時は20023年――世の中から“ビデオゲーム”という概念が消滅して久しく、もはや「2023年はゲーム豊作の年であった」ということすらも、誰も記憶していない時代……。私たちの集落で娯楽と呼べるものときたら、年老いたシャーマンが話してくれる昔話くらいのものです。
老婆の名は、スパラムシーナ・ロム・ガメスパン7世。私たちの住む狭い居住ブロックの最年長者の彼女は、長老的な存在でもありますし、人の運命を導く占い師でもあり、興味深いお話を聞かせてくれる太古からの語り部でもありました。この日も私は彼女のねぐらを訪ねて、いつものように質問を投げかけたのです。
「おばあちゃん、今日はどんな話を聞かせてくれるの？」
いつもなら老婆はニコリと笑って、本当にあったかどうかも分からない昔々のお話――例えば“しょうゆと呼ばれる調味料をプリンと呼ばれる食べ物にかけるとウニみたいな味になる”だとか、そういうやつ――を聞かせてくれるのですが、今日の彼女は様子が違いました。
「お嬢ちゃん……いいかい。よくお聞き」
「なあに？」
「お話を聞かせてあげられるのは、今日で最後。
聞き終えたら、この紙を持って、外の世界にお行き」
「え……？」
「そして……今から伝える話は、一言一句漏らさずに覚えておくんだよ」
おばあさんが私に手渡してきた紙は……よく分からないし、見覚えもないけど、眺めているだけでどこか心が暖かくなってくる、ボロボロのチラシのようなものでした。
「トイレ・オブ・ザ・イヤー2023」結果発表！！
Game*Sparkの年末恒例企画“トイレ・オブ・ザ・イヤー（TOTY）”の時期がやってきました。この記事では、2023年に話題になった“トイレが登場するゲーム”の中で、最も作り込まれたトイレを決めるアワード「トイレ・オブ・ザ・イヤー 2023」の結果を発表します。
私たちの住む世界はあくまで20023年ですが、2023年はまごうことなきゲーム豊作の年でした。ということで、本記事では2023年の多種多様な「ゲーム内に登場するトイレ」の中から選出したものお届けします。今回は3つの部門にて受賞トイレを発表し、最後に大賞となる“トイレ・オブ・ザ・イヤー”を表彰させていただきます。
あれ？
2023年はホラー、SF、大作RPGやリメイクモノなど“TOTY映え”する注目タイトルが多数リリースされましたね！ 一年間を締めくくる記事として、ぜひご覧ください
おばあちゃん？
最初にご紹介する賞はこちらです！
BEST INNOVATIVE DESIGN（革新的なデザインのトイレ）
BEST INNOVATIVE DESIGN（革新的なデザインのトイレ）は、2023年に世に現れた「ゲーム内のトイレ」の中でも最も革新的で洗練されたトイレを表彰する賞です。今回は大作RPG『Starfield』が選ばれました！ベセスダ・ソフトワークスが手掛けた完全新規便器の中でも、今回はこちらのメタリックな質感が映えるトイレを選出。この時代でもキュッポンするやつ置いてあるのが地味にウケるよね
おばあちゃん
なんだい？ どうかしたのかい？ 人が気持ちよく喋ってるときに、失礼な子だねえ
何の話をしているの？
TOTY 2023は、2023年にリリースされたトイレが登場するゲームの中で、最も作り込まれたトイレを決めるアワードだよ。2023年はゲーム豊作の年ということで、今回も多種多様なトイレが集まってね。今年は3つの部門にて受賞便器を発表し、最後にトイレ・オブ・ザ・イヤーを表彰させていただくよ
なんで1万8000年も昔のきったねえ下ネタを聞かせようとしてるの？ だいたい、“ゲーム”ってなに？ “豊作”も意味がわかんないよ
“ビデオゲームとは何か”みたいな話がしたいのかい？ 難しい話だねえ。たしかに双方向性の薄い“テキストアドベンチャー”がゲームであるか否かという問いが昔からあるねえ。私に言わせればまず“選択肢”というシステムがクイズとしての性質を持っていることはもちろんのこと、“セーブ&ロード”や“音量変更”すらもある種のインタラクティブ要素のうちに数えられるし……
おばあちゃん、私が聞きたいのはそういうことじゃなくて……
私が話したいのもそういうことじゃないよ
う……頭が痛い……
私がお嬢ちゃんに仕込んでいたゴーストハックが効いてきたようだね。これでお嬢ちゃんも、2023年を生きたハードコアゲーマーくらいのゲーム知識と記憶を得ているはずだよ
なんだか突然、今年はマジでエグい量のゲームを積んできたし、AAAタイトルすら遊び尽くせてないし、最近日本語版が出たばかりのRPGを一刻も早く遊びたい気分になってきた……おばあちゃん、早く続きを聞かせて
BEST VISUAL DESIGN（最もビジュアル表現が優れたトイレ）
ゲーム内で見つけた途端にう～わ！と声を漏らしそうになる見た目のBEST VISUAL DESIGN（最もビジュアル表現が優れたトイレ）を受賞したのは～～……ダラララララララジャーン！
1万8000年経ってもドラムロールで発表なんだ
