『高機動幻想ガンパレード・マーチ』『絢爛舞踏祭』『新世紀エヴァンゲリオン2』。これらのタイトルを聞いて、芝村裕吏氏の名前をすぐに連想するゲーマーの方も多いでしょう。芝村氏はゲームや小説などさまざまな作品を手がけるクリエイターで、同氏のゲームをプレイした、小説を読んだという人も多いのではないでしょうか。
そんな芝村氏の手がける新作ジュブナイルRPG『LOOP8(ループエイト)』が、マーベラスよりPC/PS4/Xbox One/ニンテンドースイッチ向けに、2023年6月1日(PC版は6月7日)に発売されました。舞台は1980年代の日本の田舎町、主人公はループする世界の中で人々との交流や人類を脅かす厄災“ケガイ”と戦う世界の夏を描いた作品です。
本作の最大の特徴はエモーショナルAI「カレルシステム」で、プレイヤーの選択や行動により登場キャラクターの感情や人間関係が常に変化していくというもの。イベントやセリフはもちろん、バトルの強さにも大きく関わってくるシステムは、世界の根幹に繋がる“ループ”とあわせて、さまざまな世界やキャラクターの姿を楽しむことができるものです。
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本記事では、待望の“芝村ゲー”最新作『LOOP8(ループエイト)』のレビューをお伝えしていきます。なお、本記事のプレイおよびスクリーンショット撮影はニンテンドースイッチ版を使用しています。
人間を読み解く「カレルシステム」の面白さ
本作のエモーショナルAI「カレルシステム」により、舞台である葦原中つ町に住んでいるキャラクターはそれぞれの感情を持ちながら生活しています。その感情は主人公・ニニが話しかけたり、他の相手への想いが近くにいたり、さまざまな要因で変化していくのです。
ゲーム内ではそれぞれの人間関係が友情・愛情・嫌悪の3つのパラメーターで示されています。その数値によって友達や盟友や伴侶といった「相手への想い」が変化していくのです。主人公は会話(提案)を通じてキャラクターとの関係性を構築していくのが重要です。
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また、そのキャラクターごとの「直前の行動」によって機嫌や気分、欲求などの感情が常に変化していきます。例えばさっきまで上機嫌だったキャラクターが、他の人と会話した直後に突如不機嫌になるといったことも珍しくないのです。このシステムにより、何度プレイしても予想外の交流が生まれることもあります。
提案の成功率は、関係性だけでなく機嫌や雰囲気に左右されるので、何よりも“場の空気”を読むことが重要。幸い主人公(プレイヤー)は「見鬼の才」と呼ばれる特殊能力で、感情の変化を見抜けます。この「見鬼の才」は便利なだけでなく、人間の変化の面白さをダイレクトに楽しむ『LOOP8』の醍醐味でもあります。
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場の雰囲気を読むことでキャラの命を読み解く
『LOOP8』では感情を読むことで、コロコロ変化する相手を読み解きながら良好な関係を築くことが容易になります。ただ、提案するときにある程度の成功率が表示されるため、よほど賭けに出ない限りはそこまで大幅に関係の悪化はありません。ならば、なぜここまで人間関係に有利な「見鬼の才」があるのでしょうか。
筆者はそこにエモーショナルAIという、ある意味で独自の意志を持つ、そしてある意味でシステマチックなものに対する“物語を作る楽しさ”を感じます。もし『LOOP8』で、この「見鬼の才」を使わなければ、わけもわからず機嫌が変化するキャラクターに翻弄され続けてしまうでしょう。
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しかし、彼らの行動を読み、その感情の機微を読み解き、そこに自分が介入するor介入しないを選ぶことで、ゲーム内のキャラクターたちに“命”を感じられるようになるのです。例えば「さっきまでラブレターを書いてて/怒り気分で/冒険欲にかられている」キャラクターが見えたなら、その背景って想像したくなりませんか?
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もちろん、主人公自身がその才能を活かして積極的に“場の空気”を壊すこともできます。筆者は初回プレイで誰彼構わず仲良くなり、多くのキャラから恋人以上の感情を持たれる様になりました。その結果、特定の人物が同じ場にいると「ギスギスした空気」を作り出すようになり、最初は戦慄しましたが、ある程度周回したらこれも楽しいな!と思いました。
キャラの誰もが個性豊かで、様々な事情を持ち、主人公との関係性は無限大。仲良くなればこちらが「他のキャラと仲良くして」といった提案も可能で、葦原中つ町の感情の支配者気分も楽しめます。それでも、やはり“感情という生き物”はなかなか御せないもので、それがなにより面白いのですが……。
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「世界を知り己を知る」ループすることの意味
本作では主人公が死んだり、特定の期日までにボスを倒せなかった場合にゲーム冒頭へとループします。ループすることで、基礎能力やキャラクターとの関係性がリセットされますが、マップ内やイベントで獲得した「加護」と呼ばれるボーナス値や前周回の能力・関係性に近付けやすくなります。
つまり本作は基本的に、ループすればするほど有利な状態から始められるわけです。ゲームに慣れないうちは「加護」を集め、交流しながらループに備えていくことが重要です。もちろん、交流での会話やイベントも楽しむことで、物語に隠された謎も少しずつ紐解かれていきます。
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先述の「カレルシステム」とループの組み合わせは相性が良く、毎度プレイしながら新しい会話や自分なりの“今回の葦原中つ町の歩き方”を楽しめます。なお、重要なイベント自体は基本的に繰り返しになるのですが、テキストの早送りやムービースキップも可能です。また、戦闘演出なども簡易化できますよ。
