突然ですが、読者の皆さんは「ブログ」をやったことはあるでしょうか?個人的な日記帳であったり、論評やレビュー記事であったり、さまざまな用途・目的によって運用されるソーシャルメディアの一形態として、一般社会に広く浸透しているのはご存知かと思います。近年はSNSが台頭してきたせいか、ちょっと影が薄いような気もしますが……。
では人々はなぜブログを書くのかというと、前述のように日常を綴るものから趣味友達との情報交換まで、その理由は十人十色でしょう。が、どんなものであろうと「文章を書いて世に出す」という行為は、少なからず「誰かに読んで欲しい」とか「反応して欲しい」とか、根底に“承認欲求”が隠されていると思うのです。
そこで今回は、「ネットで有名人になりたい」という承認欲求を満たすため、山奥の廃校を訪れたブロガーの顛末を描くサバイバルホラー『Shizuoka Curse | 静岡の呪い』のプレイレポートをお届けします。なお、本稿はクリアした上での感想となります。
ジャパニーズホラーの影響漂うブルガリア産ゲーム

本作は、2025年3月15日にPC(Steam)向けに発売された新作ホラーゲーム。開発は、寿司職人の恐怖体験を描くサイコロジカルホラー『The Sushi Bar | 寿司バー』を手がけたKM Studiosで、これが2作目となります。経歴から日本人だと思いがちですが、実はブルガリア出身の方のようです。
ゲーム内容としては、エリア内を探索しながら必要なアイテムを見つけてゴールを目指す、オーソドックスなアイテム収集型の探索ホラーに分類されます。恐ろしい怪異と遭遇することもあり、ロッカーに隠れたり走って逃げたり、ステルスとチェイスを混ぜたようなメカニクスです。総じて雰囲気やゲームシステムは、チラズアートの初期作品『Aka Manto | 赤マント』に近いイメージでした。

作風として注目したいのは、日本文化からの影響が伺えるところです。たとえば本作においては、追いかけてくる敵の姿が「リング」の貞子や、「呪怨」の伽椰子など、アイコニックな“ジャパニーズホラー”を明らかに意識したような造形をしており、さらに別の個体は同じく「呪怨」に登場する俊雄のような見た目であることからも推察できます。
もうひとつは、本作のタイトル名『静岡の呪い』について。皆さんは、サイコロジカルホラーゲームの金字塔『SILENT HILL(サイレントヒル)』が、日本人ユーザー間では時に「静岡」と呼ばれることをご存知でしょうか?英名から単純に「静かな丘(岡)」と和訳しただけですが、とりわけ某掲示板においては、呼びやすさやスラングを好む文化的側面も相まって、旧来のファンであれば常識レベルで通用します。
そんな背景があるので、往年の「静岡」ファンである筆者は当初、「なんだこのあからさまなタイトルは……。静岡の呪い、つまりサイレントヒルにまつわる何らかの要素が関係してるのでは」と少しワクワクしました。が、実際にプレイしてみると、
1ミリも『SILENT HILL』とは関係ないことが判明。
ゲームメカニクス、雰囲気、ストーリーどの要素を切り取ってもとくに関連はなく、ただタイトルがそれっぽいだけ。しかし、じゃあなぜ静岡が舞台なのか?別に『埼玉の呪い』とかでも良いじゃん。
まあとにかく、筆者の大いなる勘違いだったとはいえ、肩透かしを食らったのは事実で、なんだかとても悲しい気持ちになりました。
操作/言語/各種設定


さて、気を取り直して各種オプションを見ていきましょう。操作方法はキーボード&マウスのみに対応しており、入力設定は好きなように変更できます。ゲームプレイ全般に関する設定では、カメラ感度を0.3~0.4まで下げ、スムーズカメラをONにし、ヘッドボビングをOFFにすれば3D酔いを極力抑えられるのでオススメです。
また、本作は効果音によるジャンプスケアが多く挿入されており、恐怖どころかその轟音がものすごく不快です。しかしボリュームを下げたいと思っても、バグのせいか適切な音量になりません。ほかにも色々な部分でつくりが甘く、全体的にストレスが溜まる完成度でした。
言語は日本語表記に対応しています。翻訳の質はあまり良いとは言えず、誤表現や不自然さが目立っていました。が、別段テキストを読まずともゲームクリアまで進行可能なので、気にしなくても大丈夫だと思います。
「有名人になりたい」山奥の廃校に訪れたブロガーの悲劇

テーブルに3本のビデオテープが並んでおり、まずは「静岡の呪い」をピックアップ。残りは「北海道事件」「寿司バー1990」と題されとても興味深いですが、現時点では選べません。それをビデオデッキで再生すると本編がはじまります。物語の導入としては、プレイヤーの期待感を煽るまずまずの出来です。

主人公の独白によれば、彼はお化け屋敷や都市伝説の発信などさまざまな“たわごと”で承認欲求を満たし、自分の注目を浴びようとしてきたそうです。そして今回目をつけたのが「廃校の探索」。
静岡の森の中にある廃墟となった学校に忍び込み、その様子を撮影してあわよくば有名になりたい、と考えている模様。不吉なことに、その廃校は以前にも探索者がいたものの、ビデオがアップロードされなかったり、生還さえ出来なかった者がいるという、いわく付きの物件らしいですが…。


現場につき、ここから実際にプレイ可能になります。車中にあったビデオカメラとライターを手に入れいざ出発。基本操作は、WASDで前後左右の移動、左Ctrlでしゃがむ、Shiftで走る、マウス左でピックアップ、右で使用、Tabキーでインベントリ管理、といったところ。操作感については、良くも悪くも普通でした。