“BEST VISUAL DESIGN（最もビジュアル表現が優れたトイレ）”を受賞したのは、『ウツロマユ - Hollow Cocoon』に登場したトイレです！ まずめっちゃ暗い感じなのも怖くてイヤなんだけど、奈落の底まで続いてそうなボットン便所に昭和レトロな装飾がついてるのがも～～めっちゃ怖いよね！
今年だと『バイオハザード RE:4』にも穴だけのトイレがあったよね。『ホグレガ』にもあったけど、やっぱり『バイオハザード RE:4』が怖かったな～
あたしはあんたみたいな若者みんなが怖いけどね
その面構えでよく言う
TOILET FOR THE IMPACT（最も衝撃的なトイレ）
グロいとか怖いとかキレイとか、そういう次元を超えてとにかく衝撃的な印象を残したTOILET FOR THE IMPACT（最も衝撃的なトイレ）は『ふりかけ☆スペイシー』の「占い」です！ “なぞの画像”って言われたら、もうそれまでだよね
この記事もずっとなぞの画像ばっかりだもんね
あとまあ、実際衝撃的なのはそうなんだけど、年末に“大吉”って文字を見ておくのは気分がいいよ。2024年もやる気になってくるわ。この記事読んでるひとは全員初詣のおみくじフラゲ勢ということにしようね
（私らにとっての来年って20024年なんだけどな）
審査員特別賞
それでは大賞の前に、審査員特別賞を発表。今年は『恐怖の世界（World of Horror）』に登場した“学校のトイレ”も特別に表彰します！ この画面では便器が出てないのでふつうの賞はあげらんなかったけど、“イヤなトイレ”っつったらやっぱ学校の怪談系だし、テキストがめっちゃ怖い。個室のドアが勝手に開くのは本当に勘弁してほしいよ
顔面が血で汚れてて木製バット持ってる女性が学校のトイレにいるのも怖いけどね
本当に怖いのは人間、そして自分自身だったということだね……
はあ？そんな話してねーだろ。次が大賞だろうがよ、背筋伸ばしてビシッとやれよ
「トイレ・オブ・ザ・イヤー」（大賞）
そして……ハエある、もとい栄えある2023年のトイレ・オブ・ザ・イヤーを受賞したのは、『STAR WARS ジェダイ：サバイバー』のトイレでした！どこかコックピット感のある形状で、手すりの角度や脇に備えられた謎の桶みたいなやつ、フットレストっぽいやつなどなど、SFらしいユニバーサルデザインで想像力をかき立てるデザインです。きっとセブルバみたいなやつでも使えるんだろうね。なんせ穴が2つあるのも素晴らしい！ STAR WARSならではの設定をリアルに汲み取り（トイレだけに）、様々な人種に使われる便器として設計された素晴らしい“作品”でしょう！
すっげー早口だけど、おばあちゃんはSTAR WARSって観たことあるの？
エピソード1だけ映画館で観たよ
マジかよ全然観てねーじゃん。おばあちゃん、知ってる？ 『STAR WARS ジェダイ：サバイバー』ってシリーズ続編が作られるかもしれなくって、そもそもこのゲームってちゃんと正史に繋がる作品なんだけど
あーあーあー聞こえない！ごめんネタバレとかダメなタイプなんでやめて
20023年って設定なのにネタバレもクソもあるかよムチャなババアだな……
「ユミ、今日のお話はここでおしまいだよ。分かったら、さっさと外の世界にお行き。あなたは、こんな暗がりで一生を終えるべきではないのだから」
「おばあちゃん……（ユミって私の名前じゃないけどな）」
「あと今更だけど、私はおじいちゃんだよ」
「ああうん、てか私もユミじゃないし……」
「いいかい、ユミ。私はね、こうして孫と一緒に“ゲーム内のトイレ”について話しながら年を越すのが夢だったんだ。
嫌なことも水に流して臭いものに蓋をして、気持ちよく新年を迎える……そういう暮らしを、ユミにも送ってほしいんだよ。分かったら、紙に描かれている地図の場所にお行き」
「いやまあ当然孫でもないけど……分かったよ」
「地図の目的地には……かつてインターネットから失われた過去の“トイレ・オブ・ザ・イヤー”の受賞結果のすべてが、秘密裏に保存されている。ユミの仕事は、それをなんとかして持って帰って、全世代のハードコアゲーマーたちに伝えること。じゃあ、よろしく頼んだよ……」
「……」
そうして居住ブロックを抜け出した私は……数年にわたる放浪の末に、とうとう（TOTOだけに）過去の「トイレ・オブ・ザ・イヤー」が隠された、とある砂漠に辿り着きました。
そこには確かに約1万8000年分の「トイレ・オブ・ザ・イヤー」のすべての記録が保管されていて、驚くようなデータもたくさん残っていました。それは今、2023年のハードコアゲーマーの記憶を移植された私にとっては、手に汗握るような情報ばかりです。
例えば、「2023年発売のあのゲーム」の続編がすごかったとか、「2023年に話題が沸騰したあのクリエイター」のすげえ新規IPとか、発売日の発表から1万8000年経った今でも未発売で開発継続中のとんでもないゲームとか……。
それらの記録は言うまでもなく、2023年以降もゲーム業界はおおいに賑わっていたという証拠です。これを居住ブロックに持ち帰って「ゲーム文化の20024年め」を作っていくのが私の仕事、なのですが……。
「いや、どうすんだこれ……」
