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先日、僕は吉祥寺のインディーイベント『TOKYO INDIE GAMES SUMMIT 2024』(以下、TIGS2024)にていくつかのタイトルが現実を題材に、何か違うアプローチを見せつけているのを確認していました。
日本で報じられてきた実在の出来事をモデルにしたニュースに対し、支持するかどうかのコメントを出すADV『コメンテーター』や、秋葉原のシーシャ屋で病んだ女の子を接客する『Hookah Haze』のレポートを書きながら、いずれも生々しいリアリズムを抱えたタイトルが出てきていることに、ある種の時代の変化も感じなくはありませんでした。
もちろん「現実を扱っているから鋭いゲームだ」っていうのは単純ですし、まずは「ニュースに対してコメントを喋るADV」や「客に合わせてシーシャの味を考えよう」のように(参照している先行タイトルがあるとはいえ)新しい体験を作ろうとしている点が興味深いわけです。
そんな “新しい体験”を扱うタイトルをパブリッシングしているのがPLAYISMでしょう。同ブランドは日本で早い段階でインディーゲームのパブリッシャーとして活動をスタートして以来、独特なゲームプレイを魅力とする数々のタイトルを販売してきました。今回のTIGS2024でも同社がパブリッシングするメイド喫茶ADV『電気街の喫茶店』が出展するなど、現在も “新しい体験”を扱うことに積極的と言えるでしょう。
そんなPLAYISMですが、TIGS2024における同社のブースに出展された『The Star Named EOS ~未明の軌跡へ~』(以下、EOS)を遊んでみると、「こういうタイトルも取り扱うんだ?」と意外に思いました。というのも、忌憚なくいってしまえば冒頭がほとんど良く見る脱出ゲームだからです。
もちろん謎解きの面白さや、落ち着いたグラフィックなどの質は確か。ですが明らかに “古典的な体験”です。これをあのPLAYISMが扱うとはどういうことだ? 僕はそう思いながら、もう少し遊び進めていったとき……だんだんと随所で物語に引っ張られる感覚がある、物語の実像が明らかになるのを感じました。
とりわけ、『EOS』の魅力をしっかりと受け止められるのは、主人公がカメラを手にした後からでしょうか。そこまでは時間がかかるんですが、「ああ、これを推したかったのか」と納得がいったのでした。
カメラを向けて、考えることは
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主人公の少年は、かつて自分の手を引いてくれた母の姿がいつまでも心に焼き付いていました。母は一枚の写真を残し、どこかへ消えてしまったままです。少年は彼女が残した写真を手掛かりにして、カメラを手に取り、足取りを探しに出かけます。
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今回のデモはそんな少年の物語の冒頭、自分の部屋の探索が主なゲームプレイです。
カメラで部屋の中を撮影していくと、少年はポラロイド写真にサインを書きつつ、どんな思い出があるかを語りだします。壁に貼られたポスター、棚に置かれた小物などを撮影することで、少年の昔の思い出や母と出来事などがわかるという物語のデザインを取っています。
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しかし少年がカメラを手にしたのは、ただ部屋を撮影して思い出を語るためだけじゃありません。一番の目的は、母が撮っていた窓の写真を自分も再現することでした。
母の写真はただ窓を撮るだけではない。花瓶に挿した花。窓を彩る赤いカーテン。それらがいま自分の部屋に足りない。少年は母の写真に自分の写真を近づけるため、さらに部屋の中を探すことにしました。
オーソドックスな謎解きアドベンチャーでもある
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これが『EOS』の基本的な内容なんですが、今回のデモでは最初のカメラを見つけるまでに、結構多く部屋の細かな謎解きをやっていくことになります。
よくあるダイヤルロックされた引き出しの数字や模様のヒントを探す、絵本の中に暗号が隠されているなど、このあたりが伝統的なADVや良く見る脱出ゲームにプレイフィールが酷似しています。
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開発はアカツキ台湾のSilver Lining Studio。これまでに画家が絵を描く過程をADVにした『Behind the Frame ~とっておきの景色を』など、エモーショナルかつ独特の物語体験を生み出すことを目指している印象があります。
Silver Lining Studioは今回『EOS』にて、オーソドックスな探索ADVにカメラ撮影を絡めることで、母と子供の感傷的な物語を体験させるというアプローチを取っているのでしょう。特に物語性を表現するために、基本のゲームデザイン自体は保守的にしているのかもしれません。
PLAYISMのブースでは同ブランドの代表を務める水谷俊次氏がおり、いくつかお話も伺ってみました。
ーー挑戦的なゲームのパブリッシングが多い中、『EOS』のようなゲームを扱うのは珍しいですね。
水谷なるべく尖ったゲームを出したいのですが、いろんなジャンルを取り揃えたいというのがひとつありますね。
ーー水谷さん自身が『EOS』を気に入っているところもありますか。
水谷それはあると思います(笑)。やっぱり最初のシーンでお母さんと手をつないで星を観ているシーンとか、あれだけで心を惹かれるところがありました。
僕らも最初はデモ版の範囲しか触ってはいなかったんですが、「なにか美しいゲームを作るチームだな」と思ったんです。カメラで撮影することで過去に帰っていくというのが、普通のADVや脱出ゲームとは違う物語性を表現していると思います。
ーー本編ではもっと母と子のお話が広がるのでしょうか。
水谷そうですね。物語がガッと動いていくシーンがあります。導入だとカジュアルなパズルゲームに思われるかもしれないですけど、それだけではない。お母さんの過去の真実にたどり着いたとき、一気に世界がガーンと変わっていきます。
新しい体験から一発ギャグのようなゲームなどなど、戦略的にパブリッシングする傾向のあるPLAYISMが扱うタイトルの中でも、『EOS』は一番の魅力にたどり着くまではゆっくりであり、落ち着いたゲームプレイという意味で逆に印象的ではありました。
基本、インディーゲームはなにをやってもいいというイメージがあると思いますが、今は多かれ少なかれビジネスの側面は否定できない時代。展示会でも試遊を初めてから3分以内に、ゲームの新しい部分や特徴がすぐ伝わるものが注目されがちです。
そんなことは当然知り尽くしているだろう、百戦錬磨のPLAYISMが『EOS』を扱うことはなかなか珍しい気もします。ただ、本作は圧倒的に「消えた母や、家族の謎は何か?」という物語体験に特化しているので、本編では細かい伏線やストーリーのひねりが期待できると思います。
『The Star Named EOS ~未明の軌跡へ~』は、2024年内にニンテンドースイッチ/PCでのリリースを予定しています。少年が母を見つけたとき、そこで何をカメラに収めるのでしょうか?