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中華ゲーム見聞録第12回目は、クトゥルフ風TRPGとミステリーを融合したADV『寄居隅怪奇事件簿(Hermitage Strange Case Files)』をお送りします。
本作のパブリッシャーはbilibili、デベロッパーはArrowiz(上海晨游信息科技有限公司)。11月13日にSteamで配信されました。bilibiliは中国版ニコニコ動画とも呼ばれる「ビリビリ動画」として、上海の会社が運営しています。本作がSteam初参入で、これを皮切りに今後も配信を続けるようです。すでに2作品(『The Con Simulator』『音霊 INVAXION』)が2018年Q4配信予定になっています。
Arrowizも上海の会社で、中国の就職情報サイト「猟聘」によれば2016年に設立され、メインメンバーはAAA級のゲーム開発や大型ネットゲームの運営に10年以上携わったことのあるベテラン揃いだとか。たしかにプレイしてみて、システム面など非常にしっかりした作りだと感じました。Steam上ではすでに『Beats Fever』というVRのリズムゲームを配信しており、技術力を感じさせるデベロッパーです。
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本作はクトゥルフ神話風のテーブルトークRPG(TRPG)を遊びながら、TRPG内でミステリーを解いていく「ゲーム内ゲーム」の構造です。TRPGを知らない方に簡単に説明しますと、参加者たちがプレイヤーキャラ(PC)になりきって会話をしながら、ゲームマスター(GM)の用意する舞台で冒険を繰り広げていくという「会話型RPG」のこと。筆者もプレイしたことがありますが、最初は恥ずかしいながらも慣れてくると結構楽しいです。
TRPGは会話だけでなく、プレイヤーごとにステータスがあり、さいころを振ってモンスターと戦ったり危険を回避したりなど、ゲームとしての不確定的な面白さもあります。TRPGのプレイをテキスト化したリプレイ本は、現在でもファンの多い根強いジャンルになっています。本作もそのようなTRPGの面白さを再現する内容だとか。さっそくプレイしていきましょう。
日本テイストな学園モノ?
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開始すると「TRPGモード」「ADVモード」のいずれかが選べます。TRPGモードは先ほども説明したようにGMやプレイヤーたちの会話も入るリプレイタイプのもの。そういうタイプが苦手な人、純粋にミステリー部分だけを楽しみたい人は、TRPGの会話部分が省略されたADVモードを選択すればいいでしょう。今回はTRPGモードでいきます。
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哲学的な語りが続いた後に、血まみれで倒れている少女の姿が。いったい何が起こったのか、この時点ではまだわかりません。そしてすぐにチャプター1「迷途時光」の表示が出てきます。
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プロローグ後、学園生活が始まります。美術部の部活のようですね。仲間外れにされている生徒がいるようで、顧問らしき教師も我関せずといった様子。このいじめられている女子生徒が、TRPGプレイヤーのPCです。
中国では「ADVゲームといえば日本」というようなイメージがあるようで、中国産ADVゲームではよくセーラー服やブレザーを着た女の子が登場します。以前紹介した『One-Way Ticket / 単程票』でもセーラー服姿の女性が登場しました。ビリビリ動画は日本のアニメやゲームが好きな人たちが集まるサイトなので、日本風味になったのかなと思います。さらに言うと中国のほとんどの学校では部活がありません。そんなわけで、部活が登場するのも日本風味と言えます。
雰囲気のよいTRPGパートの会話
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PCの少女は無口でおとなしい性格。いじめられても言い返さず、美術室で黙々と自分の作品に取り掛かっています。いじめていた女子学生たちは張り合いがなくなり、美術室の明かりを消して去っていきました。
少女は暗い部屋の中、帰る準備を始めます。掃除をしようと思ったら、ホウキとチリトリが見つかりません。しかも床にはたくさんの紙屑が、まるで用意されたかのように散らばっていました。少女は手で紙屑を拾い始めます。すると突然部屋に明かりが点き、「一緒に帰りましょう」との声が。
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ここで本作の特徴とも言えるTPRGパートが入ってきました。Cycloneが「なんで学校でいじめられてたことを私に話してくれなかったの」と発言し、他のプレイヤーたちが沈黙。手裏剣マークで「ざわざわ」という名前の人は日本人でしょうか?「Cyclone=さん」と言っているあたり、「ニンジャスレイヤー」ネタですね。「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」「インガオホー」などのネタも登場します。中国ネットユーザーに伝わるのかなと思いましたが、ビリビリ動画を利用してる方ならわかりそうな気がしました。
人魚(いじめられているPC担当)は「ロールプレイだってば。実際にいじめられてるわけじゃないって」と弁解します。CycloneはTRPG自体を知らずに呼び出され、よくわからないままプレイに参加させられていたようです。そしてGMや他のプレイヤーたちが「TRPGとは何か」の説明をします。こういういうのがあると、初心者でもとっつきやすくなりますね。一緒にTRPGをやっている感があって良い雰囲気です。
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プレイヤー同士の会話中にキャラクターシートが登場します。画像は人魚のPCで、いじめを受けていた女子学生。名前を「凌先(りょうせん)」と言います。年齢は16歳。スキルは芸術関係、観察力、泳ぎなど。
