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前回英語の成り立ちについて、語源からアングロサクソン、ヴァイキング、ノルマン人の侵略の歴史を読み解きました。分厚い英和大辞典になると、巻頭にこれらの説明、項目毎に語源が記載されているものもあります。
そのルーツが文法にも影響を及ぼしていて、比較級でも“~er than ” “More ~ than” “~ to”の3種類あり、3つめの「~ to」になるもの、「Prefer」「Superior」などはラテン語由来です。比較表現は元々「~er」の形だったところへ、あとの2つが流入してきたので種類が増えてしまいました。学習の時にこの辺で面倒さを感じるでしょうが、背景を知っておくと言葉の発祥の見分けが付くようになるので意識しておくと良いでしょう。
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英単語には語の先に付く「接頭辞」、基本の意味を成す「語幹」、後ろにつく「接尾語」がありますが、「Impossible」などこの3つが揃っているものはほぼラテン語です。ゲルマン系の言葉だと、短い動詞と副詞を組み合わせた「句動詞」、例えば“Get out”“Go on”が大半で、かつては「Upset」「Forgive」などの副詞+動詞の形で単語を形成する場合もありました。現在よく使う「Upload」「Download」も“Load up”“Load down”と言っても違和感は少ないですよね。
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また動詞の名詞化でも「~ting」のタイプと「~tion」のタイプがあり、これもゲルマンラテンの違いです。こういったことを抑えておけば、英語学習にお手も十分役立ちますし、何かで造語をやるときに法則を外す、変える、でたらめに配置すると既存原語風かつ語感に違和がある、なんとなく意味は分かる魔法界のような呪文が造りやすいです。
「ハリー・ポッター」で使っているのはラテン語の接尾辞や動詞活用。例えば『ホグワーツ・レガシー』でよく使う「Revelio」の呪文は、本来のラテン語「Revelo」の変化には存在しない形です。「Petrificus Totalus」の2語も同様で、ラテン語よりは英語の「Petrify」「Total」にラテン語風の「~us」を付けた感じです。ファンタジーでは厳密な文法よりも特殊な印象を出せれば良いので、トールキンのように作り込むケースはまれでしょう。どこまでやるかは作者のこだわり次第です。
ということで、リクエストにお応えして呪文のラテン語とそれに関連する英単語をリストアップ。系統の違いを意識して覚えましょう。
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ラテン語
Incendio インセンディオ
意味:燃える
派生英語Incense(お香)
類語:Fire
Confringo コンフリンゴ
意味:打ち砕く
派生英語:Fract
類語:Break
Descendo ディセンド
意味:降下する
派生英語:Descend
類語:Down
Reparo レパロ
意味:修復する
派生英語:Repair
類語:Mend,Fix
Protego プロテゴ
意味:守る
派生英語:Protect
類語:Guard
Accio アクシオ(アッキオ)
意味:呼び寄せる
類語:Call,Summon
英語
Stupefy スチューピファイ
意味:感覚を鈍らせる、麻痺させる
関連語:Stupid
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造語
Lumos ルーモス
原語:Lumen(羅:光)
派生語:Illuminate
類語:Light
Revelio レベリオ
原語:Revelo(羅:明らかにする)
派生英語:Reveal
類語:Disclose
Petrificus Totalus ペトリフィカストルタス
原語:Petrify(英:石化)+Total(羅/英:全体)
Expelliarmus エクスペリアームス
原語:Expel(羅/英:取り除く)+Arms(英:武器)
類語:Rip, Weapon
Wingardium Leviosa ウィンガーディアムレビオーサ
原語:Wing(英:羽根)+Levo(羅:浮く)
派生英語:Levitate
類語:Flow
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ラテン語系の英単語は現代のロマンス語群にも多く共通しており、イタリア語で「Posso」は可能であることを示す単語(一人称)ですが、英語の「Possible」とルーツを同じくします。同様に「Can」もドイツ語の「Kann」と共通しています。第2外国語を習うときには、英語で知っている単語を活用して効率よく覚えてみてはいかがでしょうか。