』は、原作にあった良い点はオミットされずそのまま楽しめる一方で、面倒な点・悪い点はブラッシュアップされ、現代向けに調整されています。四肢切断が重要な、類を見ないシステムは今でも魅力的に輝いていますし、サバイバルホラーとしてのリソース管理の面白さも確かに確保されています。
ただ、原作既プレイユーザーには少し物足りません。ありがたいことに、昨今でも(英語さえある程度わかれば)原作のPC/Xbox版は新規ユーザーであっても気軽に遊べる環境が維持されていますし、PCであれば英語がわからずとも有志日本語化で楽しむことができます。そのため、概ね原作通りである本作に対しては“リメイク”としてもう1歩踏み込んだ要素がほしかったと感じました。ただし、これは逆に言えば、「過去の傑作を現代に伝える」という視点において本当に堅実なリメイクといえるでしょう。日本のゲーマーからという視点から見ても、メインシリーズ初の公式日本語版として、原作に準拠しつつも2023年の基準で遊びやすい『Dead Space』をプレイできるという意義のある作品です。
原作および本作が目指した目標の1つであろう「没入感」については、リアルになったグラフィックやローディングのないワンカット方式の採用で、あるべき形で向上しています。しかし、没入感が以前より増したからこそ敵を倒したときにポロッと落ちる報酬アイテムや世界設定的に説明の付かないセーブポイントなど、いわゆる「ゲーム的な部分」は原作よりも目立ち、恐怖感に完全に浸れるわけではありません。
もちろん、ゲームとしてのわかりやすさ・快適さを保つためにはしかたなく割り切らなければならない要素は必ず発生します。それでも、原作『Dead Space』が世に初めて出てからゲーム業界が辿った15年は、さらなる没入感をどう提示していくかを課題とできるほどに着実な進歩だったのでしょう。そこにどう向き合うかが次の15年に求められているのかもしれません。
・ライティングの向上により、恐怖感が増加
・ワンカット方式や自然なチャプター移動が採用されたことで没入感が向上
・原作の良さはそのまま楽しめる一方で、面倒な部分は概ねブラッシュアップ
悪い点
・対処に時間がかかる敵はシューター的な面白さから逸脱している
・無重力パートのカメラワーク
・没入感を削ぐ細かなバグや不便な仕様
《みお》
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