コナミデジタルエンタテインメントによる『桃太郎電鉄 教育版Lite ～日本っておもしろい！～（以下『桃太郎電鉄 教育版』）』というゲームをご存じでしょうか。Nintendo Switchで2020年にリリースされた『桃太郎電鉄 ～昭和 平成 令和も定番！～』に学習機能を追加したWebブラウザ対応学習ソフトで、学校教育機関と自治体は、公式サイトから申し込みをすれば無料で導入できます。
去る3月23日（日）、コナミは東京大学情報学環・福武ホールで教育イベント「エデュテイメント祭り！」を開催。『桃太郎電鉄 教育版』の新機能の発表、学校での導入事例紹介、東京大学・藤本研究室とコナミの共同研究による、同作が持つ教育的価値の評価の調査に関する成果発表などが行われました。1988年にシリーズ第1作目登場して以来、数多のゲーマーに愛され続けてきた『桃太郎電鉄』が教育現場でどのように活用されているのか、少しのぞいてみましょう。
「桃鉄と教育は絶対に相性がいい！」という1人の教師の閃きから始まった『桃鉄 教育版』
オープニングセッションでは、立命館小学校の教諭である正頭英和（しょうとう・ひでかず）氏が講演を行いました。正頭氏は2019年に“教育界のノーベル賞”と言われるGlobal Teacher Prize（グローバル・ティーチャー賞）トップ10に選出された教育者であり、同時に『桃鉄 教育版』のエデュテイメントプロデューサーでもあります。
立命館小学校は最先端のICT教育（情報通信技術を活用した教育）を行っている学校だけが選出される「Microsoft Showcase School」であり、マイクロソフトと深いつながりを持っています。正頭氏はその縁で2016年に『教育版マインクラフト』のベータ版を活用した授業を発表する機会に恵まれ、「ゲームを教育に活用するのはおもしろい」とポジティブなフィードバックを得られたそうです。
“楽しさは子どもたちの学びの大きな原動力になる”と確信した正頭氏が次にしたことは、なんとコナミにメールを送ることでした。『桃鉄 教育版』の構想が、すでに氏の頭の中で固まりつつあったのです。
コナミの返答も「正頭氏の授業風景を一度見学させてもらえませんか」という好意的なもので、『桃鉄 教育版』の実現に向けて大きな一歩を踏み出した……ところでコロナ禍が到来。しかし、本作にとってはコロナ禍はある意味追い風でもありました。全国の児童・生徒一人ひとりに端末と通信ネットワーク環境を整える「GIGAスクール構想」が推進されたからです。期せずして、ハードウェアの問題が解決されといえます
全国の小学校の約35％がすでに『桃鉄 教育版』を導入済み
コナミデジタルエンタテインメントでシニアプロデューサーを務める岡村憲明氏によると、『桃鉄 教育版』の特徴は大きく分けて4つ。「学びたい地方を限定して遊べる」こと、「駅周辺の情報やランドマーク情報などを表示する機能を持つ」こと、「教師用の管理ツールでプレイ時間やプレイ人数、ゲームの中断／再開を一括管理できる」こと、そして「貧乏神がいない」ことです。貧乏神のなすりつけ合いは、プライベートでも楽しめますしね！（注：楽しいかは個人差があります）
正頭氏の企画で実現した『桃鉄 教育版』は、IDの総発行数が2025年3月時点で12,300件で、全国の小学校への導入件数は6,800件に達しました。日本の小学校は現時点で約19,000校ですので、35％のシェアを誇ります。さらに、2025年4月10日からは導入対象を全国のフリースクール、オルタナティブスクール、インターナショナルスクールにも拡大。『桃鉄』で自分の住む町や日本に親しむ子どもたちがより一層増えていくことでしょう。
また、4月1日から実装される新機能「マイ桃鉄」が紹介されました。これはマップ上にオリジナルの物件駅を作成できる機能で、『桃鉄 教育版』に触れた先生がたからの強い要望に応える形で実装されることになりました。「みんなで自分たちの町のことを調べて『桃鉄 教育版』に反映しつつ、発表会」というような授業での活用が見込まれます。
子どもたちの学びや学習意欲の促進が見られた導入事例の紹介
続いて、マイ桃鉄機能の先行導入事例も発表されました。青森県八戸市立下長小学校で5年生を教える川村祐輝氏（コナミとの出会いは、小学校時代に遊んだ『けっきょく南極大冒険』とのこと）は、教え子たちに『桃鉄 教育版』に関するアンケートを行ったところ「他の学年の子たちにも遊んでほしい」と太鼓判だったとのこと。具体的な理由として「楽しいのに勉強になる」、「友達と一緒に遊べる」、「都道府県名、地名、名産品などを自然と覚えられる」などが挙げられました。
さらに川村氏は、『桃鉄 教育版』のマップに八戸を代表する学区内の観光スポット・八食センターの名がないことに着目してプロジェクト「Youは何しに八食へ？」を展開。生徒たちに八食センターを実際に見学してきてもらい、その魅力をゲーム内に反映することで楽しみつつ学習を行えたそうです。
愛知県名古屋市立正色小学校で教鞭を執る青木洸司氏は「みんなで愛知県博士になろう」というテーマで、市内のさまざまな物件を調べてきてもらい、ゲーム内に反映。やはりこちらの事例でも「自分たちが調べたことがそのままゲームに出てくる」のが楽しく、調べものをする意欲が大きく上がったと述べられました。
また、『桃鉄』ならではの要素のひとつである、物件の「金額」と「収益率」に着目。不動産業に従事しつつ駄菓子屋も営む経営者を先生として招聘し「桃鉄から考えるお金と実社会」という特別授業を実施。利益とはどのように生み出されるのか、収益率とは何かを学びました。『桃鉄 教育版』が金融教育への導入にも優れているようです。
