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左からKevin Lin氏、Raiford C Cockfield氏
幕張メッセで開催中の国内最大規模のゲーム展示会「東京ゲームショウ 2016」。Game*Sparkはこのイベント会期に、大手ゲーム映像配信サービスTwitchの最高執行責任者であるKevin Lin氏とアジア太平洋地域(APAC)ディレクターのRaiford C Cockfield氏にインタビューを実施しました。彼らが語るTwitchの歩みやコミュニティーへの取り組み、VRコンテンツをも視野に入れた今後の展開は、ゲーム映像配信者としても視聴者としても要注目。本記事では9月15日に行われた基調講演の様子も交えてお届けします。
――まずはご経歴や役職など、自己紹介をお願いします。
Kevin Lin氏(以下、Kevin):最高業務責任者(チーフオペレーティングオフィサー)を担当しています。主にパートナーシッププログラムやユーザー向けのプロモート、e-Sportsイベントにおける会社間のリレーションなどをサポートなど。Justin.tvから数えれば、業界歴は8年目です。
Raiford C Cockfield氏: 私は一年前に来たばかりで、APAC地域のサポートのために入りました。地域ごとのコンテンツ運用に動いていて、本社があるサンフランシスコからアジアまでしょっちゅう飛んできています。
――それでは、Twitchの前身となるJustin.tvの立ち上げについて。リリース初期の頃に、特に苦心した出来事などについてお聞かせください。
Kevin: 今でも常に苦心してますね。ネットユーザーの誰もがアカウントを作れて、誰もが映像を配信できて、会社としての方針も常に変わりますし、より良いツール開発も必要ですから。どんなベンチャー企業にも言えますが、常に資金不足です(笑)。特に始めた頃は大規模な不況に見舞われました。良いコンテンツを作れるのか、良い人材を取れるのか、近所に超豪華なオフィスを構えていた「Ustream」に勝てるのか?などと、常にアイデアを練っていました。
――現在では多くのゲーマーにとって必要不可欠なサービスとして重要視されているTwitchですが、立ち上げ当時、これほどの規模にまで成長すると考えていましたか。
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Kevin: いえ、まったく(笑)。Justin KanとEmmett Shear(Twitchの現CEO)は大学卒業後、とあるカレンダー会社をやっていたんですけど、後にその会社を2億5,000万ドルで売却しました。そうしてある程度の資金を持っていたJustinが私と会ったとき、彼が「自分の生活を24時間配信したい!」と言い始めたんですよ。「ひでえ!」と思いましたけど。
――とにかく面白いことがしたかったんですね(笑)。
Kevin: でも、お金も「24時間配信」のための技術もあったので、実現できてしまったんですよね。
――その「24時間配信」というアイデアは、収益化を見越していたものだったのでしょうか?例えば、そこから得たノウハウを何かしらのサービスとして活かしていくなど、プランはあったのでしょうか。
Kevin: 収益化については何ひとつ考えてませんでしたね。Justinはとてもスマートな人だし、もしかしたら頭の中の計画を誰にも漏らしたくなかったのかも。でも、たぶん運ゲーに勝ったようなものだと思います。その後Justinはテレビ番組に出たりして、なんだかんだ上手くやってました。そうして、「自分もそのサービスを使ってみたい」という人が増えてきたんです。
――いち「視聴者」としてではなく、「配信者として利用してみたい」ということですね。強烈なアイデアから始まったと考えると、とてつもない成長に感じられます。
Kevin: そうですね。動機は「面白いから」という理由だけですし、「24時間配信」も本当はもっと長時間にわたってやりたかったんじゃないか?と思ってます。Justinは何を言い出すのか分からない人ですから。
――「面白いから」という理由で始まりながらサービスを動かしていくのは、ネットユーザーならではという印象がありますね。Twitchでは“Kappa”や絵文字を始めとした独自の文化が人気ですが、どのようにして広まっていったのかが気になります。やはり、コミュニティー目線の働きかけがあったのでしょうか。
Kevin: 我々は特に何もしていません。あのようなミームというのは、その言葉通りで自然発生的なものです。ちなみに“Kappa”の由来については知ってます?
――ぜひ詳しく聞かせてください。
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Kevin: あの絵文字はJoshというインターンの写真だったんです。ゴミみたいなオフィスの外で、ゴミみたいな写真を撮って絵文字にしちゃいました。もちろんその頃は何も考えてなかったのですが、ユーザーの吸収力というのは凄まじいものですよね。強制はできませんけど、“何かを産み出す”ということに関しては本当に素晴らしい。
――そのようにして、コミュニティーが自然と盛り上がっていく、ということですね。日本支部の展開に当って、競合サービスとの兼ね合いで困難に直面したり「日本のコミュニティー」「他地域のコミュニティー」の差異を発見したりはしましたか。
Kevin: どんなマーケットでも新たに開拓していくのは困難なことです。特にこの1年は「日本のマーケット」がどんなものであるのかを研究する段階でした。どんなゲームが流行っているのか、どんなゲーム配信が受け入れられているのか、そういったものが1年でいろいろ分かりました。
――具体的にはどのような研究を行っていたのでしょうか。
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Raiford: まずはコミュニティーをじっくりと見ます。 コミュニティーというのはぱっと見ではノイズだらけで、すぐにはその全貌を掴めないのですが、中には重要なものが紛れ込んでいるはず。それを見つけるには時間がかかるのですが、今はだいぶ掴めてきたと思います。
――9月15日から「Twitch キャラクターデザインコンテスト」が始動していましたね。あのようなイベントも、コミュニティーに注目した結果のひとつなのでしょうか。
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Kevin氏の基調講演でアナウンスされたイラストコンテスト。Twitchのマスコットキャラクターを決定するもので、日本からも参加可能。
Raiford: アジア太平洋地域向けのイベントですが、まさに良い例ですね。我々がコミュニティーを眺めて見つけたものが本物なのかどうか、証明してみようという試みでもあります。
――日本を含むアジア太平洋地域に向けたひとつのアンサーということなのですね。ところで、現在ゲーム/映像業界ではVR技術が注目されていますが、Twitchとしてそれらの最新技術を扱ってみようというプランはあるのでしょうか。
Raiford: 既にOculus Riftに適用させた動きもあり、シネマティックなものとなってます。VRデバイスの視界の中に配信画面が広がっていて、「スタジオに入れる」ような感じです。そこではアバターになった友達にも会えますし、映像を観ながらボイスチャットをできるような仕組みも。Web上のサービスとはちょっと違った体験になりますね。ボイスチャットが必要かどうかなど、考える余地は残っていますが。
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Kevin: 我々にとっても、VRゲームがどのような影響を生み出していくのか予想できないところがあります。VRのゲーム映像を普通に配信したとしても、「他人の視界」に入り込んだ際には高い可能性で“酔い”が起こりますし。まだ黎明期なので、分からない部分が大きいですね。
――そこは各地域向けのローカライズ同様、着実に見ていく必要がある、ということですね。
Kevin: そうですね。VR文化に向けてどう技術を開発していくのか、そこもじっくりとテストしていく必要があります。
――最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
Kevin: Twitchを使ってくれてありがとうございます。Twitchなら、皆さんも面白い配信や体験を提供する側になれるのではと思います。新規開拓に際しては「運営側がまったく予想してなかったような展開」というのを期待しているのですが、日本ではいろいろなことが起こり得るのでは、と思っています。日本のユーザーの間でどんなコンテンツが生み出されるのか楽しみにしていますし、そうしてTwitchが拡がっていくことを切に願っています。
――本日はありがとうございました。
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