プレイヤーの視点は、ライターの明かりで照らして進むのか、ビデオカメラのナイトビジョン越しに見るのかを切り替えることができます。ライターのほうが視認性は良いものの、敵に感知されやすく、ナイトビジョンは見にくいですがステルス性が高く、どちらも一長一短あり場面により使い分ける必要があります。

インベントリは、入手アイテムが一列に並ぶシンプルな設計で、個々にズームや回転させて観察できます。しかし使い勝手は悪く、チープな作り。「ホラーゲームのインベントリ」評論家を自称する筆者からすると、100点中20点くらいのクオリティだったとお伝えしておきます。


長めの遊歩道を抜けると、ウワサの廃校が姿をあらわします。駐輪場や中庭がありそこそこの広さ。中学校なのか高校なのかは分かりませんが、教室の中はかなり荒れ果てており、まさに廃墟といった様相で恐ろしい雰囲気に包まれていました。

ウロウロと歩き回り、ようやく屋内へ侵入できそうな場所を発見。一面漆黒の闇におおわれ、入るのを躊躇するくらい不気味です。撮影を成功させ、ここから無事に戻ってこれるのでしょうか……。
やりごたえある校内探索&アイテム収集


上述したように校内をくまなく調査し、キーアイテムを見つけてさらに探索範囲を広げていくのが基本的な進め方になります。筆者が思っていたより探索エリアは広く、その割に本作はマップが実装されていません。あまり迷うことはありませんでしたが、アイテムの取り忘れや場所が分からなくなったり不便といえば不便でした。


重要なアイテムは大抵の場合、エリアの最奥に置かれているので、そこにたどり着くまで大変。怪異に遭遇するときもあるので慎重な移動が不可欠です。ようやくゲットしたものの、基本ノーヒントなのでアイテムの使い所に頭を悩ますことも多くありました。


たとえば、バールを拾った際には「木製バリケード」が道を塞いでいたのですぐピンときましたが、一見なんの関係もなさそうな「魚」や「ダクトテープ」などは本当にどこで使うんだ?と最初はサッパリ分からず。校内のあちこちを調べていくと、ようやく使い道が判明するようになっていました。


学校内だけでなく、怪しい地下エリアがあったり屋上に行けたりロケーションも豊富で、縦横に広がりのある構造でした。しかも、本作は攻略ルートによってはエンディングが分岐するので一定のリプレイ性もあります。このように、意外なほど探索のやりがいやアイテム収集の手応えは感じられました。
“高速貞子”の恐怖と「セーブできない」一発勝負の緊張感

本作のジャンルはサバイバルホラーとなっていますが、厳密に言えば敵になるべく見つからないように隠密し、ロッカーなどに隠れてやり過ごすのがメインの「ステルスホラー」というのが正解かもしれません。
怪異が出現するパターンは決まっておらずランダムですが、画面に白いノイズが出始めると敵が近くにいるサイン。一旦探索をやめて全力で逃げましょう。

遭遇する敵は2種類いて、まず『呪怨』に登場した「佐伯俊雄」のような白塗りフェイスの子どもの幽霊。こいつが現れるとノイズが発生しますが、単体では無害で襲いかかってくることはありません。

本当に恐ろしいのは、『リング』の貞子のような長髪に、『呪怨』の伽椰子のように這いずり回る女性の霊です。こいつは俊雄が操っているらしく、見つかると殺伐としたBGMが鳴り出し、すぐさまこちらに襲いかかってきます。
この怪異は、とにかくメチャクチャ足が速い。チェイス中にパニクって障害物に引っかかり少しでもモタつけば、たちまち追いつかれてしまいます。『OUTLAST』でもそうですが、やはり「追われる恐怖」というのはホラーゲームにおいて非常に有効なシステムなんだと再認識させられます。

ちなみに、青のバーがスタミナゲージで走ると減少していきます。消耗が激しいのでロッカーに隠れたりして回復を待ってから移動しましょう。赤いバーが体力ゲージで、貞子に触れてしまうとダメージを喰らう仕組みで、ゼロになるとゲームオーバーに。眼の前にシャカシャカと近づいてくる姿は、異様な迫力がありとても恐ろしい光景でした。

また本作はなぜかセーブ機能がないため、ゲームクリアまで男らしく一発勝負しなければなりません。死亡したら当然最初のビデオテープの再生からです。しかし、それが返ってゲームプレイにとてつもない緊張感をプレイヤーに与え、何度も挑戦しがいのある神仕様となっていた、とお伝えして締めたいと思います。
『静岡の呪い』は良い点もありましたが、圧倒的に問題点や不満点のほうが多く、ハッキリ言って到底オススメできない作品です。
確かに、値段相応(350円)の妥当なクオリティではありますが、ハードなホラーゲームジャンキー以外は様子を見たほうがいいでしょう。最後までクリアした筆者が一番ガッカリしたのは、結局『SILENT HILL』とは何の関係もなかったことでした。
タイトル:『Shizuoka Curse | 静岡の呪い』
対応機種:Windows PC(Steam)
記事におけるプレイ機種:Windows PC(Steam)
発売日:2025年3月15日
著者プレイ時間:6時間
価格:350円
※製品情報は記事執筆時点のもの
スパくんのひとこと
不気味な廃校探索と怪異とのチェイスはめっちゃ恐かったスパ…!ただ、セーブ機能は欲しかったスパよ……