本作のベースともなるクトゥルフ神話ですが、1926年に出版されたH・P・ラヴクラフトの小説「クトゥルフの呼び声(The Call of Cthulhu)」が基になっています。クトゥルフは宇宙生物で、見た者は発狂してしまうという宇宙的恐怖(コズミックホラー)の象徴。TRPGではPCに「正気度(Sanity)」、通称「SAN値」(本作では「理智値」)のパラメータがあり、これが減っていくことを「SAN値が削られる」などと言います。言葉の使い勝手の良さからTRPG以外で使用されることもありますね。本作ではSAN値チェック(SAN値を使った判定)についての説明もしっかり入ってきます。
主人公は古本屋の店主
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TRPGパートも終わり、話は本編に戻ります。本作のメイン舞台でもある古本屋「Hermitage(寄居隅)」。日本語表記で「エルミタージュ」でしょうか。民俗学や宗教関係など奇怪な本がたくさんあることで有名らしいです。そして主人公ともいえる店主の登場(画像左)。TRPG的にはGMが担当していますが、プレイヤーが操作するキャラでもあります。
先ほどの人魚のPC・凌先は、画像右の眼鏡の子。「エルミタージュ」の常連客でした。店主の印象ではおとなしく礼儀正しい子です。ちょっと話しかけてみましょう。
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コマンド画面では「対話」「思考」「本棚を見る」「手帳を見る」があります。話しかけてみると、「凰華高校」という名門女子高の生徒ということがわかりました。
凌先は民俗学の本を手にしています。なぜ女子学生がこんな本を?不思議に思って質問すると、どうも様子がおかしい。さらに突っ込んで聞いてみましょう。
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どのように聞くかを選択。TRPGではサイコロを振って成功判定を行います。ストレートに聞いたり、カマをかけたり、誘導したり、脅したりと、PCの性格やスキルと相談して判定が有利になるよう選択するのが一般的です。先ほどのプレイヤートークにキャラクターシートがあったので見直してみると、交渉力・観察力がともに80とかなり高い数字。カマをかけてみましょう。
サイコロは振りませんでしたが、凌先は少しずつ語り出しました。血まみれで倒れている少女の夢を見たとのことです。ゲーム冒頭のシーンですね。血まみれの少女は美術部の先輩。凌先をかまってくれる優しい人で、彼女がいなければ部などとっくに辞めていたとのこと。夢があまりにリアルだったので、同じことが起こるのではないかと心配しています。このような夢を彼女はよく見るそうです。「エルミタージュ」に通うようになったのも、夢でこの建物を見たからだとか。予知能力があるのでしょうか。
自宅で事件の整理
もう日も暮れてきました。店主は調査協力を約束し、凌先を家に帰らせます。それから「思考」のコマンドでこれまでのことを整理。凌先が「エルミタージュ」を夢で見たと言いましたが、デジャヴの可能性もあります。予知夢の信ぴょう性を証明しなければなりません。
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同じ建物にある自室に戻ります。ここではテレビを見たり、ネットを調べたり、人物関係を整理したりなどができます。ゲームは場当たり選択でフラグを立てればいいというものではなく、物語の最後には実際に情報を並べて推理をしなければなりません。情報を集め、プレイヤー自身で考える必要があります。
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パソコンでネットのフォーラムを見てみます。結構な情報量がある上に、内容は更新されていくそうです。もちろんネットですから信用できない情報もあります。嘘を嘘と見抜けないと(以下略)。
とりあえず上から読んでみましたが、「家にでっかい蜘蛛がいる。これなんて蜘蛛?急ぎでレスお願い」などどうでもよさそうなスレッドが。「それゴキブリ食うやつやで」「ゴキブリより蜘蛛が怖い」「蜘蛛可愛いだろ」など多くのレスがついててやけにリアルです。しかしこのゲーム、かなりテキスト量がありますね。
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壁の人物関係図を見て事件を振り返ることもできます。キャラクターの写真をクリックすると、それぞれのキャラクターシートを表示させることも可能。テレビではニュースがやっていました。そのうち今の事件とつながるでしょうか。
だいたい見るものを見たあと、「今日はおしまい」を押せば翌日に。そしてGMやプレイヤーたちの会話が入ります。ゲームの一日はこのような流れで進んでいき、章の最後に手がかりを使って推理を組み立てていくことになります。
とっつきやすいミステリーTRPG
本作と他のミステリーADVとの違いは、やはりTRPGパートがあることでしょう。TRPG初心者にもやさしい作りになっていて、キャラクターシートやクトゥルフ神話など、GMやプレイヤーたちがわかりやすく解説してくれます。友達とプレイしている感じがあっていいですね。
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ゲーム中では実際にスキルを使って成功判定を行うこともあります。画面は「1D100(100面サイコロ1個)で判定を行い、交渉スキル80以下の目が出れば成功」というものです。これもTRPGモードであればちゃんと解説が入ります。
ビリビリ動画は多くの日本アニメやゲームの配信権を買い取り、中国ユーザーに届けています。またアニメ・ゲームへの投資も積極的に行っており、今年アメリカのNASDAQにも上場。時価総額はニコニコ動画の親会社カドカワの4倍強で、いまや中国の大企業になっています。それが「ミステリーTRPG」と、ある意味ニッチなところを攻めてきたのは、好きなものを作っている感があって筆者的には好感が持てました。コミコンをテーマにしたシミュレーションゲーム『The Con Simulator』など、今後配信予定のゲームにも期待したいと思います。
製品情報
『寄居隅怪奇事件簿(Hermitage Strange Case Files)』
開発・販売:Arrowiz、bilibili
対象OS:Windows
通常価格:1,010円
サポート言語:中国語(簡体字)のみ
Steamストアページ:https://store.steampowered.com/app/836640/_Hermitage_Strange_Case_Files/?curator_clanid=33416861
※本記事で用いているゲームタイトルや固有名詞の一部は、技術的な制限により、簡体字を日本の漢字に置き換えています。