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ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。前回の『Mouthwashing』に続き、この第17回では『インフィニティニキ』を取り上げます。
Infold Gamesが手掛けるニキシリーズ最新作『インフィニティニキ』は、超美麗なグラフィックに目を奪われるオープンワールドゲームです。主人公の少女ニキは、相棒のモモとともにプロム(高校の卒業記念パーティー)で着ていく服を探して屋根裏にやってきました。しかし、そこで謎のワープに飲み込まれてしまい、マーベル大陸という異世界に飛ばされてしまいます。
異世界の神様であるエナと会ったニキは、ミラクルセットコーデというものを探さなければならないという使命を帯びます。とりあえず身近な街に向かってみるニキ。誰もが鮮やかな衣装を身にまとった平和な風景が広がっていますが、そこではなんと昏睡事件という物騒な事件が起きていました……。
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本作は着せ替えが何よりも大きなファクターであるゲームです。スタイリストという職業の人々が「奇想」という魔法とアイデアを合わせたような概念を探し求め、人々の悩みを解決する力を持ったファッションを提供しています。
そんな設定もあってか(ストーリー上でもゲームの遊びにおいても)もう何をするにしても、服、服、服! クエストの解決法も服、報酬も服、ガチャに用意されているのも服、店で売っているものも服、世界観を説明するテキストもすべて服の話です。飛び回っている虫も、生えている草も、生っている木の実も、何から何まで服の素材です。
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そんなアパレル・パンクとでも言うべきメチャクチャな世界観は、もはや女子中学生の脳内を覗き見ているみたいで、話を聞いているだけでクラクラしてきます。キャラクターたちが話す大量の固有名詞も、正直言っていまいち頭に入ってきません(登場した専門用語を読み返せる図鑑があればいいんですが……)。
しかし、注意深くストーリーを追ってみると、思ったよりも地に足のついた展開になっていきます。
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ニキが最初に冒険する花願町では、ファッションの他に「願い事」も重要視されていました。折り鶴や瓶に願いを込める文化が根強く、街の中央には皆の願い事が吊るされている大樹があります。
そのうちにニキはノノイという女の子と知り合います。彼女の話を聞いていくと、どうも彼女の母親が昏睡事件の被害者になってしまったようでした。
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そこからさらに事件を調査していくと「願いの使者」を名乗る人物が「早成の瓶」というアイテムを町民たちに配っていました。願いの使者は、早成の瓶を「どんな願いもすぐに叶えてくれる優れもの」と謳っていたようですが、実際に瓶を使用したノノイの母は昏睡状態になってしまったそうです。
ノノイとの冒険を終え、ついに母親を目覚めさせる方法を見つけたノノイですが、ここで二の足を踏みます。実は母親が昏睡する直前、ノノイは母親との間にある大きな秘密に関して、口喧嘩をしてしまったようでした。その一件があるために、覚醒した母親に会いたいのか、会いたくないのか、わからなくなってしまったようです……。
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ノノイの悲しみを受け止めながらも、前を向くしかないと勇気づけるニキ。ニキは時折突拍子もないオヤジギャグを言いますが(ちょっとだけライターの顔が透けているような……?)最初からずっと、皆が好きになれるような真っすぐで可愛い子なんですよね。
他にも、田舎で採られた素材が都会に全部流れて行ってしまう問題や、自警団に入ろうと努力する少年霊の話など、最初の印象よりもずっとベタで読みやすいストーリーが展開していきます。
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……かと思えば、生きる気力をなくした詩人の竜を慰めてあげたり、敵対するコーデ勢力とコーデバトル(どちらが素敵な衣装を着ているかで勝負するもの、シリーズ伝統の要素)をしてデザイン図を返してもらったり、やはりこのゲームにしかないようなオリジナリティあふれる展開も入ってきます。
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これらのストーリーを接着するのは、大量のミニゲームとどこかで見たことのあるようなプラットフォーマーアクションです。それらのクオリティはちょっとまちまちではありますが(CMで謳っているとおり)血生臭いバトルや汗臭い闘争のシーンをほとんど排除しつつも、人々が暮らしているリアルな世界を描けているのは、かなり評価すべきポイントなのではないかと思います。
シリーズを通して長らく構築されてきた尖った世界観に、昨今流行りの運営型オープンワールドゲームの遊びと、テンポの良い長編アニメのような真面目なストーリーが乗っかった作品です。ニキとモモ、このふたりの物語はいったいどうなっていくのでしょうか? メインストーリーの更新を首を長くして待ちましょう!
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