「加護」にはステータスアップや好感度変化などの種類があり、しかも全キャラクター向けに用意されています。特定のキャラクターの「加護」を見つけるためには一緒に行動したり、仲良くなったりする必要があります。『LOOP8』はクリア自体はそこまで難しくないのですが、多くの「加護」を見つける、キャラクターの一面が垣間見えるイベントを見つける、そういった意味でもループの存在感はあるのです。
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もちろんこのループそのものが、本作の物語で最も重要な仕掛けなのはいうまでもありません。作品の真実にたどり着くまで世界を見て回るか、己を極めるか。ゲームに有利な要素となりつつ、ループに意味を持たせているのは好印象です。
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“感情”をダイレクトにぶつける戦闘
そして『LOOP8』では、基本的にボス戦しかないのも大きな特徴。ゲーム内では“ケガイ”が憑いたキャラクターがボスとなり、目標期間までに倒すことが目標となります。一応ボスの居る世界「黄泉比良坂」では雑魚戦もあるのですが、特にやらなくても(ほぼ)問題ありません。
そのため、本作には経験値やレベルの概念がなく、あくまで一般生活で鍛えたステータスが重要になります。ただしループすればステータスは元に戻るので、そのために基礎ボーナスとなる「加護」が大切なのは説明していますが、決してそれだけでは決して強力なボスには勝てません。
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戦闘中、主人公はアクションに友情・愛情・嫌悪という3つの“感情”のいずれかを込めることになります。込めた“感情”は効果が異なり、嫌悪は最も攻撃力が強いものの敵の強さレベルを上げてしまい、愛情はその逆の効果を持っています。また、主人公とボスになったキャラクターの関係性によってその強さが変化します。
さらに、主人公と一緒に戦ってくれる仲間も、その関係性を常に意識することになります。仲間キャラクターはこちらから指示を出せないため、その行動に合わせてサポートをしたりすることも重要です。この関係性や感情が難易度に直結する戦闘システムも、最初はかなり苦労するかもしれません。
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ただ、慣れてしまえば本作の戦闘はかなり簡単です。主人公の技自体もそこまで多いわけでなく、ある程度の行動しか必要ないとも言えます。そこに“感情”をぶつけるシステムにすることで、作品全体の雰囲気にあった、重要なファクターとして昇華しているのです。
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楽しむ土台はあるが、気になるテンポの悪さ
生活を楽しむ「日常パート」と戦闘を行う「非日常パート」を繰り返し、やがてループしていくことで本作はゲームを進めていきます。これまで説明してきた通り、本作は日々の生活から戦闘に至るまで、すべて“感情”が重要になるシステムが搭載されています。
「今日はあいつとデートもしようかな!」と日々の目標を立てたり、突発的に発生するイベントを楽しんだり。もちろん超効率的なプレイを楽しんでもまったく問題ありません。ユーザーなりのスタンスを見つけ出せる作品です。筆者はそこに芝村氏のゲームらしさを見い出せています。
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ただし惜しむらくは、とにかくゲーム内のテンポの悪さ。戦闘時のフレームレートの低下やイベントごとのローディング、主人公の移動が微妙に遅いことなど、多くの問題に起因しています。ゲームとしてはループしながら答えを見つける作品なのですが、繰り返すことのテンポの悪さがもったいないのです。
もちろん、そのもどかしさがゲームの味付けになっている部分でもあります。特に移動速度は時間管理にも密接に関わり、慣れてくればファストトラベルなどを駆使して効率良く動けるようになります。あのキャラに会いたい!という最適化行動も不思議とできますし、そうして出会ったキャラは愛おしいものです。
しかし、そこに到るまでに、どうしてもプレイ時のテンポに関しては多くのユーザーが気になってしまうのではないかな……と言う懸念があることは否めません。
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総括
マップを歩いて色々なキャラクターと話したり、その関係の変化を楽しんだり、ときにとんでもない結末を迎えたり。令和に誕生した“芝村ゲー”こと『LOOP8』は、その世界の雰囲気やキャラクターたちの個性など、やはり芝村裕吏氏の作品としての高い魅力や面白さを持っています。
ゲームに慣れれば人間関係もある程度自由に構築できますし、それを利用したちょっとした縛りプレイも可能。用意されている提案の種類的にかなり細かい感情の機微を作り出せるので、世界を救うとかより「自分だけの葦原中つ町」にしたい!という“箱庭遊び”の楽しみ方もできるでしょう。
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ただし、どうしても気になるのがテンポの悪さ(システムではなくゲームの処理速度の問題もありますが)。また、世界観を含め多くのことが「説明される」のではなく「自分で見つけ出す・考察する」ものであることは、良くも悪くも評価が分かれてしまうかもしれません。
作品の癖の強さは楽しめるのですが決して万人向けの作品ではない。真エンドを含め複数回のループを楽しんだ筆者ですが、率直な評価としてそう考えます。
良い点
・カレルシステムやループによる「自分だけの物語」を紡ぐ楽しさ。
・魅力的なキャラクター!彼/彼女の行動を見ているだけでも楽しい。
・ステータスが気軽に伸びていくので育成の気持ちよさでストレスを感じさせない。
・ノスタルジックな風景の日常/非日常な雰囲気とループを起点としたストーリー。
悪い点
・移動やロードなどとにかくテンポが悪い。
・良し悪しでもあるが説明不足はどうしても人を選ぶ。
・繰り返しゆえにどうしても「退屈」になる部分。そのサポートは決して厚くない。