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『FF16』は夜の暗いシーンが多く、明かりは基本的に松明や篝に灯る炎だけ。これまでのような明るいクリスタルや蛍光灯はありません。暗闇の中に揺らめく赤い炎が、キービジュアルで印象的な黒と赤の色を連想させます。クライヴだけに……失礼しました。
ゲームで夜の場面と言えば、多くの人をを悩ませる「とある問題」。直接的にプレイに関わる要素なので、洋ゲーが敬遠される理由の一つでもあります。それは、「画面が暗すぎる」こと。海外のゲームの映像は黒く濃い色を多用する色設計になっているので、夜や屋内の場面になると真っ暗で視認性がかなり悪くなってしまいます。
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『ウィッチャー3』冒頭の場面です。キャンドルの明かりで照らされてはいるものの、テーブルの下など影になっている部分は全然見えません。調整がデフォルトの状態だと「よく見えない」ことがよくあったのではないでしょうか。
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明るさ調整画面。筆者の設定だと、やや高めのところで模様がうっすら見えてきます。ディスプレイの輝度も最大にしているので、製作スタジオの基準からは相当明るくしていることになります。
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一方でこちらは『FF16』の夜間屋内ステージ。一応照明は松明のみという場面ながら、見かけ上は月光に照らされている程度の明るさは確保されています。よりリアルな光量にしていたら房の中の様子はとても見辛かったでしょう。
このように、日本のスタジオで作られたゲームはやはり日本人にとっては見やすい映像になっていますし、欧米のスタジオの作品は日本人にとっては暗すぎるという傾向があります。逆に言えば、欧州基準で言えばあの暗さが標準で、日本の映像は明るすぎてまぶしい、ということ。これは人間が持っている視覚の特性の違いで、世界の万人に見やすい映像はなかなか難しいのです。
『Senua's Sacrifice』の回では「認知には個人差があり、世界をどう知覚するかは千差万別」とお伝えしましたが、視覚の場合は住む土地の環境に影響を受けます。住んでいる地域の日差しの強さによって、どのくらいの明るさに最適な視覚か、それぞれの民族で違いがあるのです。
具体的には、目に入ってくる明るさを調節するのに関係する瞳の色、「虹彩」の部分によるものだとされています。大まかには日差しの強い地域に住んでいる、日本人を含むアジア系やアフリカ系は、ブラウンやダークブラウンなどの濃い色が多く、北方の日照が弱い地域の欧州系はグレーやブルー、アンバーなどの薄い色が多いです。
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目の色を決める大きな要因は、紫外線から目を守る「メラニン色素」。日焼けすると肌が黒くなるのと同じものです。強い日差しの場所では眩しさに強い黒い瞳が有利で、言わば自然のサングラスを常に身につけている状態になっています。人類の起源は日差しの強いアフリカで、元々は濃い色の瞳しか持っていなかったそうです。それが他のエリアに進出するに従って薄い色の瞳が増えていきました。考えられる理由としては、火を使うことで夜間の行動時間が長くなり、洞窟の中を火の明かりだけで過ごす時間ができた、夜が長い冬の季節に慣れた、などがあるでしょう。夜目が利く方が有利な環境や社会に変わったため、人間の目の機能にも変化が現れました。青い色の目は濃い色の目に比べ、「赤色」の感受能力が最大4倍になるという調査もあり、まさに「暗闇に炎の明かり」の環境に最適な目をしているのです。
夜目が利くのは一見メリットのように思われますが、逆に眩しさには弱くなっていて、真夏の日本のような環境だと「白飛び」するような見え方になってしまうそうです。紫外線にも弱くなり、反射光が強いスキー場ではサングラスやゴーグルが欠かせません。
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日差しの強い『FF15』でイメージするとこうなります。この眩しさで車を運転するとなるとかなり危ないですよね。欧米の人が子供でも常にサングラスをかけているのは、カジュアルもフォーマルも関係なく、純粋に眩しすぎるからなのです。
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映像作品を世界展開する場合、このような理由から画面のトーンを「明るいアジア」と「暗い欧州」のどちらに合わせるかの調整があるようで、地域によって反応が大きく変わってきます。これにより、国産タイトルでも画面の明るさから「主要なターゲットがどの地域か」というのを推測できるのです。
新世代機からHDRが標準となり、ゲーム画面の光はこれから大きく変化していきます。プレイするときは周囲も含めて適切な明るさにするよう心がけましょう。